↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/104

84話 新しい動力_2


「はっ!」


 気が付くと、なんだか暑くて仕方なかった。


 私の下には汗といろんな液体でべしゃべしゃになった翠ちゃんが倒れていて、その薄い身体は何も身にまとっていなかった。ピンク色の突起も、浮き出たあばらも全部が見えてしまっている。


「っていうか私も服着てないじゃん……うわ、なんか部屋の匂いヤバ……」


 自分でも分かる濃厚な女の子の匂いが、小さな部屋の中に充満していた。その匂いにまた下半身がうずいてしまうけど、まずは翠ちゃんを起こす。


「翠ちゃん、大丈夫? 起きて! ……まさか死んでないよね?」


 ほとんどない胸を見ると、小さく上下しているのだけは分かる。……いや、さすがに死んでたらヤバすぎるけど。


「ふぇ……」


 何度かゆすっているうちに、翠ちゃんの眼が開いた。焦点が定まらないままむくりと起き上がると、私をぼーっと見た後、我に返ったように両肩を掴まれた。


「だ、だだ大丈夫ですか!? なにも異変ありませんか!?」

「だ、大丈夫だよ。なんかちょっと記憶ないけど……」

「今すぐ病院で見てもらった方がいいと思います! えぇっと、なんでかって言うと……」


 と、翠ちゃんはその訳を説明してくれた。

 翠ちゃんのお姉さんが、幸太郎君の誘拐を計画していたこと。そのためにお姉さんがどこかから貰ってきた薬を水に溶かしていたこと。それを私が飲んで、意識が朦朧としながらも翠ちゃんを襲ってしまったこと。


「そう言われると急に不安になってきたけど……」


 身体は全然元気、なんなら性欲発散できていつもより調子良いくらい。

 そもそも、もし危ない薬だったらまったく味がしないとかありえるんだろうか。それともめちゃくちゃ薄めてるとか? ともかく、ある程度時間が経っても異常がないってことはそんなに危険なもの入ってなかったんじゃないかなぁ。


「ひとまず、この水は預かっておくね」

「……病院だけは必ず行ってください」

「うん、必ずね。ひとまずここから出ようか」


 汗は毛布で拭って、服を着て、体育館から繋がっているシャワー室で汗を流す。

 時間的にはもう後夜祭に入っていて、私のスマホにはみんなから心配するメッセージが来ていた。軽く返信してから学校を出る。


「翠ちゃんも後夜祭行く?」


 私がそう誘ったけれど、翠ちゃんは諦めたように首を横に振った。


「……いえ、翠はこれから警察署の方に行きます」


 翠ちゃんはスマホを見せてくれる。そこには何回か警察署からの連絡があった。


「結局誘拐する前に茜ちゃんは捕まっちゃいましたけど、翠も無関係じゃないです。茜ちゃんを止められなかった責任が、翠にはあります」

「でも、幸太郎君のことに関しては未遂なんでしょう?」

「いえ、これは翠がやらないといけないことです。翠にもっと勇気があれば、茜ちゃんだって碧ちゃんだって助けられたかもしれないのに」


 そう言う翠ちゃんの表情は、それでもさっきみたいな無気力じゃなかった。覚悟を決めて、お姉さんと向き合おうとしているように見えた。


「翠、奏先輩に会えてよかったです。奏先輩が背中を押してくれたから、今もお姉ちゃんたちのことを心配できるんです。すっごく、すっごい嬉しかった。……だからもし、翠がまたこの学校に来られるようになったら、その時はまた仲良くしてください」

「うん、また遊ぼうね」

「はいっ、また!」


 翠ちゃんは大きく手を振り走っていく。

 その後ろ姿に、私もまた会えることを願った。




「奏、結果出たよぉ」


 文化祭が終わって数日経った日の放課後、エマにそんなことを言われた。


「食堂でいい?」

「うん」


 何が、とか聞かなくても私とエマならなんとなく分かる。二人だけで食堂に移動した。


「これがこの前奏から預かった、液体の分析表ね」


 適当な椅子に座ると、さっそくエマが数枚の紙を取り出した。

 私は翠ちゃんから預かった水筒を、エマに渡していた。怪しい液体だから中身を調べてほしいと言うと、エマは何も言わずにその水筒を預かってくれた。

 飲んだ本人である私もすぐに病院に行ったけれど、特に異常はないと言われた。一週間経過してもぴんぴんしているから水自体も問題ないとは思うんだけど。


「特に危ない液体じゃないみたい。混ざってたのは、漢方とか香辛料とか、そんなところ? でも薄めすぎてほとんど水だねぇ」


 その返答に、私はほっとする。でもそうなると次は私がああなった理由も分からない。その混ぜられた漢方とか香辛料とかと相性が悪かったとか……?


「あ、あと一応お酒も入ってたよ。ほんの少しだけど……これ飲んで車とか運転したら、ぎりぎり捕まりそうなくらい?」

「お酒かー……」


 思いっきりお酒も入っていた。それで私は納得する。

 というのも、私の家系は代々お酒に弱い。お母さんもビール半分で寝てしまうし、私も一度甘酒を飲んでから記憶をなくしたことがある。その時は菜月とエマと一緒にいて、どうやら大変だったらしい。それから二人からは甘酒禁止令を出されるくらい。


 私が大人になったとしても、お酒を飲む時は注意しないと……。

 そんなことを考えていると、エマがジトッとした目で私を見ていた。


「……これ、奏飲んだんでしょ?」

「やっぱ分かる?」

「分かるよぉ、こんな怪しい水筒持ってきてさー。何があったかは知らないけど、奏も気を付けてよね」

「うん、ゴメンね。気を付けるから」


 でもこれで、翠ちゃんの懸念も一つなくなった。水筒に入っていたのは感度3000倍になる薬なんかじゃなかった。

 翠ちゃんにそのことを教えてあげたいけれど、翠ちゃんはまだ学校に戻ってきていない。戻った時はくるみか星羅が教えてくれることになっているけれど……もう少し時間かかりそうかな。



 ○  ○  ○



 茜ちゃんが捕まってから一ヵ月、ようやく翠は学校へ戻ることになった。


 あれから本当に大変だった。もちろん翠自身は違法薬物なんてやってないから特に何もなかったけど、茜ちゃんは派手にやっていたみたいで、薬を融通していたギャンブル仲間もたくさん捕まったみたい。

 あの部屋は茜ちゃんが契約してくれていたから、私は家を無くしてしまうし、親戚だって特にいなくて、その辺りは私を不憫に思った人がいろいろと世話をしてくれた。なんとか百合ヶ原の寮に住まわせてもらえることになって、なんなら前より部屋が広いものだから、私は気の抜けた笑いが出てしまった。


 登校再開初日。

 すっかり寒くなった道を私は歩く。寮から学校までは徒歩5分で、白い息を吐きながら学校を見上げる。

 奏先輩にはいつか戻るとは言ったけど、正直私は学校へ行く意味を無くしていた。お姉ちゃんもいないし、これからはお金も自分で稼がないといけないし……今進んでしようと思えるのは、お姉ちゃんたちの仕送りくらい。

 それでも習慣のように靴を履き替え、教室の扉を開くと、その瞬間一斉に視線が私へ向いた。

 茜ちゃんのことはテレビでもやっていたし、みんなとっくに知っているんだろう。もともと友達いなくてよかった、と自虐的なことを考えながら、私は変わらないままの自分の席へ座る。

 勉強も遅れてるだろうなぁと教科書を出していると、そこに二人のクラスメイトが近づいてきた。


「焼きそば神がやっと来た」

「……焼きそば神?」


 全然馴染みがないフレーズだけど、その言葉は明らかに私に向かっていた。顔を上げると、派手な恰好をしている神木さんが私を見下ろしていた。その後ろには恋塚さんの姿もある。


「文化祭一日目、ひたすら無言で焼きそば作ってたでしょ。あれ美味しいって好評だったんだよ。覚えてない?」

「焼きそば作ってたのはもちろん覚えてるけど……」


 あの時は、その味なんて気にしてる余裕なかったし。


「周りが何言ってもずっと作ってたからさ、周りの人達が焼きそば神って言ってたの」

「えぇ、なんかカッコ悪い……」

「そう? あたしは悪くないと思うけど」


 ギャルの神木さんはそんなことでおかしそうに笑っていた。ピアスにネイル、着崩した制服はクラスでも浮いている……なんで私なんかに話しかけてきたんだろう。

 それが分からなくて後ろにいる恋塚さんへ視線を向けると、ちょっと……いや、明らかに機嫌が悪そうだった。


「なんでアンタなんかが奏先輩に……」

「?」

「こーら、威嚇しない。奏センパイに頼まれたんでしょ?」

「がるるるるる……」


 なんか本当に威嚇されてる、っていうか奏先輩?


「アタシら、奏先輩にアンタと友達になってくれって言われてんの。入学からずっと孤高の狼みたいだったけど、実際はそんなんじゃないんでしょ?」

「奏先輩の頼みだからね! 仕方なく話しかけてやってんの!」


 その二人の言葉に、私はポカンと口を開けてしまう。

 こんな空っぽの私を、一月経っても気にかけてくれるなんて。実は、もう忘れられていてもしょうがないなと思っていたくらいなのに。なんで文化祭で一日だけ一緒だった私に、そんなに優しくしてくれるんだろう。それが不思議で、どうしようもなく嬉しくて……心がぎゅぅっと苦しくなる。

 思わず涙が出そうになって、さっと袖で顔を隠した。


「あー、くるみが泣かした」

「わ、私のせいじゃない! ……彩野、奏先輩には言わないでよ」

「まぁまぁ、私達も二人だし、あぶれ者同士ちょうどいいじゃん?」

「私は奏先輩がいればいいんだけど」


 そんな会話を聞きながら、でもどうしようもなく涙は収まってくれなくて。

 奏先輩にどれほどお返しをすればいいんだろうと、私はそんなことを考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。