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八ノ瀬の消失  作者: 司馬田アンデルセン
気掛かり
4/12

森伸一

 裕文の家に行ってから三日が過ぎた。いちよう先生方には裕文を見たとだけを伝え深くまでは言わなかった。

 そして俺は今テラスで唯を待っていた。丁度俺と唯の講義が同じ日に被っていたためこうしてテラスで待ち合わすことにしたのだ。そうして待っていると唯がこちらに気づいたのかやって来た。

「悪いな、唯。ちょっと裕文の奴について話したくてさ」

「ううん、私は大丈夫。それで、裕文君にあえたの?」

 唯の率直な質問に俺は少しどう答えればよいか困惑して頼んどいていたコーヒーに口を付けて言った。

「率直な答えで言えば会った。だけどあいつがなんで無断欠席をしてまでしているかは分からなかった」

 それを聞くと唯は「そう」と小さく呟いた。無理もないだろう、唯にとって裕文は大事な人であり友人なのだからだ。俺にとっても胸が痛い。今の裕文は悪い意味で何かに執着している。身近な人や先生方を困らせているのがその証拠には充分すぎるからだ。

「私、私明日にでも裕文君に会ってくる。伸一君が家に言った時には居たんでしょ?」

「あぁ、何やら調べ事だかしていたようだが。お前が言ってくれれば裕文の奴も考えを変えるかもな。俺はあいつの父親について聞いてみるから」

 そう言い、俺は唯にと「じゃあな」と言いその場を後にすることにした。裕文の父、和彦教授について俺はそこまで知らない。しかし、行方不明になった和彦教授の代わりの人はどうやら和彦教授についてある程度交流のあったと聞いた。そのため何か情報が手に入ると期待した。勿論事前にアポを取っているため問題は無い。

 そうこうしている間に俺は言われた通りの時間で、部屋のドアの前に足を運ばせた。ドアをノックすると「どうぞ」と女性の声が聞こえてきた。俺は「失礼します」と言いドアを開けて部屋にと入って行った。部屋の奥には白衣姿で眼鏡を掛けた女性教授の渚沙教授が足を組んで座っていた。

「和彦教授についてのお話でしたよね、どうぞおかけください」

 俺は渚沙教授の言われるままに椅子にと座り、渚沙教授に顔を向き合わせて言った。

「はい、和彦教授が行方不明になった事についてです。いつごろかなのかだけでいいので教えて下さい」

「そうですね、大体一ヵ月くらい前からだと思いますよ。詳しいことは残念ながら私もご存じないので」

 一ヵ月前、渚沙教授は確かにそう言った。裕文が学校に来なくなったのもそれくらい前だと唯は言っていた。あまりにも一致している。偶然だと思いたいがどうもそうでない気がしなくて嫌な予感がする。

「そうですか、実は和彦教授の息子の裕文の奴もそれくらい前から学校に来なくなってしまったんですが何か知っていますか」

 そう言うと渚沙教授はそれに反応したのか目元をぴくつかせて興味深そうに言った。

「そうだったんですか。裕文さんについては私も耳に入れたことはありました丁度そのくらいだったんですね」

 渚沙教授はまだ何か手札を切っていないかのように何かを知っているはずだ。しかし、渚沙教授はその手札を切ろうとはせず話そうとはしない様子であった。俺は少し声を強くして攻め入るようにして言った。

「本当にそれだけですか?もしかしたら俺の友人の裕文に何かあることかもしれないんです、教えて下さい」

「確かに私は和彦教授ともある程度は交流がありました。しかし和彦教授が消えたのは突然の事でしたので、それ以上は分かりません」

 これ以上はどうも無駄なようだ。渚沙教授にどんなに攻寄ってもきっとそう言って逃れるだろう。俺は仕方なくここは退くこととした。ことを急いでも仕方ないだろう。そう思い俺はその場を去ることを決めた。

「分かりました。今日は忙しいのにすいませんでした」

 そう言い部屋を後にしようとした時だった。渚沙教授が急に俺を呼び止めて一枚の紙きれを渡してきた。そこには電話番号が書かれていた。俺はそれを見て渚沙教授に「これは」と無意識的に聞いていた。

「私の電話番号です。私の方でも和彦教授について調べているので何かあればそちらに」

 俺はそれを渋々と見てから受け取り「それでは」と言いすぐ様にその場を後にした。渚沙教授には初めて会ったが、どうもあまりいい雰囲気ではなかった。いかに大人らしい態度で冷静沈着な感じがしてどこか安心感と頼ってはいけない様な感じがしたからだ。

 俺は闇雲な気持ちのままK大学付属病院を後にすることにした。

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