表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/68

63話 オウルでのボランティア_1

 待ち合わせ時間の5分前。

 駅前には私以外の全員が集まっているのが見えて、小走りで駆け寄る。


「おはよう! 遅れてごめん!」

「まだ約束の時間の前ですから、そんなに急がなくても大丈夫ですよ。おはようございます、奏さん」


 にこやかに笑いかけてくれるのは、さっぱりとした水色のワンピースを着こなしたお嬢様スタイルのかもめ。


「お、おはよう。奏さん」


 子供と遊ぶからか、半そでTシャツに長めのスカートと、余裕のある格好の詩帆ちゃん。


「おはようございまーす! 夏休みも会えてうれしいですっ。先輩っ!」


 落ち着いたカラーながら、フリルがガーリーな感じのくるみ。


「っす」


 パンクっぽい格好のギャルでくるみの友人、ちょっと面倒くさそうな表情の星羅。

 そして動きやすいように、と軽いアウトドアスタイルでまとめた私を含めた5人が、今日、児童福祉施設『オウル』でボランティアをするメンバーだった。


「それでは早速行きましょう。こちらで車を待たせてありますので」


 全員が集まって、かもめを先頭に一行はぞろぞろと移動する。


「オ、オウルって遠いの?」


 今日はくるみがいるからか、妙に気合の入っている詩帆ちゃんがかもめに声をかけている。やっぱりくるみにはちょっと対抗心を持っているみたいでわかりやすくくるみに視線を投げかけていた。


「車で20分ほどですね、住宅街の端にありますわ。夏祭りも地域に密着したイベントですので、来られるのは近隣の方々が多いですね」


 ふんふん、と詩帆ちゃんが聞いているその後ろで、くるみはこれからボランティアに行くことなんて気にしていないように、私にぴったりと距離を詰めて腕に抱き着いてくる。


「先輩! あっ、先輩の匂いがするぅ。会えなくて寂しかったです……」

「くるみヘンタイっぽいよー……ちょっと離れて」

「あぁ、先輩~」


 ぐいぐいと離そうとするけどそれでさえなんだか嬉しそうにしていて、やっぱり呼んだの間違いだったかなぁと思う。見た目は可愛いんだけどな……。


「星羅ー何とかしてよー」

「今日はセンパイがいるんで楽させてもらいま~す」


 そんな私達のさらに後ろから付いてくる星羅は、相変わらず面倒そうな態度を隠さないでそう言った。 綺麗に染めた髪に、耳に二つのピアスがあるのは変わらない。

 実は星羅が来たのは、私の中では結構意外だった。この集まりも誘いはしたけど実質自由参加って感じだし。

 私が誘ったからくるみも詩帆ちゃんも来てくれるだろうなーとは思ってたけど、星羅に関してはボランティアに誘って素直に来るような見た目じゃない。

 なにか理由があるのか、気まぐれで来たのか、それともくるみが心配だったとか……? それはないか。

 ともあれボランティアってことなら、人数は多ければ多い方がいい。できればあんまり話したことない星羅とも仲良くなれればいいな、そんなことを思いながら私達はかもめが用意してくれた車に乗り込んだ。




 車が停まったのは、二階建ての建物の前。

 学校とはちょっと違う雰囲気でオシャレなデザイン、福祉施設って言われないとなんの建物か分からないけど、入口には手作りっぽい『オウル夏祭り!』と書かれた旗が風に揺れていた。


「かもめ様だー!」

「かもめさまー!」


 私達が車から降りて『オウル』に入るやいなや、かもめに気づいた小さな女の子たちが集まってきた。

 その声は伝言のように響いて、施設の中からも続々と女の子が出てくる。5分もすれば20人ほどが私達の周りに集まって各々が大騒ぎ。大体幼稚園から小学生低学年くらいの子達で、夏祭りっていうこともあって浮足立っているっぽい。


「かもめ、凄い人気だねー」

「私もたまにしか来られませんから、聞いてもらいたいことがたくさんあるのでしょう。さて」


 ぱん! ぱん! とかもめが二つ手を叩くと、話し声はぴたりと止まる。その光景に、私含め他の3人もびっくりしていた。


「今日という良き日を、私も心待ちにしておりましたわ。皆様が一生懸命に準備を進めてくださった夏祭り、必ずや成功させましょうね。そのために、私も、そして本日お手伝いに来てくれた大切な友人たちも、一切の協力を惜しみませんわ。皆様で最高に楽しい時間を作りましょうね」

「「「はーい!!」」」

「では、引き続き準備をお願いいたします」


 かもめがそう締めると、集まっていた子供たちはぱらぱらと元の場所に戻っていく。


「統率が凄いなー」

「私ではなく、オウルでの教育があってこそですけどね。さて、中を案内いたします。職員にも紹介したいので」

「りょーかい」


 子供たちの後に続いて、かもめに案内されながら施設の中に入る。建屋の中は特に飾りつけとかはされてないみたいだった。


「ここでするんじゃないんだ?」

「会場は裏にある広場です。一階は学習のための教室や職員室。二階は居住スペースになっていますね。一階の一部の教室は、一般に貸し出しをしたりもしていますよ」


 なんだか建物自体がまだ新しいっぽくて、なんなら私達の高校よりも設備が整っている。福祉施設と聞いていたからもっと古びた感じを勝手に想像していた。

 『職員室』と室名札がかかっている部屋の前でかもめがノックをする。すると、一人の女性が出てきた。




「かもめ様、お迎えに出られず申し訳ありません」

「いえ、忙しいでしょう、問題ありませんわ。羽山さん、こちらは今日お手伝いしてくれる私のクラスメイトや後輩です。指示をお願いしてもいいかしら?」

「わかりました」


 羽山さんと呼ばれたのは、柔らかな物腰の30代くらいの女性だった。ふくよかな体格をしていて、目じりが下がっているから優しそう。


「よろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそお手伝いに来てくれてありがとう。この時期は大変だから、助かるわ」

「私はちょっと施設長とお話してきますので、先に失礼しますわね。困ったことがありましたら後程教えてください」


 かもめがいなくなって、私達は簡単に自己紹介をする。ちょうど施設の職員が4人だったから、職員と私達が一人ずつペアで作業することになった。


「え~、先輩と一緒がいいのにぃ」

「こんなところで我儘言わないの」


 ちょっとだけ不満そうな声を上げながら、くるみも仕方ないって感じでペアの人に付いていく。正直くるみを一人にさせるのはちょっと心配だけど、困ってそうならフォローしてあげないと。


「琴宮さんは、私とお願いね」

「はい、宜しくお願いします」


 私は羽山さんとペアになった。

 まずは夏祭りの場所、広場へと案内される。広場ではオウルの子供たちが小さなお店を作っているようだった。


「私はここのまとめ役だから、特別決まった作業はないの。こうして歩いて見回って、困ってそうな場所があればお手伝いしにいくのよ」

「ここにはどのくらいの人がいるんですか?」

「全部で26人。幼稚園生が12人、小学生が10人、中学生が4人。高校生は基本的に寮がある学校に入るから、ここに住めるのは中学生までね」


 その話を聞きながら、事前に調べていた情報を思い出す。


 この世界で捨てられる女の子は、圧倒的に生まれたばかりの子が多い。

 捨てられてしまった子は幼稚園に入る歳までは国の施設内で育てられるけど、その後は民間企業が運営している児童養護施設に振り分けられて、近くの幼稚園へ通うことになる。


 私の前の世界から比較すると、その数はたぶん比較にならないほど多くて、この世界の歪みを如実に表していた。いわゆる『赤ちゃんポスト』は全ての地域にあるし、それが使われたからっていちいち報道されることもない。私自身、ここまで捨てられる子供の数が多いと思っていなかった。

 廊下を進むと、外では小さな子たちが楽しそうに準備をしたり、追いかけっこをしている。その笑顔に曇りはないけれど、それを見ているとちゃんと育ててもらった私は……とても恵まれてるんだなって思ってしまう。


「なんかここにいると、自分って幸せだったんだなって思っちゃいますね」


 そんなまとまらない考えのまま口にすると、羽山さんも頷いてくれた。


「そうね、でも本当はそれが普通なのよ。捨てられることなんてなくて、お母さんに育ててもらうのが普通なの。私達は母親代わりをしているけど、それでも本当の母親にはなれないから。……生まれたのが女の子だからいらない、っていうのはやっぱりおかしいでしょ? せっかく自分がお腹を痛めてまで産んだ命なのに」

「はい、私もそう思います」


 そんな話をしながら、羽山さんと作業を手伝ったり、泣いている小さな女の子の話を聞いたりする。歩いているだけでもいろいろなトラブルが転がっていて、けれどオウルにいる子たちは、初めましての私にも愛想良く話しかけてくれる。


「ここにいる子は本当に良い子よ。ちょっと難しいのは、思春期を迎えてからなの。一般の学校に通っていれば、どうしても他の子との差が見えてきちゃうでしょ? それに気づいちゃうと、自分が『捨てられた子』っていうのを意識しちゃうから……。かもめ様から、琴宮さんは凄い頭がいいって聞いてるわ。それで、夏祭りとはちょっと関係ないけど、お願いしたいことがあって……」


 羽山さんはちょっと困ったように、その話をしてくれた。




 そこは施設の二階、一番端の部屋。


 コンコンとノックをしても、その中から返事はなかった。視線だけで羽山さんを見るも、開けちゃっていいよ。とジェスチャーを貰う。

 からからと扉を引くと、静かな部屋の中で、夏祭りの空気から逃げるように一人の女の子がペンを走らせていた。


 第一印象は、真面目な委員長って感じ。

 真っ黒の髪は肩まで切りそろえてあって大きめの眼鏡が特徴的、顔は可愛らしい感じだけど、ペンを走らせるその表情はどこか不機嫌そうに見える。身体は細くて本当にちゃんと食べてるの? ってくらいで、夏休みだというのにセーラー服を着ていた。


「……誰ですか?」


 開かれたドアに気づいてペンを止めた女の子は、私を見ずに羽山さんへ尋ねる。


「環ちゃん、この人は琴宮奏さん、かもめさんのクラスメイトよ。今日はお手伝いしに来てくれたんだけど、環ちゃんの志望校って百合ヶ原だったわよね? 琴宮さんは百合ヶ原の2年生だから、なにかアドバイスしてくれるかもって……」

「いらない」


 少しの隙間もない、拒絶の言葉。全てを突っぱねるその態度を見ながら、だけど、あえて私は環ちゃんに近づいた。


「……ここ、違うね」


 ノートに書いてある数式を見て、指を置く。


「……知ってたし」

「じゃあ、ここから計算してみてくれる?」


 環ちゃんは私を一瞬睨んでから、間違っているところを消してもう一度計算する。だけど途中でその手が止まった。

 その後もペン先がゆらゆらと動くも、なかなか計算は進まない。


「こっち側の数字を持ってくるの」


 というと、環ちゃんはひらめいたようですぐにさらさらと数式を書き直す。ノートに連なるちょっと丸っこい数字は、今時の子って感じがした。


「じゃあ、次はこっち。ここも違うから……」


 環ちゃんは小さく舌打ちしながらも、私が指さした計算を直していく。扉のところで不安そうに見ていた羽山さんに、私は気づかれないように指でマルを作った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ