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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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76話 清華院女子の文化祭_3


 お昼を済ませて、また学校の中に戻る。


 午後になると生徒以外のお客さんが増えてきた。といってもそのほとんどは大人で、展示を熱心に見てる白衣の人とか、なんかテレビで見たことあるなって感じの偉い人しかいない。

 そういう人達は透子ちゃんを見かけると忘れずに挨拶をしてくる。透子ちゃんも慣れているみたいで、特に気にせず対応していた。大体が『皇后様に宜しくお伝えください』で終わって、透子ちゃんも頷くだけ。

 私は邪魔しちゃ悪いかなと思って、そういう時は少しだけ透子ちゃんから離れて、終わるくらいに戻っていた。


「奏、こっち」


 5度目の声掛けに捕まった後、透子ちゃんは次の教室には入らず上へ向かう階段に足をかけた。


 私が急いでその隣に並ぶと、透子ちゃんはそのまま上まで昇っていく。階段を歩いている途中で気づいたけど、そこは朝に見た白亜の時計塔の中だった。

 上がるにつれて教室は無くなって、布を被った何かの置物とか、きっと生徒が書いた絵とかがあって、階段の踊り場が物置のようになってくる。

 ずいぶんと上がって人の声がさっぱり届かなくなった場所に、大きな白い布がかけられたなにかがあった。透子ちゃんがその布をさっと取ると、まるでどこかの社長が座るような、大きな革張りの立派な椅子が現れた。

 透子ちゃんは1つため息をついてそれに座ろうとして……気づいたように私を見る。


「奏、先座って」

「あ、うん」


 言われた通りその椅子に座ると、透子ちゃんは私の膝を広げて小さなお尻をそこに収める。大きい椅子だから確かに私が抱きかかえるようにすれば二人でも座れる。

 透子ちゃんのさらさらとした銀色の髪が、私の視界を埋め尽くす。なんだか稲穂の中にいるようなそんな自然な匂いがした。

 すっかり安心した猫のように、私に体重を預ける。


「……ここ、私の特別な場所」

「良い場所だね」

「疲れた時に来る。授業中なら誰も来ないし」

「透子ちゃん意外とさぼったりするんだ」

「興味ない授業には出ない人も多い」


 何から何まで百合ヶ原とは違うなぁ。

 展示内容は高校生の内容じゃないし、飲食店はプロが作ってるし、お客さんは大人が多いし……今日は透子ちゃんがいたから楽しかったけど、正直百合ヶ原の文化祭の方が楽しそうな感じ。

 でもこの場所はなんだかいいかも。


「…………」


 しばらく私達は何も言わなかった。

 窓から差し込む光、宙に浮かぶ小さな塵、上から微かに響く、時計の音。

 私は透子ちゃんに軽く手を回しながらそれを見上げていた。

 透子ちゃんの表情はわからないけど、なんとなく同じ方向を見ているみたいで、呼吸で膨らむ微かな身体が、そこに透子ちゃんがいることを証明していた。

 きっと透子ちゃんは何度もこの光景をみているんだろう、この3年間、疲れたらここに来て、この椅子に一人で座って。

 まるで時が止まったかのような時間、それは透子ちゃんの思い出を、その記憶の通り分けてくれているようなそんな気さえした。


「奏」


 じっとしていた透子ちゃんが立ち上がる。そして今度は私の肩に両手を置いて、見つめ合うような形になる。


「……透子ちゃん?」


 なんだか不思議な時間にぼーっとしていた私は、透子ちゃんがゆっくりと近づくのに気づかないまま、いつの間にか唇に柔らかいものが当てられる。


「……ん?」


 あ、キスされてる。と気づいた時には、その唇は離れていた。


「と、透子ちゃん?」

「……どう?」

「い、いやどうって……」


 記憶を遡っても透子ちゃんとのキスは今が初めてだった。

 私は透子ちゃんにちょっと特殊なマッサージはしたけど、皇族なのもあっていろいろな『初めて』は残しておいたはずなんだけど。


「気持ちよかった?」

「ま、まぁ……」


 ストレートに自分の気持ちを聞かれてなんだか恥ずかしくなってしまう。

 透子ちゃんのキスは確かに気持ちよかった。唇は薄めだし初めてのはずなのに、それはどこか『気持ちよくさせられている』ような感じにもなってくる。


「私、最近学んだ」

「キスを?」

「房中術」

「ぼうちゅう……」


 それって確か、なんかえっちな感じのやつじゃなかったっけ?


「皇族は3人の子供を産むために、みんな学ばされる」

「そ、そうなんだね」

「知識はあるけど、実践は難しい」

「うん」


 そこで透子ちゃんが言いたいことがなんとなく分かってきた。透子ちゃんはきっと気づいていないけど、それは私のマッサージに対する意趣返しのようにも思えた。


「だから奏、試させて?」


 耳元に透子ちゃんの声が響く。その声はいつも通り無感情のはずなのに、どこか脳を震わせるような、妖艶な響きがした。




 ところで私は基本タチだ。

 女の子を可愛がっている時の方が興奮するし満足感もある。

 だから今までは基本的に私が攻める方で、少し攻められるにしても自分のペースを維持して受けに回っていたんだけど……。


「うぅ……」


 学校を出るときにはもともと着ていた百合ヶ丘の制服ではなく、透子ちゃんが電話一本で用意してくれた可愛い洋服に着替えていた。


「ゴメンね?」

「お嫁にいけない……」

「……私がもらう?」

「あ、そう言う意味じゃなくて」


 透子ちゃんはよくわからない、といった様子で首を傾げる。


「……たくさん気持ちよくなってくれて、私も自信ついた」

「言わないでよぉ!」


 つまり、着ていた制服と下着は私が気持ちよくなり過ぎたせいで履けなくなってしまったのだ。

 透子ちゃんが学んだ房中術は凄かった。

 普通に撫でられるだけでも身体が反応してしまう、私のマッサージを快感特化にしたような感じだった。

 透子ちゃんはいたって普通のはずなのに、どういう風にやっているかさっぱり分からないまま快感の度合いだけ強制的に上げられるから、こっちはたまったもんじゃない。


 ……まぁ私が若干濡れやすいっていうのもあるんだけど……というのは心の中に秘めておく。


「これで相手も満足してくれるはず」

「……そうだといいね」


 透子ちゃんが言う相手というのは、たぶん卒業の後に相手してもらう男の子のことだろうけど、ちょっと刺激強すぎる気がする。

 ヘタしたら逆に怖がられるんじゃないかなぁ。この世界の男の子って快感に弱いらしいし……。

 そんなことを思いながら校門を出たところで、タイミングよく車が滑り込んでくる。


「家まで送る」

「あ、ありがとう……でも寄りたい場所があるんだけどいいかなぁ? 透子ちゃんも一緒に。まだ時間ある?」


 透子ちゃんが扉を開けて待っている黒服さんに視線を動かすと、一つ頷いていた。どうやら時間は問題ないみたい。


「じゃあ……ここにお願いします」

 スマホで目的地を見せると、私と透子ちゃんが乗った車は静かに動き出した。

 時刻は15時を回ったところ。このくらいの時間ならきっとちょうどいいはず。




 車で30分ほど、私と透子ちゃんは百合が原高校隣の競技場へ足を降ろした。

 競技場では白熱した声が響いていて、車を降りてすぐその声が聞こえてくる。


「何やってるの?」

「体育祭、透子ちゃんの学校にはないんだよね」

「うん」


 せっかくだし普通の学校っていうのを見てもらいたいなと思って、透子ちゃんを連れてきた。

 今の時間ならきっと最後のリレーくらいは見られるだろうし。


「その前に……」


 いきなり透子ちゃんが入るといろいろと困ることがあるかもだから、運営席側に近い入口へ回ると、ちょうど星野先生が書き物をしていた。


「せんせー」

「ん? 琴宮お前休みのはずじゃ……って透子様!?」


 私と手を繋いでいる透子ちゃんを見て、先生はポロリと持っていたペンを落とす。


「透子ちゃんに見学してもらいたいんですけど良いですか?」

「良いですかって言われても私が決められることじゃ……」

「護衛がいれば問題ない、ダメ?」


 透子ちゃんがそう言ってしまえばもう決まったようなもの。後ろにはいつの間にか黒服さんが二人ついているし、それを見て先生は魂が抜けたような表情をしていた。


「ご自由にどうぞ……私は校長に伝えてくる」

「わかりましたー」


 許可も出たから手を繋いだまま私達のクラスへ向かう。去年と同じように男の子を祀り上げる用の台があって、その上にある椅子には幸太郎君が座っていた。


「あ、奏! ちょっとピンチなんだよ! って透子様!?」


 私に気づいた菜月が先生と全く同じリアクションをしていて思わず笑ってしまう。


「菜月菜月、今は私の友達として見学しに来てるから透子ちゃんって呼んであげて」

「え、えぇーいくら奏がそう言っても……」

「透子先輩、でもいいよ?」

「いやまぁそれならまだ……」


 菜月はちゃんと透子ちゃんが年上ってことを知っていたらしい。というか知らなかったのは私だけかもしれないけど。


「じゃなくて! あれ見てよ!」


 復活した菜月が指さしたのは各クラスの得点。今のところ私達5組が1位ではあるけど、1組と競っているみたい。


「あと最後のリレーだけなんだけど、クラス移動で凄い脚早い人が入っててさ。負けそうなの! 奏も走って!」

「えー、菜月と莉々ちゃんいても無理そう?」

「お二人がいても少し危なそうですわね」


 私達の横から声を掛けてきたのはかもめだった。かもめもしっかりジャージを着ているけど、菜月と違ってゆったりしたお嬢様感が残っている。

 ごきげんよう、透子様。と優雅に挨拶をしてから話を続ける。


「万全を期すのであれば最初の走者を奏さんとしたいですね」

「でもジャージとか持ってきてないよ?」

「エマの貸すから!」


 勝手にジャージを貸しだされるエマ、可哀そう。

 菜月はどうしても勝ちたいようで、私に縋りついている。この体育祭って自分のクラスの男の子のランクを決める側面もあったはずだけど、きっと菜月はただ負けるのが嫌なだけなんだろうな……。


「私、見たいかも。奏が走ってるところ」


 ふとぽつりとそんな声が響く。それは透子ちゃんだった。


「そうだよね! さすが透子パイセン!」

「菜月さん、その呼び方は流石に失礼ですよ? でも透子様がこう仰っているなら、叶えてあげるのが友人ではありませんか?」


 かもめまでそんなことを言う。今日は透子ちゃんの隣で応援するだけにしようと思ってたんだけど……。


「そこまで言われたらしょうがないか」

「やたっ! エマ呼んでくる!」


 私の言葉に菜月はぴゅーとエマを探しに行く。


「透子ちゃんは幸太郎君の傍にいて。あっちにも護衛もいるはずだから」

「後ろの二人がいれば大丈夫。……がんばって、ね?」


 透子ちゃんがそんなことを言う。相変わらず無表情ではあるけれど、その瞳には私にしか分からないくらいの期待が込められていた。


「まかせて!」


 私はクラスの方へ走っていく。

 これが終わったら改めてみんなに透子ちゃんを紹介しよう。

 そしてみんなにも友達になってもらおう、そんなことを考えながら。


ノクターンverあります。

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