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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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89話 メリークリスマス:AM

 12月25日、クリスマス当日。その日は冬休み初日でもあった。


 世間的には平日だから、仕事に行くお母さんを見送った後、私はお昼からのクリパまで冬休みの宿題を片付けることにする。

 冬休みの宿題って期間が短い割に多いんだよなーと思いながらせっせと問題を解いていると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。


「奏先輩! メリークリスマスっですっ!」

「こんちわー」

「奏先輩、お久しぶりです」


 ドアの向こうにいたのは後輩の3人組。

 一番元気な挨拶は真っ赤なコートのくるみ。ニットの帽子とマフラーでしっかり防寒してあって、クリスマスを意識した服装をしている。

 その後ろで気が抜けるような挨拶をしていたのは星羅。深緑のコートとその下から見えるギンガムチェックのスカートは冬と思えないほど短い。さすがに寒さ対策なのか厚手のタイツを履いていた。

 もう一人が、最近二人とよく一緒にいる翠ちゃん。白のコートはまだ新品っぽくて丈も長い、お団子ヘアーが白い帽子からはみ出しているのが可愛いかった。


「いらっしゃい、入って」

「お邪魔しまーす!」

「はーあったかー」

「奏先輩の家、大きいですね」


 三者三様に話しながら、居間に案内して各々適当に座ってもらう。


「みんなココアで良い?」

「大丈夫でーす!」

「ゴメンねぇ、一緒にクリスマスパーティ出来なくて」

「いえ、奏先輩も午前中時間取ってもらってすみません」


 私が謝ると、翠ちゃんが落ち着いた声で返事をしてくれた。

 というのも、くるみがどうしてもプレゼント交換をしたいらしく、私が出かけるまでならいいよと時間を空けることになった。私達の予定はお昼からだし、お母さんも仕事だから丁度良かったというのもある。

 マグカップを用意していると、私が勉強していた時と打って変わって、部屋の中が賑やかになる。後輩が三人も家にいることがなんだか不思議だった。


「センパイはお昼どこで食べるんです?」

「菜月が……私の友達なんだけど、人気のクリスマスランチを予約してくれて、そこに行くの。なんか3ヶ月前から予約してたみたい。みんな行けるかもまだわかんないのに」


 少し前にクリスマスの予定をみんなで話し合っていると、菜月が急にそんなことを言うから驚いた。というか本人も予約したのを忘れていて、直前の確認メールで気づいたらしい。


「いやー、そういえば今しか予約できないって部活の友達に教えてもらって、勢いでしてたんだった!」


 というのが菜月の話で、クリスマスランチにしては珍しく学生割引がある。みんなの予定を合わせて、そのお店に行くことにした。


「みんなはこの後どうするの?」

「あたし達はカラオケ行ってボウリングして、その後オウルですね」

「あ、オウル行くんだ」

「今日オウルでもクリパなんで」

「せんぱーい、聞いてくださいよー。私達最近、毎週末オウル行ってるんですよー」


 出来上がったココアを置くと、くるみは指先を温めながらそんなことを言った。

「毎週?」

「二人にはクリパの準備手伝ってもらってるんすよ」

「一人一人にプレゼントを作るんです。小さい子が多いので、折り紙で作ったのとか編み物とかですけど、結構種類があって、翠もオウルの人に教えてもらいながら作りました」

「へー、なんだか楽しそう」

「はい、楽しいです」


 翠ちゃんはオウルでの作業が性に合ったみたいで、言葉の端がなんだか弾んでる。


「くるみも望結のお気に入りじゃん」

「本当にそう思ってる? あの子絶対私のこと下に見てるし」

「望結って?」

「夏祭りの時にくるみと一緒にお店やってた子ですよ」


 そう言われて、くるみにテキパキ指示を出していた女の子のことを思い出す。なんか社畜思考が高かった女の子に付きまとわれてたっけ。


「望結ちゃん私にだけ厳しいんですよー、ほんとなんでなんだろう……」

「すぐ逃げようとするからじゃない?」

「だってなんか……圧が凄いんだもん。翠にはそんなことなかったよね?」

「うん、翠は普通だったよ。ほとんどくるみと一緒にいたからあんまり話してないけど」

「やっぱ気に入られてるんだって」

「そうかなぁ……」


 星羅からそう言われているけれど、くるみとしては面倒らしくうじうじとしていた。私から見ると、くるみは他の人から好意を寄せられることに慣れていないだけだと思うんだけど。


「奏センパイもそのうち来てくださいよ。環勉強頑張ってるんで」

「環ちゃん成績上がった?」

「百合ヶ原受けるにはまだまだですけどね、翠も教えてくれるようになったんで何とかなりそうな感じ」


 環ちゃんは今のオウルの最年長で、私も少し前に勉強を少し教えたことがある女の子。まだ中学2年だから、もし合格したとしても私は卒業しているのが残念なところ。


「その内行こうかな、私も環ちゃんと会いたいし」

「お待ちしてまーす」


 そんな感じで、私達はしばらくおしゃべりをした。

 最近二人のグループに入った翠ちゃんは、くるみに対してのツッコミ役になっていて、星羅はその二人の会話をスルーしていることが多かった。前までは星羅がくるみのストッパーになっていたけど、星羅は結構くるみの暴走を面倒そうにしてたから、翠ちゃんに押し付けた感じなんだろう。

 そんな三人でも意外と気は合っているようで、時折三人で笑っていることもあって翠ちゃんを紹介した私もなんだか安心した。

 みんなのカップが空になって、私は時計を確認する。


「私、もうそろそろ出る準備しなきゃいけないから、プレゼント交換する?」

「あっ、もうそんな時間……奏先輩といると時間が早いです……」


 そうしてくるみは紙袋の中からラッピングされたプレゼントをテーブルの上に置いた。


「奏先輩、メリークリスマス! これは私から……じゃなかった、私達3人からのプレゼントです」

「三人から? ありがとう」


 そのプレゼントはくるみからではなく、星羅と翠も入ってるみたい。私は綺麗にラッピングを剥がして、その箱を開いた。


「わっ、可愛い」


 中に入っていたのはきらめくスノードームだった。

 ドームの中は三人の人形が、少し大きな一人の人形の周りを囲むように踊っている。小さなレンガの家にキャンプファイヤー、沢山の杉の木。空にはサンタのそりとトナカイが宙を走っている。持ち上げると、沈んでいた雪の結晶がドームの中に舞い上がった。


「へぇー、クリスマスにぴったりだね」

「スノードームの中、あたしらで作ったんですよ」

「え、そうなの?」


 全然見た目は既製品っぽく見えるけど。


「翠が知ってるお店で、好きなパーツを使ってスノードームを作れるところがあるんです。それで三人で話し合って中身決めました」

「……ってことは、もしかして中にいるこの人形って」

「さすが奏先輩! 気づきましたか? 周りで踊ってるのが私達で、真ん中にいるのが奏先輩ですよー!」

「最初、くるみは三人で奏先輩のこと逃げられないようにぴったり囲おうって言い始めたんですけど、引かれそうなんであたしが止めました」

「星羅、よく止めた。この方が可愛いよ」


 あんまり距離が近いとなんか宗教感出ちゃうし……いや、真ん中にいるのが私だと知るとこのままでもちょっと怖いけど。


「私達は奏先輩をさらに輝かせるために、永遠に踊り続けるんです……」

「あたしは嫌だから二人でやってくれる?」

「翠も永遠は嫌だよ」


 二人からはしごを外されているけれど、くるみは一人で変な踊りをしていた。それが面白くて、私はなんだか笑ってしまいそうになる。


 「はいはい、踊らなくてもいいから。それより、私からもプレゼントがあるよ」


 と、自分の部屋からラッピングされた箱を3つ持ってきて、一人ずつに手渡した。


「やたっ! 開けていいですかっ!?」

「もちろん」

「翠にもいいんですか?」

「もちろん翠ちゃんにあげようと思って選んだんだけど」


 翠ちゃんは自分がもらえると思ってなかったらしい。クリスマスにみんなで来るっていうなら、そりゃ用意しておくのに決まってるのに。

 翠ちゃんも丁寧に包み紙を剥がして、細長い箱を開ける。中には一本のボールペンが入っていた。形は同じだけど、色と柄、そしてついているモチーフがみんな違う。

 それは街中で見つけた、ボールペンのデザインを選べる文具店で買ったもの。モチーフの種類がたくさんあって可愛かったから、それぞれ思い浮かぶもので作ってもらった。


「さすが奏先輩! センス良いです! 可愛いー!」

「おそろなんだ、私達こういうの持ってないよね」

「……綺麗」


 三人の反応はそんなに悪くなさそうで、私も安心した。これがあれば、きっとクラスでもグループなのが分かりやすいし、三人にはもっと仲良くなってほしいな。




「それじゃ奏先輩! また学校で!」

「うん、冬休みそんなに長くないから、すぐ会えそうだけどね」

「私は毎日でも会いたいんですけどー」


 そんなことを言いながら、くるみは当たり前のように私に抱き着いてくる。まぁいつものことだから私も軽く抱き返してあげた。


「すうぅぅぅ~はあぁぁぁ~、うぅ~奏先輩の匂い……ずっと嗅いでたい……」

「変態っぽいから止めてって言ってるでしょ」

「あぁ~後生です~」


 くるみが変な事言うから引きはがす。ぐいぐいとくるみを押していると、その後ろで翠ちゃんがなにか言いたそうにしていた。


「? 翠ちゃん、どうかした?」

「……翠も抱き着いてもいいですか?」

「別にいいけど……」


 そう改めて聞かれるとなんだか恥ずかしい、けどくるみにさせておいて翠ちゃんを断るなんて出来ないからそう答えると、翠ちゃんはそっぽを向いたまま身体を寄せてきた。


「ぐぬぬ……」

「あんたはさっきやってもらったでしょーが」


 後ろでくるみが星羅に突っ込まれているのを見ながら、翠ちゃんにも軽く手を回してあげる。

 翠ちゃんは別にぎゅっと抱き着いてくるとかじゃなくて、手を自分の胸に抱いたままだった。みんなで話していてもなんとなく思ったけれど、まだ遠慮が捨てきれていないみたいで、翠ちゃんから話すことは少ない。

 もう少し慣れるまでは時間が掛かるかなーと思いながら、背中をぽんぽん、と叩く。


「あ、ありがとうございます」


 自分でしたいと言っておいて、離れる時にはなぜか翠ちゃんの方が恥ずかしがっていた。くるみみたいに積極的なのもいいけれど、翠ちゃんみたいなのも後輩力高くて良いなぁ。


「星羅もする?」

「いや、あたしは……」

「ダメー! 星羅まで奏先輩の虜になっちゃう!」

「……やっぱしちゃおっかな~」


 少しふざけて星羅に言ってみたら、どっちかというとくるみをからかう目的で私にハグしてきた。星羅は私と同じくらいの背なこともあっハグするにもバランスがいい。

 なんかギャルっぽい匂いがするのは、たぶんヘアスプレーの匂いだろうなぁと思っていると、星羅は真顔のまま身体を離す。


「……奏先輩の匂い、ヤバイですね」

「え、ヤバイってなに?」

「いや、なんていうか……くるみの言う事もなんか分かる気がしました」

「ねー、その言い方私が気にしちゃうんだけど……」


 最近言われなくなったけど、ヤバイって言い方されるとなんか心配になるじゃん……。

 みんなハグして満足したのか、星羅も特に説明してくれないまま、三人と別れた。

 自分の服をすんすんと匂ってみるけれど、いつもの柔軟剤の匂いしかしない。


「大丈夫だよね……?」


 心配になりながらも、私も待ち合わせ時間に遅れないように家を出た。




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