42話 恋塚くるみという女の子_2
体育館で理事長のありがたーいお話を聞いて、ホームルームが終わればお昼前に学校が終わった。
今日はこの後、いつものメンバーでお昼をする予定。その約束は決まった時から詩帆ちゃんがずいぶん楽しみにしていた。
詩帆ちゃんと莉々ちゃんが私達のグループに入ったとはいえ、3人ならまだしも5人全員の予定はなかなか合いにくい。そうなると自然と私と菜月とエマ、詩帆と莉々で集まることがやっぱり多くなって、だから5人全員で遊んだりすることはそんなになかった。
私も菜月もエマもそれぞれ忙しいから、その距離感が当たり前だったけど、詩帆ちゃんとしてはもう少しみんなで遊びたかったみたいで、るんるん気分がその態度から漏れているのが分かった。
「奏せんぱーい!」
5人でなんとなく集まってどこ行くー? と雑談していると、教室内にそんな明るい声が響く。
教室のほとんどの視線が集まっているというのに、少しも臆することなくくるみは上級生の教室に一人入ってきた。
「うわっ! 出た!」
「あー本当にくるみちゃん……」
「そんな幽霊みたいに言わないでくださいっ! 瀬川先輩も小松先輩もお久しぶりです! 後輩としてまた宜しくお願いしますね~」
ひらひらとくるみが手を振る。菜月とエマはもちろん面識があるみたいで……でも二人からの扱いは完全にやばい後輩を目の前にしている時のものだった。
「奏先輩帰りましょ? それともどこかでお昼しますかー? あっ、瀬川先輩と小松先輩も一緒でいいですよ」
「人をオマケみたいに……」
「……やっぱりちょっと嫌い」
うん、でもだいぶ周りが見えていなさそう。
「奏、くるみなんて置いていこうよー。やっぱりコイツ変わってないって」
「うーん、でも……」
このまま5人でお昼に行っても、普通に付いてきそうなんだよね……。
私がどうするか決めかねていると、ずい、とくるみとの間に滑り込んできたのは詩帆ちゃんだった。
「か、奏さんが迷惑してるから」
「……はぁ? 誰ですか?」
初対面のはずの詩帆ちゃんがくるみと睨みあう。詩帆ちゃんは菜月が言っていた『ブロックするしかない』って言葉を真剣に受け止めていたようで、少し震えながらも私との間に入っていた。
「わ、私は、近江詩帆! 奏さんの友達!」
「友達? ……ふーん……」
その詩帆ちゃんの様子に、私はちょっと感動していた。まさかあの人見知りの詩帆ちゃんが私を守ろうとしてくれるなんて思ってなかったから。
「んーなんかその割に陰キャそうっていうか……奏先輩趣味変わりました?」
「い、いんきゃ……やっぱり……」
と思ったらすぐにノックアウトされている。あーあー、詩帆ちゃんショック受けてる。
「奏、私とエマがくるみのこと抑えてるから、詩帆と莉々連れて先に帰りなよ」
と詩帆ちゃんの影で菜月に耳打ちされる。
「二人はいいの?」
「今日は仕方ないよ。後から合流するにしても後付けられそうだし……私はエマとどっかで食べるからさ。ほら詩帆楽しみにしてたでしょ? だから奏はいたほうがいいかなって」
エマに視線を投げると、こくこくと頷いていた。ごめんねと、手だけで合図する。
ばちばちと視線で火花を散らしている詩帆ちゃんとくるみ……いや詩帆ちゃんもうほとんど負けてるけど、全然視線逃げちゃってるし。そんなところに菜月とエマがくるみの両腕を捕まえる。
「よし、確保! 奏、また明日ね!」
「うん、ありがと! ほら詩帆ちゃんも莉々ちゃんもいくよっ!」
「え、あ、うん!」
「よーしいくぞー!」
教室から3人で抜け出す。後ろからは私の名前を呼ぶくるみの声が響いていたけど、気にせず私達は校舎を後にした
通学路からちょっと脇道に逸れた場所にあるハンバーガーチェーン店へ3人で入る。
イートインは三階まであって、私達は階段から見えづらい端の席を確保した。
「いただきまーす!」
莉々ちゃんは大きめバーガーにポテト、ナゲット、アップルパイのフルコース。がぶがぶと食べるその姿は、大型犬が慌ててご飯を食べる姿を想像させて思わず笑ってしまいそうになる。
「莉々、あんまり急いで食べたら喉詰まらせちゃうよ」
「美味しいから早く食べないと!」
「美味しいならゆっくり食べた方が良いんじゃない?」
はぐはぐと食べ進める莉々ちゃんを横目に、私もテリヤキバーガーを頬張る。
スマホには菜月に無事お昼してるよと連絡しておいた。さすがに二人の拘束からは抜け出せなかったみたいで、私達が逃げ出して十分な時間が経ってから二人が手を離すと、くるみは猛スピードで追いかけたらしい。
くるみからの連絡がピコンピコンと画面を埋め尽くしているけれど、うるさいから非通知にした。合格発表の日、なにも知らないまま連絡先交換したけどミスだったな。
「か、奏さん、大丈夫そう?」
「うん、さすがにここまでは来ないんじゃないかな? それよりさっきはありがとうね、詩帆ちゃんが間に入ってくれて嬉しかった」
「え、えへへ。守るっていってたから……」
「私は? 私は?」
「莉々ちゃんはなにもしてなかった気がするけど……まぁいっか、ありがとね」
「どういたしましてー!」
満足したのかまたパクパクとご飯に戻る。うん、可愛いからいっか。
「そ、それにしても、なんか凄い後輩だったね……」
「そうだねー……でもさすがに周り見なさすぎかな、ずっとあんな感じなら私も怒るかもね」
「……奏さんって男の人が好きなの?」
「きら――じゃなかった、え、いきなりなに?」
思わず素で嫌いって言いそうになったのを言いなおす。詩帆ちゃんには女の子が好きということを明言してないから、口を滑らせるところだった。
「え、えっと、あの……中学の時は、3人で男の子探ししてたんでしょ? わ、私も中学の時したことあるから、なんとなくその気持ちは分かるの。けど、今の奏さんと、中学生の時に男の子探ししている奏さんが、なんとなく合わない気がして……ご、ごめんなさい。上手く説明できなくて」
そう説明されると、詩帆ちゃんの言う通りではある。まぁ確かに私には男探しした記憶なんてないし、というか中身は別人になってるし、その通りではあるんだけど……なんて答えるのがいいかな。
んー、としばらく考えて、ごまかすことに決める。
「……中学の時は、好きだったよ。でも高校に入ってからはそんなにかな」
「なにか、あった?」
「いや、なにもないよ。それにね、男の子とか女の子っていうより……」
莉々ちゃんには聞かれてもそんなに問題なさそうだけど、一応耳元に口を寄せる。
「詩帆ちゃんとイロイロするのも、楽しくて好きだから。心配しないで」
「ぅ、うん……」
少しだけ耐性が付いてきたのか、そうやって囁いても詩帆ちゃんは固まることなくハンバーガーを食べ進めていた。顔は真っ赤だけど。
質問をうやむやにしつつも、くるみのことを考える。できれば早めに解決しておきたい。いつまでも付きまとわれると、気に入った女の子を攻略する時邪魔になりそう。
この世界にもともといた男好きな私と違って、今の私は女の子のこともぜんぜん抱けるから、くるみも一回抱いてあげれば満足してくれるかもしれないけど、問題なのはその後くるみがますます私に依存してしまいそうということ。
今のところ私は誰とも付き合うつもりないし、万が一くるみと付き合うことになって、他の女の子と関わらないで! とか言われるのはさすがにNG。
中学の時みたいにまた違う約束をしてくるみの行動を縛ることも考えたけど、そもそも私とくるみは一度約束をしてしまっていて、くるみはそれを守ったという事実ある。だからくるみとなにかもう一度約束を結ぼうとするなら、それより強い理由が必要になる。
あと気になることといえば……。
「な、なんでくるみさんってそんなに奏さんのこと好きなんだろ」
「そこまで私も知らなくてねー、気になるところではあるんだけど」
そう、くるみが私に依存することになったきっかけ。それが分かればもう少しスムーズに計画が立てられそう。
依存ものの百合とかレズとかは、漫画とかラノベにもさまざまな設定があるから、なにか参考になればいいんだけど。
「あ、あの、奏さん。私頑張るからっ! 危なかったらいつでも言ってね! あんまり頼りにならないかもしれないけど、莉々もいるし」
「ほう! いうおー!」
「うん、ありがと。でも莉々ちゃんはちゃんと飲み込んでから話そうね……」
私はもう少しお店に残ることにした。詩帆ちゃんは心配そうにしていたけど、ここからなら家も近いし大丈夫と言って二人には先に帰ってもらう。
お昼には少し遅い時間、三階ということもあって人はあまりいなかった。ぽつぽつとお客さんが来てはさっさと食べて階段を降りていく。
「よし」
ある程度今分かっていることをノートにまとめて、私はスマホを手に取る。くるみからの大量のメッセージをスルーして位置情報を送ると、すぐに既読がついた。
あとは待つだけ。過去の私がどんな風にあの依存を生み出したのか本人調査といこう。




