65話 オウルでのボランティア_3
広場といっても、実際出てみるとそこはそれほど大きくなかった。
それでもフリーマーケットのようななんでも屋さん、バルーンアートの大道芸人、小さなわたあめの屋台、あとは幼稚園組が作ってた折り紙の何か? を売っているお店があって、それなりに賑わっている。
広場は歩道にもつながっていて、道行く人たちがちょっと見ていこうと興味を示したところに、子供たちが突撃して中に招き入れていた。
「あー、引きこもり―!」
「ようやく来たー!」
「うっさい! 引きこもりって言うな!」
私達より先にその中へ入っていった環がそんなことを言われている。ここの施設じゃ一番年上ということもあって、それなりに慕われて? はいるみたい。
それを嬉しそうに見ていた羽山さんが近づいてくる。
「連れ出してくれてよかった。さすがかもめ様が連れてきてくれた友達ね。星羅もありがとう」
「……うん」
星羅が少しぶっきらぼうに言うけれど、その反応が可笑しかったのか羽山さんは笑っていた。
「羽山さんはすぐにわかったんですか?」
「すぐには分からなかったわ。似てるなって思ってたけど気づいたのはついさっき。二人のお茶を用意していた時に、少し水をこぼしちゃって、近くにいた星羅が迷わず棚にしまってあるタオルを持ってきてくれたから」
「なんだ、羽山さん最初から分かってると思ってた」
「始めに顔を合わせた時から気になってはいたわよ? また来てくれて嬉しいわ、星羅」
「……私は、環が気になって来ただけなんで」
星羅は視線を合わさないように話すけど、羽山さんには気を許しているような雰囲気。ダウナーなギャルが恥ずかしそうにしているとなんだかそれだけで可愛く見える。
「センパイもなににやにやしてんの。羽山さんとちょっと話すことあるから、センパイはあっち行ってて」
「えー……」
ちょっと見すぎたのか、星羅にシッシッと追い出される。もうちょっと見たかったけど仕方ない、他のみんなの様子を見に行こ……。
一番初めに目についたのは、子供のお店を手伝っているくるみだった。小さい子が元気に呼び込みをしていて、その脇でくるみもやる気なさそうに声をかけている。
「あ、奏せんぱ~い! 助けてくださいよ~」
「なになに」
私に気づいて、くるみがへなへなと抱き着いてきた。
「くるみちゃん! サボっちゃダメだよ! お花が全部なくなるまでお仕事なんだから!」
その後ろからお店をしていた小さい子が追いかけてきた。手にはたくさんの折り紙で作ったチューリップが握られている。
「何してるの? 可愛いお花だねぇ」
「そうでしょ! 私が作ったんだよ! はい、おねーさんにあげるね!」
「ありがとー!」
貰ったお礼にと頭を撫でてあげると、満面の笑みで返事をしてくれる。
「奏先輩! この子やばいんですよ! 私を永遠働かせようとするんですっ!」
「くるみちゃんがじゃんけんに負けたからだよっ! 負けたら店員さんなのっ!」
「一回負けただけじゃーん!」
「負けは負け! 24時間ろうどーだよっ!」
なんだか恐ろしいことを言っている。社畜信念が高い子だった。
「やだよー、まだ働きたくないよー」
「くるみちゃんは働きに来たんじゃないの? だったら年長さんの私の言うことを聞くんだよ!」
「私高校生なんだけど!」
「でも1年生でしょ! 一番小さい数字だから!」
わーわー言いあう二人。なんだかヤダヤダ言っているくるみの方が幼く見えてしまう、でもそれが逆に効いたのか、そのくるみの様子にその子はちょっとだけへにゃりと眉を下げる。
「……じゃあ、くるみちゃんがおねーさんとじゃんけんして、勝ったら交代してもいいよ?」
「え~~~~~~」
くるみは私に抱き着きながら、上目遣いで見つめてくる。助けを求めるような、でも私が負けたら『24時間ろうどー』を押し付けてしまう……と迷っているようだった。
「やっぱり自分でやる……」
女の子はパッと笑顔になって、くるみの手を掴んだ。
「ようし、きりきりはたらくぞー!」
くるみは私の首から手を放して、とぼとぼとお店に帰っていた。うん、偉い。というかくるみもさすがに子供相手だと気に病むことがないみたいで、めんどくさそうにしながらもしっかりその子供の隣にいた。
くるみもきっと自分の中の目標に向かって頑張ってるんだろう。子供だとしても、人に慣れる練習にはたぶんなる。案外誘ってよかったのかも。
次に話しかけたのはわたあめの屋台をしていた詩帆ちゃん。さっきまでは本職の人の手伝いだったのに、今はなぜか詩帆ちゃんだけでせっせとわたあめを作っている。
「詩帆ちゃん一人なの?」
「あ、奏さん。えっと、なんかお腹痛くなっちゃたみたいで、代わりをしてるの。見てたらなんとなくコツも分かってきたから」
わたあめの列はそれなりに長くて、子供たちがまだー? と不機嫌そうな声を上げている。詩帆ちゃんはまんまるのわたあめを作り上げて一番先頭の子に手渡した。
「っていうか上手くない?」
「そ、そうかな、やってみたら結構簡単だよ。奏さんもしてみる?」
そう言われたからきらきらした目をしている女の子を目の前に、挑戦してみることにする。
真ん中の穴にザラメを少量入れて機械のスイッチを入れると、鈍い音と共に細く溶けた飴が雲のように出てくる。それをせっせと割りばしに巻き付けていくんだけど……。
「一回ぐるって飴をとって、後は手元でわりばしを巻いていけば、勝手に大きくなるから」
「わ、わ、なんか先っぽだけおっきくなっていくんだけど!」
「そ、そういう時は割りばしを上に向けるの、下に向けて、上に向けてを繰り替えして形を整えていくんだよ」
そうは言われても最初はあたふたしているうちにどんどん大きくなって、気づくと変な形の綿あめになってしまった。
「おねーさんヘタ~」
「ヘタヘター」
子供たちにもそう笑われる始末。初めてだし! と思っていると詩帆ちゃんまで笑っていた。
「わ、わたしも最初はそんな感じだったよ、何回かやればすぐに慣れると思うな。味は一緒だからこれは私がもらうね」
詩帆ちゃんは私の作った不格好なわたがしをぱくりと口に入れる。なんだか嬉しそうにしていた。変な形だったのにいいのかなぁ。
それを見ていた子供たちが騒ぎ始める。
「まんまるの作ってー!」
「わたし、レインボーがいいー」
「奏さん、もう一回やる?」
「……いや、詩帆ちゃんが作ってあげて」
不満そうな声を上げる子供たちを前に、もう一回チャレンジする勇気はなかった。
私がそういうと詩帆ちゃんはあっという間にまんまるのわたあめを作り上げる。それをもらった女の子は嬉しそうに駆けていった。
「詩帆ちゃんは人気者になりそうだね」
「うん、来てよかったかもっ……!」
目を輝かせてわたあめを作る詩帆ちゃんはなんだかイキイキとしていた。
邪魔にならないようにその場を離れると、遠くでかもめが手を振っていた。そういえば来てから施設長に会いに行くと言って、それから姿を見てなかったっけ。
「かもめ、用事はもう終わったの?」
「大方終わりました。他の皆さんも……楽しんでいただいているようで良かったです。奏さんにもさっそくお世話になったみたいで」
「環ちゃんのことなら、私っていうか星羅かな。 かもめは知らなかったの? 星羅がここにいたって」
そう聞くと、かもめは困ったように頬に手を当てた。
「知りませんでした。施設には今日のような特別な日しか来られませんので。施設に関しては職員の方に任せているのが現状ですね。こうした施設も3つあるので」
「3つも!?」
「それでも、施設は足りていないと聞きます。男性不足の歪みの解消を、各企業で担っているのが現状ですね」
そんなに足りてないとは思わなかった。
ここにいるみんなは楽しそうだけど、施設出の子たちは高校に行っても立場は強くないし、男の子との縁を持つなんて奇跡みたいなものだ。
そういう子供たちの将来は、いったいどんな風になるんだろう。
そう、なんだかいろいろと考えてしまう。
「…………」
「奏さん、心配してくれるのは嬉しいですけど、今日は気にしなくてもいいのです。せっかくのお祭りなんですから、できればたくさんの子と遊んであげてください」
「……そうだね、かもめも一緒に遊ぶ?」
「もちろん、ご一緒いたします」
「かもめさま遊ぶのー?」
「わたしと遊ぼっ!」
かもめのその言葉に、次々と女の子が集まってくる。あっという間に囲まれた私達は、女の子に手を取られ、広場へと連れだされるのだった。




