41話 恋塚くるみという女の子_1
「ちょっとちょっと! 奏の隣にいたの恋塚くるみじゃなかった!? なんで一緒に登校してるの!?」
「わ、わたしも見た! くるみちゃん百合が原合格したんだ……やっぱり奏を追いかけて?」
教室に入るなり、後から来た菜月とエマに確保される。
ずっと話しかけられ続けて朝から疲れてしまった私は、とりあえず椅子に座り込んだ。
「私が聞きたいよー、朝家の玄関まで迎えに来たんだもん」
「だからって、一緒に登校することなくない?」
「そうだよぉ、また面倒なことになるよ? くるみちゃん怖いんだし……」
「あ、あの、そのくるみって誰ですかっ!?」
怖い? とエマの言葉に疑問を持っていると、先に学校へ来ていた詩帆ちゃんが会話に入ってきた。莉々ちゃんもなになにーと詩帆ちゃんの後ろに寄りかかっている。
「くるみはね、中学の時の後輩なんだけど、今年一年生として入ってきたみたいで……あ、奏この話していいんだっけ?」
「私ずっと話しかけられて疲れちゃったから、説明してあげて」
って私もくるみのことは全然知らないんだけど……菜月とエマはくるみのことをある程度知っているようだった。
「くるみはねぇ、なんていうの? 奏のガチファンで、ヤンデレ? って言えばいいのかな?」
「ヤンデレは言いすぎだと思うけど……でも奏のことが大好きで、中学生の頃から付きまとってるんだよぉ」
「そうそう、奏が何回も付いてこないでって言ってるのに、行く場所行く場所に出没してさー。私達も困ってたんだ」
あのじっとりした視線はやっぱりそんな感じだったか、と思いながら私もその話を聞く。
「それで中学3年生の時、私と奏となっちゃんで男の子を街に探しに行ったときにね、たまたま本当の男の子を見つけたことがあったの。もちろん護衛の人もたくさんいて近づいたり出来なかったんだけど、遠目で見てたんだ。街で男の子見るなんて滅多にないから、私達も興奮したなぁ。でもそんなときにちょうどくるみちゃんが出てきて、私達が男の子見てるって分かったら不機嫌になって邪魔してきたの」
「その時受験が近いのもあって、奏ちょっとだけぴりぴりしててさ。息抜きするために街へ出たっていうのにくるみがしつこいせいで奏キレちゃって」
「え、奏さんって怒るの?」
「いや、私だって怒る時は怒るよ」
話の中心とは違うところで、詩帆ちゃんが意外そうにしていた。
あんまり怒らなくてもいいようにしているつもりだけど、でも聞いた状況だったら怒っても仕方ないかな。今のところは完全にくるみが悪い。
「でもあの時の奏は珍しく本当に怒っててさ。くるみにはっきり言ったんだよね、もう話しかけないでって」
「そうそう、連絡も止めてって言ってた……でもどうしてもくるみちゃんが喰い下がるから、奏は条件を出したんだよぉ。私と同じ高校に受かったらまた話しかけてもいいって。くるみちゃん、不登校の時期あったみたいだから、成績良くないのは知ってたんだよね。だから奏も無理だと思ってその条件にしたんだろうけど……」
「で、でもくるみさんは、奏さんを追いかけて入学してきた……ってこと?」
うんうん、と詩帆ちゃんのまとめに二人で頷いている。
私もやっと事情が呑み込めてきた。まだ気になることはいろいろあるけど、私が二人に質問してもおかしく思われそうだし、あとは本人に聞く方がいいかな。
「え、えっと……奏さんはくるみさんのこと嫌いなの?」
「んー……付きまとわれるのは好きじゃないかな。けど私の出した条件をクリアしたってことはくるみには話しかける大義名分があるし、やっぱダメって言っても無駄そうだよね……この一年でくるみの心もちょっと変わってるかもしれないから、話し合いで解決できないかなって思ってる」
「えぇーやめときなよ。絶対ロクな事にならないって」
「そうだよぉ……でもくるみちゃんしつこいから、ただ付いてこないでって言っても通じなさそうなのは奏の言う通りだと思う」
「それなら私達がブロックするしかない! 詩帆も莉々も手伝ってくれるよね?」
「も、もちろん!」
「おーやるぞー!」
詩帆ちゃんの使命感にあふれた声と、莉々ちゃんのよくわかっていないけど元気な声に少し笑いながら考えてみる。
……ある程度事情は分かったけど、それは菜月やエマからみた状況。
本当は私も当事者のはずなんだけど、私にはその中学の時の記憶はない。どうしても客観的な見方をしてしまうけど、私はなんでくるみが私にそんなに執着することになったのかが気になった。
「よーし、座れー」
1年生の時と同じく、担任の星野先生が入ってきてみんながたがたと着席していく。ちなみにいまの席順は出席番号順。男の子に負担をかけないようクラス替えはないから、見知った人ばかりだった。(もちろん、出席番号に関係なく幸太郎君は窓側の一番後ろだけど)
全員が着席しても、私の左隣の席はぽっかりと空いていた。……去年の記憶が確かなら、そこにいたのはあんまり話したことのない、カースト下位グループの子がいたと思うけど……。
「まぁ気になることは先にな。入ってこい」
「はい」
澄んだ落ち着いた声とともに、ドアが開かれる。
肩より長い緩くウェーブした髪は、少し青みがかっているように見えた。
落ち着いた雰囲気に緩くもきっちりでもなく、自然に着こなされた制服。背はそこまで高くなく平均くらい、胸もそれなりだけどしっかりプロポーションの管理はしているみたいで、肌が白く綺麗なのが印象的。
可愛いというよりは落ち着いた美人って感じ? 突出した特徴はないけど、女の子としての点数は全てが高水準。
優し気な微笑みを浮かべながら、深窓の令嬢を思い出させるその少女は黒板に綺麗な文字で名前を書いていく。
「この度クラス選択権を使って二年五組へ入ることになりました、高屋敷かもめと申します。お気軽にかもめ、とお呼びください」
「そういうわけだ。あー、高屋敷の席はとりあえずそこ。みんな仲良くするように。じゃあ全校集会があるからみんな体育館に集合なー」
と先生が出ていくのと同時に、みんなががたがたと移動する。隣に荷物を置くその子を気にしつつも立ち上がろうとすると、迷いもなく私に話しかけてきた。
「あなたが琴宮奏さん?」
「え、うん。どうしたの高屋敷さん」
「あら、かもめでいいですよ。私も奏さんと呼ばせてくださいね」
「良いけど……私のこと知ってた?」
と聞くと、高屋敷さん……かもめは頬に手を当てて微笑んだ。
「えぇ、初めてお見かけしたのは去年の体育祭でしょうか。アンカーを走った奏さんのことはよく覚えていますわ、私は運動が苦手なので恰好よくて……」
「すとぉーーッぷ! かもめっ! よく私がいるというのにこのクラスを選択しましたわね!」
「うわっ! 紅園さん?」
私とかもめの間に入り込んできたのは、幸太郎君の枠として内定している紅園さん。相変わらず緩い縦ロールとその雰囲気は絵にかいたようなお嬢様。
紅園さんとは最初こそ私の事を敵として見ていて警戒されていたけど、今となっては自分の陣営に入らないかと誘われる関係になっている。あんまり話したり遊んだりはしてないけど、認められてるって感じ?
「あら、いましたの? 紅葉。今は奏さんとお話している途中ですよ。間に入り込むなんて相変わらずマナーがなっていませんね」
「琴宮さんは私が先に目をつけていたのですわ。それを横からかっさらおうとするなんて……」
「あら、おかしいですわね。奏さんは特にどのグループにも属していないと思っていましたけど……私が仲良くしても問題ないですよね? 奏さん」
「いーえっ! 琴宮さんは幸太郎様の後ろ盾を作ってくれた功労者です! 私のグループに属していませんが、こちら側と言っても過言ではありませんわ!」
え、えっとなにこれ、私のために争わないでとでも言えばいいのかな。
と思っているところにちょいちょいと制服の袖を引かれる。後ろにはエマがいて、小さな声で囁いた。
「ねぇ先に体育館行こう。遅れちゃうよ」
「わ、わかった」
菜月達も待っていてくれたみたいで、エマが私を連れてきたところで教室を出る。私がいなくても二人はぎゃいぎゃい言い合っていた。
「エマはかもめのこと知ってる?」
「うん、先に紅葉さんから言われてたから」
お、エマも名前で呼ぶようになったんだ、と思いながらその続きを聞く。
「高屋敷さん……っていうか高屋敷グループかな? ホテル、レジャー中心の会社なんだけど、紅園グループの競合会社なの。かもめさんはそこの跡取りで、紅葉さんとも昔からの知り合いなんだって。問題なのは、高屋敷グループの方が紅園グループよりもちょっと大きいってこと」
「あー、そりゃ紅園さんが警戒するわけだ」
「クラスに合流した後はたぶん奏に話しかけるだろうって紅園さんは言ってたけど、その通りになったねぇ」
「私? たまたま隣だからじゃなくて?」
「隣が奏なのは調べてたと思うよ。もちろん目的は幸太郎君なんだろうけど、いきなり幸太郎君にアプローチしようとしても、紅葉さんが周りを固めてるから難しいでしょ? 奏は幸太郎君のグループには入ってないけど、クラスでは中心だし、まずはクラスに馴染むために話しかけたんだと思う」
なるほどね、ってことはクラス内もよく調べられてるってことだ。私としてはちゃんと計画立てて物事を進める人は嫌いじゃない。
「仲良くしても大丈夫そう?」
「ゴメンねぇ、私としてはうんって言いづらいかも」
「あ、そっか。そうだよね」
「でも奏は気にしなくていいよ。紅葉さんはもう枠に入ってるし、それは揺るがないと思う。なんか話聞いてると、いつもあんな感じみたい」
確かにさっきのやり取りも慣れた感じがした、意外と仲が良いのかも。
かもめ自身はきっと私に近いタイプ、計画をしっかり立てて進める方。そもそもクラス選択権を使ってきたということは、どこかのクラスで成績が1位だったということでもある。
無駄にクラスをかき回したりもしなさそうだし、エマの言う通り私は好きにさせてもらお。可愛い子との関わりが増えるのは大歓迎だしね。




