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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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26話 この世界での特別な日_2


 学校が終わって、菜月もエマも一度自分の家に帰る。準備が出来てから私の家に集合する予定。

 帰って家のポストを開くと、私宛の封筒が入っていた。封筒の後ろには綺麗な文字で柚ちゃんの名前があった。

 柚ちゃんは最近ますます忙しくなって、ほとんど学校には来れていない。テレビで見ない日はないくらいで、すっかり人気男性モデルとしての地位を獲得していた。たまーに電話が来るくらいで、あの文化祭以来会っていない。

 自分の部屋で封筒の中身を見てみると、それは来年予定されているファッションショーのプレミアムチケットだった。もちろん出演者の中に柚ちゃんの名前もある。

 同じく入っていた一筆箋には『(友人としての)愛をこめて』と書かれていて、なんだか格好つけたメッセージだなぁと笑ってしまう。柚ちゃんにもお礼のメッセージを送っておかないと。




「改めましてー、奏誕生日おめでとう~~!!」

「おめでとうー!!」


 パンパンッ! と小さなクラッカーが鳴って、きらきらのテープが飛び出す。

 私の部屋、小さなテーブルにはお菓子がこれでもかというくらい積みあがっていた。同じようなことは何回もしているけど、誕生日というだけでなんだかトクベツに思えてしまう。


「いやー、やっと奏も私達に追いついたねぇ」

「でも奏が一番大人っぽいけどね……」


 菜月は7月、エマは4月生まれで、月で言えばエマが一番お姉ちゃんだったりする。3人の中では私が一番遅いから、菜月は時々そのことをネタにする。今更そんな差なんてどうでもいいことは3人とも分かっているけど。


「ではではさっそくプレゼントだよ。はい、どうぞ」

「わー、ありがとう!」


 菜月からはすっぽりと手に収まる箱を貰う。開けてみると中には高そうな化粧水と乳液、クレンジングオイルが入っていた。


「今年の新製品、お母さんがレビューよろしくって」

「いつも助かるよー。菜月のくれるの使ったら普通に戻れなくなっちゃう……」

「奏だったらいつでもモデルに雇うからね!」


 化粧水と乳液だって、高校生のお小遣いじゃプチプラしか買えないから、菜月のプレゼントにはいつもテンションが上がる。実際その効果も凄くて、去年の誕生日に貰ったボディミルクは、本当にお肌がすべすべになった。することが思いつかなければ、菜月の会社に入るのもいいかもしれない。


「じゃ、じゃあ私はこれ……」

「うわ、大きい。エマもありがとうね」


 エマからはずっしりと重い長方形のものを貰う。テーブルに置けるサイズじゃなくって、膝にのせて包装を開いていく。


「これ……」

「気づいた? そう、あの伝説の『完全保存版~都道府県別男子ベストショット100写真集~ぽろりもあるかも?』だよ」

「えっ、嘘! どこ探してもないって噂の⁉」


 その題名に私じゃなく菜月が驚いていた。表紙には煌びやかな男の子が髪をかき上げ、白い歯を光らせている。うん、きっと前の私なら凄い喜ぶものなんだろうけど、今の私は1ページも開きたいと思わないな……。


「あ、ありがとね。エマ、あとでゆっくり見させてもらうね」

「うん、実はうちにも一冊あるんだけど、凄いね……捗るよ。誰にも邪魔されない時に見た方が良いよ」

「奏、奏! 私にもすこーし見せてくれない……?」


 菜月のテンションの上がり方から、凄い貴重なものなのは分かるんだけど、残念ながらこれは押し入れのダンボール行きになりそうだなぁ……。

 プレゼントを貰ってからは、わいわいと雑談タイムになる。学校でもほとんど一緒なのに、3人でいれば話すことは尽きない。お菓子を食べながらふざけて、笑って、菜月が写真集を見て鼻血が出してしまいそうになったり、とにかく楽しい時間だった。


「そういえばさ、莉々ちゃんに言われたんだけど。私って変な匂いする?」


 ふと思い出して、そのことを話題にしてみる。それは詩帆ちゃんと莉々ちゃんの3人で遊んだ時に言われたこと。

 莉々ちゃんが言うには、私は花のような匂いがするらしい、それも少し気になる? ような。私は洗剤や柔軟剤の匂いかな、と思ってお母さんが昼寝している時に匂ってみたりしたけど、結局その匂いはよくわからなかった。


「変なってどんな?」

「あんまり気にしたことないけど……」

「よくわかんなくて、でもなんか気になるって言われた」

「莉々ちゃん犬っぽいし鼻が効くのかな? まぁそんなに人の匂いも嗅がないとは思うけど」


 菜月にそう言われてそれもそうかと思ってしまう。二人は知らないけれど、私は零距離で女の子と接しているから気になるだけで……あれ、これ墓穴掘ってないよね。


「んーどれどれ?」


 菜月が片側からにじり寄って、首元に近づいてくる。なんか近い……。


「私も気になるかも」


 もう片方からエマも近寄ってきた。う、うわ……。


「な、なんか恥ずかしいんだけど!」

「すんすん……動かないで、今分析してるから」

「んー……?」


 すぐそこに菜月とエマがいる。手を伸ばせば二人とも抱き寄せられるくらいに近くて、それこそほのかに二人の髪の匂いがした。

 ふざけて抱き着かれたり手に触れることもぜんぜんあるけど、こんなに目の前で二人に近寄られることはあんまりない。どきどきと早くなる心臓が、二人にバレてしまわないか心配だった。

 なんだか夢のような、でも恥ずかしさに逃げてしまいそうな時間が続き、やがて満足したのか二人とも私から離れる。


「私はあんまり気にならないかなぁ。確かに奏らしい華やかっていうか、花っぽいのはなんとなーくわかるような気もするんだけど……エマはどう?」

「いつもの奏ってぽい……いい匂いだと思う。いつまでも嗅いでいたいような」


 そう言ったエマに、菜月がハッと気づく。


「あー、わかった、それだ! なんか中毒性があるんだよ、奏の匂いって」

「中毒って……もっと言い方ないの?」


 なんか私がヤバい人みたいじゃない? それ。


「ね、もう一回いい? ちょっと思いっきり吸い込んでみたい」

「え、やだやだ。恥ずかしいよ、もういいから!」

「私ももう一回……」

「エマも⁉」


 少しずつ近づいてくる二人に、嬉しいようなでも恥ずかしいような。そんなぐちゃぐちゃな気持ちで、私は二人から距離を取った。




「なんだか凄い一日だった……」


 夜、自分のベッドの上で独り言を浮かべる。

 菜月とエマはあれだけお菓子を食べたというのに、お母さんが作ってくれたお料理もしっかり空にして帰っていった。お風呂に入って、お母さんがプレゼントでくれた新品のパジャマを着てベッドに寝転んでも、なんだかまだ心の中がふわふわしている。

 机の上には、みんなからのプレゼントが並べられていた。思ったよりたくさんのプレゼントを貰ってしまって、見ているとなんだか嬉しくなってしまう。

 それは、私がこの世界にきて築いてきた関係の証でもある。この世界に来た当初は、最初は菜月とエマがいるだけで凄く安心したのに、いつの間にかこんなにプレゼントをくれる人が増えていた。


「みんなの誕生日も、忘れないで祝わないと」


 そうしてまた来年、こうして祝ってもらえればいいなと思いながら、私はとっても幸せな気持ちのまま、目を閉じた。


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