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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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34話 年の瀬 年越し 手を引いて

「お、お待たせ―!」

「あ、エマやっと来た」

「遅いよー年越しちゃうぞー!」

 

 学校近くの神社、鳥居の向こうに多くの人が吸い込まれていくその端で、私と菜月は小走りのエマに大きく手を振った。

 今日は12月31日、今年もあと1時間ばかり。高校生になって初めての年末ということで、みんな着物で初詣をすることにした。

 

「エマの浴衣も可愛いね」

「うんうん、似合ってる!」

「そ、そう? お母さんのおさがりなんだけどね」

 

 エマがその場でくるりと回る。ピンクベージュの布地に紅白の花が特徴的な、ちょっと古めかしいデザインではあったけど煌びやかな着物だった。

 首元もしっかりと寒さ対策がしてあって温かそう。この近辺はそんなに雪が降らないけれど、深夜となるとやっぱり寒さが厳しいから私も防寒対策はしっかりしている。

 

「奏もなっちゃんも似合ってるよぉ」

「でしょー?」

 

 得意げな菜月は、藍色に金の刺繍。鳳凰や扇が舞う華やかな着物だった。短い髪もおしゃれに纏めてあって、いつもの活発な雰囲気とは違って奥ゆかしさがある。……まぁ話してしまえばいつもの菜月なんだけど。

 そして私は赤に亀甲、松竹梅のおめでたーい感じの着物。あんまり高級なものじゃないけど、ちゃんとした着物が欲しいなと思って、期末テストのご褒美とクリスマスプレゼントを一緒にしてお母さんに買ってもらった。ずいぶん悩んで買ったお気に入りの着物だ。

 

 「じゃあ揃ったことだし……とりあえず写真撮ろっか」

 

 スマホのインカメラで3人入るように画角を決める。各々ポーズして何枚か写真に収めてから、私達は人の流れの中に合流した。



 

「か、奏ぇー! なっちゃんっ~!」

「あぁ! エマが早速人に流されてる! こっちこっち」

 

 年末の神社は凄い人で、流れに逆らうのはまず不可能。すぐ横にいたはずのエマとあっという間に距離が離れてしまう。ぎりぎりその手を掴んで、なんとか傍に引き寄せる。

 

「あ、ありがとぉ。これ手つないでおかないとダメだね」

「うん……菜月も手繋いでおこ。これヤバイよ」

「オッケー私が先導するから、任せて!」

 

 私が二人と手を繋ぎ、菜月が人混みをかき分けて先に進んで行く。学校近くにある神社はそれなりに規模が大きくて、この近辺で初詣をするっていったらここくらいしかない。実際、百合が原高校の生徒っぽい人も何人か見ることができて、手を振ったら振り返してくれたりした。

 なんとか境内まで辿り着いて、けどまだ年越しまでには少し時間がある。敷地内の風よけがあるところに入り、あと少しの時間を待つことにする。休憩場所の中心には大きなストーブがドン、と鎮座していてその周りにたくさんの人が集まっていた。

 

「うぅ~寒っ! 集まるのもっとギリギリにしておけばよかった?」

「人凄いし、これ以上遅かったらここまでたどり着けないんじゃないかな……菜月が一番寒さ対策薄そうだもんね」

「このくらいならイケるかなーって思って……着たら重くなるからさぁ」

「なっちゃんカイロいる? 私一応持ってきてるよ」

「あっいるいるっ!」

「奏は?」

「私は腰も背中にも貼ってるから万全。……逆に少し暑いくらいかも」

 

 カイロをもらった菜月はさっそく指先を温めている。もう少しストーブに近づければいいんだけど、同じように寒そうにしている人たちがどんどんストーブの周りに集まってくるから、一度近づいたら戻れなそう。

 

「いやーそれにしても今年もいい年になったねぇ」

「なになに、今年のまとめ?」

「あと10分もないんだし、もうまとめても許されるでしょ。奏のおかげで期末テストもばっちりだったし、クリスマスパーティーも楽しかったし言うことなしだよ」

 

 菜月の話は、つい一週間前のこと。

 毎年クリスマスは菜月とエマと3人で集まるのが恒例だったけど、今回はそれに莉々ちゃんと詩帆ちゃんも加わってクリスマスパーティーをした。

 5人でプレゼント交換をして、ゲームで遊んだりして。莉々ちゃんは早々に馴染んで、詩帆ちゃんも少し慣れ始めてぽつりぽつりと話すようになっていた。詩帆ちゃんは莉々ちゃんのブレーキ役って感じが強かったけど、5人でいてもそんなに違和感もなかったから、菜月もエマもグループに迎え入れるのは特に反対ってこともないみたいで安心した。

 期末試験もエマは28位、菜月は20位、私は2位と、3人とも30位以内という目標を達成できた。菜月は前と比べて順位が大幅に上がったから、お母さんに随分と褒められたらしい。私も過去最高順位だったけど、お母さんは喜ぶというよりなんで自分の娘がこの順位なのか不思議そうにしていた。私としては素直に褒めてくれればそれで良かったんだけど……。

 

「そんな菜月とエマの今年の一文字は?」

「あー、テレビでよく見るやつ。そうだね……私は『楽』かなぁ。単純だけど楽しかったから!」

「わ、私は『幸』かなぁ……」

「どーせ幸太郎君から取ったんでしょ」

「それもあるけど、こうやって奏となっちゃんと同じクラスになれて、幸太郎君のグループにも入れて……それ全部が幸せだったから」

 

 エマがそういうと菜月はちっちっと指を振る。

 

「エマ、今幸せだからって満足しちゃいけないよ。エマは幸太郎君の枠を勝ち取らないといけないんだから。『幸』より『奪』とかの方がいいんじゃない?」

「そうだよ、そのためにテストだって頑張ったんじゃん」

「そ、そっか。そうだよね……来年はもっと積極的にいかないと! 春休みも幸太郎君に会う予定あるし、二年生からクラス選択で入ってくる人にも負けられないし……でも入ってきた人が凄く綺麗な人とかだったらどうしよう……」

「その後ろ向きの性格もなんとかしないと幸太郎くんの枠に入れないぞー! それにもし綺麗な人でもうちのクラスには奏がいるんだから、普通レベルの綺麗じゃ、奏を前にすればビビッて逃げていくでしょ」

「菜月? それなんか褒められてる気しないんだけど」

 

 私は怪物か何かなのかな? とじろりと軽く睨むけど、菜月はにししと笑っていた。

 

「それより奏は? 今年の一文字」

「またそうやってスルーして……でもそうだね……」

 

 一番最初に思いついたのは『白』とか『柚』とか『詩』とか……ってこれは私が攻略した女の子の名前か。なんだろう。『女』? は露骨すぎるし、普通に『楽』とか『欲』とかでもいいんだけどなんかしっくりこない。

 

「う~~~ん……」

「そんな悩むことでもないと思うけど……あ、もう年明けるよ」

 

 私が何がいいか考えている間に、除夜の鐘が鳴り響いていた。ゴーン、ゴーンと一定の感覚で音を響かせながら、境内にいる人たちが大きく『10!』と叫ぶ。

 あ、そんなことより言い忘れてた。

 

「そういえば、今年は二人ともお世話になりました!」

「おー、ギリギリ! 私こそお世話になりましたー」

「お世話になりましたぁ……特に奏は、また次のテストもお世話になります……」

「ってもうお世話するの決まってるの? 別にいいけどねーまた一緒にやろ」

 

 そんなことを話しながら、『2!』、『1!』とカウントダウンをして、鐘の音と共に年が明ける。神社は賑やかな声が響き、お正月特有の音楽がどこかから流れ始める。スマホの中の日付は1月1日に変わって、時刻も0:00を表示していた。

 にぎやかな境内、お賽銭箱に小銭が投げ入れられる音、ガヤガヤと忙しなく新年が始まった。

 

「あー、もう参拝の列並んでるよっ! 早く行こっ。その後甘酒もらって、おみくじも引かないと!」

「そうだね……あっ」

「奏? どうかした?」

 

 菜月に手を引かれながら、ふと思いつく。……けどこれは特に二人に伝えることでもないか。

 

「いや、なんでもない。とりあえず参拝しよ」

「うん! 何お願いしよっかな~」

「なっちゃん、神様はお願いするんじゃないから……」

 

 私が思いついたのは、今年……いや、去年の一文字。

 私の一文字はきっと『狂』しかない。この狂った世界に生きていくことになった最初の年。世界が変わって、自分の性癖にも正直に生きていくことを決めた年。二人には教えてあげられないけど、『狂』の文字がぴったりのような気がした。

 行列に並びながら参拝順を待つ。もし神様がいるなら、私はこの世界でもちゃんとやれていますってことでも報告しようかな。

 

 

 

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