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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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25話 この世界での特別な日_1


 体育祭、文化祭が終わると、日々が過ぎるのは急に早くなった気がした。

 単にイベントがクリスマスまでないってだけなんだけど、12月2日だけは、私にとって特別な日だった。


「奏、誕生日おめでとう」


 朝起きて欠伸をしながら居間へ入ると、開口一番にお母さんはそう言った。


「ありがとー」


 まだ眠かった私は適当な返事をしながら椅子に座る。


「奏も16歳かー、よくここまで育てたなぁ私」

「……あれ、もう私のターン終わり? 確かに育ててくれてありがとうだけど」

「まぁまぁ、元気に育ってくれて何より」


 そう突っ込むとお母さんは笑っていた。その笑顔は私がいた元の世界と全然変わっていないけど、一瞬心がチクリと痛む。私はこの世界のお母さんが育てた本当の娘じゃないから、なんだか騙しているような気にもなってしまう。

 ……そんなこと言っても、すぐに元に戻れるわけじゃないから仕方ないんだけど。お母さんはそんな私に気づかずに、そのまま朝ごはんを用意してくれる。

 食パンと目玉焼き、簡単なサラダにいつもと違ってヨーグルトと苺ジャムが出てきた。


「これは?」

「誕生日特別メニュー」


 ……思い出した。私がもともといた前の世界でも、誕生日の朝ごはんは一品多かったんだっけ。お母さんは違う世界になってもやっぱりお母さんのままで、変わらないままだった。


「今日は菜月ちゃんと恵麻ちゃん来るんだっけ?」

「うん、学校終わったら私の部屋でパーティするんだ!」


 少ししんみりとした心を隠すように、はっきりと返事をする。


「夜ご飯豪華にしておくから、二人とも誘いなさい」

「分かったー。お母さん帰れそうなの?」

「この間もらった文化祭の写真、賄賂に使うから大丈夫」

「賄賂って……」


 お母さんが言っているのは、文化祭でエマが撮影していた幸太郎君の写真。お母さんが見せてとうるさいから一枚だけ渡したんだった。


「あんまり広めないでよね」

「わかってるって。見せるのは上司だけだから大丈夫。ほら、早く食べちゃいなさい」

「いただきまーす」


 誕生日だからって朝の時間までサービスしてくれるわけじゃない。私はさっさとお皿を空にして、朝の支度を進める。そしていつも通り鏡の前で最終チェックをして、学校に向かった。




「奏おはようー、そして誕生日おめでとう!」

「おめでとうー!」

「わー、ありがとう!」


 教室に入ると、すぐに菜月とエマが祝ってくれる。その声に気づいた他のクラスメイトも、おめでとーと声をかけてくれた。


「プレゼントは奏の家でねー」

「私も、用意してるから」

「楽しみにしてるね」


 二人とはそれぞれの誕生日が来る度に集まっている。小さい頃からそうしていて、この世界でも変わらず続いていることを知った時は少し安心した。


「あら、琴宮さん。今日がお誕生日ですの?」


 そこにたまたま紅園さんが通りがかる。いつも通りの緩い縦ロールに高そうなコートを羽織っていて、お金持ちのお嬢様感が凄い。


「うん、そうだよ」

「それはおめでとうございます。そうですね……こんなものしかありませんがよろしければ」


 と、紅園さんは持っていた鞄から高そうなブランド物のお財布を取り出し、その中から3枚のチケットを手渡してくれた。


「紅園のグループ会社のホテルで使える、スパ&エステのサービス券ですわ。3人で行ってらっしゃいな」

「え、いいの? 私紅園さんの誕生日も知らないんだけど」

「気にせず受け取ってください。これは単純にクラスメイトを祝いたい気持ちの表れですわ。……それに琴宮さんにはこれからもお世話になるでしょうし」

「それ聞いちゃうとなんだか受け取りづらいんだけど……でもありがとう」

「紅園グループでも自慢のホテルですのよ、ごゆっくりなさって。それでは」


 と、紅園さんは自分の席に向かう。その後ろ姿を3人で見送った。


「私とエマの分までもらっちゃったけどいいのかなぁ?」

「いや、ここ結構高級なホテルじゃなかったっけ? そんなところ私1人で行けないよ……」

「私は前に紅園さんに連れて行ってもらったことあるけど、学生だけで行くようなホテルじゃなかったよ。3人じゃないととてもじゃないけど入れない気がする」


 思いのほか良い物を貰ってしまった気がするけど、紅園さんも結構計算高いから、その内なにかを頼まれそうでちょっと怖いなとも思ってしまった。




 その後は普通に授業を過ごして、お昼になる。いつも通り購買に向かった菜月をエマと見送ってからお話していると、ひょこひょこと莉々ちゃんが近づいてきた。


「奏ちゃん、ちょっといーい?」

「莉々ちゃん? うん、いいけど……」

「こっちこっち!」


 と莉々ちゃんは教室の外へ出ていく。クラスではすっかりマスコットとして馴染んでしまっている莉々ちゃんは、今やクラス全員と交流がある。最近では幸太郎君とも話しているみたいで、紅園さんが目を光らせていたりもする。


「エマ、ちょっと行ってくるね。菜月戻ってきたら先に食べてて」

「わかったぁ」


 莉々ちゃんを追いかけて廊下に出る。少し歩いた階段の踊り場で、莉々ちゃんと一緒に詩帆ちゃんが待っていた。


「詩帆ちゃんが呼んだの?」

「うん、教室じゃ話しづらいから……えっと、誕生日おめでとう。こ、これよかったら」


 と詩帆ちゃんはまるで告白でもするかのように、両手で大切そうに持っていたものを私に手渡す。それは綺麗にラッピングされたクッキーだった。


「ありがとう。……これ、もしかして手作り?」

「そ、そう。私も奏さんみたいにお菓子作れるようになりたくて……あれから少しずつ勉強してるの。まだあんまり上手には出来ないけど……」

「美味しかったよ! 私が味見したから大丈夫!」


 詩帆ちゃんは自信なさげにしていたけど、莉々ちゃんの元気な声がマイナスの空気を吹き飛ばしてくれる。

 クッキーはハートや星の形をしていて、真ん中には赤いジャムがトッピングされている。確かにまだ手作り感が強いけど、焼き加減も形も綺麗に整っていて、そのクッキーには努力の証が見え隠れしていた。


「一つ食べてもいい?」

「で、出来れば帰ってからで……」

「うーん、やっぱり美味しそうだから食べちゃうね」


 そう言う詩帆ちゃんを気にせず、丁寧にラッピングを解いてクッキーをひとつ口に入れる。たっぷりのバターの香りと、甘酸っぱいジャムの風味が口に広がった。


「……うん、美味しい。とっても上手だよ、本当にありがとうね」

「うぅ……」


 私がそう言うと、詩帆ちゃんは顔を赤くして俯いてしまった。相変わらず詩帆ちゃんは反応がとても可愛い。そんな顔するから、ついつい虐めたくなっちゃうんだよな……。


「私からもあるよっ! これっ!」


 そんなちょっといい空気をストレートに壊して、莉々ちゃんが大きな袋を手渡してくれる。


「あ、ありがとう……って美味しい棒?」


 それは駄菓子の定番、スナック菓子の美味しい棒だった。なんと30本入りの大袋。


「私たこやき味が一番好きだから、奏にもたくさん食べてほしいと思って!」

「美味しい棒、確かに久しぶりに食べるかも」


 子供の頃はよく食べてたけど、最近はさっぱりだ。ただただ莉々ちゃんのまっすぐな好意が伝わってくるようで、嬉しい。


「でも持って帰るの大変だから、教室のみんなで食べようかな。それでもいい?」

「うん、いいよー!」


 私は二人を連れて教室に戻る。詩帆ちゃんはカーストが低いから遠慮しているけど、クラスの雰囲気は体育祭と文化祭を通してカーストの境目が薄くなっている。そろそろ詩帆ちゃんとも教室で話せるようになりたいなと思った。

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