33話 フルーツ特盛! 超メガBIGデラックスパフェレインボー
この世界でもクリスマスは普通にある。
前の世界ならクリスマス前になると急に付き合う人が増えたりしていたけど、この世界ではそもそも男の子がいないから恋人ラッシュとかはなく、男の子絡みの特番が増えるくらい。私みたいな学生にはイベントにかこつけて美味しい物を食べる日と認識されていた。
白ちゃんと一夜を共にするイベントの後。クリスマスを控えた一週間前、百合が原高校では期末テストが実施された。
「終わった~……」
珍しく疲労困憊の様子で気の抜けた声を出すのはエマだ。
自分に自信をつけるためにまず成績を上げると決めたエマは、私と菜月の3人で結構な追い込みをした。勉強会も増やしたし傾向対策もしっかりとやったから、割といいとこ狙えるんじゃないかなと思っている。
「今回は私も期待できるかも!」
ステップを踏むように近づいてきた菜月も、その声には手ごたえがあったみたいで嬉しそう。
目標はなんとなく決めていて、上位30人の中に3人とも入ること。上位30人までは名前と点数が職員室の前に張り出されて、そこに名前があるとちょっとした自慢になる。私は常連だけど、3人で載ることは今までなかったから、そうなることを密かに楽しみにしていた。
「ケーキ食べたいよ~。帰りに行こうよ~」
手足をばたばたとするエマ。もともと気合入っていたのもあって本当にお疲れみたい、ちょっと幼児化している。
「あっ、そう言えば私気になるの見つけたんだよね」
と菜月がスマホで見せてくれたのは、高さ50センチはある巨大パフェ。大食いのインフルエンサーが一人で食べている動画だった。
「うわっ、大きい」
「パフェもいいねぇ、今はそのくらい派手なもの食べたいかも……」
「でもシェアOKとはいえ3人じゃちょっと厳しくない?」
写真だけじゃイメージしにくいけど、画像からはだいぶ大きそうに見える。
「やっぱ奏もそう思う? あと2人くらいは欲しいね」
シェアは何人してもいいみたいだけど、しっかりと『残した場合は追加料金』と書かれている。追加料金はちょっと高めなのもあって、余裕がある人数で行きたいところ。
誰かちょうど良さそうな人いないかなーと教室を見回す。まだ帰りのホームルームが残っているから、教室には試験後特有の緩い空気が流れていて、みんな思い思いに雑談をしていた。そんな中、私は教室の反対側に目を止める。
「ねぇ、近江さんと莉々ちゃん誘ってみてもいい?」
「莉々はまだ分かるけど、近江さん?」
菜月が目を向ける先には、二人がリラックスした様子でお話していた。
「いや、この間私が落ち込んでた時にチョコレートくれてから、あっちのグループ上手くいってないみたいで……ちょっと気になってて」
「まぁ確かに? でも今日一緒に行ったらそれこそじゃない?」
菜月が言っているのは、近江さん……詩帆ちゃんと莉々ちゃんをグループにいれるのか、ということ。私が誘ったらカーストの入れ替わりは決定的になるし、もともと詩帆ちゃんが仲良くしていた友達ともますます話しづらくなる。
「いいじゃん。あのチョコレート、私結構嬉しかったんだよね。そのお礼ってことで」
それは私が白ちゃんのことで落ち込んでいた時、詩帆ちゃんが私にチョコレートをくれたこと。引っ込み思案の詩帆ちゃんの中ではかなり勇気を出したんじゃないかと思うし、仲間内でよく思われないことも分かっていたはず。なのに詩帆ちゃんは私を気遣ってくれた。
「奏がそう言うなら……莉々とはたまにフットサルしてるし」
「莉々ちゃんってフットサル部なの?」
「いや、違うんだけどたまにふらっと来て参加してるんだよね。なかなか上手だよ」
「へぇー」
それは初耳、というかふらっと行って仲間に入れるの凄いな。
「エマもいい?」
「うんー。甘い物食べられればなんでもいい……」
エマはもうダウン状態だ、早く糖分を摂取させないと。
「じゃあ私、後で誘っておくね」
ちょうど先生がやってきてホームルームを始める。二人とも特に予定ないといいな。
★ ★ ★
「おぉ~、おっき~」
「ほ、本当に大きいね。食べられるかな……」
テーブルの上にデン! と鎮座するのは巨大パフェ。何種類かのアイスとたっぷりのホイップクリーム、シリアルにパフにマカロン、それにフルーツが所狭しと敷き詰められている。一番上にはガトーショコラが1ピース突き刺さっていた。
今回のゲスト、私達に挟まれている詩帆ちゃんと莉々ちゃんはそんな反応を返していた。
というか私が想像していたのより大きい気がするんだけど、お皿の幅も20cmくらいない?
「いや、これいける? 実物見たらちょっと心配になってきた……」
「思ったよりアイスが多いね。夏だったら平気なんだけど」
そういう菜月も私と同じような感想を漏らす、正直もう二人くらい欲しい大きさに見えた。……凄い頑張ればどうにかなるかな。
「いただきまーす!」
そんな私達の心配をよそに、エマはさっそく取り分け用の大きいスプーンを手に取る。
「あっ、ちょっと待って! まず写真撮るから!」
「え~~~~……まぁそっかぁ」
何回かパフェの写真を撮ってから、店員さんに頼んでみんなの写真を撮ってもらう。私とかエマは自然にポーズできるけど、詩帆ちゃんはちょっと控えめにピースしているだけだった。
「エマ、よしっ!」
「わーいっ!」
巨大なパフェから食べる分を小皿に取っていく。さっそくたっぷりのクリームを口にいれると、エマはとろけそうな笑顔を浮かべていた。
「甘ーい!!」
私達もパフェを崩して自分のお皿に取り分けていく。美味しそうなのは間違いないから、とりあえず全部食べれるかは一旦忘れて後から考えよ。
クリームがたっぷり乗っているアイスを取り分けて口に入れると、さっぱりしたバニラの風味が広がった。あ、そんなに甘くない。これならいける?
「ほら、詩帆ちゃんと莉々ちゃんも」
「あ、ありがとう……琴宮さ……じゃなくて奏さん」
詩帆ちゃんはたどたどしく私の名前を呼ぶ。
今日のお誘いは、詩帆ちゃん……ではなく莉々ちゃんの方が先に食いついた。二人ともテストお疲れ様会をする予定だったけど、まだなにをするか決めかねているところだったらしい。
莉々ちゃんがすぐに行きたーい! と言ってくれたから詩帆ちゃんもその後に付いてきた形。それでも、こうやって普通に名前を呼んでくれるようになったのは私としては結構嬉しかった。
「大きいスプーンちょうだいー」
「え、恵麻さん。これ……」
「ありがとー詩帆ちゃん」
詩帆ちゃんはまだ慣れるまで結構かかると思うけど、そのうち菜月とエマとも自然に話せるようになればいいな。
「ところで二人は試験大丈夫そう?」
「こ、今回は頑張ったから」
「たぶん大丈夫!」
莉々ちゃんのなんにも大丈夫そうじゃない大丈夫を聞きながら、私もスプーンを進める。あ、このガトーショコラ美味しい。
「こ、今回はクラス選択権もあるし……莉々は特に危ないから」
「あーやっぱり莉々かぁ。二年に上がったらいなくなっててもおかしくないよね」
それを聞いた菜月はどこか呆れたような視線を向けるけど、当の本人はパフェに夢中。私も本当に大丈夫なのかな、と思いながらクリームを口にいれた。
クラス選択権。
それは各クラス内で一番良い成績をとった人が、二年生に上がる際、好きなクラスに移動できるというもの。
百合が原高校には学年が上がるときのクラス替えがない。一度入学すれば一年生から三年生までずっと同じクラスになる。これは男の子の負担を考えてのことで、学年が上がる度に新しい女の子に囲まれるのはストレス的に良くないからとのこと。
でも一年生の時から男の子がいないクラスはもちろん、途中から男の子が不登校になってしまうクラスも珍しくない。クラス替えがないということは、その後もずっと男子がいないクラスになるから、学校側の救済措置としてクラス選択権というルールが出来た。
クラス選択権は12月の期末試験の点数で決まるから、特に気合を入れる人が多い。このルールはクラスに男の子がいない人はもちろんだけど、男の子がいる側のクラスとしても油断が出来ない仕組みになっている。
なぜなら、選択権でクラスを指名された場合、人数の偏りを防ぐために、そのクラスで一番成績の悪い人と交換になるから。
私のクラス、一年5組には幸太郎君がいて、クラス選択権の希望先となる可能性は高い。そして今いるこの5人の中では、おそらく一番危ないのは莉々ちゃんだろうなぁというのは授業態度から簡単に想像できる。
「今1年生の男の子ってどのくらいいるの?」
「1組の桂馬君、2組の司くん、5組の幸太郎君かな。ちなみに桂馬君の婚約は2枠、司君はもう1枠しかないね」
さすがエマ、男の子絡みの質問なら返事が速い。
「ってことは男の子がいないクラスは3、4、6、7だから、最大4人?」
「一応1、2組もクラス選択権は与えられるから、最大で6人。でもまだ男の子の枠が残ってるならクラス移動することはあんまりないかな。幸太郎君が残り3枠で一番多いけど、たぶん移動してきても2人くらいだと思う」
エマの説明で、幸太郎君の枠が一つ減っていることに気づく。たぶん文化祭の時に話していた大学生が枠を獲得したんだろう。
まだ少し先だけど、来年の4月。私達が二年生になる時にクラス選択権を使われると、今のクラスにいる二人がいなくなって、知らない二人がいるかもしれない。
といっても今のクラスはグループもカーストもまとまっているから、一人二人移動してきても既存のグループにけん制されて上手く動けないことが多い、というのが常識だけど……。
それを知っていても移動してくる人は、相当男の子に飢えているか、追い詰められているかのどちらかということ。
「大人しい人だといいなぁ」
「大人しい人はそもそもクラス選択権使わないよ」
菜月はチョコレートアイスと格闘しながらそう言った。
「莉々はともかく……詩帆はどのくらいの成績なの? 言える範囲でいいんだけど」
「し、詩帆……!」
「あーごめん。近江さん呼びの方がよかった?」
「い、いやっ大丈夫。呼び捨てで大丈夫っ。菜月さん」
詩帆ちゃんは精一杯という感じで菜月の名前を呼ぶ。そこを苗字にしないだけ、距離感というものは分かっている。とはいえ菜月と詩帆ちゃんはほとんど話したことないはずだし、タイプも違うから馴染むのには時間かかりそう。
「私は、たぶん大丈夫。良くはないけど、平均点より少し下? くらいだから……莉々も、クラス移動はしないんじゃないかな、と思う」
「莉々ちゃんって危なくてもなぜか助かることが多いらしいよ。いつもギリギリで事件回避してるんだって」
「事件? どういうこと?」
莉々ちゃん危機一髪! みたいな話はいくらでもあるらしく、詩帆ちゃんはつっかえながらも頑張って菜月に話をする。その本人はひたすらパフェを切り崩していたけど。
私もマカロンとかクリームとかを口にいれながら、店員さんにホットカフェラテをおかわりする。パフェは食べやすいところから減って残りはアイスばかり、さすがに身体が冷えてきた。これ温かい飲み物ないと詰みそう。
「なんか寒くなってきたぁ」
「エマ、我慢だよ。まだ半分くらい残ってるんだから、ほら温かいの飲んで」
最初は好きに食べていたエマも、取り皿3杯分を過ぎてペースが落ちてくる。
「詩帆ちゃんは? まだ大丈夫?」
「わ、私そもそもそんなに食べれなくて……」
そのお皿はたぶんまだ2杯目。うーん、あんまり戦力にならなさそう。頼れるのは莉々ちゃんだけか……。
「菜月ぃ……」
「うん、分かってる。私達で頑張るしかないってことでしょ」
「いや、私も結構きついんだけど」
「ん? まだまだいけるって? さすが奏頼もしいなぁ!」
と私のお皿にどっさりアイスを盛る。いやもうこんなにいらない……。
「残したら罰金だよぉ⁉ みんなそれ分かってる⁉ 弱音なんてなしだからね! あと私はあんまりお金ない!」
最後に本音が漏れていたけど、それを証明するように菜月も負けじとお皿にアイスを盛る。気合入ってるー……。
食べ進めるにつれみんな無言になってくる。楽しい打ち上げのはずなのに、いつの間にか試練みたくなっていた。
「詩帆ちゃんこんなのに誘ってごめんね……」
少しずつアイスを口に入れている詩帆ちゃんも、寒いのかいつの間にかマフラーを巻いていた。
「か、奏さん、謝らないで。私、誘ってもらって嬉しかったから」
「でも他の友達と付き合えなくなるんじゃない?」
少し気になっていたことを聞いてみると、詩帆ちゃんは眉を下げる。
「そ、そうかもしれないけど……私のグループはそんなに仲良い訳じゃないから……こうやって寄り道するのも、莉々以外とは初めてだし、楽しいよ」
「楽しい? 今も?」
「……今はちょっと辛いかも」
と詩帆ちゃんは顔を青くしながらそう言った。私もそうだよ、仲間だね、詩帆ちゃん……。
結局菜月がみんなを鼓舞しながら、なんとかパフェを食べきった。一番食べたのは莉々ちゃんで、たぶん全体の3割くらいは一人で食べてたんじゃないかな。なのに莉々ちゃんだけはケロッと平気な顔していたのは、凄いなぁとかじゃなくなんだか心配になる。
「また来ようね!」
お店を出てからのその莉々ちゃんの元気な声に、すっかりグロッキーになってしまった私達は誰一人首を縦に振らなかった。もうしばらくアイスはいいかな……。




