「人型兵器VS人型兵器」Ⅲ
ーSide・進
銃声が鼓膜を破らんばかりに響いた瞬間、世界がひしゃげるように歪んだ。
空気が振動で震え、あたりの音はまるで遠くの水底で反響しているかのように歪む。振動の余韻が鼓膜に残り、痛みと混ざり合う。
視界は白く弾け飛び、その中で――ただひとつ、迫りくる銃弾だけが浮かんで見えた。
空気はゼリーのように重く、粘つき、時間そのものがゆっくりと引き延ばされていく。
目の前の世界はまるでスローモーションの映画。建物の影、揺れる提灯の赤い光、夜風に舞う小さな埃の粒まで、異常なほど鮮明に、異常に遅く動いていた。
銃弾はゆっくり、しかし確実に俺の額へ向かってきていた。
皮膚を押しつぶす重み。熱を帯びた鉛の塊が、火で焼かれるような痛みを額に押し付ける。
鈍い裂ける感覚と焼ける熱が、文字通り皮膚を支配していた。
(……っ、痛ぇな。俺、このまま死ぬのか?)
その瞬間、頭の奥で誰かの声が響いた。
『進くんは……私を置いていくのかい?』
あの優しくも泣きそうな、どこか諦めを含んだ世里奈の声。
揺れる感情が、痛みと混ざり合い、俺の意識の奥を締め付ける。
胸の奥で、じっとくすぶっていた炎が一気に燃え上がった。
(……置いてくわけ、ねぇだろ。)
視界は依然白く飛び、世界の輪郭が歪む。
けれど胸の奥の感情だけは消えず、まるで身体全体を突き動かす燃料のように、熱く膨らんでいった。
(お前を残して死ねるかよ……)
覚悟が腹の底からせり上がる。
最後の最後で、どうしようもない欲望に全振りしたその決意が、奇跡のように俺の体を動かした。
(絶対におっΠを揉むんだあぁぁッ!!!)
俺は無理やり頭をひねり、額にめり込もうとしていた銃弾の軸をわずかにずらす。
火花のような痛みが脳内を走り、焦げた匂いが鼻腔に広がる。
銃弾は皮膚を焦がしながら、後方へと抜けていった。額に小さく焦げた跡を残して。
「え……?」
目の前の幼い俺が目を見開き、後ずさる。
その表情は恐怖ではなく、理解不能なものを目撃した戸惑いに満ちていた。
体の小ささに似合わず、瞳の奥には妙に冷たい光が宿っている。
額には火傷のような傷が残り、熱がじりじりと広がっていく。
それでも俺はゆっくりと歩み寄った。
「……痛ぇじゃねぇか。」
額をこすりながら、固まる幼い俺を見下ろす。
夜風が頬を撫で、提灯の光が影を揺らす。
肌に触れる風が、まるで世界がまだ生きていることを思い出させるかのようだった。
「ガキが拳銃なんざ持つんじゃねぇよ。」
俺が一歩踏み出すより早く、幼い俺は引き金に指をかけた。
しかし、俺は瞬時にその小さな手から拳銃をひったくった。
金属の冷たい感触。刻まれた傷跡。間違いない――俺の愛銃、コルト・ガバメント.45だ。
空を切る幼い俺の手。驚きで口を半開きにする。
俺は拳を握りしめ――
ゴツンッ!
「いってぇっ!」
小さな頭に拳骨を叩き込む。
びくんと跳ねた幼い俺は、頭を押さえてしゃがみ込む。
背中の小さな丸みが、暗い夜の地面に沈む。
「どこで拾ってきたんだよ……ったく。」
ため息をつきながら拳銃を確認する。
金属の冷たさ。刻まれた傷跡。愛用の拳銃。
見間違えるはずもない――俺のコルト・ガバメント.45だ。
「……悪いけどよ。お前さんと遊んでる暇はねぇんだ。」
俺が睨むと、幼い俺はじっと見つめ返す。
小さい体に似合わぬ冷たい瞳。
まるで俺の全てを見透かすかのような視線だ。
「……。」
「まあ、全部終わったら……遊んでやるよ。」
その言葉の刹那。
「……その必要はない。」
「……あん?」
幼い俺の口からとは思えぬ、低く冷たい声。
俺は拳銃から視線を外し、顔を向ける。
しかし次の瞬間――そこに幼い俺の姿はもうなかった。
残っていたのは、ゆらりと揺れる提灯の赤い光と、どこか遠くで響く太鼓の音だけ。
消えた幼い“俺”の残滓を追うように、夜風が頬を撫でていく。




