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王女達の夜這い

 ボフッと、ネグリジェ姿で寝台にダイブするのはメアリール。

 公爵令嬢としては些かはしたない行動ではあるが、今日は本当に疲れたのだ。

 体はすぐにでも眠りを欲しているが、神経は少し過敏になっている。

 あれこれと考えだす頭を軽く振って、瞼を閉じる。

 いつしか眠りの狭間で見た夢は、レピュテイシャンに寄り添う自分。

 全てが怒涛のように変わった一日だったが、メアリールにとっては何もかもが幸せな事柄だった。

 王族側の申出によりオリバーとの婚約が破棄されて、レピュテイシャンの力を見せつけることにより、彼との結婚が決定的になった。

 オーランの求婚や他の魔族との出会いにも翻弄されたが、結果よければすべて良し。

 メアリールにとっては、最高の一日となったのだ。



「やっとメルは眠れたようだな。良かった」

「……悪趣味ですね。気を張り巡らせて、淑女の気配を探るだなんて」

 メアリールの別邸内にあてがわれた客室で、レピュテイシャンがソファに深く腰を下ろして安堵の溜息を吐くと、隣でチョコレートを頬張るパズが〔変態}という目を向けてきた。

「猫かぶりには言われたくないぞ。今日は色々あり過ぎたんだ。好きな女の心を心配して、何が悪い?」

「本当なら眠るまでそばについていたかった。と顔に書いていますよ。ケダモノですねぇ」

「煩い、魔族。大体お前が、オーランを牽制しようとした俺を止めたのが悪い。その所為で可哀そうにメルは怖い思いをして、指輪が発動する事態に陥ったんだぞ」

「ああ、あの王子はかなり曲者でしたものね。この国の人間で一番厄介だ」

 レピュテイシャンの言葉に、ギラリと目を光らせたパズ。

 上がっている口角から覗くのは、鋭い牙だ。

「……頼むから穏便にしてくれよ。この国がなくなったらメルが悲しむ」

「嫌だなぁ、何もしませんよ。私だってメアリール様には、ぜひとも我が国に嫁いできてもらいたいですからね」

 カラカラ笑うパズの口元には、チョコレートが付いている。

「お前に気に入られるだなんて、たいしたものだなメルも」

 感心したようにレピュテイシャンが言うと、パズは口元を拭きながら真剣な表情をする。

「容姿、頭脳はもちろんのこと、あの方は私達魔族に対して畏怖を持たなかった。もちろん、多少の恐怖はあるのかもしれませんが、偏見を持たれず接してくださる姿には、私でなくとも好感を持たざるを得ません。現にキアラ様は既にご執心のご様子。あの方に好かれれば、ブリック国でも困ることはありません」

 昼間突如現れたレピュテイシャンの叔母の姿を思い出し、パズはニヤリと笑う。

 彼女は魔界に屋敷を持ちながら王女様を気に入り、頻繁にブリック国に出入りしている魔王の妹だ。

 女性の中では、女王の次に地位のある女性として扱われている。

 そんな女性を早くも虜にしてしまったメアリールには、最早ブリック国で幸せになる未来しか見えない。

「それに彼女は、貴方の容姿に惹かれた訳ではないようなので、家臣としても嬉しい限りです」



 レピュテイシャンは国にいる頃から、美しい容姿で人々を惹きつけていた。

 元々魔族という者は、美しい者が多い。

 力が強ければ強い程、その容姿は際立つのだ。

 魔王の子であり、美しい人間の王族の子供であるレピュテイシャンが、不自由な容姿のはずがない。

 民はこぞってレピュテイシャンの容姿を褒めたたえた。

 パズは、この国の王女二人もレピュテイシャン様の寝所に夜這いに来たからな。と、この国に訪れた時のことを思い出す。



 メアリール様とまともに話すことができなくて、少し拗ねていたレピュテイシャン様の元に、第一王女がやって来た。

 わざわざ自分の侍女に酒を持たせて、こちらの護衛二人に飲ませたのだ。

 酔って眠ってしまった護衛を通り抜け、扉を開けた第一王女が目にしたのは……魔物の森。

 部屋が森に変わっていたのだ。

 扉を開けたまま、身動き一つできなくなった第一王女に襲い掛かったのは、大きな口を開けた四足歩行の獣姿の魔物。

「ぅぎゃあぁぁぁぁぁ!」

 叫んだと同時に、そのまま意識を手放した。

 森の中へと変わってしまった部屋からヌッと顔を出した私は、そのままペイっと第一王女を廊下に放り出し、近くで待機しているであろう酒をふるまった侍女に、彼女を託すよう護衛の仲間に伝えた。

 酔いしれて眠ってしまったはずの護衛は、ケロッと起き上がるとそのまま第一王女の両腕をそれぞれが持ち、ずるずると引きずって行った。


 まぁ、しょうもない茶番である。

 第一王女が鼻息荒くこちらに向かっているのを察した私達は、魔道具で魔の森の幻影を作り上げ、護衛に付いている仲間にわざと眠ったふりをするように言ったのだ。

 わざわざ近くの部屋を用意してそこでガウンを脱ぎ捨てると、煽情的なネグリジェのままこちらの様子を窺う第一王女。

 護衛の容姿に赤くなりながらも酒を手渡した侍女は、そのまま成功を報告し、侍女を部屋に待機させ単身乗り込んで来た第一王女に、魔物を見せてやったのだ。

 第一王女ぐらい仲間一人で持ち上げられるが、より惨めになるようわざと引きずって侍女に手渡してやった。

 侍女はその姿に青ざめながらも、他国の王子に夜這いに行って倒れた第一王女を他の者に見せる訳にもいかず、城の侍女頭に泣いて頼んで口の堅い侍女三人で、王女の私室に運んでいった。

 こちらの護衛に、助けを求めるようにチラチラと視線を向けていたが、自国の王子を狙って酒まで仕込み、夜這いに来た王女の世話など誰がするものか。

 自国の騎士には、口が裂けても助けを乞うことはできないはず。

 気を失った第一王女は、女三人がずるずると引きずって行ったのだ。

 翌日から王女の足は真っ赤に腫れあがったようで、踵の高い靴が履けず、いつもより彼女の背は低かったと聞いた。

 その後、廊下を侍女に支えてもらいながらふらついている姿を目にした。



 数日後、第二王女もレピュテイシャン様に夜這いに来たのだが、彼女は第一王女ほどあっさりいかなかった。


 第一王女同様、鼻息の荒い彼女の気配を察した私達は、主を中心に苦笑していた。

 懲りないなぁ。と笑う私と呆れるレピュテイシャン様。

「気持ち悪いなぁ。メルが来たなら喜んで受け入れるけど、そもそもメルはそんなことする女じゃないしな」

 どうしてもメアリール様のことが頭から離れないレピュテイシャン様は、ここは任せた。と姿を消した。

 さて今回はどうしようかと仲間達と部屋の中で話していると、扉をノックする音と共に「レピュテイシャン様ぁ~」と猫なで声が聞こえてきた。

「私です。第二王女のオディールです。昼間は、レピュテイシャン様は学園がおありなので中々話ができないでしょう。私寂しかったです。自国のお話など聞かせてはくれませんか? ここを開けてくださいな」

 恥ずかしげもなく、堂々と声をあげる王女に、私達は呆れて顔を見合わす。

「夜這いに来た自覚がないのでしょうか?」

「いや、わざと他の者に聞こえるように言って、レピュテイシャン様が受け入れたと噂させたいんじゃないかな?」

「人目を避けた第一王女とは、また違う感性の持ち主なのだな」

「ある意味こちらの方が厄介だ」

 私達は溜息を吐きながら、勢いよく扉を開けた。

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