「タワー攻略戦(1)」Ⅳ
ーSide・進
俺はいま、五十五階の階段を駆け上がっていた。
愛銃のコルト・ガバメント.45を右手に握り、左腕には拾い物のサブマシンガン。腰のホルスターには、敵から奪った予備マガジンが数本詰め込まれている。
(弾はまだもつ……はずだ。だが、あの三十階の幹部――強かったな。)
思い出すだけで背筋が冷える。
あのときは一瞬の判断ミスで、自分が死んでいたかもしれない。
(うん、俺の人生で五本指に入る名勝負だったぞ。)
あの幹部の射撃精度は尋常じゃなかった。
薄暗いフロアで、弾丸が壁を削り、火花が散っていた。
(三十階の幹部相手に、なんとか1対1に持ち込んで早撃ちで勝てたのは奇跡にしか思えないよなぁ。)
奴の動きは鋭く、こっちの引き金よりも早かった――それでも、ほんの一拍、相手が勝ち誇って口角を上げた瞬間、その油断を突いて撃ち抜いた。
奇跡だった。あれがなければ、今ここに立っていない。
(……もう一度やって勝てるかどうか、正直不安だ。)
鉄の階段を踏み鳴らしながら、俺は息を整える暇もなく次のフロアへ。
階段の踊り場に差しかかった瞬間、前方のドアが開き、黒スーツの男たちが飛び出してくる。
短機関銃のマズルフラッシュが閃き、弾丸が壁を叩いた。
俺はとっさに身を低くして、拾ったサブマシンガンを構える。
連射。耳鳴りがする。
硝煙が目に沁み、視界が白く曇る。
敵の悲鳴と、金属が床に落ちる音。
「くそっ……何人いんだよ、このタワー。」
と小さく愚痴りながら、俺は転がった敵の死体から予備弾倉を抜き取り、空になったマガジンを交換。
撃ち捨てた銃を拾い、階段を駆け上がる。
一段飛ばしで登りながら、壁際に身を寄せて次の角をうかがう。
銃声は上の階からも響いていた。
誰かが俺の動きを察知している。
無線で連絡を取り合っているのかもしれない。
汗が首筋を伝い、背中を濡らす。
靴底が血に滑りかけて、手すりをつかんだ。
弾薬と血と焦げた薬莢の匂いが混じった空気は、喉の奥に鉄の味を残す。
それでも足を止めない。
「……ったく、タフだな、俺も。」
誰に言うでもなく呟き、さらに上へ。
五十七階、五十八階――。
途中、階段の影から飛び出した男に向けて、即座にトリガーを引いた。
一発。
額に穴があき、男は後ろに崩れ落ちる。
反動で腕がしびれたが、気にする余裕はない。
(最初の幹部であのレベルか……次の六十階は一体どうなるんだか。)
だが、不思議と怖くはなかった。
怖さよりも、ここまで生き延びた興奮のほうが勝っていた。
生きるか死ぬか、そのぎりぎりの線でしか味わえない感覚。
アドレナリンが血の中で泡立つ。
そして、最上階に囚われている俺の恋人――世里奈を救出しなきゃいけない。
心臓の鼓動が足音と一体になり、鼓膜の奥で響く。
「――世里奈を助けるため、負けるわけにはいかねぇからな。」
五十九階。
もうすぐだ。
階段の上から、誰かが叫ぶ声が聞こえた。
銃口を向けて駆け上がると、数人の敵がバリケードを築いていた。
机や椅子を積み上げた即席の防御陣。
奴らも本気だ。
だが、こちらも引く気はない。
俺は腰に挟んでいたフラッシュバンを掴み、ピンを抜いて上に放り投げた。
炸裂音と閃光。
その一瞬の隙を突いて、机の影から飛び出し、正確射撃で連射。
敵の反撃は散発的になり、銃声が途切れる。
静寂が戻った。
白い煙が薄れていく中、階段の最上段が見えた。
そこには、重厚なドア。
金属のプレートに「60F」と刻まれている。
俺は息を吐き、愛銃を握り直した。
「行くぞ……」
そう呟いて、俺は最後の一段を踏みしめ、六十階に到達した。




