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Re:ガンマン  作者: アダス
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「進道 進」Ⅳ

とある港町にある、とあるビルの七階。

港町は、遠くから聞こえるクレーンの稼働音やフォークリフトのエンジン音、波止場に当たる波の音で満ちていた。潮風に混じるのは、魚を扱う市場から漂ってくる生臭さと、錆びた鉄の匂い。空気自体がどこか湿っぽく、呼吸のたびに舌の上に塩気が残る。


その一角に建つ古びた雑居ビルは、他の建物に比べてもひときわ老朽化が進んでいた。外壁はところどころ塗装が剥げ、雨風にさらされた跡が黒ずんだ筋を作っている。窓枠のアルミは腐食で茶色に変色し、足元のコンクリートには小さな亀裂が走っていた。


中へ入ると、空気はさらに淀んでいる。長年積もった埃と、湿気を帯びたカビの臭いが鼻を刺す。壁紙は黄ばんで剥がれ、蛍光灯はところどころ切れて暗がりを作り出していた。俺の靴音が乾いた床で妙に反響し、他に音のない廊下では不自然に響き渡る。


七階へ向かうエレベーターは、見るからに古い。重たい扉には無数の引っかき傷のような跡が残り、パネルのボタンは指にべたつくほど使い込まれていた。乗り込むと油の焦げたような臭いが鼻をつき、ゴトゴトと揺れるたびに、金属が軋む耳障りな音が響く。蛍光灯の光は弱々しく、点滅しながら俺の影を薄暗い床に映していた。やっとのことで七階に到着し、扉が開くと、廊下はさらに静まり返っていた。遠くからかすかに水滴が落ちる音が響き、それ以外は自分の呼吸と鼓動しか感じられない。


突き当たりに、赤い文字で【龍音組】と書かれた派手な看板が掲げられていた。周囲のくすんだ雰囲気の中で、その赤だけが浮き上がるように目立っている。そこが目的地であることは一目でわかった。


入口の前には、一人の男が立っていた。おそらく見張りなのだろう。だがその姿勢は緩み切っていた。背中は少し丸まり、肩の力も抜けている。靴は埃っぽく、ズボンの裾には折れ目もない。手に持ったスマホをいじり、無意味に画面をスクロールしては、退屈そうに小さくため息をついていた。表情にも目つきにも張り詰めた気配はなく、どこからどう見ても素人だ。


俺は心の中で吐き捨てる。――無能。こういう連中に限って無駄に息をしている。俺が最も嫌うタイプだ。だが同時に、処理は容易い。


俺は歩を進め、困ったように眉を寄せて見せた。まるで偶然ここに迷い込んだ通行人のように。

「すいません。トイレはどこですか?」


声には柔らかさと少しの戸惑いを混ぜる。相手から見れば、何の害もないただの人間に見えるだろう。だがその裏で、俺の意識は次の瞬間のために研ぎ澄まされている。


男は画面から目を上げ、眉間にしわを寄せて顔を歪めた。

「ああん! 何だテメー?」


苛立ちを帯びた声。ほんの一瞬の間隙。

俺は笑みを保ったまま動いた。


一瞬で間合いを詰め、背後へ回り込む。右手で口を塞ぎ、左手で肩を掴み、体をねじる。骨が折れる感触が手に伝わり、「バキャッ」と鈍い音が耳に届く。男の体が力を失い、抵抗の余地をなくす。だが完全に絶つには不十分。


俺は迷わず、鉄板を仕込んだ靴の踵を振り下ろした。頸部を踏み潰した瞬間、「ゴチャッ」という生々しい音が響き、湿った感触が足裏に広がる。男はその場で沈黙し、二度と声を発することはなかった。


倒れた体は痙攣すらせず、だらりと力を失って床に沈む。首の角度は不自然に曲がり、そこからはかすかな血がにじみ出していた。埃っぽい床に黒い染みが広がり始め、周囲の空気が急に重たくなったように感じる。わずかに鉄臭い匂いが漂い、さっきまでのカビ臭さに混じって鼻を刺す。


「……南無」


俺は短く手を合わせ、祈りとも言えない仕草を終える。余計な感情は一切ない。ただの習慣のようなものだ。死体を見ても心は波立たない。やるべきことをやった、それだけだ。


静けさの中、自分の呼吸と靴底が床に触れる音だけが耳に残る。振り返ることなく、静かに、しかし確実に入口へと歩き始めた。

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