「タワー攻略戦(2)」Ⅲ
「僕は彼女を愛して——」
「……黙れ、мудак。バシバシ人のこと蹴るな。」
オレのかすれた声は、痛みで震えていた。息は荒く、汗で髪が額に張り付き、息苦しさが胸を押し上げる。だが、博士にはその声が届いたらしい。わずかに、だが確実に動きが止まった。
背後から押し付けられるような圧力が消え、床に転がるオレの体の痛みがじわじわと全身に広がる。
「……ハハハ……犬が生意気を言うんじゃないかぁっ!!」
博士の叫びが暗闇に響く。床のタイルに跳ね返る音が、耳に刺さる。オレは息を吐き、胸の痛みを押し込めながら仰向けに倒れ、残っている力を振り絞って拳を上げる。指先から伝わる感触はわずかに震えているが、握る感触が確かな存在を証明してくれる。オレの拳は、無骨で冷たい装甲の顔面に突きつけた。痛みを超えた執念と怒りが混ざり合っている。血の匂いと鉄の香りが鼻腔に漂い、頭の中で鼓動が速く打ち鳴る。
「くたばれクソ野郎。」
オレのその一言に、博士の本気の蹴りが振り下ろされようとしたその刹那——
オレの拳から閃光が噴き出した。視界を覆う光、耳を震わせる轟音、金属と血の匂いが混ざった空気。閃光はバンダナ越しでも視界を焼き尽くすほど強烈で、轟音が周囲を包み込み、床や壁に跳ね返る振動が全身を揺さぶった。金属の反射、光の反射、そして爆発音が混ざり合い、暗闇の中の混乱は極限に達した。
オレは防光・防音バンダナをゆっくりとずり上げる。光の残滓が視界に残っていたが、じわじわと周囲の輪郭が戻ってくる。オレは視界を確保しつつ、全身の緊張を解かずに立ち上がった。背筋に残る痛み、手足の痺れ、全身の筋肉に走る小さな震える。空気中には火薬と金属の匂いが漂い、視界が戻ると同時に、青い人型兵器の金属の表面には光が反射してちらつく。暗闇の中でうずくまる博士の姿が見えた。青い人型兵器を装着した彼は顔を押さえ、呻き声を上げている。
「ああああ……なっ、何も見えない!?」
博士の声は恐怖に震えていた。その鉄仮面の下で、博士の失明した目が必死に光を探している。オレは息を整えつつ、痛みで震える体を押さえ近づくが、博士はオレがたてた足音さえ聞こえてもいないだろう。
「……おい、閃光弾はどうだった?」
オレの問いかけに、博士は反応せず見えない視界を探ろうと手探りを始める。
「ああああぁぁぁ……い、犬が僕に何をしたんだぁ!?」
博士は怒鳴るだけで、俺の問いに答えない。博士は手探りでフラフラと周囲をさまよい、青い装甲がぎこちなく軋む音を立てた。閃光と轟音に意識を乱され、その動作はぎこちない。
暗視スコープは限度を超えた光により使用者の視界を潰し、集音マイクは爆音を増幅して博士の鼓膜を破壊している。頭を抱えてうずくまる博士の動きは鈍く、青い人型兵器の内部で呻き声を漏らすばかりだった。
(まあ、何も聞こえないだろう。)
オレは静かに拳を握り直す。自分の血と汗で濡れた手の感触が、逆に集中力を研ぎ澄ませる。床の冷たさ、壁の硬さ、部屋の匂い、金属と血の匂い、空気の微かな振動……すべてを感じ取り、次の行動に備える。痛みの中で呼吸を整え、相手と自分の立ち位置を確かめ、閃光弾で得た僅かな優位を確実にする。




