40話 また季節が始まって
ここから2章です~。引き続きよろしくお願いいたします!
くるみの話までは毎日投稿、その後はまとまったエピソードごと1日お休みをはさみます。
書き溜めはありますが、2年生まだ終わっていないので、安定して投稿できるよう頑張ります。
高校二年生になって、最初の登校日。
私はいつも通り自分のベッドの上で目を覚ました。
時計はいつも起きる時間の10分前をさしていて、いつもより少しだけ早い。
ベッド脇で充電してあったスマホから、適当なニュースを見てみる。トップニュースの一つにこんな見出しがあった。
『昨年度男女比、1対35.5に悪化。対策は』
やっぱりな、という思い。それと同時に諦めの感情が胸に広がる。
「は~」
息を吐いてベッドの上から起き上がる。部屋の端にある姿見には、パジャマ姿の私がいた。
「私も去年と比べて成長したのかな……背はもう伸びなさそうだけど」
少しは大人っぽくなった? 毎日見てるから分からないや。
そういえばいくつかブラがちょっときついことを思い出す、胸ばっかり成長しなくてもいいんだけど……。
自分の胸についている脂肪をぎゅむぎゅむと揉んでみるも、その成長具合は分からない。鏡の中の自分はなんだか不満そうにしている。
一応お母さんに言ってみようかなー、下着より服の方が欲しいんだけど……とそんなことを思いながら、私は顔を洗いに自分の部屋を出た。
去年、高校1年生になった初日。
私はこの男女比がおかしくなった世界に転移? してきた。
もともと私がいた世界は男女比がほぼ1対1の世界で、少し外を歩けば普通に男の人がいたし、クラスの半分は男の子で、あの人が好きーとか付き合ったとか別れたとか、まぁそんなことを噂するのが日常だった。
だけど今私がいる世界では、男の子を見ること自体が難しい。
街を歩けば女の人しかいないし、働く人も政治家だってみんなそう。たまーにテレビやモデルとして時々男の人が出たりするくらいで、見るのは本当にそれくらい。希少な男子は安全に保護されていて、私のクラスにだって幸太郎君って男の子一人しかいない。
そして世の中のルールもかなり変わってしまっていて、男の子は高校卒業までに5人と婚約、または妊娠させるのが義務。どんなに外見が微妙な男の子でも、少ない5枠の中に入るために女の子の間で壮絶な争いが起こっていたりする。
そんなありえない世界を私はなんとか過ごして、今日で転移してから記念すべき1年が経ったというわけ。
「おはよ~」
「おはよう奏、今日からまた学校だね」
お母さんはいつもと変わらないテンションで朝の支度をしていた。
テーブルの前に座ると、テキパキと私の朝ごはんがテーブルの上に並べられる。トーストにハムエッグ、簡単なサラダ、その脇にはいくつかの苺。
「苺がある~」
「奏もまた毎日学校だし、元気が出るように特別。お母さんもう出るから、洗い物と戸締りはよろしく」
「今日早いんだね」
「うちの会社にも新入社員がいてね、今日は他の拠点に案内しなきゃいけないの。それじゃいってきまーす」
「いってらっしゃーい」
私の朝ごはんだけ用意して、スーツを着たお母さんはばたばたと家を出て行った。
バターを塗ったトーストをかじりながらテレビを見る。いつも見ている朝の番組でも、新しいキャスターが少しつっかえながら原稿を読んでいた。慌てているみたいで、短いポニーテールが揺れている。
「このキャスターかわいーなー」
そんな独り言を言いながら、私は最後のひとかけらのパンを口に入れた。
私が前の世界からこの世界に転移して、なんとかやれている理由は二つある。
一つは私が重度のレズだということ。
前の世界でレズの師匠的存在だった白ちゃんに子供のころに仕込まれて、私は友人にまでえっちな視線を向けるレズになった。男の子になんか全然興味なくて、クラスの女の子ばかり見ているような……そんな罪深ーい女の子。
前の世界じゃレズなんて簡単に言える性癖じゃなかったから、もちろん隠していたんだけど……この男女比が狂ったこの世界では、男の人に選ばれなかった大勢の女の子が余っていることに気づいて、自分の中の方針を少し変えた。
選ばれなかった女の子、それはつまりフリーの女の子がたくさんいるということ。
そんな可愛い子が有り余っている状況なら、少しくらい味見してもバレないかな……と思ってしまうのは、私の中では必然だった。
自分の性癖にちょっと正直になることにした私はこの一年で、同じクラスの下位カーストにいた詩帆ちゃん。隣のクラスの『男性枠』、柚ちゃん。前の世界で私をそっちの道に引きずり込んだ張本人の白ちゃん……この世界ではBL好きになっていたけど。あとなぜか知り合うことになった皇族、透子ちゃんなどなど、えっちな関係になれるように事を進め、なんとか成功させてきた。そして何人かとは今でも関係が続いている。
続いている人達とは、今のところ付き合うとかいう関係ではないから、ちょうどいい言葉を当てはめるならセフレって感じかな?
柚ちゃんには告白っぽいことをされたりもしたけど、私はこの世界で付き合うとかあんまり考えていなくって……なぜかというと、女の子と付き合うことが、この世界の一般的な幸せではないから。そしてわたしはあくまでこの世界の人ではないから。
この世界では男の子と関係を持って、男の子の子供を産むのが一番幸せなこと。それを本人が希望しているなら、邪魔するようなことはしたくない。だからどっちかというと、余っている女の子達に節操なくいろんな人と関係を持ちたいなーっていうのが私の考え。
まぁ本気で私のことが好きで、結婚したいって言われたら考えないこともないけど……うん。
そしてもう一つの理由は、この男女比が狂った世界になっても、中学生まで私と関わった人がちゃんと存在していたこと。
お母さんもそうだけど、子供の頃から一緒の菜月とエマが変わらず親友だったことが大きい。菜月はあんまり変わらず、エマは結構性格変わっちゃったけど、仲が良いのはそのまま。
お父さんとか、前の世界で知っている男の人が消えてしまったのは悲しいけれど……でもお父さんとか出張ばっかりでほとんど会ってなかったからなぁ。いや、ちゃんと悲しいよ?
菜月とエマの話だと中学生までは私も男好きだったらしいけど、高校になって転移してきたせいで性格が(性癖も)変わった私を心配してくれたし、今もきっとそう。
菜月には婚約者が出来ていたり、エマは幸太郎君のグループに入ったり……前の世界では考えられないようなこともあったけど、変わらず3人でいられるなら少しくらいの違いは些細なことだった。
お皿を洗って、制服に着替えて、忘れ物がないかを確認して。
そこでピンポーン、とインターフォンが鳴る。
こんな朝から? とドアの向こうを確認すると、そこには一人の、同じ制服を着た女の子が立っていた。
『奏せんぱーいっ! おはようございます! 一緒に登校しましょー!』
長い黒髪が風に揺れている。どちらかというと大人しそうな見た目、でも有り余る嬉しさがドアの向こうから伝わってくる。
「くるみ、もう少しだからちょっと待ってて」
『はーいっ!』
インターフォンを切って、急いで鏡の前で最終チェック。
「一緒に行く約束とかしてなかったんだけどな」
私のその呟きは、迎えに来てくれて嬉しいとかじゃなく、まだ困惑や戸惑いの方が大きい。
ドアの向こうで私を待つのは、恋塚くるみ。
前の世界で、私の中学校時代にいなかった後輩。でもこの世界にいた中学校までの奏とは面識があるみたい。
この世界に来て初めての、一方的に私のことを知っている存在、それが恋塚くるみだった。
再会したのは本当にたまたま、私が高校の合格発表を見に行って、そこでくるみが私に話しかけてきたこと。
正直くるみが普通の、私が後輩、と聞いて素直にイメージような人なら、知らなくてもそこまで戸惑わなかったと思う。
けど、私はくるみのその眼を見て、すぐにその性質を見抜いていた。
鞄を持ってドアを開ける。くるみが嬉しそうに笑いながら、その視線は私から少しもぶれない。
「おはようございます、奏先輩! 今日から後輩としてまた仲良くしてくださいね」
「……おはよう、くるみ」
その眼は、私と同じレズ側の視線。
私だけしか見えていないような、そんな依存性高めの重たーい視線を受けながら、私も平常心を意識して、くるみに笑いかけた。




