表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:ガンマン  作者: アダス
10/13

「少女」Ⅰ

朝遅く起きた俺は、重たくなったまぶたをようやくこじ開けるようにしてベッドから身を起こした。窓から差し込む光はすでに真昼近くの色合いで、カーテンの隙間から差し込むその白々しい輝きが、寝坊したことを否応なく告げてくる。だが焦りはない。俺にとって時間というものは、他人が騒ぎ立てるほどの価値を持たない。必要なのは、やるべきことを滞りなくこなすこと、それだけだ。


洗面所に立ち、顔に冷水を浴びせる。冷たさが一気に眠気を引き剥がし、意識を鋭くさせてくれる。歯ブラシを口に突っ込み、無駄のない動きで歯を磨く。生活のすべてが、ただ「必要だからやる」という行為に集約されている。そこに楽しみや怠惰といった感情は入り込む余地がない。俺の生き方はそういうものだ。


服を着替えるときも迷いはなかった。選ぶのは、ジーンズに白シャツ一枚という簡素な格好。シンプルで、清潔で、何より余計なことを考えなくて済む。色や流行などどうでもいい。着られて動ければそれで十分だ。こうして身支度を整えると、ようやく朝食に取りかかる。


朝食といっても、豪華なものではない。昨日、デパートの近くにある空き地で採集しておいたウドやツクシ、ノビルを持ち帰っていた。こいつらを軽く天ぷらにして皿に盛る。油の匂いが部屋に広がり、わずかに春を思わせる草の香りと混ざり合う。それに加えて、手軽にエネルギーを補給できるカロリーメイト(フルーツ味)を二本。最後に瓶入りの飲むヨーグルトを開け、全体をまとめるように胃へと流し込む。


俺にとって食事は楽しみではない。飢えを満たすための娯楽でも、味わうための贅沢でもない。鍛え抜いた肉体を維持し、動かすために必要な「燃料」だ。プロの戦闘機にガソリンを入れるように、ただ機能を稼働させるための補給。それ以上の意味は持たない。料理の出来や味などどうでもいい。ただ食わなければやっていけない。それが現実だった。


食事を終えた俺は、皿を流しに放り込み、テレビの電源を入れる。画面には昨日の仕事がニュースになっていた。アナウンサーが険しい表情を作り、専門家らしい人間が熱く語っている。内閣の何たらがロシアマフィアがどうのこうのと声を荒げ、まるで大事件だと煽り立てている。だが俺にとっては取るに足らない。テレビの向こうで騒いでいる連中が何を言おうが、俺の生活には一切関係がない。仕事は仕事であり、終わればただ過ぎ去るだけのものだ。


新聞を手に取ってみても同じだ。どの面をめくっても、目を引くのは事件や政治の話ばかり。娯楽といえる番組表にも、今日に限ってろくなものが並んでいない。普段なら楽しみにしているアニメの再放送くらいあるものだが、どうやら今日は外れらしい。


「……今日はアニメは無しか。」


小さくため息をつき、俺はリモコンを操作してテレビを消す。部屋が静寂に包まれる。外からは車の音や人のざわめきがかすかに届くが、俺の耳には届いてはいても響かない。世界がどう騒ごうと、ここは俺の空間であり、俺の時間だ。


俺は机の引き出しに手を伸ばす。カタンと軽い音を立てて引き出しを開けると、そこには愛用のコルト・ガバメント.45と弾薬庫が収められている。金属の冷たく無骨な輝きは、俺にとって何よりも信頼できる相棒の証だ。この銃を手に入れてからというもの、俺は一度たりとも朝の掃除を欠かしたことがない。日課であり、儀式であり、同時に自分を保つための確認作業でもあった。


俺は銃を手に取り、自然な動作で分解を始める。手順は完全に体に染み付いていて、考える必要すらない。分解された部品を並べ、弾倉を取り上げる。そこに油が染み込んだハンカチを当て、丹念に磨き上げていく。金属の表面についたわずかな汚れや指紋が消えていくたび、心の奥で張り詰めていた何かがほどけていく。


拭き取った油の匂いは鼻を刺すが、それすら心地よい。戦場の火薬の匂いとも、酒場のアルコールとも違う、無機質でありながら確かに生の証を感じさせる匂いだ。


汚れが完全に取れ、部品ひとつひとつが本来の輝きを取り戻していくと、胸の奥にじんわりとした感覚が広がる。それは喜びや達成感といったありふれた言葉では表せない。もっと静かで、確実で、俺の存在を確認させてくれるような感覚だ。


そして最後に組み立てを終え、銃を元の姿に戻したとき、俺は深く息を吐き出した。すべてが予定通りに整ったことへの安堵と、自分だけが知る小さな満足。


完全に汚れが取れると、何とも言えないようもない満足感に包まれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ