「645メートル上空で」Ⅲ
ーSide・進
右手に愛銃コルト・ガバメント.45を抜き取り、左手でサバイバルナイフの柄を掴んだ。
「テメェ……殺す!!」
予備動作なしの加速ダッシュ。あまりにも荒く激しく走るせいで腹の傷から血が垂れる……が、構わない。
「死ねえええええっ!」
何がなんでもコイツを殺す。それで全てにカタがつく。
俺は大きく跳躍して机に飛び乗り、銃口をイーゴリの額へ向けて引き金を引く。着地と同時に踏み込み、サバイバルナイフを首筋へ走らせた。
「おっと。」
イーゴリは頭を捻って弾丸を躱し、袖の中から白い筒を取り出し、首へ迫るナイフの切っ先を受け止めた。
「危ないじゃないか。」
ナイフを押し退けると、イーゴリは世里奈を踏み台にして後方へ跳び、俺から距離を取った。
「世里奈っ!!」
俺はイーゴリを牽制しながら世里奈の側へ駆け寄り、しゃがんで両手足を縛る太いベルトをサバイバルナイフで切った。
「逃げてって言ったのに……はぁ。私はいいから、アイツを倒すんでしょ?」
世里奈が真っ直ぐに俺を見つめる。
「行ってきなさい。」
今すぐにでも彼女を抱きしめたいと思ったが——
(流石に待っちゃくれねぇよな。)
「やれやれ、紳士として茶番が終わるのを待つというのは……損なことだった、か。」
イーゴリが白い筒を割った。白い液体が皮膚を覆い、瞬きする間に形を変える。
次の瞬間には、イーゴリの姿は白い人型兵器へと変貌した。
「待たせた代わりに、私を楽しませてもらおうか。」
声が響いた瞬間、咄嗟に俺は体を丸めた。
「がっは!」
「ほう、よく受け止めた。」
イーゴリの膝蹴りを腕と脚でガードしたが、吹き飛ばされる。前もって攻撃を予想していたから防御はしたものの、蹴られたと気付くまで0.5秒。さらに二撃目を食らうまで0.5秒。壁へ叩きつけられるまで、合計2秒未満。
「……ッッッ、痛ぇ。」
飛びかけた意識を繋ぎ止め、俺はイーゴリに向けてコルト・ガバメント.45の引き金を引く。
ーーだが、イーゴリは弾丸をすべて平手で弾き落とした。
(おいおい、流石に)
「それは反則だろうがオイィッ!」
ツッコミながら俺はイーゴリの正面に立たないよう右へ転がる。次の瞬間、俺が立っていた場所の背後の壁が粉砕され、巻き起こる砂煙の中に白い人型兵器が浮かび上がる。
その天使めいた神々しい容姿へ、俺はためらわず銃を撃つ。
イーゴリは腕をひと振りして弾丸を弾いた。
「ハッ!」
気合いとともに懐へ潜り込み、サバイバルナイフを鳩尾へ突き刺す——
……パキンッ!
チタン合金製の刃が折れた。
「硬ぇなおい。」
折れた刃を見た瞬間、俺は蹴り飛ばされていた。
「ガフゥッ……ま、まだだ。」
血反吐を吐きながら受け身を取り、転がって立ち上がりコルトを構える。
「……がっかりだな。」
背後からイーゴリの声がした。戦慄が走る。
(さっきより早い……だと!?)
「怪我を差し引いても期待より動きが悪い。あんまりだ。」
イーゴリは淡々と言う。
「好き勝手言いやがって!」
文句を言いつつ振り向いた瞬間、首を掴まれた。
「このつまらない素材をどう料理しようか?」
鋭い拳が俺の肋を打ち抜き、骨が一本折れた。
「ッッ……!」
激痛に耐えながら逃げ道を探す。
(……あっ)
イーゴリの背後で世里奈がショットガンを持ち、そっと近付いている。そのさらに後ろ、壁に張りつけられていた女が血まみれになりながら、飾りとして置かれていたボウガンを構えて待機していた。
(……何やってんだよ! 逃げろよ。ていうか、どこから武器を出したんだ?)
と思ったその瞬間——世里奈がイーゴリの背へ向けてショットガンを発砲した。
……が。
「邪魔はしないでほしいな、お嬢さん。」




