「これは一人の殺し屋の物語」Ⅲ
コルト・ガバメント.45の弾倉に、特注の改造榴散弾を押し込む。
指先に伝わる金属の冷たさと重みが、これから流れる血の量を予告しているようだった。
右手の人差し指が引き金を軽く引くと、撃鉄が跳ね起き、内部の部品が一斉に動き出す独特の感触が掌に伝わる。
弾倉がわずかに回転し、次の瞬間、銃口から榴散弾が発射ガスをまとって飛び出した。
消音装置を装着しているとはいえ、発射音は鈍く重く、腹の底に響く。
耳に残る残響と同時に、榴散弾はわずか数メートル先でカービン銃を構えていた男の胸部に命中した。
その男──敵対組織が送り込んだ殺し屋。名前すら知らない。覚える価値もなかった。
榴散弾は肉を突き破り、骨を砕き、体内で炸裂した。
瞬間、金属片が肉の中で暴れ回るように四方八方へ飛び散り、背中や肩、腕の皮膚を内側から破って突き出す。
鮮血が噴水のように吹き上がり、壁や床、天井にまで赤い飛沫を散らした。
男は声を出す間もなく、崩れ落ちた。即死だ。
ここは、とある都市の高級クラブ。
普段なら香水と酒の匂いが支配する幻想的な空間も、今は死体と硝煙の臭いに塗り替えられていた。
数分前まで賑やかだった音楽は止み、響くのは自分の呼吸と、時折床に落ちる血の滴が作る微かな音だけ。
照明のきらめきも、死体を照らすためだけに存在しているかのようだ。
店内の壁には豪華なシャンデリアが下がり、天井の隅には金属の装飾が輝いているが、その美しさは今や無意味だ。
赤い絨毯の上には、男たちの血が滲み、まるで一枚の汚れた絵画のように広がっていた。
この殺し屋には仲間が四人いた。
今残っているのは、奥の壁際で銃口を震わせている一人だけ。
他の三人はすでに俺の弾丸とナイフの餌食になり、床に無様に転がっている。
クラブで働いていた女たちは、最初の銃声で悲鳴を上げながら裏口から逃げ去った。
今、この空間に生者は俺と、最後の一人だけ。
店内の空気は静寂を取り戻し、時折、血のしずくが床を伝う音だけが響いている。
「お、お前……何もんだ?」
生き残りの男が、恐怖で引きつった顔のまま、震える声を絞り出す。
銃口を突きつけられているというのに、その問いかけは妙に間が抜けていた。
命乞いをすれば助かると思ったのか、それとも純粋な好奇心か──どちらにせよ、答える価値はない。
その男は視線を俺に向けながら、何とか銃口を僕の胸に合わせようとしているが、その手は小刻みに震えていた。
彼の手が確かに震えているのは、逃げる時間も考えていたのだろうが、それでも見えない恐怖が体全体を支配しているのがわかる。
口元が微かに動き、もしかしたらもう一度、命乞いをしてくるのかもしれない。だが、それを許す気は毛頭ない。
「……答えるギリもない。」
低く吐き捨てながら、俺は迷いなく引き金を引いた。
榴散弾が再び唸りを上げ、男の体に突き刺さる。
瞬間、爆ぜるように赤い霧が立ち上り、壁に血の花が咲いた。
男の目が一瞬、開いたまま天井を仰ぎ、すぐに動かなくなった。
倒れた彼の手は、まだ銃を握りしめていたが、それもまた意味をなさない。
立ちこめる煙と血の臭いの中で、俺は淡々と銃口を下ろす。
死体の瞳は、まだ何かを問いかけるように開かれていたが、もう何も答えは返らない。
「……まぁ。答えても、俺は俺だ。」




