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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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31話 狂った世界、今の私_2


 夜の道を一人で歩く。

 酷く一人ぽっちになった気がして、いつの間にか涙が頬を伝っていた。


「はぁ……分かってたのに。きっとこうだって」


 強がった言葉を宙に吐き出す。

 この男女比が狂った世界、常識的に考えれば白ちゃんだってBLにはまる方が普通。ガールズラブを題材とする漫画や小説もあるけれど、それは『秘密』ではなく、男性に相手にされなくて『仕方なく』そうなったからというものが多い。だから前の世界の白ちゃんと、この世界の白ちゃんだってはまっているものが違うって分かっていたはずなのに。


「うぅ……ぐすっ」


 それでも涙は止まってくれなかった。私の人生の始まり、そして初めて恋をした女の子も、白ちゃんだったから。

 この世界にきて、私は上手く馴染んでいると思っていた。菜月とエマと、詩帆ちゃんに柚ちゃんだって、この世界にきてから作ってきた関係性は上手にできていた。だから私はどこかきっと油断していた。この世界は私に優しいんだって。


「ぐす……はぁ、きっついなぁ」


 でも、そんなことぜんぜんなかった。ここは男女比が狂ってしまった世界で、私の期待なんて簡単にぶち壊していく。

 なぜかわからないけど、朝起きたら私は一人この世界にいて、私がいくら困惑していても時間は何事もなく過ぎていく。そしてそれは今もそう。

 私はどうすればいいんだろう、どういう表情で白ちゃんと関わればいいんだろう。



★ ★ ★



「ねぇ、エマー」

「うん……」


 三日後、午前の授業が終わりお昼の時間。

 私はお母さんのお弁当を半分も食べないで蓋をした。お母さんには心配かけたくないから、またどこかで食べないと……。

 あからさまに元気がない私に菜月もエマも困っているようだったけど、頭の中は白ちゃんのことでいっぱいだった。


「奏ー、なんか話してよ。話してくれないとわかんないよー」

「うん、なんでも言ってくれていいんだよ?」


 菜月もエマもそう言ってくれるけど、話せるわけがなかった。話すならまず私が違う世界からきたことを言わないといけないから。


「……なんでもない」

「そんな顔してもう三日目じゃん、なんでもないわけないんだけど」

「大丈夫? 男の子の画像見る? 幸太郎君のとっておきショットもあるけど」

「……」


 二人の心配が耳を通り抜ける。なんて返事をしたのかもわからないまま塞ぐように机に突っ伏す。

 そうしてお昼が過ぎ、いつのまにか午後の授業も終わっていた。

 帰る準備をしていると、視界の端に詩帆ちゃんが近づいてくるのが見えた。でも詩帆ちゃんは教室で話しかけてくることはないから、通り過ぎるだけかと思っていたら、私の前でピタリと立ち止まる。


「こ、こ、琴宮さん。これっ!」


 ボリュームの調整をミスったその声は、放課後の騒めきの中に響いた。何人かのクラスメイトがこちらを振り返る。

 流石に私も驚いて詩帆ちゃんが差し出したものを受け取ると、それは一粒のチョコレートだった。


「げ、元気なさそうだったから……じゃ、じゃあさよなら!」


 そう言うとぴゅーっと教室から出て行ってしまう。その後ろから「詩帆待ってよー」と莉々ちゃんが追いかけていった。


「奏って近江さんと話したことあったの?」

「奏があまりにも元気なかったから気になったんじゃないの? それにしては意外だったけど」


 詩帆ちゃんはカースト下位のグループにいるから、教室では話しかけてこないはずだったのに。実際、詩帆ちゃんとよく一緒にいるクラスメイトは少し微妙そうな顔をしていた。

 ……私、詩帆ちゃんにも心配されるくらい、元気なさそうに見えるのか。


「……帰ろっか」

「いや、ダメ」

「ダメだよねぇ」


 それでも気分は浮かんでこなかった。今日はエマの勉強会だからと二人を誘うも、菜月もエマははっきりとそれを拒否した。


「そんな状態で勉強会なんてやってもこっちの気が滅入るだけだよ。だから今日は予定変更」

「今日の分は奏が元気になってからやるから」


 と言われて、私は二人に手を引かれたまま学校から出て、バスに乗り街の中心の方まで連行された。


「お待たせいたしました」


 私の知らないお洒落な喫茶店。テーブルの上に置かれたのはふんわり膨らんだ3段重ねのパンケーキ。上にはたっぷりのクリームにアイス、きらめく苺がこれでもかというほど乗っている。

 さすがの私も、あきらかなご馳走に心が動く。と、とりあえず写真撮ろ……。


「お、ちょっと戻ってきた」

「よかったぁ。これで動かなかったらどうしようかと思った」


 何枚か画像を取って、無意識のうちにフォークを手にしようとするけど、菜月にその手が押さえつけられる。


「ダメだよ、奏。食べるのは元気がない理由を話してから」

「……でも早く食べないとアイス溶けちゃう」

「うん、そうだねぇ。私のアイスも溶けちゃうかも。だから奏ははやく話してね」


 そう言ったエマの目の前には、私よりもアイスが主役のパンケーキが置かれていた。それはすでに溶けかけていて、早くしないとどろどろになっちゃう。


「わ、分かった。話すから。食べながら話すから」


 そうなってしまうと私も話すしかなかった。きっと二人は待つといったらアイスが全て溶けたとしても待ち続ける。さすがにそれは二人にもお店にも申し訳なさ過ぎた。




「つまり子供の頃に会ったお姉さんと再会して、その人の趣味がぜんぜん変わってたってこと?」

「奏ってそんな知り合いいたっけ?」

「あ、いや私なんとなく覚えてるかも。一時期の奏、小学校終わったらどこかに消えてた時期あった」


 結局、私は他の世界から来たということを省いて、白ちゃんの話をすることにした。

 エマと菜月は子供の頃からの知り合いだけど、白ちゃんのことは秘密にしていた。だって、女の子同士の恋は『秘密』だから。この世界の子供の私がどう考えていたかわからないけど、同じように二人には秘密にしていたみたい。

 実際に変わったのは私の方だけど、白ちゃんの方が変わったと説明するしかなかったからとりあえずそうしている。


「んー……まだなんか秘密にしてることある気がするけど……」


 菜月は鋭くそう言ったけど、もうパンケーキは半分以上なくなっているから追及しなかった。


「でもそんなに悩むことなくない?」

「……私は、結構ショックだったんだよ」


 菜月の投げやりそうな言葉に、言葉に少しのトゲが生まれる。

 それにすぐ気づいたのか、菜月は慌てて言い直した。

「いや、そういう事じゃなくて。エマならわかるでしょ?」

「うん。なっちゃんが言いたいのは、なんで立ち止まってるの? ってことだよね」

「立ち止まってる?」


 パンケーキを飲み込みながらエマの言葉を繰り返す。


「そうだよ。奏だったら、またその趣味のいいところを教えそうだなって」

「そうそう、それが言いたかったの。奏ならそれくらいぜんぜんすると思ってたけど」


 パンケーキを刺した手が止まる。


「…………」

「だって奏は子供の頃からその趣味がずっと好きで、今も好きなんでしょ? だったらそれは凄くいいものだと思う」


 エマがアイスを崩しながら続ける。


「覚えてる? 私は男の子のいいところ、奏から教わったんだよ。それからずっと好きで、今も幸太郎君のグループに入ってるの。昔からずっと奏は私の先を歩いていて、道しるべみたいだった。こんな風に言ったら、頼りっぱなしな感じしちゃうけど……」

「そうだよ。私だってずっと奏に助けられてきたんだからさー。百合が原高校だって奏がいたから入れたようなものなんだよ? もしそのお姉さんの趣味が変わったとしても、奏なら昔みたいにまた話せるようになる……っていうか、そうなるようにすると思う」


 菜月もパンケーキの最後の一口を食べながらそう言った。

 違う世界から来た大前提を教えていないから、その二人の答えは私の本当の事情とは少し違う。でも二人が言いたいことは『気にしないで、もっと自分の好きにすればいい』ということ。

 この世界に来た時のことを思い出す。この狂った世界、男の子が圧倒的に少なく、女の子が有り余る世界。もともと、この世界なら余っている女の子をもらっても問題ないだろうと思って、高校生活を始めたんだ。

 そういう意味では、白ちゃんだってまだパートナーはいない。つまり『余っている女の子』。


「そっか、そうだった」

「うん、奏では好きにすればいいよ。もし上手くいかなくっても私達がいるからさ」

「そうそう、私もなっちゃんも、奏にたくさん助けてもらってるから少しくらい恩返しさせてほしいな」


 その言葉にじん、と心が震える。思わず泣きそうになってしまって、だけど二人の前で泣くのはちょっと恥ずかしくて、私は残ったパンケーキを無理やり口に詰め込んだ。




 その夜、私はさっそく白ちゃん攻略のために計画を練っていた。

 白ちゃんの今の状況は、仕事で疲れていて日常生活がまともにできていない、いわゆる社畜。ご飯はほとんどがコンビニで、毎日身を削りながらお仕事をこなしている。

 この条件だけなら、アプローチするのは難しいことじゃない。昔、白ちゃんの本棚にあった百合漫画にも、ダメダメなお姉さんを胃袋を掴んでお世話をする設定があった。白ちゃんは限界ギリギリ生活だから、私が入り込むのもそんなに難しくないと思う。

 ただ問題は、この世界の白ちゃんは男の子、または男の子同士の関係が好きということ。私がいた前の世界の時とは全く逆で、百合になんて興味もないと思う。

 その中で私に興味を持ってもらう事は結構難しい、そもそも年齢差があるから、私に手を出すこともないだろうし……。


「年齢差、か」


 ふと気になって、スマホで法律関係を調べてみる。

 この世界の法律は、前の世界の法律と全然違う。特に男性が関係するとほとんどが男性有利の法律になっているから、無茶苦茶なものも結構ある。

 例えば男子高生が大人の女性のことを気に入って行為をしても全然セーフだけど、逆に女子高生が大人の男性と行為をすると女子高生が当たり前のように罰せられる。こんなバカなことがあるのかと思うけど、この世界ではそれが現実だし、しかも実際によく起こる。

 じゃあ女子高生が大人の女性と行為をしたら、それはどうなるのか?


「……よかった、高校生なら未成年淫行にはぎりぎりならないんだ」


 つまり同意の上なら罪にはならない。……高校1年なんて、中学生と同じようなものだと思うけど。

 やることは決まった。というか、白ちゃん相手ならこれが一番いいと思う。全く知らない人だったら無視される可能性もあるけど、白ちゃんと私の関係はそれなりに深い。白ちゃんなら責任を取ってくれるはず。


「うん、大丈夫」


 ノートに書いた計画、決行は今週の金曜日にした。さすがの私も大きなものを賭けることになるから、少し不安。だけど菜月とエマの言葉を信じて私はその日を待ちわびた。


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