「人型兵器VS人型兵器」Ⅱ
ーSide・サルタナ
進道が黒い液体に包まれ、その肉体の輪郭を失いながら巨大な卵状の構造物へと変質していく。
金属のような光沢を帯びた黒いそれは、まるで呼吸するように脈動していた。嫌な音ひとつ立てず、ただ静かに膨張していく。
壁に半ば埋まりながら意識を繋いでいたオレは、その異様な光景を見た瞬間、全身に走る痛みを無視して壁を破るように這い出た。
砕けたコンクリートが背中から滑り落ちる。視界がぐらつく中、青い人型兵器の補助が自動で発動し、骨と筋肉の悲鳴を無理やり押し黙らせる。
ゼェッ……と荒い息を吐きながら、進道とイーゴリの中間に飛び込んだ。
白い人型兵器を纏ったイーゴリは、ちょうど進道に向かって歩き出したところだった。白磁のような滑らかで無機質な装甲が、地下室の薄暗い照明に照らされ、異様な光を返す。
その動きは静かで……そして圧倒的に速い。
「おや、まだ刃向かうつもりかね。」
イーゴリの声音は、嘲笑とも無関心ともつかない冷たさを帯びている。
「お前の相手はオレだ。」
オレは、拳を構えながら言い放つ。
その瞬間、人型兵器内部で警告音が立て続けに鳴り響いた。
(試作の人型兵器《タイプα》……何がどうなるのか全くわからない。だが、イーゴリを進道から遠ざける必要だけはハッキリしている。)
オレの纏う青い人型兵器《タイプβ》は、イーゴリの白い人型兵器《タイプΩ》との連続衝突により、外殻の大半が割れ、中身にあるオレの体がが露出し始めていた。
『警告……ボディ耐久率 17%……自己修復機能、完全停止……戦線離脱を推奨……』
頭に直接響く人工知能の声を、オレは意図的にシャットアウトした。
(もう時間は残ってないな……)
黒い卵の中の進道も、逃げている姉さんと進道の恋人も、このままじゃ……間に合わない。
(……死ぬかもしれないな。)
そう思った瞬間、オレは妙に落ち着いていた。
殺し屋として生きてきたはずの自分に似合わない感情だ。
「ハァ……じゃあな進道。生きてたら――オレの姉さんを頼む。」
震えそうになる声を無理やり押し殺し、黒い卵に向けて小さく呟く。
そして次の瞬間、オレは地を蹴り、イーゴリに突っ込んだ。
白い翼のような刃が、ひゅう、と空を切って迫る。
その軌跡は残像すら見えないほど鋭いが、オレの体はまだ動けた。
人型兵器の駆動補助が、辛うじて速度を引き上げてくれる。
オレはその刃を紙一重で掻い潜ると、両腕を流体化させ槍へと変形させ、一気に突き出した。
青い金属がきしみ、形状を変えながら伸びる。
「ゴミが。血迷ったか。」
イーゴリの声は変わらない。
それが逆に、底なしの恐怖を感じさせた。
槍の穂先がイーゴリの胸へ到達する――その瞬間、槍は根元から砕け散った。
粉々になった金属片が光の粒のように散り、オレの生身の手が露出する。
イーゴリは微動だにしない。
ぼろぼろの青い装甲に、大きな罅が走った。
「……まだだ!」
オレは砕けた装甲の欠片を掴む。
すると欠片は意思を持つかのように縄状へ変形し、オレの身体ごとイーゴリに絡みついた。
金属が金属に食い込み、ギシギシと不快な音が鳴る。
「何がしたい?」
「自爆機能……作動!」
イーゴリの問いを無視して言い放つ。
『コード確認……自爆プロセス開始。カウントダウン……』
青い人型兵器が眩い光を放ち始める。
空気が震え、床が軋む。
視界が真っ青に染まった。
「……自己犠牲の自爆とは。つまらない。」
イーゴリ、白い人型兵器のツルツルした顔が微かに動く。
次の瞬間、轟音が響き、視界が完全に消え――爆光が爆発した。
ーーー
……気づけば、オレは上裸のまま仰向けに倒れていた。
肺が焼けるほど熱く、空気を吸うたびに喉が痛む。
周囲には砕け散った青い人型兵器の欠片が散らばり、微かに脈打つように動いていた。
完全破壊は免れたらしい。
「自爆……確かに、ゼロ距離で受ければ私とて死ぬ“可能性”はある。だが、それは爆発する前に対処すれば済む話だ。」
イーゴリの声が聞こえた。
視線を動かすと、たった数メートル先に白い機体が立っていた。
オレの渾身の自爆は、イーゴリに欠片ひとつ傷つけなかった。
(……クソッ……化け物すぎるだろ……)
動こうにも、体は鉛のように重く、一ミリも動かない。
「目障りな君には――死を与えようじゃないか。」
イーゴリが歩を進めるたび、床の破片が静かに跳ねる。
白い足がオレの真横に立ち、踵が振り上げられる。
終わる。
そう思った瞬間――
「待てよ。」
「!!??」
衝撃音と共に、イーゴリの体が真横に吹き飛んだ。
コンクリートの壁に激突し、粉塵が舞う。
そして――イーゴリが立っていた場所には。
黒い人型兵器が立っていた。
だが、その姿は――
オレが知っている黒い人型兵器の姿とは、まったく違っていた。




