59話 しーーーーーーー!
「今年も来たぞー!」
「来たぞー!」
菜月の声のすぐ後に、莉々ちゃんの声が砂浜に響く。
待望の夏休みに入ってすぐ、5人の予定が合う最初の日、私達は去年と同じく海に来ていた。
去年は3人で来たけど、今回は加えて詩帆ちゃんと莉々ちゃんも一緒。
私はもちろん、莉々ちゃんは特に楽しみだったようでずっとテンションが高い。菜月と一緒で泳ぐのが好きみたいで、二人で競争しようと電車の中ではしゃいでいた。
詩帆ちゃんもきっと楽しみにしてくれていたとは思うんだけど……。
「詩帆ちゃん大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
なぜかちょっと緊張気味。
「去年は海とか来なかったの?」
「莉々とプール行ったくらい、かなぁ? 海はちょっと怖くて……」
「何が怖いの?」
「ひ、人が……」
丁度通りがかった日焼けした金髪ビキニの人に、詩帆ちゃんがビクリと反応して私の後ろに隠れている。
そういえば少し前まで詩帆ちゃんってカースト下位だったっけ、とそんなことをふと思い出す。
詩帆ちゃんと個人的に会う時はほとんど家だから、こういうアウトドアなイベントには慣れていないのかもしれない。
「みんないるから大丈夫じゃない? すぐに気にならなくなるよ」
「そ、そうかな……」
詩帆ちゃんは不安げに私の服の袖を掴んでいる。私も去年来た時は綺麗な人が多くて目移りしたけど、遊んでいるうちに気にならなくなったし――ってこれはちょっと違うか。
「二人ともー? 早く行こうよぉ」
「ほら、エマも呼んでるし行こ?」
「う、うん」
私がその手を取ると、詩帆ちゃんもぎゅっと握り返してくれる。それだけでその不安げな表情も少しだけマシになったような気がした。
詩帆ちゃんの手を引いて、私達はまずロッカー室へと向かう。
ハイシーズンということもあって、さすがに5人分まとまったロッカーは空いていなかった。
先にロッカーを確保した菜月と莉々ちゃんがさっさと着替えていて、私とエマと詩帆ちゃんで近くのロッカーを確保する。
「あれ? 奏また水着買ったんだぁ」
去年と同じ水着を取り出していたエマに、そんなことを言われる。
「胸入んなくなっちゃって」
「んー、まぁ確かにおっきくなった? 成長期だしねぇ」
「っていうエマの方がおっきいでしょ」
「私はもうこれ以上いらないかなぁ」
エマは可愛いブラを外すと、その大きな胸を恥ずかし気もなく出していた。普通に大きー……いやあんまり見ちゃダメだ、気になりすぎちゃう……。
目線を反らすために、反対側にいた詩帆ちゃんの様子を見ると、なぜだか顔を真っ赤にしている。まだ服も中途半端にしか脱いでないし……もしかして脱ぎづらそう?
「エマ、先に行っててくれる? あの二人もういないから、どっか行って見つけられなかったら困るし」
「……うん、おっけぇ。ゆっくり来ていいからね」
水着に着替えたエマは、少しだけ詩帆ちゃんの様子を気にしてなんとなく状況を把握してくれたらしい。先にロッカー室を出ていった。
「ご、ごめんなさい。奏さん」
「見られてると恥ずかしい?」
「最近、ちょっと太ってきちゃったから」
直視しないように話しかけていたけど、そんな声に詩帆ちゃんを盗み見る。
詩帆ちゃんの水着は体形を隠すようなワンピースタイプ。でもその身体のラインは言うほどお肉が付いているようには見えなかった。
全然そんなことないと思うけど……本人がそう言うなら否定するのは違うよね。
「……もしかして夏休み入ってからお菓子作ってるの?」
「う、うん。お菓子作るの楽しいから、暇さえあれば作っちゃって。でも作ったら食べないといけないから、そうしてると少しずつ体重も増えちゃうの」
「それは仕方ないよね……詩帆ちゃんのお菓子美味しいし。そうだ、今度たくさん出来たら私も呼んでよ。食べるの手伝うから」
「も、もちろん! わ、私も、奏さんに食べてほしい!」
詩帆ちゃんのお菓子作りのきっかけは、たぶん私。詩帆ちゃんは言わないけどきっとそのほとんどは、私のために作ってくれているような気もしていた。
それなら、少しくらい私も協力してあげないと。
「うん、約束ね。二人きりでもいいし、夏休み中にみんなとお菓子パーティーとかしても楽しそうだよね。夏休み中に計画しよっか!」
そう言うと詩帆ちゃんはとっても嬉しそうに笑ってくれた。うんうん、海に来て悩むのはもったいないからね。
「じゃ、みんな待ってるから早く行こう?」
「そ、そうだった」
詩帆ちゃんは待たせていることに気づいたのか準備を再開する。緊張は少しだけなくなったみたいだった。
最初はぎこちなかった詩帆ちゃんも、私の言った通り遊んでいるうちに笑顔を見せるようになった。
菜月と莉々ちゃんは二人で競争しているし、エマはゆっくり浮き輪の上に浮かんでゆったりしている。詩帆ちゃんはあんまり泳ぐのが得意じゃないみたいで、足がつくところまでで水をかけ合ったり、綺麗な貝殻を拾ったり、エマと三人でなにか美味しそうなものが売っていないか散策したりと、夏の海を満喫する。
お昼は去年と同じ海の家で、各々好きなものを買って集まった。
「莉々ちゃん買いすぎ……じゃないか」
「このくらいヨユーだよ!」
焼きそば、チャーハン、からあげ棒とおよそ二人前くらいをひょいひょい胃に収めていく。
よく考えたら詩帆ちゃんが作ったお菓子ってほとんど莉々ちゃんが食べてたりするのかな。莉々ちゃんはその分動いてるから、すらりとした体型は変わっていないけど。
「そういえば、みんな夏休みの予定って決まってる? かもめからボランティアの誘い受けたんだけど」
「ボランティア? あぁ、前にかもめから聞いた気がする……奏行くんだ」
「いいアルバイト先見つけてもらったからね~」
「それでか、で、いつなの?」
菜月に聞かれてその日を教えると、菜月は首を振った。
「ちょうど試合の日だー。私と莉々は無理かな」
「あ、そっか。莉々もフットサル部入ったんだっけ?」
「うん! 菜月もいるし楽しいよっ!」
莉々ちゃんは持ち前の運動神経で、今まではいろいろな部活に突発で参加していたけど、菜月の誘いでフットサル部に入部したと前に聞いていた。
「というか夏休みは練習の方が多いんだよね……こんなはずじゃなかったのになぁ」
「なっちゃん、最初は緩い部活だと思って入ったんだよねぇ」
「いつのまにか今年の優勝候補とか言われてる」
「す、すごい……莉々も?」
「うん。莉々やっぱ凄いわ、即レギュラーだもん」
さっきも菜月と莉々ちゃんが競争して、莉々ちゃんが勝ってたっけ。菜月が負けるくらいなら、私もさすがに勝てなさそう。
「私もその日は紅葉さんの方で集まる予定があって……ゴメンねぇ」
「大丈夫。というかエマは紅葉がいるから、かもめの方手伝うには微妙な立ち位置だよね」
「私は気にしないんだけど、紅葉さんが拗ねちゃうから……でも幸太郎君の3枠目、やっぱりかもめになりそうだから、決まったらもうちょっと仲良く……ならなそうだねぇ」
エマの言う通り、紅葉とかもめはいつも煽り合っていて、あの関係が普通みたいなところあるからなぁ。あれはあれで仲が良いともいえるんだろうけど。
それにしても幸太郎君もやっと3枠目って感じ……それはあんまり興味ないけれど。
「じゃあ詩帆ちゃんは?」
「わ、私は、大丈夫だと思う」
「ほんと! よかった! あ、でもくるみと星羅もいるんだけど」
と言うと詩帆ちゃんはぴたりと止まった。
「奏、まだくるみと会ってるの? ってか星羅って誰?」
くるみの名前を聞いて菜月がため息をつく。
私の中ではくるみとの関係は普通の友達に戻ったつもりだけど、昔のくるみを知っている菜月とエマからの印象は悪いまま。ついでに詩帆ちゃんもあんまり良いとは思ってなさそうだった。
「星羅はくるみの友達、見た目はギャル」
「くるみちゃん、友達できたんだぁ。奏ばっかりかと思ってた」
「だから私の方にも来なくなったでしょ?」
「なんかそれはそれで、奏に対する気持ちはそんなものだったのかって感じだけど……」
そんなことをぽつりと言ったのは菜月だった。
「え~菜月嬉しいこと言ってくれるじゃん。うりうり~」
「あー、やっぱ今のなし! 恥ずかしいこと言った!」
私がすぐ隣の肩に寄りかかると、菜月はちょっと頬を染めていた。天邪鬼なんだから。
菜月はさっぱりしているようだけど情に厚い考え方をする。あんまりいじると怒っちゃうからほどほどにしておかないといけないけど。
「か、奏さん! わ、私。ボランティア行くから! 頑張るから!」
そんな菜月に影響されたのか、詩帆ちゃんはぎゅっと手を握ってそう宣言する。
「うん、詩帆ちゃんもありがとうね。かもめもいるから、みんなで頑張ろう」
これでボランティアは5人、これだけいれば人数も十分かな。夏休み中、みんなに会えると思えば悪くないイベント。
「そういえば、アルバイトってかもめのホテル?」
「そうだよー」
「ふぅん……」
最後にエマがそんなことを聞いてきたけど、アルバイトに関しては条件もあるしあんまり言いふらせない。そもそも会員制プールだし。
アルバイトも来週に迫っている。私にとって初めてのアルバイトだから、それも楽しみだった。
午後はまたみんなで遊ぶ。莉々ちゃんが持ってきたビーチボールをみんなでやったり、大きなボートを借りてぷかぷか浮かびながらおしゃべりしたり……菜月と莉々は時折全力で泳いで、私も緩く競争したりして笑い声が絶えない。
今日何度目かの競争を菜月と莉々ちゃんがして、菜月がぐったりしながら休憩していた私達のところに戻ってくる。
「はぁ、はぁ、なんかトレーニングしてるような気持ちになってきた……」
「菜月ー! もう一本ー!」
莉々ちゃんの体力は底なしで、それがハイペースだから菜月ですら付いていけてない。
「今日はちょっと早めにシャワーしよっか。この辺も見て回りたいし」
「そうしよー……莉々に付き合ってたら帰る元気なくなっちゃいそう」
というわけで私達は少し早めにシャワー室に向かう。
建物の中にあるシャワー室は相変わらず混んでいて、行列ができていたからその後ろに並ぶ。
そういえば去年は菜月と一緒にシャワー入ったんだっけ……あの時はまだこの世界にぜんぜん慣れていなかったのもあって、懐かしく思ってしまう。
菜月が先頭で、空いたところに入っていった。私は一番最後で、目の前には詩帆ちゃんが並んでいる。
「…………」
その後ろ姿を見てふと、いたずら心が私の中で生まれた。
列が進んでいって、一番端のシャワー室が空いて、詩帆ちゃんは入れ替わりでシャワー室に入る。そしてその後ろから、私も一緒に忍び込む。
「えっ!」
「しーーーーーーー! 静かに。二人で入った方が早いでしょ?」
と、一瞬驚いた声を出したけど、私がすぐにその口を手でふさぐ。詩帆ちゃんはびっくりしたまま、こくこくと頷いてくれた。
「じゃあ、脱いで? 私が洗ってあげるから」
「か、奏さん……みんなもいるのに……」
「大丈夫大丈夫、菜月とかのシャワー室は離れてるし」
隣はすりガラスになっていて見えないし、時間短縮のために二人で入る人たちだっている。だからなにもおかしくない、ね。
ボディタオルにたっぷりの泡を作って、詩帆ちゃんが脱ぐのを待つ。詩帆ちゃんは私に言われたら基本断れないから、恥ずかしそうにしながら水着を脱いだ。
恥ずかしいところを見られないように手で隠すけど、綺麗なお尻までは隠せない。
「背中からね」
うきうきしながら、泡を手に取って背中に塗っていく。もちろんボディタオルの役目は泡を作るだけで、洗うのは私の手。
「ひゃっ!」
くすぐったかったのか詩帆ちゃんからちょっと高い声が出て、すぐ自分の口を手で押さえる。
「洗ってるだけなのにー」
と言いながら、絶妙なフェザータッチで手を滑らせる。詩帆ちゃんはすっかり私に開発されてしまっているから、肌を撫でるだけでビクッ、ビクッと身体を震わせていた。
そんな詩帆ちゃんが我慢している姿がすっごく可愛くて、ついもっと我慢させたくなってしまう。
「奏、さん……声、我慢できない……」
「シャワーもあるし、少しくらいなら声出しても大丈夫だよ」
シャワーを出しっぱなしにすれば、詩帆ちゃんの気持ちよさそうな声は消えてしまう。
ゆっくり愛撫するように身体を洗ってあげて、背中が泡だらけになる頃には詩帆ちゃんの足はがくがくと震えていた。
「よし、じゃあ……」
前もやろっか、と言う前に詩帆ちゃんはくるりと自分で振り返る。
潤んだ瞳はすっかり出来上がっていて、その視線は期待したまま私を見つめていた。声を出すのは恥ずかしいのか、両手は口に当てたまま。でもそのせいで詩帆ちゃんの恥ずかしいところが全部見えてしまっている。
はっ、はっ、と激しい呼吸を繰り返したまま、私が洗ってくれるのを待つ詩帆ちゃんは、ただただ私に従順な女の子だった。
「……いい子」
その期待通り、私はまた泡をたっぷりと手に取って、そのしっとりと濡れた身体に触れた。
「遅かったねぇ」
「ごめんごめん。ロッカーちょっと混んでて」
私が詩帆ちゃんと楽しんで、急いで服を着て合流すると三人の準備はもう出来ていた。莉々ちゃんなんかアイスを食べている。
「ん? 詩帆ちょっと顔赤い?」
「だ、大丈夫! シャワー当たりすぎただけだからっ」
血色の良くなった詩帆ちゃんに菜月は気づいたみたいだけど、ぶんぶんと手を振って否定する詩帆ちゃんを疑うこともなかった。
「私もアイス食べたいなー」
「近くに人気のソフトクリーム屋さんあるから、そこにいこうかって話してたよぉ」
「おー! 行こー!」
「莉々ちゃんはまだ食べるんだね……」
そんなことを話しながらみんなで海を後にする。
「……楽しかったね」
その後についていく詩帆ちゃんに私がそっと囁くと、詩帆ちゃんは潤んだ眼をしながら、コクリと頷いてくれた。




