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Re:ガンマン  作者: アダス
「タワー攻略戦」
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「タワー攻略戦(1)」Ⅴ

ーSide・サルタナ


「さすがに追いかけっこに飽きたな〜♪」


背後でいつもの軽い鼻歌交じりの声が弾んだ。まるで遊び半分で獲物をからかう小鳥のような口調だが、その刃物が真剣にこちらを狙っていることを思えば、それはただの嘲笑に他ならない。


(オレだってごめんだ。)


直感に従い、咄嗟に体を捻る。刃が迫る軌道をギリギリで外し、刃先が空を切る音が耳をかすめた。頭の中で、あのバーのオカマ店長が渡してくれたタワーの地図とメモを反芻する。暗がりでも目印になる階段の窪み、非常灯の配置、監視カメラの盲点──すべてを覚えておいた甲斐があった。目当ての部屋は、図の示す位置からすればこの先だ。


「終わりにしたいなっと♪」


今度は真横、少し角度を変えた攻撃。反射で刃を避けようとしたオレの動きは、ほんの一瞬のズレで致命的な差が生まれる。首筋はかろうじて防いだが、肩口に深い痛みが突き刺さった。金属の冷たさと鋭利さが肉を割き、内側で何かが砕けるような音が耳朶へ響いた。血の熱がじわりと広がる。骨に達したかもしれない。


「――っ、があぁっ!」


全身に痛覚が波紋のように広がり、足がふらつく。体のコントロールが一瞬で失われ、あと数メートル──目当ての扉が見えるというその寸前でオレは膝を折って崩れ落ちた。冷たい床の感触と血の熱が混ざって吐き気が込み上げる。息は荒く、視界は微かに揺れている。


「ふぅ〜、やっと捕まえた♪」


足音は近く、さっきまでの余裕の声がそのまま聞こえる。相手はゆっくりと近寄り、まるで子どもが捕まえた昆虫を弄ぶような調子で囁いた。


「く、来るなっ!!」


肩が痛くてうまく手で体を起こせない。左手で床を這いながら距離を稼ごうとするが、力が入らない。血が滴り落ち、袖を赤く染めていく。床の冷たさが体温を少しずつ奪い、鼓動が速まるのを感じる。


「犬がしつこく逃げようとしないでよぉ。興醒めしちゃうなぁ♪」


その嗤い声が部屋の隅々にこだまする。蛍光灯の光が相手を青く反射している。オレは自分の思考を無理矢理抑え、次の一手を探した。逃げても仕方ない。ここまで来たのだ。むしろ、相手が追ってきてくれたおかげで――という思いが胸の奥で静かに膨らんだ。


「待ってくれ!死にたくない。オレはまだ死にたくないんだ!!」


叫びながら、オレはズボンの中で冷たくなった拳銃の感触を確かめる。一発でも当てれば、次の数秒が変わるかもしれない。


「……ハァ。」


相手はため息を漏らした。呆れと退屈が混ざった声。だがその一瞬の油断がオレの作戦の鍵になる。目の前の状況を冷静に整理する。ここは通路の曲がり角、背面は一本のドアだ。ドアを越えればそこに目的の物があるはずだ。オカマ店長の地図は間違っていない──


「最後はさぁ、勇ましく戦って死ぬ男かと思っていたんだけどなぁ〜」


相手の声が嘲笑を帯びる。オレは血で濡れた唇を噛み、息を整える。


「た、頼む!殺さないでくれ!!」


押しつぶされそうな懇願が震えて出る。だが相手は勝ち誇ったように首を傾げる。


「……確かにぃ、キミのお姉さん僕好みだしぃ娶るつもりだからぁ、義理の弟になるかもしれない男を殺すのは忍びないよねぇ。わかったわかった……消えていいよ♪」


その台詞に、どこか背筋がぞわりとした。――正直、姉さんを娶るや義理の弟と言われて背中に虫酸が走ったが……我慢した。感情に囚われてはいけない。オレは深く息を吸い、全身の筋肉を一点に集中させる。


青い人型兵器が背後の通路を向いていた。青い装甲の表面が薄暗がりに鈍く反射している。オレは無理に立ち上がり、力なくも言葉を吐いた。


「ありがとう、ドークタル」


「冗談だ、義理の弟いや……犬♪」


その瞬間、腹に強烈な衝撃が走った。後ろ蹴りがオレの腹を抉るようにえぐり、視界が白く翳る。勢いよく背中を取られたまま、オレは近くの扉を背中で押し破り、部屋の中へ転がり込む。木材の破片が飛び、コンクリートの床が血を吸い込む。


「ぐ、オエっ。」


吐き気が全身を襲い、口から濁った液体が零れた。気持ち悪さと痛みが混ざり、世界が一瞬揺れる。


「うわぁ〜汚い犬、吐きやがった。僕が君を生かしたいなんて思うわけないでしょ、頭を使いなよ♪」


嘲りの声が扉の隙間から聞こえる。相手はまるでショーでも見るようにゆっくり歩みを進める。その足音が、あえてステルスもサイレンサーも使わずに響く。自信の証か、あるいは単なる遊び心か。いずれにせよ、それがオレには都合が良かった。足音が近いということは、その進行方向に間違いはないということだ。

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