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第六話「夜会」

 夜会の会場となっているのは、王都にある貴族の屋敷だった。


 今夜は屋敷の広間だけでなく、庭も夜会の会場として使われている。


 屋敷と庭を隔てる大きな扉は開け放たれ、貴族たちは広間と庭を自由に行き来していた。


 庭にはいくつものテーブルが並び、その上には料理や酒が用意されている。


 料理を囲んで談笑する者。


 酒を片手に庭を歩く者。


 屋敷の中で他家の貴族と話し込む者。


 それぞれが思い思いに夜会を楽しんでいた。


 格式ばった晩餐会というよりも、親しい者同士が集まり、交流を深めるための開放的な集まりだった。


 今宵、ボミネイもその中にいた。


 父ボリュの名代として、この夜会に出席している。


 隣には従者のターニップも控えていた。


 父の代理として顔を出すだけの夜会。


 主催者に挨拶をして、父から預かった言葉を伝え、あとは余計なことを言わずに帰る。


 ボミネイは周囲の会話に耳を傾けながら、静かに立っていた。


 すでに父から預かった言葉は、この夜会の主催者であるドラゴンウォーデン侯爵に伝え終えている。


 あとは、頃合いを見て帰ればいい。


 そう思っていた。


 少し離れた場所では、ルタバガ・ナヴェが父カルティベイトと共に貴族たちへの挨拶を続けていた。


 カルティベイトは文官出身の元平民であり、ナヴェ家の農地を豊かにする施策を成功させた実績を持つ。


 そんなカルティベイトと話をしようと貴族たちが集まっていた。


 娘のルタバガは先ほどから落ち着かない様子で庭のほうを気にしている。


 カルティベイトが貴族との会話を続ける一方、ルタバガは何度も庭の別の場所へ視線を向けている。


 やがて、ルタバガはボミネイの姿を見つけ、安堵の表情に変わった。


 また表情が変わる。


 近くに行きたいのに行けないそんな気持ちが顔に表れている。


 ルタバガは父の会話が終わるまでここを離れることができない。


 会話がひと段落し、すぐに声をかける。


「父上。」


「どうした?」


「挨拶も終わりましたし、早くボミネイ様の近くへ移動しましょう。ここからでは、何かあったときに守れません。」


 今宵のルタバガは黒の男性用礼服を身にまとい、腰には剣を帯びていた。


 長い銀髪は帽子の下に収められていた。


 男装していることもあり、遠目には若い男性騎士のようにも見える。


 その整った顔立ちはどこか女性的だった。


 カルティベイトは娘の視線を追い、ボミネイを見る。


「ルタバガ。あちらにはターニップくんもいるんだ。お前が行かなくても大丈夫だろう。」


「それでもです。」


 即答だった。


 カルティベイトは娘を見る。


 こうと決めたら一直線。


 その性格は、母親によく似ている。


 そして、そんな妻に自分も散々振り回されてきた。


「……まあ、いいか。行こうか。」


「はい、父上。」


 二人がボミネイのいる庭へ向かう。


 庭の一角から、大きな歓声が上がった。


「また始まったぞ!」


「今度は誰と誰だ?」


「ブームスラング子爵家の騎士と、タラスク殿のところの女騎士らしい。」


「ブームスラング家の騎士か。あの大男だな。」


 ラットスネイク家の嫡男でありながら、訳あって、現在はブームスラング家に仕えているアオ・ラットスネイク。


「そうそう。山賊を討伐したという、あのラットスネイク家の若武者だ。」


「ほう。あれがそうか。」


 何人かの貴族が楽しそうに庭の一角へ向かっていく。


 どうやら、夜会の一部の貴族たちは、庭で騎士同士を戦わせているらしい。


 正式な決闘ではない。


 酒の席で、互いの騎士の腕前を比べる。


 それを面白がって見物しているのだ。


 その模擬戦を仕切っているのは、ドラゴンウォーデン侯爵家の次男、タラスク・ドラゴンウォーデンだった。


 騎士たちの勝負を見守りながら、次の対戦を決めたり、勝負の終わりを告げたりしている。


 その傍らには、ブームスラング子爵家当主、タイパン・ブームスラングの姿もあった。


 ボミネイも自然とその輪へ目を向けた。


 そこには、二人の騎士が向かい合っていた。


 一人は赤い髪をした女騎士。


 もう一人は、鉄仮面を被った大柄な騎士だった。


 その体格は、周囲の騎士と比べても明らかに大きい。


「参ります。」


 女騎士が踏み込んだ。


 剣と剣が激しくぶつかる。


 大柄な騎士が受け止める。


 しかし、女騎士は止まらない。


 続けざまに剣を振るい、大柄な騎士を徐々に後退させていく。


 その剣筋には迷いがなかった。


 大柄な騎士も力では負けていない。


 相手の攻撃を受け続けている。


「おお!」


 周囲から歓声が上がる。


 ボミネイも、いつの間にかその戦いに引き込まれていた。


「タラスク殿のところの、強いな。」


「アグレッティという平民出身の女騎士だそうだ。」


「なるほど。あれほどの腕なら、見せたくもなるか。」


 タラスクは満足そうに笑っていた。


「どうだ。強いだろう?」


 タラスクが得意げに笑う。


 その言葉を聞いたタイパンが、自分の騎士へ視線を向ける。


「うむ。だが、うちの騎士も負けてはいない。」


 その言葉どおり、大柄な騎士が反撃に転じる。


 強烈な一撃。


 しかし、女騎士はそれを難なく受け流した。


 そのまま懐へ入り込み、相手の体勢を崩す。


 大柄な騎士が膝をついた。


 女騎士の剣が、その首元で止まる。


「参りました。」


 大柄な騎士は剣を下ろした。


 周囲から大きな歓声が上がる。


「勝負あり!そこまで!」


 タラスクが大声を発して立ち上がった。


 女騎士も剣を収めた。


「良い勝負でした。」


 大柄な騎士も頷く。


 二人は握手を交わした。


 タラスクは女騎士の肩を叩く。


「こいつは強いぞ。見た目だけじゃない。剣の腕もかなりのものだ。」


「持ち上げすぎです。」


 女騎士が苦笑する。


「事実だろう。謙遜するな。」


 タラスクが笑った。


 ボミネイたちへ視線を向ける。


「……ん?」


 ルタバガの姿に気づく。


「そちらの騎士もなかなかにできそうだな。」


 カルティベイトが一礼する。


「タラスク殿。お久しぶりです。こちらは娘のルタバガです。」


「……娘?」


 タラスクが目を丸くする。


「カルディベイト卿。男性の騎士かと思ったぞ。」


「父上。」


「どうした?」


「直接、発言してもよろしいでしょうか。」


「構わないよ。」


 ルタバガはタラスクへ向き直った。


「ルタバガ・ナヴェと申します。」


「これは失礼した。所作も貴族男性のそれだったぞ。」


「謝罪は無用です。男装が性に合うもので。」


「なるほどな。」


 タラスクは面白そうにルタバガを見る。


「なにか言いたげだな。」


「そちらの騎士様のお名前を伺っても。」


 ルタバガが女騎士を見る。


「ああ。」


 タラスクは女騎士へ目を向ける。


「アグレッティと申します。」


 女騎士はルタバガたちへ向けて一礼した。


 ルタバガの目が輝く。


「お願いがございます。一度、手合わせをお願いしたく。」


「君は騎士なのか?」


 タラスクが疑問を口にする。


「私はまだ騎士身分ではありません。学生です。」


「そうか。」


 タラスクがルタバガを見る。


 すると、アグレッティが口を開いた。


「若様。お嬢様の顔に怪我をさせる恐れがございますが。」


「構いません。」


 ルタバガは即答した。


 タラスクが苦笑する。


「カルティベイト卿。いいのだな。」


 タラスクがカルティベイトへ視線を向ける。


 カルティベイトはルタバガを見る。


「やりたいのだろう?」


「はい。」


 ルタバガは迷いなく答えた。


 カルティベイトは小さく息を吐く。


「母親に似て、こうと決めたら聞かない娘です。」


 心配している様子は隠せない。


 それでも、娘が自分の意思で望んでいることを止めるつもりはなかった。


「承知した。」


 タラスクが頷く。


 二人が対面し、勝負の態勢を取る。


 タラスクが両名に号令をかける。


「はじめ。」


挿絵(By みてみん)


キャラクターイメージ:AI生成画像を使用しています。

© 池田興継

お読みいただきありがとうございます。誤字脱字や設定の矛盾など、お気づきの点がありましたら、ぜひご報告ください。感想などもいただけると、とても励みになります。

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