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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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28話 あの頃、あの街_2


 かなちゃんに連れられ、近くのファミレスに入る。

 油断すれば涙がこぼれ落ちそうになるのを我慢しながら、私はかなちゃんの正面に座った。


「驚いたー、白ちゃんがこんなところにいると思わなかったから」

「……私も驚いた。かなちゃん、大きくなったね。今は高校生くらい?」

「高校一年生。百合が原高校だよ、白ちゃんも確か百合が原だったよね」

「一年もいなかったけどね」

「でも先輩は先輩」


 私が涙を我慢していることには触れないで、かなちゃんはとても嬉しそうに笑ってくれた。その笑顔はなんとなく小さい頃の面影があって、私もようやく再会の嬉しさに気づく。

 私はカフェオレ、かなちゃんはココアを頼んで、それを飲みつつ改めてかなちゃんのことを観察する。


「かなちゃん、可愛くなったねぇ」

「な、なに。なんか久しぶりに会った親戚みたいな感想……それより、白ちゃんがいきなり引っ越して私寂しかったんだからね」


 そのちょっと怒ったような表情も可愛い。昔から可愛いなとは思っていたけど、高校生になったかなちゃんはどこか色気も出てきているような気がした。これなら男子も放っておかなそう。


「ゴメンね、お母さんの転勤急だったから」

「白ちゃんのお母さんは元気?」

「うん、隣街にいるけど。今年の3月に私だけ引っ越してきたの。会社に近い方が便利だと思って」

「じゃあどこかですれ違ってたかもね。私の家変わってないから」


 私はほとんど会社にいたから、基本的にかなちゃんと時間が合うことはない。今日みたいな休日じゃないと難しかったと思う。


「お仕事はなにしてるの?」


 そう言われて一瞬息が詰まる。けど、不自然にならないように会社名を答えた。


「あ、知ってる。有名な会社だよね。5年で子供が生まれて、10年で家が建って、15年で墓が立つって噂の……」


 それはうちの会社でよく言われている冗談だった。そうだよね、この業務量を15年も続けていればあっと言う間にお墓の中だよね……。

 また涙が溢れてきて、かなちゃんは慌てる。


「ご、ごめん。白ちゃんを悲しませたかったわけじゃなくて……でも、もしかして白ちゃんはお仕事が辛いから泣いてたの?」


 その質問に私は頷けなかった。本当にそれを認めてしまったら、今までの私を否定することになる。せめて5年間は続けてランクの高い種を申請して、男の子を生むまでは……。

 だんまりになってしまった私に、かなちゃんはハンカチを渡してくれた。あふれ出る涙はすぐにハンカチを濡らしていく。


「白ちゃんはなんだか雰囲気変わったね。というかやつれてるって言った方がいいのかな……ご飯ちゃんと食べてる?」


 ふるふると首を横に振る。


「あの会社ってそんなに忙しいんだ。体壊しちゃう……もう壊れかけって感じに見えるけど。白ちゃんの家ここから近いんだよね?」

「うん」

「見に行こうかな」


 そう言われて、部屋の惨状を思い出す。とても人を招くような感じじゃない。


「片付いてないから……」

「うん、そうだと思った。白ちゃんが高校生の時だって、私が片付けを手伝ってたでしょ?」


 そう言われてみるとそうだった。私は昔からあんまり整理整頓が得意じゃなくて、かなちゃんはかなり綺麗好き。私の部屋に来る度、勝手に片付けをしていた気がする。今考えると小学生に手伝ってもらうの情けなすぎるけど。


「私、もう大人なんだけど……」

「私の知っている大人は、部屋も綺麗なんだけどなぁ」


 返す言葉もない。


「引かないでくれる?」

「引くとか引かないより、白ちゃんを心配な気持ちの方が強いよ。大丈夫、私、昔の白ちゃんの部屋も知ってるんだよ? どろどろに溶けた飴の袋とか出てきたよね」

「……そんなことあったっけ?」

「あったよ。私、白ちゃんの部屋に行くときはいっつも覚悟して行ってたんだから」


 小学生にそんな覚悟をさせていたのか私……でもそれなら今の部屋を見せても、これ以上評価は下がらないか。そう思って、私はかなちゃんを部屋へ案内することにした。

 



「うわー……」


 それが私の部屋を見たかなちゃんの第一声だった。改めて眺めると部屋の中の惨状は相当酷い。まるで獣道みたいに自分が歩くスペースだけモノを避けてあって、その端には服やゴミが積まれている。


「……よしっ! ゴミ袋買っておいてよかったね」


 かなちゃんが気合を入れて、来る途中に買ったゴミ袋を早速開いて落ちているゴミを次々にまとめていく。かなちゃんがやるならもちろん私もやらないわけにいかなくて、私もゴミ袋を手に取る。


「これ捨てていい? 書類とか」

「書類は一応まとめておいて、あとで見るから」

「わかった。必要そうなものがあったら聞くね」


 そんな感じで片づけていって、通路が終わってワンルームの部屋に入ると、かなちゃんはちょっと……いや、だいぶ引きながらもゴミをまとめていった。最低限虫がわかないように気を付けていたけど、本当にそれだけだから、特に肌着の山が凄い。

 そんな汚い部屋にも臆せずにかなちゃんは黙々と手を動かして、いっぱいになったゴミ袋は小さなベランダに出していく。ワンルームという小ささが幸いして、あっという間にフローリングが見えてきた。ついでに洗濯物もまとめてコインランドリーに持っていくように指示される。


「っていうか服多くない……? ほとんど下着だし」

「三日くらい使ったら次の買って使うのを繰り返してたから」


 洗濯なんかしてる暇ないから、新しいのを買えば洗う必要もない。と説明するとかなちゃんは明らかに嫌そうな顔をしていた。先輩から聞いたライフハックなのに……。

 片づけているうちにあっという間にお昼になり、ラーメン屋さんから出前を取った。午後も掃除は続いて、私はコインランドリーを5往復することになった。

 そして日が傾いてきた頃、ようやく目途がつく。かなちゃんがふぅと息を吐いた。

 部屋の中は見違えていた。まず地面に服もゴミも落ちていないし、いつの間にか台所もピカピカになっている。なんだか引っ越した初日のことを思いだした。


「こんなものかな。ベランダは一杯になっちゃったけど」

「もともとあんまり使ってないから大丈夫」


 ベランダはゴミ袋でいっぱいだ。出す暇あればいいけど……。


「絶対、ちゃんと、ゴミ捨てしてね♡」

「……ハイ」


 可愛い言い方だけど、圧が凄かった。これ捨てなかったら絶対怒られる。

 ともあれ、かなちゃんのおかげで部屋が片付いたのは事実。かなちゃんにはちゃんとお礼しないと、社会人としてせめていいところを見せよう!

 というわけで夜ご飯はちょっと豪勢にお寿司を出前した。大きな寿司桶にはかなちゃんも目を輝かせて、喜んでもらえてよかった、と私も冷蔵庫からお酒を取り出す。


「あ、白ちゃんお酒飲むんだ」

「あんまり強くないから、少しだけだけどね。今日はかなちゃんと再会記念ってとこで」


 缶ビール一本だけでもだいぶ酔ってしまうけど、お酒の味は好きだった。

 かなちゃんにはお茶を入れて、再会に乾杯する。


「そして、これが今日のお礼になります」

「お寿司だけでも十分だけど……」


 と言いながらもかなちゃんは一冊の本を受け取ってくれる。

 もちろんこれだけのお仕事、お寿司だけじゃ足りるはずもないと思って、私はとっておきのお礼を手渡した。表紙は普通の文芸本っぽいけど、その中身はもちろん違う。自分の部屋でカモフラージュする必要なんてないけど、昔からの習慣で私はそうしていた。いつか男性が来た時とかに困るかもしれないし?

 かなちゃんもその中身に何か感づいたみたいだった。ただ、その瞳は私の予想に反して困惑に揺れている。

 その本を持ったまま、かなちゃんはなかなかそれを開こうとはしない。かなちゃんも、その中身についてはなんとなく予想ついていると思うけど……もしかして趣味変わったとか? でも、私に渡せるものなんてこれくらいしかないし。

 かなちゃんは一瞬私を見て、その本の表紙を開く。そして、すぐに閉じた。


「……やっぱりお寿司だけで十分。これは返すね」


 と本を押し付けられる。それから喜んでいたお寿司にも手を付けないで、かなちゃんは「そろそろ門限だから」と部屋を出ていった。

 あっという間に一人になってポカンとしてしまう。なにか怒らせることでもあったかな……。

 返された本を開く。それは私のとっておき、男同士のからみが濃厚に描かれている、秘蔵のBL本。昔と同じように楽しく話ができると思っていたのに。

 せっかく開けたお酒をもう一口飲むも、それはあんまり味がしなかった。お寿司も結構残ってしまって、無理やり胃の中に収める。


「かなちゃん、どうしたんだろ……」


 考えてもなにも思いつかなかった。せっかく再会できて嬉しかったのに、今は心配な気持ちの方が大きい。理由を聞きたかったけど、そういえば連絡先を交換するのも忘れてしまった。


「明日からまた仕事なのに」


 明日になれば、きっと一週間はあっという間。とにかく片付けていくだけで気づけばまた週末が来る。

 でもそれはいいことなのか、今となっては分からなくなってしまった。閑散期だからこうして考えてしまうのかもしれないし、でもかなちゃんの言っていた通り、すでに壊れてしまっているのかもしれないし。

 それでも明日は来る。寝る準備をして布団に転がると、ほのかに花のような香りがした。ふと、かなちゃんが熱心に布団の上を掃除していたのに気づく。

 その香りがなんだか気になって、布団の上でその香りを探してみる。けれどその香りはどこにも見つからなくて、まるでさっきのかなちゃんのようにすぐ消えてしまった。


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