「タワー攻略戦(1)」Ⅱ
ーSide 進
……轟音。
俺が放ったロケットミサイルが狭い廊下を震わせ、衝撃波と爆炎が扉を粉砕した。鋼鉄のフレームが軋み、耐爆ガラスが砕け散る破片が空気を裂いて舞う。粉塵が一瞬で濁り、白い照明が斑に揺らめく中で、ミサイル弾の熱が体表を焼いた感触が残る。
粉塵の中へ、プレートキャリーを身に纏った俺は一陣の風となって突入する。防弾プレートが重く胸を押すが、その重みが逆に安心感をくれる。廊下の壁面には高級感のある大理石風仕上げが施されていたはずだが、爆炎の熱で表面が黒ずみ、装飾の金属モールは歪んでいる。『プレミアムタワー』二十八階、かつては華やかな迎賓のための回廊だった場所だ。今は爆発の残響と、金属が冷える音以外、何も聞こえない。
西側の窓から差し込む朝焼けの光が、粉塵の中に一本の流れを作っていた。斜めに伸びる光線が床のタイルを切り取り、そこだけが別世界のように鮮明に見える。光に照らされると、破片と血の斑点が冷たい美しさを帯びて光った。
階段の手前、扉の影に人影が潜んでいるのが見えた。薄い煙の隙間から、誰かがこちらを覗いている。その背筋の角度、武器の構え方。敵のそれだ。奴らはもはや守るものを失った猟犬のように、数で押してくるだけだろう。
「出てこいよ……見えてるぜ。」
挑発を投げる。声は低く、残響と混ざって薄く広がる。反応を促すための囮の一言だ。相手の集中をこちらに向けさせれば、何かを掴む隙ができる。
バンッ!
階段の手前に並んでいた全ての扉が同時に開き、武装した集団が一斉に溢れ出した。黒いギアとヘルメット、ライトの光に反射する銃身。それは圧倒的な数だ。数の暴力は時に技巧を凌駕する。
「ここまで多いとかえって……キモイな。」
俺は鼻先で笑い、ためらいなく使い捨てロケットランチャー――M72LAWの引き金を引いた。筐体が咆哮し、小型のミサイル弾が狭い空間を蹴って飛び出す。狙いは密集する敵のど真ん中。爆発の瞬間、身体の芯が揺れる。反動を受け止めつつ、M72を床に叩きつけ、腰のベルトに挟んでいた手榴弾を放り投げる。
ーーズキンーー
炸裂の衝撃が腹部にまで伝わり、縫合して閉じた腹の傷が鋭く疼く。血が冷たい味を喉に戻す。だが集中は切らない。痛みは拷問ではなく道標だ。痛みがあることが、まだここにいる証拠だ。
ミサイル、手榴弾、近接射撃。撃つたびに敵が崩れ、通路は一瞬にして死と煙で満たされる。火花が括れ、金属の軋む音が連鎖する。やがて、反撃の銃声が次第に細くなり、止む。静寂の中、残響だけが耳を残る。
カチカチ。
拾った銃の残弾が最後のひとつを吐き出し、空しく耳元で空撃ちの音を立てた。弾が尽きた装備はその場で捨てる。現地調達――敵の死骸から使えそうな機関銃を引き剥がし、使う。その場を生き残るために拾い、使い、捨てる。
「ふぅ……少し、やりすぎたかな。」
独り言が空間に消える。血と硝煙で鼻腔が痺れ、汗が額を流れ落ちる。しばらく経って、反撃の音が完全に消えたことを確認すると、拾った銃の弾丸も使い果たして、俺はそれを放り捨てた。
視線は先。破壊の後が続く階段を見上げると、信じられない光景が広がっていた。二十九階を貫通するほどの爆撃で、階段ごと壁が抜け落ち、三十階までの連続した段差がまるごと消し飛んでいる。朝焼けが直に差し込み、欠けた壁の向こうに広がる空が見える。そこには瓦礫の向こうに朝の淡い光が広がり、普段は決して見ることのない塔の深淵が露わになっていた。
「うわ……階段がねぇぞ。ええっとたしか──」
背負っているリュックへと俺は手を伸ばす。冷えた金属の感触が指先に触れる。グラップリングガンだ。密かにノブ子に作ってもらったハンドメイドの一品。遊び半分で頼んでいたが、まさか本当に使う日が来るとは思わなかった。
三十階の床を狙って、俺はグラップリングガンの引き金を引く。圧縮ガスの吐息とともに、スチールフックが閃光を放って飛び出す。ワイヤーが伸びるたび、機械の小さな唸り声が耳に届く。刹那、鋼が硬い何かに当たり、「カンッ」という金属音が廊下に鳴り響いた。命中だ。
リールが巻き上がり、ワイヤーが俺の体を鷲掴みにするように引き上げる。床を蹴るだけの勢いで、足がタイルを離れ、身体が宙へ翔る。二十九階の開口部を駆け抜け、朝焼けの光の中を滑空する感覚は奇妙に清々しい。破壊の匂いと冷たい風が混ざり、肌を刺す。
やがて三十階の床面が視界に広がった辺りで、俺はグラップリングガンから手を離し、着地する。衝撃はプレートが吸収してくれる。足裏に床の硬さが戻る瞬間、ここが三十階だと実感する。イーゴリが言っていた通り、幹部の誰かがどこかで俺を待っているはずだ。
「……。」
残った装備を確認しながら、俺はゆっくりと歩き出す。ここまでに使い尽くした武器は数え切れない。ほとんどは投げ捨て、現地調達で繋いできた。だが、この先にあるのは幹部とその部下たちだろう。
(……厳しい戦いになりそうだよなぁ。)
頭の中で計算がぐるりと回る。だが計算を終える前に、俺は精神を一点に集中させる。足音を殺し、視線を先へ送る。
気を引き締めて俺は進む。




