55話 奏の何でもない一日
「行ってきまーす」
ゴールデンウィークから一週間経った日曜日、私はちょっとした用事で街へ出ることにした。
桜はもうとっくに散っているけど、気温はまだぎりぎり春と言っていいくらい。最後かな、と思いながら春らしい色のロングスカートで家を出る。
街までは電車でそんなにかからずに行ける。休日特有の人が多い電車に乗って目的の駅に着くと、駅前は相変わらず女性ばかりで賑わっていた。この光景にも慣れたもので、特に気にすることなく駅直結のファッションモールへと足を進める。もう前の世界の男女で賑わう駅前よりも、今の駅前の方が自然に見えてきてしまっていた。
今日買うものはいわゆる勝負服。というのも去年の誕生日に柚ちゃんから貰ったチケット、ファッションショーが6月にあるからだ。
そのファッションショーは私もよく読む雑誌の出版社が主催をしていて、ファッションショーの中ではまぁまぁ大きな規模。チケットも普通に売り出されるけど、割と早めに売り切れになるような、注目度が高いショーだった。
柚ちゃんはその雑誌の所属モデルではないけれど、今回は男装ゲストとして出るらしい。
街中に貼っているポスターに、男装をした柚ちゃんがウインクしている姿が大きく写し出されているのをよく見かける。めちゃくちゃカッコよく撮影されていて、そのポスターを女の子が写真を撮っているのを見かけたりした。
そんなショーに行くのだから、私だって新しい服で行きたい。持っている服の胸元が少しきつくなったのを理由に、お母さんからお小遣いをもらって服を探しに来たというわけ。
いくつかの店舗を巡って服を見ていく。話しかけてくれる店員さんとおしゃべりして、最近の傾向とかも教えてもらって、試着して、次のお店を見に行って。
そうしているうちにあっと言う間に時間は過ぎて、ちょっと歩き疲れたから近くのカフェで一休みすることにした。
期間限定のチャイティーとチーズケーキを注文すると、可愛い制服の店員さんが笑顔でトレイを渡してくれた。
ここのカフェの制服、本当に可愛いんだよなー。私も着てみたいし店員さんを半分くらいはだけさせてみたい……。
ちょっとだけよこしまな視線を向けながら、端っこの席に座って一息。
試着させてもらった服は、対応してくれた店員さんに写真を撮ってもらっているから、それを見ながら最終的にどれを買うか決める。
んーこれはちょっとハデすぎるし……こっちはちょっと子供っぽいかな? あ、これは意外といいかも。
と最終的に2つに絞って、そこからなかなか決められなかったからグループチャットに流してみる。
kanakana:どっちがいい?(画像1,2)
チーズケーキを食べながらしばらく待っていると、ピコン、とスマホが振動する。
shiho:どっちも素敵だけど、最初の方が好き。
natu:2番目の方が落ち着いてて良さそう、ってかどこに着てくの?
kanakana:ファッションショー、6月にドームであるやつ。
natu:あー奏あれに行くんだ。それなら1番目くらい派手でも悪くないかも。
ririririri:1番目の方が美味しそう!ケーキみたい!
shiho:莉々、それ色合いだけじゃ……。
kanakana:ちなみに今食べてるチーズケーキ(画像1)
ririririri:いいなーーーーー!!!
ema_happy:それあそこでしょ、駅ビルの地下一階にあるカフェ。美味しいよねー。あ、私は2番目の方がいいかなーって思うよ。
ririririri:詩帆! ケーキ食べに行こう!
shiho:宿題全部終わったらね。っていうか隣にいるんだから普通に話してよ。
詩帆ちゃんと莉々ちゃんは一緒に勉強しているらしい。莉々ちゃんは毎回成績がヤバイし、詩帆ちゃんも平均前後だから、夏休み前のテストに向けて勉強してるんだろう。
とりあえず、聞いてみた感じ1番目の方が評判よさそうかな?
確かに赤と白を基調としたコーディネートだけど、どこがケーキっぽいかは莉々ちゃんの感性でよくわからない。
kanakana:1番目にする、みんなありがとー。
と返信するとポンポンとスタンプで反応がある。こんな雑談は日常的にあって、比較的みんな返信が早いから助かる。
服も決まったし、もう少しカフェでゆっくりすることにした。チャイティーが思いのほか美味しくて、なんだか気持ちも落ち着いてくる。
お店の中は休日なこともあってたくさんの人が出入りしている。さっき対応してくれた店員さんもせかせかと忙しそうにしていた。
それをぼーっと見ながら、思い出すのは一週間前、白ちゃんとの旅行のこと。
あの夜、私はなんとか白ちゃんと一夜を共にすることが出来た。
お酒を飲んだ白ちゃんはふらふらになりながらも、私の攻めに応じてくれて、白ちゃんも恐る恐る私を気持ちよくしてくれた。
私がこの世界に来て考えていた本来の目的、いろんな人とえっちなことをするぞ! というのには、それでも十分クリアと言えるんだけど。あの旅行の中で自分の気持ちに気づいてしまって、白ちゃんに対してはもっと女の子として見てほしいと思った。
前の世界とは違う白ちゃんではあるけれど、その本質は変わっていない。すっかり大人になった白ちゃんは、変わらず私の笑いかけてくれる。
もしかして私って包容力のある女の人が好きなのかな? えっちするなら断然強気な女の子を攻め落とすとのかが好きなんだけど……。
でも欲張って告白したりしちゃうと、また白ちゃんとの距離が遠くなるかもしれないし……今回は関係が少し改善できたことで良しとしよう。
それより、今回のことで分かった重要なことは、私に近い人ほど、攻略するのは難しいということ。
詩帆ちゃんも柚ちゃんもくるみも、攻略するのはそんなに難しくなかった。初めから私に好意や憧れがあったのもあるけど、一番は私の方が優位な立場にいたからだと思う。
カーストもそうだけど、やっぱりお互いの立場は重要。それだけこっちが主導権を握ることができるから、計画通りに進めやすい。詩帆ちゃんとか柚ちゃんは特にそうだった。
それと比較して、白ちゃんの場合は最初から私のイメージが固定されていた。歳の差とか経験の差もあるけれど、白ちゃんの中の私の立場が妹みたいな存在として固まってしまっていたから、それを崩すのが難しかった。最終的にはなんとかえっちまで進んでくれたからよかったものの、場合によってはどこかで失敗して、もう会えなくなる確率だって全然あったと思う。
ともかく、反省する点は沢山ある。そして今回のことでエマと菜月の攻略も、余計に分からなくなった。
エマも菜月も、立場としては私と同じところにいて、そもそも私と身体を重ねる関係になるとは思ってもいないと思う。もしめちゃくちゃうまくいったとしても、その後もう一人に手を出したと知られたらどうなるか。
予想がつかない。エマと菜月とはずっと友達同士でいたい。
リスクだけを考えるなら、二人に手を出すのは止めた方が良いんだろうけど……でも他の人に親友の初めてを男の子に取られるのは同じくらい嫌。
だから私は二人とは友達のまま、その初めてを私のものにする。
「自分で考えてみても我儘だ……」
あまりにも自分勝手な考えに、思わず苦笑してしまう。
それでも私は、この狂った世界に来て、自分の望みを出来る限り叶えることにした。
何かを犠牲にしなければ手に入らないなんてよく言うけど、私から言わせればそれはただ諦めているだけだと思う。どっちも欲しいものなら、手に入れられるように計画を練って、それを可能にできるくらい自分のスペックを上げていけばいい。
だから私は諦めない。きっとエマも菜月も、そしていつか白ちゃんだって落としてみせる。
そんなことを考えているうちになんだか燃えてきた。やることはたくさんある。二年生は修学旅行もあるし、体育祭に文化祭だってある。そこで何かきっかけをつかまないと。
ちょうどカップの中も空になって、私は席を立つ。
とりあえず今は目の前のこと。さっき試着した服を買って、柚ちゃんのファッションショー見に行って……そもそも柚ちゃんって会えるのかな? 普通に考えたら客席で見るだけのような気がするけど。
できればまたえっちなこと出来ればいいけど……さすがに今回は見るだけだし難しいかな。
でも楽しみ。柚ちゃんに会うのは久しぶりだし、少しくらいは話せればいいな。




