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面倒くさがりな令嬢は、魔族に溺愛されました  作者: 白まゆら


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最悪な取引

 二人の結婚は、レピュテイシャンの留学が終わる半年後に決まった。

 一緒にブリック国に帰り、そこで式を挙げるのだという。

 婚約式は近いうちに行い、結婚のお披露目はブリック国に戻る一か月前にチェルリア国で行うのだそうだ。

 どちらも身内だけで行うそうで、他国の貴族どころかチェルリア国の貴族もほとんど呼ばないとのこと。

 一国の第一王子と他国の貴族の娘の結婚としてはかなり控えめなものとなるのだが、メアリールがそれを望んだとのことで、レピュテイシャンも宰相もそれに意を唱えることはなかったという。

 ブリック国での結婚式は、当然ながら国を挙げての催しになるのだから、こちらでは素朴に済ませたいという意向なのかもしれない。

 流石は奥ゆかしいメアリールだ。

 確かに、目の前で皆に祝われながら幸せそうに寄り添う二人の姿など見たくもないから、それで良かったとは思うものの、やはりどうにかして阻止できないものかと、最近ではずっとそんなことばかり考えている。



 鬱屈としながらも、日々執務だけは山のように舞い込むので黙々とこなす。

 現状、城の執務は父上と私の二人で行っている。

 本来ならばそこにオセアン兄上とオリバー、そしてメアリールがいた。

 オリバーは引きこもっているだけなので、無理矢理引っ張り出せば執務の一つぐらいは行えるのだが、正直あまり役に立たない。

 間違いだらけの仕事をされるぐらいなら、最初から自分でやった方がいいとオリバーを部屋から出すことを諦めた。


 次々と手に取って行く書類の中で、厄介なものを見つけた。

 手を止め、その書類をじっくりと読み込む。

 どうやらそれは、常駐している他国の大使の不満と要望だった。


 チェルリア国はブリック国の信頼を得て、かの国の資源と知恵を独り占めする気なのか。

 友好国と思っていたのは我々だけだったのだろうか。

 閉鎖的なブリック国との仲介を行えば、チェルリア国の評判は一気に上昇するだろう。

 チェルリア国の為にも、諸外国とブリック国との話し合いの場を設けてみては如何だろうか。

 このままではチェルリア国も、ブリック国と同様に閉鎖する恐れがあるだろう。

 チェルリア国はブリック国と違って、独立国にはなれない。

 国の未来を考えるのならば、今動くべきかと。

 ブリック国の王子が国に戻ってしまっては、チェルリア国のこの先は……。


 等々、言いたい放題に書き連ねてある。

 要はブリック国との仲を取り持って、皆でかの国の豊かな資源にあやかろうと言っているのだ。

 断れば諸外国から省かれるということか。

 まるで脅しだ。と思ったが、まるでではなく完全に脅しだ。

 冗談じゃない!

 我が国が一体、何をしたと言うのだ?

 国の宝といえる優秀な令嬢を盗まれて、王族の心を傷付けられ、諸外国に恨まれる。

 こちらは王子の留学を認めてやっただけではないか。

 善意でした行いに、何故このような思いをさせられるのだ。


 苛立ちのあまりドンっと思いっきり机を叩くと、ちょうどそこに追加の書類を運んできた従者が驚きにビクッと体を跳ねさせた。

「あ、あの、ノックはしたのですが……申し訳ありません。お返事もないのに、勝手にお部屋に入ってしまいまして……」

 すぐさま頭を下げた従者は、慌てていた為か手にしていた書類をバサバサバサッと全て落とした。

「あ、ああ~。すみません、すみません」

 おい、何をやっていると怒鳴りそうになるが、元はといえば私が机を急に叩いたのが原因だ。それに私が怒鳴ったことを他者に話されても困る。

 私は深く溜息を吐くと、椅子から降りて書類を拾うのを手伝う。

「お、王子様がそのような……あ、ありがとうございます」

 恐縮しながらも、従者はお礼を言い書類を片付ける。

「……あの、失礼ながら、オーラン様はお疲れではないですか? 少しお休みになられては」

 私の顔を見た従者が、気遣わし気にそんなことを言ってきた。

「余計な世話だ。王子が手を抜いては、国は機能しない」

「オーラン様は本当に素晴らしい王子様です。尊敬の念に堪えません。ですがお一人で頑張られている姿を見るのは、仕えている身としては辛いものがあります。どなたかそばで支えてくださる方がいらっしゃると良いのですが……」

 それこそ余計な世話だ。とまたもや怒鳴りそうになるが、その言葉についメアリールの姿を思い浮かべる。

 彼女ならこんな時も共に公務を手伝い、優しい笑顔で私を支えてくれるだろうと想像してしまう。

 黙り込む私に従者は「異国の王子さえ来なければ」とボソリと呟いた。

 ハッと顔を上げて従者を見つめる。

「私は常々思っていたのです。オーラン様とメアリール様が一緒になれば、この国を良い方向に導いてくださるのにと」

 書類を片付けながらそんなことを言う従者に、私は目を丸くする。

 メアリールはオリバーの婚約者だった。そして私にも婚約者がいた。

 誰も私とメアリールが一緒になればなどと考える者はいなかっというのに、この者はそう望んでいたのか?

 信じられないという顔を向ける私に、その従者は真剣な表情で口を開いた。


「……異国の王子を、排除いたしませんか?」


 ……何を言っている?

 私は従者の顔を凝視した。

 あまり覚えのない顔だ。新人だろうか?

 私は返事をせずに、ジッと彼の顔を見つめる。

 従者は上目遣いで私を見上げると、口角を上げた。

「彼さえいなくなれば、この国は元に戻ります。諸外国からの喧騒は無くなり、王族の皆様も日々の生活に戻れます。ただ一つ変わるとしたらそれは、メアリール様がオリバー様の婚約者ではなく、オーラン様の婚約者となられることでしょうか」

 ……確かにレピュテイシャンさえこの国から出れば、ブリック国との間を取り持って欲しいという煩い他国の言葉はなくなるだろう。

 それに私達も日々の生活に戻れる。

 そして何より、従者の言う通りメアリールがこの国に残れば、彼女の相手は私しかいなくなるのだ。

 そう、あくまでレピュテイシャン。

 奴が一人でこの国から出ればの話しだ。


 従者は懐から白い封筒を取り出す。

 封蝋印もない、ただの真っ白な封筒だ。

「よろしければ、これを」

 従者はその封筒を私に差し出してきた。

「なんだ、これは? 怪しげな手紙など受け取れぬ」

「異国の王子を排除するお手伝いができればと思いまして」

 気味の悪い笑い方をする従者に鳥肌が立つ。

 これは、どう考えても怪しい。

 これを受け取れば、私は必ず後悔するだろう。

 分かっている。

 今までの私ならすぐに騎士を呼び、この者を捕えさせる。

 こんな怪しい男に、いいように利用されてたまるか。

 そう、分かっているのだが……。


「……お前は何者だ?」

「オーラン王子を尊敬する、一人の従者です」

「この国の者では、ないな」

「問題、ございませんでしょう」

「……見せろ」

「喜んで」


 私は自分で自分の首を絞める。

 こんな男の口車に乗せられたわけではない。

 だが、もう他に方法がないのも事実。

 明らかに愚行だと分かってはいるが、これも全てメアリールの為。

 レピュテイシャンと共に未開の地になどついて行けば、必ずこの国に残ればよかったと後で辛い思いをするのは彼女だ。

 メアリールが後悔しないように、私が諭してやらねばならない。

 それがずっと彼女を追いかけてきた私の役目なのだ。

 彼女の為なら、私は愚か者にでも魔の者にでもなろう。


 そう決意した私は、そのいかにも怪しい手紙を読む。

 思った通り、カッタス国の者をこの国に手引きしてくれたら異国の王子を攫ってやるといった内容だ。

 何を恩着せがましい書き方だ。

 要は自分達が彼の国の力を欲しているというだけだろう。

 そしてその力を得た暁には、他国に戦争を挑むに決まっている。

 カッタス国の考えなど、単純すぎて手に取るほど分かる。

 分かるが、私には関係のないことだ。

 長年カッタス国と睨み合いをしてきた我が国なら、奴らが少しばかり得た力になど負けるはずがない。

 要はレピュテイシャンさえ排除できれば、それでいいのだから。


 私はゆっくりと偽従者を見る。

 ニヤニヤ笑うその顔に「メアリールには手を出すなよ」と告げる。

「お約束します」

 私は馬鹿な国と馬鹿な取引をした。

 ああ、もう後悔している。

 後悔はしているが、罪悪感はない。

 これでメアリールが、本来の生き方に戻れるのであるならばと。

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