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八ノ瀬の消失  作者: 司馬田アンデルセン
畏怖
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6/12

森伸一

 帰りの帰路に就くために車にと乗った時だった。スマホにメールを知らせる着信音が鳴った。いつもであれば家に帰ってから溜めたメールを見るのであるが、この日は昨日のこともあり裕文かもしれないと思ってスマホのメールボックスを開けて新しく来たメールを見て見ることにした。すると案の定なのか相手は裕文のようだった。『伸一、君には一度見せておきたい物が在る。多分それを見てくれれば僕の考えもある程度は理解してくれるんじゃないかな。今日中に僕の家に来てくれないか』の内容だった。何を言いたいのかはさっぱりだった、それでも裕文は俺に来て欲しいと求めていることは確かだ。そうとなれば答えは一つ、いや、それを選ぶ他ならないだろう。それに、裕文ももしかしたら考え直してくれたかもしれない。その上で俺にメールを送ったのかもしれない。俺は今すぐに車にエンジンを掛けた。向かう先は裕文の家だ。俺はこの前行った時と同じ道を辿って再び裕文の家にと向かった。

 裕文の家にと着き、エンジンを掛けたまま車から出ると、待っていたかのように裕文が家から出て来てこちらにと歩いてきた。

「おい、裕文。急にお前から呼び出すなんてなんかあったのか?それに、見せたい物って・・・」

「そうだね、それを見せるためにも車で少し連れて行ってくれないか?ここから歩いて行くとなると距離があるからね」

 裕文からはどことなく今までとは少し変わった印象があった。例えるのであれば、今の裕文はどことなく近寄り難い、森に突如と現れた異色の植物のような奇妙さがあった。何を考えているのかがいまいちと分からない。

「どこに行くんだ?そこまで遠くは無理だぞ」

「そんなに遠くないさ。この上にある別荘区跡だよ、伸一も知っているだろ?」

「別荘区跡か・・・前来た時にも別荘区跡のこと言ってたよな、何かあるのか?」

 裕文を見つめて問いただしてみたが、裕文は何も返答をせずに俺の車にと近付き、助手席にと座ってしまった。どうやら行くまでは話す気は無いのだろう。俺は深くため息を吐いて運転席にと座り、シートベルトを付けてハンドルを握り言った。

「なぁ、裕文。明日もしも何も用が無いなら家に居てくれないか。唯の奴お前の事が心配で会いたがってるんだ、あいつ明日お前の家を訪ねるそうだからさ」

「そうか、できるだけ善処はするよ。それより、出さないのかい?」

 裕文はアクセルを踏まない俺を見て言った。俺は流されるままに「すまない」と言って別荘区跡に向かって車を出した。ここから別荘区跡はそこまで遠く無く、裕文の家の横にある脇道を辿って行けばすぐだった。しかし、もう跡のためか人の手が入っていないため草木が道にと侵入しており、木の枝がしばしば車のフロントガラスに当たることがあった。その他にも道はゴテゴテのため車が揺れることもあった。裕文は俺のことを気遣ってなのかあまり話しかけはしなかった。逆に俺が話しかけると裕文は「あぁ」「うん」「そうなのか」と投げやりな反応であった。

 しばらくしていると、目の前にボロボロな木の看板が現れた。俺は一旦車を停止させて看板の方を見た。うっすらと、消えかけた字で別荘区との字だけは確認できた。裕文もそれを確認したのか「ここでいい」と言って俺よりも先に車から降りてしまった。俺もそれを追うように車から降りた。

「で、ここからどこに行くんだ?別荘区跡に行くにしても鍵の掛かったフェンスがあって先に行けないぞ。行くにしてもフェンスを乗り越えるしかない」

 別荘区跡での噂が立ち始めてから度胸試しに来る者が多くなったため鍵の掛かったフェンスが設置された。それでも入れるには入れるがその分入るのにも一苦労がするらしい。しかし、裕文はずかずかと奥にと進んで行った。俺はそんな裕文を追って俺も別荘区跡にと進んで行った。

 鍵の掛かった所に着くと、裕文はポケットから何やら鍵を取り出してフェンスに掛かっている錠前にと鍵を刺し込んで回した。すると錠前は開いたのであった。裕文はフェンスの先にと何の躊躇いも無く進んで行った。俺は少し戸惑いもしながら裕文の後を追い裕文の肩を掴んで言った。

「おい、なんでお前が鍵を持っているんだよ。それに、この先には何もないんだろ?」

「そうかな?この先にあるモノを見れば君も少しは分かるんじゃないかな」

 裕文は俺に細く微笑むと再び前にと顔を向けて進み始めた。俺も気にはなっていた、この薄気味悪い別荘区跡について。もしかしたら裕文は何らかのことを知っているのではないかと期待をしたからだ。そしてその何かを知っているからこそ学校を休んでいるのではないのかと。もしそうであれば俺もその何かを知って裕文の手助けをしてやりたいと思った。

 しばらくして歩いていると、裕文は何やら道外れた坂の方にと歩き始めた。道から外れたからと言っても道らしきものはあり、獣道と言えるものなのか、何かが這いずった跡を辿るようにと裕文はどんどんと奥の方にと上がって行った。俺は辛抱ならなく「本当にあってるのか」と先を歩く裕文にと投げかけた。今回もいい反応は無いかと思ったが、以外にも裕文は少し歩くスペースを落として語り始めた。

「別荘区跡に隕石が落ちた話くらいは知っているだろう?そして、それ以来別荘区の経営が行き詰って今の姿になった。表向きはそんな感じで収縮したけどそうなった理由はちゃんとあるんだよ」

「そうなった理由?ただ単に客が遠のいたからじゃないのか?」

 裕文からの返答はしばらく歩いた先にあった。裕文が坂を登り切って俺にと一つの風景を見せた。それが裕文の言う理由の一つなのだと理解してしまった。

「おい、なんなんだよこれは!?これが、本当に別荘区跡なのか・・・」

 俺はその光景を見てただ膝を地面に付けて見るにほかならなかった

 丘の上から眺めた別荘区跡の姿はとても信じ難く、前に来た時とは遥かに様子が違かったのであった。別荘区跡にあったはずの草木は全て枯れており、黒く腐食しており、地面は黒く焦げた色をしている。いったいどんなことをすればこんなことになるのだろう、例え間違った農薬の使用や油などの流失とかでもこんなんにはならないはずだ。

「君が驚くのも無理はない。噂話や君がここに始めて来た時くらいはこんなに大きくは無かったからね、今でもこの腐敗は続いている。いや、そう願っているのだからね」

「願う?何を言ってるんだ裕文、それにまだ続いてるって」

 俺はゆっくりと裕文の方にと顔を向けて裕文を見上げて言った。すると裕文は俺にと手を差し伸べた。俺は素直に裕文の手を取り立ち上がった。

「なぁ、伸一。君は考えれるかい?この腐敗がどこまで続くのか。僕はね、この腐敗について調べていって分かったことがあるんだよ。これは宇宙からの来たモノだってね」

「宇宙から来たモノだと?」

「あぁ、前例があったから分かったんだよ。アメリカのアーカムって街の西の奥にある丘であったそうでね。とは言っても父さんから教えてもらっただけだからね」

 裕文の言っていることはとても常識とは遠くかけ離れている。だが、実際にこの風景が何かを物語っていることは確かであった。

 しかし、裕文は信じ切っていない俺の様子を見てなのかポケットからスマホを取り出していじり始めた。

「動画ファイルを送った。それを見ればある程度は理解できるんじゃないかな?」

 すると、すぐに俺のスマホの方から着信音がした。俺は手を震わせながら動画ファイルを開くこととした。

 動画ファイルの動画は複数に分けられており、俺は一番上にあった動画を開いた。するとそこには驚くべきモノが映っていた。何らかの鉄製の容器から謎の展延性だと思わしきモノがビーカーにと注がれている。展延性のそれは絶え間なく光っており、その色は今まで見たことのない色で、言い表すことのできない色であった。見ているだけでも身の毛がよだき、背筋に悪感が奔る何かを感じる。そしてそれがビーカーにと注がれた瞬間だった。それはビーカーの底を一瞬で消滅させ、ビーカーには底が無いかのようそれはただれ落ちたのであった。裕文は「どうだい」と俺にと聞いて来た。俺はその声に何も返答せず別の動画を再生していた。別の動画には展延性らしきそれを植物やモルモットに掛けた実験動画であった。その動画には俺が知ることを拒んでいたモノがあった。展延性らしきそれに掛かった植物は突如と光だし、その光はどの色にも属さない未知な色をしており、突如と動き出したように見える。いや、見えるのではなく動いているのであった。そして、モルモットの方は、通常の形とは変わり、異形の形にと変化して見るに堪え難く思わず目を背けてしまいそうになる。これらは全て度胸試しにここに訪れた者たちが言うことに一致していた。虚言と思われていたことは鏡から現実にと出てくるように虚言から本当にとなってしまった。いや、虚言から本当にと俺の認知が変わってしまったのだ。

 俺はこれ以上見るに堪え難くスマホの電源を消した。すると冷や汗をしていることに裕文は気が付いたのか俺にと「大丈夫か」と聞いて来た。俺はただただ虚空を見つめて呆然としていることが精一杯であった。

「いきなりこんな動画を見せてしまってすまない。だけど、君なら分かってくれると思ったからなんだ。僕の父さんはこの謎を解明するために禁忌を犯した、だけど、その御蔭である程度の謎が解明されたんだ。もっと見せたいモノがあるんだ、来てくれないか」

 裕文は俺にと手を差し伸べてきた。俺はその手を掴み立ち上がった。今の俺には裕文の言う言葉を信じるしかならなかった。なぜならば、裕文はこの謎を追うために学校を休んでいたことになるからであった。それを知れるのであれば俺は最後まで向き合わなければならないからだ。形はどうであれ、俺がもっと早くに裕文の異変に気付いてやっていれればこんな事態、裕文一人に背負わせることにはならなかっただろう。

 俺がしっかりと立ち上がったことを裕文は確認すると「付いてきてくれ」と言い俺を一つの小屋にと連れてきた。小屋は一階建てであり、小屋の周り地面は黒く焦げて在り、周りの木々は黒く腐食していた。そして今は使われていないと思われる大きな井戸があった。俺はその井戸に深く、何か惹かれたのか井戸の方にと近づくと裕文は「近づかない方がいい」とだけ言って深い理由は答えずに言った。それだけで俺は奇妙な寒気が奔り近づくのを止めて裕文の後を追って小屋にと入って行った。

 小屋に入ると、小屋の中は意外と整理されていた。

 裕文は何やらテーブルの上にあったパソコンに電源を付けて弄っていた。俺は裕文の準備が終わるまで小屋の中を見回していた。すると、一つの違和感があった。外からこの小屋を見た時にはそれなりに奥行きがあったように見えたが中はそこまで奥行きが無かった。俺は自分自身の気を紛らわすためと、違和感を消させるためにも裕文にと聞いた。

「あぁ、それのことか。元々は暖炉があってね、使わなくなったから壁ごと埋めたんだよ。それと、準備ができたよ」

 準備ができたとの裕文の言葉を聞いて俺は裕文の横にと座ってパソコンの画面を覗き見るようにした。パソコンの画面は黒く、動画を停止した物が映っていた。

「そう言えば、これを見せる前に言っておくことがあったね。君に送った動画の奴だけど、あれに掛かったものは決まって植物は光りだして不規則に動くようになり、動物は奇妙な奇形になった、中には植物のように光りだすものもあった、そしてそれら二つとも最後は黒く腐食してしまったんだ。その後黒く腐食してしまった後は灰になって崩れてしまうんだよ」

 裕文が言っていることが正しければこの小屋に来る途中で見せられた黒く腐食した木々や草はやがて灰となるのだろう。しかし、なぜすぐにはそうならないのだろう。病気的なそれだとしても何かが引っ掛かる。裕文の言うそれはまるで何か病気的なそれとは違う気がする。

「なあ、裕文。これって本当はなんなんだ?お前ならもっと何か知ってるんだろう?」

「そうだね、あれは食事をしてるんだ。これらの動物や植物の変化はあいつらが食事をする上でのことなんだよ。それに、アレはここに落ちた隕石と共にやって来たんだ」

 裕文は確かに食事と言った。そして隕石と共にやって来たとも。耳を疑うようなことだがそう確かに言ったのだ。だとしたら人間がどれだけちっぽけで今まで理解していたことがどれだけ小さく、未知からの恐怖を理解していなかったのかが分かる。本当のようには思えず嘘だと思いたかったが今までの流れならばそれが本当なのだと自然と脳が認知してしまう。たとえ嘘だと信じたくても認知せざるを得ないのだ。

 それを知った瞬間俺は直ぐにここから立ち去りたいと思った。その前に俺はどうしても裕文の心が知りたくて俺は声を震わせながら言った。それを聞けば戻れないかもしれないと思いながら。

「お前は、一体何を調べてるんだ。得体のしれない何かを処理することを調べてるんだよな?だから学校に来れなかったんだよな」

 すると裕文は俺をたしなめるような顔で細く微笑んで言った。

「何言っているんだい、伸一?俺は別にあいつら、名前を言うのであればカラーを処理したいとなんて思ってない。それどころか同じ生き物かどうかは別として尊敬するよ。生命どころか大地の栄養を糧にして生きる、素晴らしいじゃないか。だから僕はカラーのライフサイクルを解明する。それに、カラーが起こしたことなんてどうだっていいことじゃないか」

 その言葉で俺は理解した。今の裕文は今までの過去を捨てたのだと。裕文の言うことは確かに謎を解明する分にはもっともな理由であろう。しかし、それと同時に裕文は今までに起きたこと全てを正当化してしまうことなのだ。そのカラーと言うモノが引き起こした事など到底目瞑っていいものではない。それなのに裕文は、どうだっていいと言った。

 俺は我慢ならず「理解できない」と言ってその場を立ち、小屋から出ることとした。小屋の出入り口の扉を開いた時だった。奥の方から裕文の声が聞こえてきた。直ぐにもその場から立ち去りたいと思ったが何故だか足が止まり裕文の声を聞いた。

「君なら理解できると思ったんだけどね、残念だよ」

 それを聞いて俺は無愛想に「そうかい」と言ってその場を立ち去って行った。

 来た道を通って車の所に行こうと思った頃には車の所に俺は立っていた。ここまで来るのにそれほど距離が無かったのか、それとも早くこの場を去りたいとの思いでいつの間にかここに着いていたのだろう。

 車に乗ろうとしたその時だった。前の方から誰かがこちらに近づいてきたのだった。時間帯は既に薄暗かったため、その誰かがこちらに近づいてくるまで誰なのかが分からなかった。その誰かはここに来る前に会って話していた渚沙教授であった。俺はつい無意識に「なんでここに」と言ってしまっていた。すると渚沙教授は俺に気付いたのか、俺の方にと近づいて話しかけてきた。

「君か。私はただ単にこの先の別荘区跡を見に来た。その様子では見たんだね、この先の光景を」

 その言葉で渚沙教授はある程度のことを知っているようだと理解した。その上で俺は渚沙教授を問い詰めるようにして言った。

「渚沙教授は、知ってたんですか。この先の実態を、変わり果てていたことについて」

「あぁ、ある程度は目星を付けていた。まさか本当にそうなっていたとはね、君の目から見てどうだったかね?」

「言葉で言い表すことすら憚れますよ、あんなの。渚沙教授はなぜそんなことを調べているんですか?」

 渚沙教授はただ黙って何かを考えるようにしてから言った。

「後処理さ。和彦教授が残した残物を処分しにね。本来であればこんなの私のやる事じゃないのだけどね」

 その言葉に俺は救われた気がした。形はどうであれ渚沙教授は確かに処分しようとしている。きっとその方が正しいのだろう。そうだ、裕文は狂っているのだ。たった今俺の心でそう認知したのだ。

「そうですか。でしたら、教えておきます。友人の話なんですが、どうやらあそこにいるのはカラーとか言う宇宙からのモノらしいんです。信じろとは言いません、ですが――」

 続きを言おうとした時だった。渚沙教授は歩き出し、俺の言葉を遮るようにして言った。

「それも分かっている。言っただろ、目星を付けていると。君はこれ以上関わらない方がいい」

 その言葉と共に渚沙教授は別荘区跡の奥にと闇ととみに消えていった。俺は渚沙教授を追おうとは思わず、裕文には悪いが車を出して帰路にと就いた。

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