「暗殺依頼」Ⅳ
M72 LAWは使い捨てのロケットランチャーだ。つまり、今の一発で終了。
崩壊した高層ビルの周りで瓦礫に埋もれたベンツを助け出そうと、俺に向けて発砲していた男達は大慌てでその場を離れ、瓦礫に向かう。砂埃が巻き上がり、瓦礫の間を縫って惑う彼らの姿は、まるでパニックに陥った動物の群れのようだ。
(悪いが、その救出劇は止めてもらうぜ。)
俺は肩越しに盾として利用した女の死体を下ろし、少しだけ目を閉じて黙祷した。無言の祈りを捧げるように深呼吸する。呼吸とともに肺に入る冷たい夜風が、背中に背負った銃や防弾チョッキの重さを一層実感させる。心臓の鼓動が耳の奥でズシンと響き、静寂に混ざった瓦礫の崩れる音が緊張を増幅させる。
体を低くして崩れた瓦礫の間から目線を外さず、置いていたスナイパーライフルに手をかける。銃身は曲がり、ライフル本体はもう使えない。しかし、奇跡的にスコープだけは無傷で残っていた。暗い夜に、わずかな光が残るだけで敵の動きを確認できる。それだけで勝算はある。
「……ちぇっ、使いそびれちまった。」
呟きながらも、俺は冷静だった。スコープはまだ使える。狙撃は無理でも、遠くの状況を確認する望遠鏡として十分だ。壊れたスナイパーライフルを蹴り飛ばし、瓦礫の隙間を縫って下へと急ぐ。非常階段をつたって一階に降り、入口から外に出ることなく陰に隠れる。粉塵混じりの空気が視界をかすませるが、瓦礫の間に逃げ込む男達の動きがスコープ越しでも鮮明に見える。
(……こいつら、全くのド素人だな。)
組織の組員として首領を助けるべき立場でありながら、手慣れない瓦礫の撤去作業に焦っている。だが、俺に気を配るどころか、完全に俺の存在を忘れているようだ。これを利用しない手はない。
息を殺し、音を立てずに瓦礫の間を走る。ジャケットの懐に滑り込ませた手が、冷たい金属に触れる。手榴弾だ。指先で栓を引き抜き、腕に力を込める。対象は目の前で瓦礫を取り除く男の頭上。狙いを定め、鋭く投げる。
ピンッ!
栓を弾き、手榴弾を弧を描くように放つ。
「……それっ。」
足元に落ちた手榴弾に気付いた男は慌てて拾おうとするが、時既に遅し。爆発までのカウントが秒単位で迫る。瓦礫の間を飛び交う粉塵と金属片が、爆風を予感させる。手榴弾が炸裂した瞬間、瓦礫と破片が空中で舞い、周囲の夜を裂くような轟音が港全体に響き渡る。爆風に巻き込まれ、男達の体は宙を舞い、瓦礫の陰で不意に力なく倒れる者もいる。粉塵が舞い上がり、視界は煙に覆われ、爆風の残響が耳を打つ。跳ねる瓦礫、空中で舞う金属片、爆風の衝撃――あらゆる感覚が極限まで研ぎ澄まされたかのようだ。
(……次だ。)
二個目の手榴弾を取り出す。冷たい金属の感触が指先に伝わる。息を整え、腕を振る。最初の爆発で動揺する男達の中心を狙い、完璧な角度で投げ込む。手榴弾は瓦礫の隙間をすり抜け、空中で揺れる金属やコンクリート片の間を通り、まるで時間が一瞬止まったかのように見える。全神経を研ぎ澄ませ、耳に響くのは自分の呼吸と心臓の鼓動だけ。粉塵混じりの夜風が頬を撫で、瓦礫と破片の音が脳裏を揺さぶる。
慎重に、しかし確実に狙いを定める。腕の筋肉に力を込め、完璧な軌道を描くように投げる。夜の港に静かに張りつめた緊張感が走る。男達は依然として混乱の中で動き、反応は遅い。目を凝らすと、瓦礫の間で飛び跳ねる破片が、まるで彼らの運命を告げるかのように輝く。
そして、二個目の手榴弾が炸裂した。




