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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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53話 水平線が混じる場所_2


 展望台での陰った気持ちは、その旅館に到着するとどこかへ行ってしまった。


「ようこそいらっしゃいました、お荷物お持ちいたしますね」


 出迎えてくれたのは綺麗な着物の女将さん。玄関は立派な掛け軸やら大きな生け花やらが飾ってあって、昔お母さんとの旅行で泊まったホテルとはそもそもレベルが違った。

 紅園系列のホテルにも行ったことあるし、そこも豪華だなーって印象だったけど、ここはそれ以上。温泉旅館だから落ち着いた雰囲気ではあるけれど、小物や照明からも上品な格式の高さが、目に映るもの全てから感じられる気がした。


 まさかこんな場所に泊まるとは思ってもみなくて、私は玄関でポカンと立ち尽くしてしまった。その間に白ちゃんは受付を済ませたようで、女将さんに案内されてまずラウンジへ向かう。


 ラウンジも広くて、座り心地の良さそうな椅子と小さなテーブルが並んでいた。窓際では品の良いおばあ様たちが談笑しているけれど、そもそもラウンジの席自体がそんなに多くないから余計に広く見える。大きな一枚ガラスの向こう側には海が見えていて、静かに波を寄せては引くを繰り返している。


 私達が椅子に座ると、テーブルの上には練りきりとお抹茶が用意されていた。お抹茶の上には金粉まで浮いている……それを見て「美味しそうだねぇ、かなちゃんはお抹茶大丈夫?」とか言ってる白ちゃんに、私は詰め寄った。


「ここ、いくらしたの?」

「……お金のことはいいんじゃないかな? ほら、福利厚生でちょっと安いし」

「いくら何でもだよ! ……お母さんに電話してもいい?」

「ごめん、それだけは止めて。でもね、本当にこれくらいしないと、私がかなちゃんにしたことと比べたら足りないと思ってるから」


 白ちゃんの言っている意味は分かる。だけど、それを自分が仕組んだことと知っている私には、素直にうんとは言えない。


「ね、せっかく来たんだからゆっくりしよ。かなちゃんがしたいことあったらなんでも言ってくれていいからね。大企業勤めを舐めてもらっちゃ困るよ~……私も来たかったし、一人じゃ寂しかったから、かなちゃんがいて助かった」


 でも白ちゃんは本当にそう思っているみたいで、今更本当のことを言えるはずのない私は、口をつぐむしかなかった。




 部屋に案内してもらうと、二人じゃ使い切れないほどのスペースが広がっていた。一番目立つのは、部屋の向こうに見える露天風呂。湯気がもうもうと立ち込めていて、二人で入っても余裕があるくらい大きい。


「大浴場もあるけど、やっぱり露天風呂付き客室は夢があるねー」

「お部屋なら白ちゃんはお酒も飲めるし?」

「お酒……は、かなちゃんと一緒の時は飲まないことにしてるから……」


 前に止めるって言ってたのに、一人の時は飲んでいるらしい。少し申し訳なさそうにしているけど、気にしなくてもいいんだけどな。私的には酔ってた方がいろいろと都合が良いし。

 荷物を降ろして椅子に座るけど、なんだかここまで広いと座ってるのがもったいない気もしてくる。


「さっそく露天風呂入ってみる?」

「いーや、あの露天は今日の最後に入りたいから……まずは浴衣に着替えて、リフレッシュしに行こう」


 と白ちゃんが出したのは二枚のチケット。

「エステだよ! ここまで高級なのは私も初めてだから、二人で行ってみよう!」




 白ちゃんが誘ってくれたエステは本当に凄かった。

 私が透子ちゃんにしたマッサージと比べると天と地ほどの差があって、初めての本格エステで少し緊張したけど、終わるころには揉まれすぎて全身お餅みたいになったような気がした。

 白ちゃんなんてすんごい気持ちよさそうな(性的でない)声を出していたし……私もマッサージの価値観が変わったかも。将来マッサージの仕事についても全然いいって思えるくらい……。


 エステが終わって、二人で気が抜けたように休憩しているとすぐに夜ご飯の時間。

 ご飯は女将さんが部屋に運んでくれる豪華な御膳。後から後から小鉢が追加されてあっという間にテーブルの上がいっぱいになった。お料理の説明もA5ランク牛肉、とかウニとかアワビとか、私も食べたことがないものだってたくさんある。贅を尽くすってこういうことなのかなぁ。


 本当はあとでこの旅館のこと調べようかなと思っていたけど、ここまで来ると宿泊金額を知るのも怖くなる。いざ金額を知っちゃった時の方が後悔してしまいそう。


「白ちゃんもしかしてこんなところばっかり来てるの?」


 とろけるようなお肉に感動しながらも、一緒に堪能している白ちゃんに聞いてみる。


「温泉旅館自体は何度か来たことあるけど、ここまで豪華なのは私も初めてだよ。働いてからも初めてかな……仕事も慣れてきたし、やっと余裕ができたってことなのかも」

「じゃあ今は少し早く帰れてるってこと?」

「んー、時間はそんなに変わらないけど……なんだろう、習慣になったって感じ? 先輩も言ってたけど、人って置かれている状況にすぐに慣れるんだって。それは良い状況にも悪い状況にでもなんだけど……『真白は潰れなさそう』って先輩にも言われたし、私もそんな気がしてるから大丈夫だと思う」


 潰れないってだけで、大変なのは変わりないんじゃ……。


「慣れた次にそこに居続けられるかは、素質があるかどうかじゃないかな? まぁ、今の職場はちょっと極端な気がするけど、頑張ればその分ちゃんとお金もらえるし、こんな立派な旅館にも泊まれるしね」


 白ちゃんには社畜の素質があるってこと? なんかあんまり良い素質じゃないような気がするけど……。

 そこでふと思う、じゃあ私は?


「白ちゃんは、私にはどんな素質があるんだと思う?」


 そんな質問は、最近考え始めたこと。

 この世界で生きていくことを決めて、でもこんな女性過多な世界でなにをすればいいのか分からなくて、将来の夢も思い描くことができない。

 もしかしたら私は、そのことに焦っているのかもしれなかった。

 菜月もエマも、しっかりとした将来の目標を持っている。近くにいる人がそうだから、余計に。


「もしかして進路相談? よしよし、人生の先輩である私が相談に乗ってあげよう」


 白ちゃんは私が相談したのを嬉しそうにしてくれた。普段私が頼ることあんまりないっていうのもあるかもだけど。


「って言っても……ゴメンね。私の言えることは夢とかじゃなくて現実のことなんだけど……そうだなぁ、例えばかなちゃんが川を流れる一枚の葉っぱとするでしょ?」

「うん」


 白ちゃんがいきなり始めたたとえ話に、その通りの光景を思い浮かべる。緩やかな川の上、葉っぱの私が流れていく。


「その葉っぱはね、流れながらいろいろなところに引っかかっていくの。岩に引っかかったり、土に引っかかったり……そこでしばらく過ごすこともあれば、急に水かさが増えて川に戻ることもある。人生は川の流れと一緒でね、頑張ればある程度進む方向を変えることが出来るけど、どうしようも出来ないことの方が多いんだよ。かなちゃんが悩んでいても、時間は止まらない。いつか就活する日は訪れるし、いつの間にかどこかの会社で働いている。かと思えば倒産して無職になったり、逆に大成功して自分で会社を持ったりする」

「川が時の流れを例えてるってこと? なんだか当たり前のような……」


「うん、そうだね。当たり前のこと。でもこのことを知っているってことが大事なの。時間は流れ続ける、そのために行きたい方向へ足掻く。それはちゃんと川の先……未来を見ているってことだから。未来を見ていない人っていうのは、例えるなら水たまりにぽつんと浮かんだ葉っぱ。雨が降って川に繋がっていることも知らずに、その場でずっととどまって、いつしか水が枯れてどこにもいけなくなる……分かる?」


「んーなんとなく……?」


 要するに考えて何かをし続けるってことが、先に繋がるってこと?


「かなちゃんはまだ何もしたいこととか、なりたいものがないかもしれない。それを考えずに放り投げても、時間は止まらないまま、いつか決断を迫られるの。だから考えることはやめないで。困ったときは相談してくれていいから。そうしたら川の先のことだって少しのヒントをあげられるかもしれない」

「……うん、ありがと。まだイメージできてないけど」

「あれ、あんまり納得してもらえなかったかな……これ聞いた時私は結構感動したんだけど」

「って白ちゃんが考えたんじゃないの?」

「違うよ、『下着は洗うより買って捨てた方が早い』を教えてくれた先輩の言葉」

「なんか急に信じたくなくなってきた……」

「なんで!?」


 私は笑いながら、ゆったりと楽しい時間を過ごす。

 まだ先のことは分からないけど、白ちゃんのいう通り、将来についてもちゃんと考えようと思った。

 時の流れは私がこの世界に来て、戸惑っている時だって止まらなくて、それだけは十分に分かっているから。


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