75話 清華院女子の文化祭_2
出し物のほとんどが展示ではあるけど、私達は話をしながらしっかり展示を見て回った。
内容が専門的なものは透子ちゃんに聞けば大抵のことは説明してくれるから、透子ちゃん実は頭良いんだ……と思ってしまったのは内緒。
私の言った小さなことでも教えてほしい、というのを意識してくれているのか、透子ちゃんは学校であった思い出もぽつぽつと話してくれるようになった。この教室ではこんな授業をやった、とか身体を動かすことはあんまり得意じゃないとか。
授業内容の説明は……やっぱり普通の数学とか英語とかじゃなくてよくわからなかったけど、透子ちゃんは記憶力が高いみたいで先生が小さなミスをしていたことまで覚えていた。
そんなことを話しながら教室を歩いて、一階の端でやっていたのは鉱石についての展示だった。
教室の中には展示を出した一年生がいたから展示内容について話しかけてみると、その子は話しかけられたのが嬉しかったのか喜んで説明してくれた。一年生ということもありまだ初々しさが抜けきってなくて、微笑ましいなぁと思いながらその話を聞く。
一通り説明してもらってから、私の後ろにいたのが透子ちゃんだということに気づいて動揺していたのは謎だけど……丁寧に説明してくれたことにお礼を言って教室を出た。
「どうしたの?」
歩いていると、透子ちゃんの視線が何か言いたそうだったから聞いてみる。
「奏、仲良くなるのが早すぎてびっくりした」
「そうかなぁ?」
私にとっては暇そうだったから話しかけただけで、別に仲良くとか意識してなかったけど。
「ちなみに、さっきの子は去年ノーベル物理学賞とった人の娘」
「ふーん、じゃああの子もいつか取れたらいいね。そうしたら話したことあるって自慢できるかも?」
そんなことをいうと、透子ちゃんは珍しくちゃんと笑った。
「……そうだね」
「ねー」
その理由については聞かないまま、私達は次の出し物へと向かった。
確かに出し物は展示が多いけれど、もちろんそれだけじゃない。
中には企業が開発した試作品とかの紹介もあったりして、実際に体験できる場所もあった。
その中で、私は校舎の地下で透子ちゃんの新しい側面を見ることになった。
ピー!
細い機械音と同時に、透子ちゃんが引き金を引く。
全く同じ間隔で、前に出した腕は一切微動だにしないまま人差し指だけが動く。
その度にピッ、ピッと得点が出て、機械のように10回繰り返した後、透子ちゃんは息を吐いた。
「お、おめでとうございます、満点です……」
地下に作られていたのはなんと射撃場、そこでは警察の新装備とかが展示していた。
レーザー銃での的当てチャレンジがあったから私がやってみると、10回中2回しか的に当たらなかった。その次に透子ちゃんにもやってもらうと、まさかこの結果だ。
「簡単。距離も近いし動かない」
「透子様のやっている競技とは少し異なりますから……こちらはこちらで違う難しさがあるはずですけど」
透子ちゃんの感想に、連れ添っていた3年生の先輩が答えてくれる。
「透子ちゃん何かやってたの?」
と私が質問すると、その出し物をしていた女の子は変な顔をしていた。
「透子様はクレー射撃の世界チャンピオンですよ。『射撃界の姫』と呼ばれています、ご存じないですか?」
「いや、知らなかったです……」
放浪姫という射撃界の姫といい、透子ちゃんは二つ名が多い。それとも私が知らないだけ?
「なんか景品ある?」
「透子様でしたら、どれをお持ちいただいても結構です」
「奏、防弾チョッキとかいる?」
「えー、いらない……重そうだし」
そんな話をしながら、さっきからその女の子からの『誰だコイツ』という視線が凄い。
隣を歩くのが普通の制服を着た私だからどうしても仕方ないとは思うけど……きっと他の人にもそう思われてるんだろうなぁ。
「私も荷物になるからいい」
「そうですか……皇后様に宜しくお伝えください」
「ん」
結局なにも貰わずに射撃場を出る。ちょっともったいない気もするけど、家にあっても仕方がない物の方が多かった。
その後は小腹が空いたから、少し早めのお昼にする。
一度校舎の外に出て、よく見るチェーン店の名前のお店に入る。文化祭だと言うのにそのメニューは実際のお店と変わっていなかった。
「ねぇ、これ値段が書いてないけど」
「飲食店は、大体無料」
「……へぇー」
ならもうちょっと冒険してみてもよかったかな、と思ったのは内緒。
けどまだまだ歩くし、あんまりお腹いっぱいにしてもな。と私はあんまり重くなさそうな一番人気のパスタを頼んだ。透子ちゃんはそのハーフ。
客があんまりいないせいか、パスタはすぐに配膳される。
「透子ちゃんは食べないね」
「お腹空かない」
「もうちょっと食べた方がいいと思うけど」
というと透子ちゃんはこっちをじっと見る。
「……姉みたいなこと言う」
「いや、透子ちゃん見てたら誰だってそう言うよ。そう言えば透子ちゃんのお姉さんってどんな人?」
「優しい、仲良い」
透子ちゃんのその言葉は私にとってちょっと意外だった。私が前の世界で知っている友達の姉妹とかは、あんまり話さない姉妹の方が多かったというのもあるけど。
「……皇家の制度、知ってる?」
「うん、女の子は男の子が生まれるまでか3人子供産むんでしょ? もし男の子を産んだら、その母親が次の皇后になるんだっけ」
それは透子ちゃんと知り合った当初に調べたことだった。
例えば透子ちゃんみたいに長女、次女、三女がいて、透子ちゃんが男子を産めばがそのまま次の皇后になる。
細かいルールはいろいろあるけれど、驚いたのは皇后に選ばれなかった姉妹は皇家から外れるということだ。
なぜならそうしないと皇家が芋づる式に増えてしまうから。男性が生まれない限り3人は産むことになるから、3姉妹から3姉妹が生まれると、次は9人、27人とあっという間に皇家が増える。だから皇后になる以外の姉妹は一般人になる。
「よく知ってる」
「透子ちゃんと知り合ってから勉強しましたから」
でも勉強したからこそ、この学校で透子ちゃんに話しかける人がいないのもなんとなく理解ができた。
その理由は、透子ちゃんはそのうち一般人になると思われているから。
というのも男女比1:32のこの世界で、なぜか皇族に男子が生まれた実績は極端に低い。現状だって3世代、つまり27人の子供が生まれて1人も男の子がいなかったりする。
透子ちゃんの姉妹も、長女はすでに3人女の子を産んでしまっている。次女は今2人目を妊娠中だけど、それも女の子だと分かっている。そうなると来年から透子ちゃんの番にはなるんだけど、世間的にはあの放浪姫には男の子は生まれないだろう、と全く期待されていないというわけ。
これは透子ちゃん自身の人気があんまりない……いや、コアなファンは多いんだけど、長女次女の方が真面目に公務をこなしていることが多いから、どうしてもそう見られてしまう。
透子ちゃんも頑張っているとは思うけど、急に消えたりするからね。
私はそんな今にも消えてしまいそうな透子ちゃんも儚くて好きなんだけど。
「奏は、私が皇族じゃなくなってもいいの?」
その質問に、透子ちゃんの瞳が僅かに揺れるのが分かった。
「……もしかして透子ちゃんが皇族だから私が付き合ってると思ってる?」
私の言葉に透子ちゃんからの反応は特になかった。けれど落ち着きなく、くるくるとフォークにパスタを巻きつけている。
そんなことを言われるなんて心外だなぁと思いながら、私は今更なことを教えてあげた。
「そもそも私、透子ちゃんと初めて会った時、透子ちゃんのこと知らなかったよ」
「そうなの?」
「覚えてない? 私最初透子ちゃんの名前も知らなかったじゃん」
「……そうかも?」
まぁきっと外の世界から来たから私が知らなかっただけで、実際透子ちゃんは結構有名だったんだと思う。思い返せば去年百合が原の文化祭を回ったときだって、周りの人は驚いていた気するし。
「だからそんな心配しなくていいよ。むしろもっと遊びたいくらい」
「そう」
巻きつけていたパスタをぱくりと口に入れる。私の言葉が伝わったのかは、やっぱりわかりづらい。
「透子ちゃんは皇族から離れたらどうするの?」
「……身分がなくなるってだけ、大抵は公務関連の会社で働く」
「ふーん、なんか皇族の身分無くなった方が私とは遊びやすそうだけど」
というと、透子ちゃんは持っていたフォークをピタリと止めた。
「どうしたの?」
「無くなって良いこと、考えたことなかった……」
「透子ちゃんは産まれた時からそうだからかもね」
私の答えに、透子ちゃんはなにかを考えているみたいだった。というか透子ちゃんってあんまり身分とか気にしない方だと思ってたんだけど。
なんか最初から身分あることが普通になっちゃうと、やっぱりそれ以外の人と考え方は違ってくるか。透子ちゃんももう少し普通の人と話せたらいいんだけどな。




