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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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58話 良い話と悪い話


「修学旅行の班決めをするから、メンバーと行き先が決まったら代表者はこの紙に書いて報告するように」


 夏休み前のとある日。気温が高くなって、エアコンが動き始めた教室で先生はそう言った。今日は幸太郎君が休みで、修学旅行は不参加だからいないうちに決めておこうってことらしい。


 クラス内に「一緒に行こー」とか「どこ行くー」とか声が飛び交う中、私の机の周りにはいつものメンバーが集まっていた。


「じゃあ私と菜月、エマと、詩帆ちゃんに莉々ちゃんで5人だね」


 先生からもらった紙に名前を書いていく。グループは4人から6人の間で決めることになってるから、人数も問題ない。


「エマはいいの? 紅葉のグループじゃなくて」

「幸太郎君も行けないし、かもめが代わりに入るみたいだから大丈夫だよぉ」

「そっかー……ってまた言い合ってる」


 教室の片隅ではいつも通り紅葉とかもめのキャットファイトが発生していた。もはや2年5組の名物になりつつあって、少しの言い合いなら誰も気にしていない。


「あとはどこに行くかだよねー」

「どこというか、何をしたいかじゃない? 夏はやっぱり海! 私は沖縄一択だけど」

「わ、私は京都奈良かな……神社とか、静かな場所がいいかも」

「いやいや、詩帆。北海道に決まってるよ! 美味しいスイーツいっぱいだよ!」

「そ、それでもいいかも?」


 修学旅行の行き先は3か所から選べる。もちろん学習がメインだからそれぞれのプログラムはあるけれど、北海道、京都と奈良、沖縄の3か所から選べるのは自由度が高い。


「奏は?」

「私は……北海道? 涼しそうだし」

「えー、奏も沖縄にしようよー! 泳ごうよー!」

「でも沖縄は運要素あるから……」


 菜月が首に抱き着いてぐらぐらと揺らすけれど、私の中では沖縄はあんまり候補になかった。


「だって雨降ったら終わりじゃん。毎年運要素が強いって聞くよ?」

「そうだけど~、奏が行けば絶対晴れるから~!」

「どういう理論なの?」


 修学旅行は三泊四日。自由時間は三日目しかなくて、そこで雨が降ればもうホテルにいるしかない。毎年確率は半々らしく、沖縄の評価は最高! か最悪! のどちらかしか聞かない。


「エマは?」

「私も北海道かなぁ、美味しいもの沢山食べたいし……海は夏休みに行こうよ、なっちゃん」

「え~仕方ないなぁ~。今年も行くつもりだったけどー」

「じゃあ、北海道でいい? 詩帆ちゃんも大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」


 莉々ちゃんが菜月の真似をして詩帆ちゃんの首に巻きついているけれど、特に気にすることなく詩帆ちゃんはこくこく頷いた。


「……よし、じゃあこれで先生に渡しておくね」

「やったー! たくさん食べようね!」

「お、お菓子作りの参考にもしたいし……いい小豆とかあるかな? 最近は和菓子も作ってみたいんだよね」

「詩帆、修学旅行で小豆買う人あんまいないと思うよ?」


 そんな話を聞きながら、先生に紙を渡しに行く。するとちょうど先に先生のチェックを受けていたかもめに声をかけられた。


「奏さん、放課後お時間ありますか?」

「放課後? 大丈夫だったと思うけど……」

「前に聞かれていたアルバイトの件でお話が。あとお願いもありまして……」

「わかった。教室でいい?」

「大丈夫です。すぐに終わると思いますので」


 じゃあ、後で。とかもめに手を振る。それを見ていた先生は、はぁとため息をついていた。


「アルバイトか……琴宮、私も夏休み中に学校でやることあるんだが、手伝わないか?」

「先生、それって時給出たりします?」

「昼と飲み物くらいは奢る」

「チェックお願いしまーす!」


 私がにっこり笑って紙を手渡すと、先生は引っかからなかったか、と微妙な顔をしてチェックをし始めた。




 放課後、各々部活に行ったり帰る準備をしたりする中、私はかもめに声をかける。


「かもめ、さっきの話だけど」

「奏さん。教室でと言いましたけど、ちょっと込み入ったお話もありまして……場所を変えてもよろしいでしょうか?」


 かもめがバッグの中に荷物をまとめながらそんなことを言った。

 込み入った話? なんだろ。


「良いけど、どこにする?」

「そんなに時間はかかりませんし、食堂とかでどうでしょう?」

「大丈夫」


 部活に行く菜月とかに手を振って、私とかもめは食堂に向かう。

 百合ヶ原高校の食堂は大きい。放課後も少しの時間なら営業していて、ちょっとしたデザートが並んでいたりする。購買も近くにあってお菓子を買って集まったり、勉強したりするのも定番だった。

 私はお弁当組だからあんまり縁がない。お母さんの仕事が忙しい時も私がお弁当を作ってしまうし、食堂のものを頼んだのも数えるほど。だからもう二年生だというのにつ、いつい物珍し気に見てしまう。

 周りに人があんまりいなさそうな席を取ると、かもめが「ちょっと待っててください」と購買で飲み物を買ってきてくれた。


「払うよ?」

「いえ、大丈夫です。一度やってみたかったんです。『私の奢りだ』ってヤツですね」


 かもめはなんだか楽しそうにしながら飲み物を渡してくれた。なんかのドラマかアニメのシーンなのかな?


「じゃあもらっちゃおうかな、ありがとう。それで込み入った話って?」


 ミルクティーにストローを挿しながら、かもめに聞く。


「良い話と、悪い話がありますの。どちらから聞きたいですか?」

「あっ、それはどこかで聞いたことある。って悪い話もあるの?」

「いえ、悪い話ってわけでは……すみません、これも言いたかっただけです」


 と、自分で言っておきながら照れていた。

 最初の印象はきっちりしたお嬢様って感じだったけど、クラスに入ってもう3か月くらい。かもめもクラスに慣れてきて、だんだんと素を見せ始めたのかもしれない。


「じゃあ良い話から聞かせてもらおうかな?」

「はい。アルバイトのことですが、一人分だけ空きが出ましたので奏さんを推薦しています。日程はこの日と……この日ですね」


 スマホのカレンダーで見ると、ちょうど夏休みの中間くらいの日だった。


「場所は以前にもお伝えしましたが、高屋敷系列のホテルに併設されている、プール横の飲食スペースです。時間帯は詳しくは契約書に書かれていますが、だいたい10時から20時の間ですね、もちろん休憩もあります。時給は概算ですがこのくらいになるかと」


 提示された時給は、普通の学生がバイトする相場の二倍ほど。


「こんなに?」


 と私が驚くと、かもめはさっと近くに人がいないことを確認して、少し小さな声で話す。


「言いづらいんですけど、本来はいろいろと条件がありまして……普通には応募できない職場なんです。もちろん、奏さんはクリアしていますので問題ないかと」

「普通にって……危ないことはないよね?」

「決してそんなことは。ええと、信じてもらうために話しますが一応会員制なので、雰囲気を壊さないために従業員にも身長や容姿の基準がありまして……」


 そういうこと、かもめが意味深に言うからびっくりしちゃった。


「わかった、教えてくれてありがとう」


 私の反応に、かもめはほっと息をつく。


「こちらこそ疑わせるようなことを言ってすみません。なので時給もこの金額です。あんまり広めたくはないので、他の方には内緒、ですよ?」


 と、かもめは唇に手をあててウインクをしていた。

 ちょっと茶目っ気のあるその仕草は、お嬢様チックなかもめがすると余計に可愛さが際立つ。私も素直に可愛いなぁと思いながらも、かもめはたぶん紅葉狙いだから余計なことは言わないようにしておく。


「詳細は追って連絡しますね。それで、悪い話なのですが……」

「やっぱり悪い話なんだ」


 私が茶化す様にそう言うと、かもめも少し可笑しそうにしながら続きを話す。


「奏さんの夏休みが一日潰れる、という意味では悪い話かもしれませんね。実は以前話したかと思いますが、高屋敷グループでは児童福祉施設を運営していまして」


 それは以前、ボランティアに来ませんか? と誘われた時の話だった。

 児童福祉施設は親が捨ててしまった子や身寄りのない人達を集めて、共同生活をする施設で、この世界では割とその数が多かったりする。

 理由は妊娠の手軽さと、男の子を望む人が多いから。妊娠するための種は選ばなければ簡単に手に入るし、出産費用も安い。でも実際に生まれるのはほとんど女の子で、男の子を夢見ている人はそれに絶望してしまい、生まれたばかりの子を捨ててしまったりする。もちろん、それが発覚した人はもう二度と種を申請できないペナルティはあるけれど、それでも捨てられる子はいる。

 幸太郎君とかの男の子は、お仕事の一つとしてそういう施設を回ったりもするらしい。


「毎年、施設で小さな夏祭りを行うのですが、それに人が足りなさそうなんです。交換条件というわけではありませんが、よければお手伝いをお願いしたく」

「うん、それくらいなら全然良いよ」


 別に悪い話でもなんでもない。私が即答すると、かもめは丁寧にお礼を言ってくれた。


「当日は私も参加しますけど、こちらは人手があればあるほどいいので、お知り合いを呼んでいただけると嬉しいです」

「おっけ、知り合いかぁ……」


 と言われて、呼べそうな人を思い浮かべる。菜月達のグループチャットにでも流しておこうかな……でも施設だったら、あの子を呼んでもいいかも。


「せ~ん~~ぱ~~~い!」

「うわぁ!」


 丁度思い浮かべた人の声がしたと思ったら、ぎゅっと後ろから抱きつかれる。成長途中の胸を頭に押し付けてきたのは私の後輩、くるみだった。


「こんなところで会えるなんて、やっぱり運命ですね……今日は先輩に会えるような気がしてたんですよ!」


 いつものように愛がたっぷり詰まったその声をスルーして、私はくるみを見上げる。


「ちょうど良かった、くるみ。話があって」

「話? もしかして告白ですか? もー、私の気持ちなんて分かってるくせに~……む、誰ですか、この女は。私というものがいるのに浮気ですか」

「くるみ、初対面の人に失礼でしょ。怒るよ」

「あ、先輩……ご、ごめんなさい……」


 私の雇用主になんて失礼な。と思ってちょっと強めに言うと、さっきまでのテンションが急に萎んでしまった。相変わらず情緒不安定だな……。

 正面に座るかもめはそんな私達を見てなぜかにこにこしていたから、特に気にしてないようだけど。……あ、これ私達を百合として見てるやつか。私もなんとなく百合を見守る気持ちはわかるけど、実際に自分をそう見られるのは初めてかもしれない。

 そんなことを考えていると、後ろからもう一つの声が聞こえてくる。


「おーい、くるみ! 買った飲み物放置して急に走るなって……あ、奏センパイがいるからか」


 追いかけてきたのはくるみの友達……確か星羅って言ったっけ。両手にカップの飲み物を持っている。


「ちょうどいいや。二人とも夏休みなにか予定ある?」


 私は二人に声をかけて、かもめに紹介するところから始めることにした。


この作品ですが、8月3日更新の72話でしばらく休止となります。

理由については活動報告まで。

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