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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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70話 奏とエマ_4



 なんかいろいろな話が絡まっているけど、一度頭の中で整理してみる。

 エマは結局、私が変わったことをずっと心配していた。だけど私がなかなかその理由を明かさなくて、その間にエマ自身に調べる力がついてしまったから、自分で探ることにした。


 そしてそれを仕掛けたのは、きっと紅葉。


 紅葉はどうにかして私を自分の陣営に入れたがっていた。紅葉の本当の狙いは結局そこにあると思う。

 そのために必要な情報は、私が幸太郎君の枠に少しでも興味があるのか、という事。文化祭の時とかに一度断っているはずだけど、私と仲が良いエマを通して、もう一度本心を確認したかった。エマにお願いすることで、紅葉に対しての忠誠心を見定めることもできるから、一石二鳥だ。


 紅葉の計算高いところは、そのほとんどをエマに公開していること。そうすることで、あくまで紅葉が命令したわけじゃなく、エマ自身が行動を起こすかのように《《誘導している》》。

 エマが自分で行動したと思う事で、紅葉自身に被害は及ばない。成功しても失敗しても、損はない……はずだった。


 でも紅葉は一つだけ計算違いをしている。それは紅葉が口止めをしたように、『エマが私にその内容を話さない』という前提で成り立っていること。

 普通に考えれば、『男の子の枠』は何よりも優先されるから、エマが私に情報を漏らすことはないと考える。だけど私とエマの関係性はその『男の子の枠』より強かった。


 成功しても失敗しても、エマには私の秘密を暴いたという罪悪感が残ることを、紅葉が考えなかったはずがない。それは私が知らなければ、完璧な計画だったと思う。そう、私さえ知らなければ。


 エマにそんな罪をかぶせるなんて、私が許すはずないのにねぇ。


 その計画の全容がなんとなく見えて、胸の中に小さな熱が生まれる……これはいつか仕返しをしないとね。


 でも紅葉への仕返しは後で考えるとして、今は目の前のエマのことを考えよう。


 全ての罪を告白して、すっかりしぼんでしまったエマに顔を上げてもらう。


「エマ、話してくれてありがとう。きっと私がいつまでも話さなかったから、エマは私のために調べてくれたんでしょ?」

「そうだけど……」

「だからね、私も正直に話すよ。すごい突拍子のないことだけど、とりあえず最後まで聞いてくれる?」

「うん」


 全て話してくれたエマに対して、今更嘘をつくなんて考えはなかった。


 私はそれから、ちょっと長い話をする。


 男女比が1対1で、街中にも普通に男の子が歩いていた世界。そこで過ごしていた私が、いつの間にかこの世界に来て、戸惑いながらも高校生活を始めたこと。


「じゃあ記憶喪失じゃなくって、中学の頃の奏とは、完全に別人ってこと?」

「……そう、私の世界にもエマや菜月はいたけどね」


 それからぽつぽつと私の事をお話して(いろいろな女の子とえっちしていることまでは言わないけれど)、この世界でのエマと菜月にとても助けられたことも話した。

 そんな私の話を、エマは真剣に聞いてくれた。私が全部話し終わってふぅ、と息をつくと、エマは目を瞑ってしばらく考え込む。


「……話してるのが奏じゃなかったら、信じなかったと思う」


 それがエマが口にした答えだった。


「信じてくれるの? こんな訳のわからない話なのに」

「奏、こんなふざけたこと言うような人じゃないから……それにしても」


 エマは私のことをじっと見つめる、瞳の奥底まで探る様に。


「本当に中学生までの奏とは違うの?」

「と、私は思ってるんだけど……」

「私と初めて会った時のこと、覚えてる?」

「覚えてるよ。幼稚園の時にエマが河川敷で迷子になって、それをたまたま見つけたのが私でしょ? え、もしかしてこれも違う?」

「ううん、合ってる。その時なっちゃん紹介してもらって、3人で遊ぶようになったんだもんね」


 その記憶は幼稚園の時だというのに、よく覚えていた。


 私達が通っていた幼稚園は川が近くて、たまにその河川敷に遊びに行くことがあった。もちろん、落ちたりしないために川からほどほどの距離がある広場で遊んでいたのだけど、エマはその近くにある草が生い茂った藪の中に迷い込んでしまった。

 その声をたまたま聞きつけて、藪の中へ探しに行ったのが私で、大泣きしていたエマを見つけたのが初めての出会い。


「パラレルワールドってやつなのかなぁ?」

「どうして私がここに来たのかは、ぜんぜん分かってないんだよね……というか普通に話してるけど、エマは私で大丈夫なの?」


 それは、いろいろな意味を込めた『大丈夫』だった。

 私を奏と認めるのか、本当のことを知ってもエマと友達でいられるのか、女の子が好きな私でも大丈夫なのか。


「奏は、中学生の時の奏? とは別人だと思ってるみたいだけど……私から見れば、奏の、なんていうか、根っこの部分? はあんまり変わらないんだよねぇ。優しくて、頼りになって、なんでも出来ちゃう」

「でも、女の子が好きなんだよ?」

「逆に言えば変わったのはそこだけだよ。確かに初めの方は違和感あったけど、恋愛対象が変わってるのもしっかり見抜けなかったし……性格まで180度変わってたらちょっと考えるけど、別人だとは思えないかも。だって、奏がいた前の世界でも、私はいて、友達だったんでしょ?」


 コクリと頷く。


「だったら、今私の隣にいるのは奏で間違いないよ」


 エマのその言葉を聞いて、腑に落ちたことがある。


 私は、もともとこの世界にいた私を明確に区別をしていた。私にとって恋愛嗜好が違うのはあまりに分かりやすい違いで、この狂った世界に来たことも相まって全く別人と思いこんでいた。


 だけどこの世界での記憶が続いているエマは、前の私とあんまり変わらないと言う。


 きっとその違いは、私は変わった部分ばっかり見ていたけど、エマは変わらない部分を見ていたこと。エマの言う通り、少し違ったとしてもエマや菜月と過ごした日々はそこにあって、その出会いや遊んだ記憶、受験で大変だったこととかも、今の私とエマの間で共有できる記憶。


 それがあるから、エマは私を私と信じてくれた。

 この世界にいるエマはそれこそ性格は変わっていたけれど、考え方や話し方、私に向ける笑顔とかも前の世界と変わらなくて、私がすぐにエマと信じたのと同じように。


「あれ、もしかして泣いてる?」


 そう言われて、頬に涙が伝っていることに気づいた。


「あれ、なんか……止まらないかも」

「わ、奏が泣くの久しぶりに見た……それだけ不安だったんだねぇ」

「そりゃ、ね」

「不安がることないよ。私はずっと奏の味方だから。それに、少なくともこの1年半は、ずっと一緒に過ごしてきたでしょ?」

「……うん、うん。そうだね」


 私の中の秘密を、初めてちゃんと話して。


 こんなに自然に受け入れてくれるなんて想像もしてなかった。


 ぽすん、と頭をエマの方へ寄せると、エマはそのまま抱きしめてくれた。大きな胸に埋まってしまうと、なんだかミルクのような甘い匂いがして、ますます涙があふれてくる。


 私、こんなに涙もろかったっけ。


 そんなことを思いながら、私は涙が収まるまで、エマに抱きしめられていた。




 消灯時間ぎりぎりになって、私達は急いで部屋に戻る。私の眼はきっと赤くなってるけど、先生の点呼に間に合わなきゃみんな怒られてしまうから、心配かけちゃうとしても戻るしかない。


「そういえば、奏って私のことも好きだったりするの? もしかしてそれで胸も気にしてた?」


 そんな急いでいる時に、エマは爆弾のような質問を投げかけてきた。


「え、えぇと……エマのことは好きだけど、もちろん親友として……ね? 胸は……それだけ大きいんだから気にもなるでしょ」

「んー、まぁそうだよねぇ。前になっちゃんにも触られたことあるし」

「ええぇ! そうなの!?」

「っていうかなっちゃんよく触ってくるよ。奏はないの?」

「ない……」


 私もほどほどの大きさではあるけど、エマという上位の胸がいるから言われないんだろうか。菜月のお願いならいつでも触らせてあげるのに……その代わり私も触らせてもらうけど。


「女の子同士ならたまにあると思うけど……私も奏の胸、気になるときあるし」

「え、ま、また触る?」

「なんか言い方じっとりしてなーい……?」

「してないしてない!」


 私が慌てて言うと、エマはおかしそうにしていた。


「でもそれならちょうどいいやぁ。そのうち奏に頼みたいことあるから、相談させて?」

「そんな許可なんていらないよ、いつでも言って。私達親友でしょ?」

「うん、そうだね。ありがとぉ」


 部屋に戻る道を急ぎながら、エマは昔と変わらない笑顔でそう言った。




「か、奏さん!? どうしたの? 大丈夫!?」


 点呼の時間ギリギリに部屋に戻ると、いの一番に詩帆ちゃんが私の様子に気づいた。


「大丈夫大丈夫、もう解決したから気にしないで」

「で、でも……」


 おろおろとしているけれど、一緒に帰ってきたエマには理由を聞き辛いみたいで視線をさまよわせていた。


「仲直りした?」


 と菜月がシンプルに言ってくれる。


「うん、ばっちり。ありがとね」

「ならよかった。ほらこう言ってるんだから、詩帆も落ち着きなー」

「え、え、喧嘩してたの? 奏さんと恵麻さんが……?」

「喧嘩とはちょっと違うけどねぇ。大丈夫、もう元通りだから」


 詩帆ちゃんはそれでも聞きたそうにしていたけど、エマ本人にそう言われてコクリと頷いた。


 先生の点呼があった後は、もう消灯時間。修学旅行も二日目の夜で、各々疲れがあるのかすぐに寝入ってしまった。

 私もエマに自分のことを話せた安心感で、すぐに眠ってしまいそうではあったけど、うとうととしているそんな時に、隣の布団から誰かが入ってきた。


「……エマ?」


 それに気づいて、布団を頭までかぶって囁くと「うん」と小さな声が聞こえる。


「そう言えば聞きたいことあって……さっきの話ってなっちゃんにはしてるの?」


 それは話の続きだった。布団の中とはいえ、他の人に聞こえないように微かな声で私も答える。


「いや、してない」

「そうなんだぁ……内緒にしておいた方がいいんだよね?」

「うん、そのうち言おうとは思ってるんだけど……」

「なっちゃんも私と同じ考えだとは思うけど、わからないもんねぇ。わかった、秘密にしておく」

「ありがと……っていうより、エマ、ちょっと近い……」


 布団の中で秘密の話をすると、どうしても身体が近づいてしまう。エマの身体の柔らかいところが所々当たっているし、甘いエマの匂いがした。


「ふふ、なんかおかしい。そっかぁ、奏は私も意識してくれるんだぁ」

「……嫌じゃないの?」

「奏って私の中じゃ完璧超人って感じだったから、意外な一面で面白いかも」


 というと、エマはさらに距離を詰めてきた。心の中の私がわー! と騒いでしまう。

 最初から心の準備をしていれば私も強気に出れるけど、急に来られるとどうすればいいかわからなくて頭は真っ白。心臓の音がひたすら早いことだけしかわからない。


「ダ、ダメ。それ以上近づいたら好きになっちゃうから!」

「えー、私は奏のこと好きだけどなぁ」


 それはまるで小悪魔のような囁き……いいの? いやこれ修学旅行だし、みんないるし! でも据え膳食わぬは女の恥って言うよね!?

 私がすっかりキャパオーバーしてしまっているところに、エマは身体を離してしまう。


「冗談冗談、からかっちゃってゴメンねぇ。じゃあおやすみぃ」


 そう私に囁いて、エマは隣の布団に戻っていく。ぷはっ、と布団の中から顔を出すと空気が涼しく感じられた。


 うぅ、身体なんか火照っちゃった……寝れるかな……エマのいじわるー!

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