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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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21話 しらないどきどき_2


 そして文化祭当日。

 すっかり準備が整った教室に入ると、菜月が教室の端、天井になにかを取り付けていた。


「菜月、何やってるの?」

「あ、奏おはようっ! 今防犯カメラつけてる」


 なるほど防犯カメラ。確かに幸太郎君の防犯にも有効かもしれない。と思っていると、菜月の手元には6台ほどの防犯カメラが用意されていた。


「……多くない?」

「これくらいないと全員の顔わからないから。紅園さんには許可もらってるよ。っていうかこれも紅園さんが用意してくれたし」

「ふーん……私も手伝うよ」


 凄いな、監視されすぎカフェ。入りづらそう。と思いながらも菜月の言われた通りにカメラを取り付けていく。そうして全部取り付けた後、菜月は一台のタブレットを持って暗幕の中に入っていった。


「んーと……あ、映った」


 とんとんと操作していると、タブレットの中にさっきとり付けた6台分のカメラ画像が映った。意外と画質もよくて、暗幕の外にいるクラスメイトの顔もよくわかる。


「これで準備完了!」

「でもここって幸太郎君が座る席だよね? ここでいいの?」


 タブレットが設置されたのは、暗幕の中にある二席の内、幸太郎君が座る席だった。


「これでいいんだよ、幸太郎君には自分で選んでもらうから」

「え? あ、そういうこと?」


 菜月に言われて気づく。

 私もお見合い相手くらい自分で決めろよ! と思っていたけど、菜月も同じ考えだったのかな。


「幸太郎君は縁を探してるんでしょ? だったら第一印象が一番だと思うんだよね。幸太郎君が電撃走るような女の子がいれば、それが運命ってことだよ」


 ……と思ったけど、菜月のそれはとっても乙女な意見だった。そういえば菜月って意外とロマンチックなのが好きなんだっけ。私の「自分のことは自分で決めて」とは少し違っていた。


「幸太郎君、このクラスにいる人も対象って言ってたじゃん? だから見られているってこともみんなに知られたくなかったんだよね。それで緊張しちゃうかもしれないし、一応カフェの形式とってるから、来てくれるお客さんの相手もしなきゃいけないから」

「……うわー、私そこまで考えてなかった」

「だって奏忙しそうなんだもん。最近遊んでもないし」

「あー……」


 確かに文化祭関係で呼ばれることが多くて、最近は菜月ともエマともあまり遊べていなかった。菜月はそのことを気にしてくれていたらしい。


「ゴメンね。明日は一緒に回ろう」

「うん、約束。私達にとって初めての高校の文化祭だし、楽しまないと損でしょ」


 と菜月はにっ、と笑う。本当にいい友達を持ったなぁって思った。


「今日のカフェ当番、頑張ってね」

「うん、どうなるかわからないけど……結構SNSでも情報漏れてるから」


 と菜月のスマホを見せてもらったら、すでに校門には人だかりができていた。


「これ、普通に文化祭に来た人じゃないよね」

「うん。マッチングカフェのことはみんな言わないようにしてもらってるけど、やっぱりどこからか話が伝わったんだと思う。まだ1時間前でこれだから、入場規制しないとまずそうだよね」

「本当に気を付けてね……」


 私に言えるのはそれしかない……いや、学校側にはちょっと報告しておこ。




 幸太郎君は開始時間ぎりぎりに登校してきた。正面玄関から入れなくて裏口から入ってきたらしい。

「いや、なんか凄いね……」と集まった人に若干引いていたが、自分で決めたことだから責任は持ってもらいたい。

 みんなにおはようと挨拶をしていく中、私と目が合う。


「お願い、聞いてくれてありがとう」

「私の見立てで良いんでしょ?」

「もし誰もいなかったら、連れてこなくても大丈夫だから」


 と幸太郎君は言うけど、後ろにいる紅園さんの笑顔はそうとは言っていない。なんで笑顔なのにそんなに圧力出せるの?


「誠心誠意努力いたします」

「えっと、そんな畏まらなくても……あ、もう始まるね。みんなよろしく!」


 はーい、とぱらぱら返事が返ってくる中、幸太郎君は暗幕の中に入った。見たことがない屈強な女性護衛官が二人、その後に続く。本来の護衛官である忍さん? は見当たらないから、どこかほかの場所で警備しているのかもしれない。


「始まるね!」

「うぅ、幸太郎君大丈夫かなぁ?」


 菜月とエマがその後に声をかけてくる。

 カフェ担当の人は制服に真っ白なフリル付きのエプロンが衣装で、菜月もエマもエプロンをしていた。制服の上からのエプロンはお洒落可愛い、思わずスマホを向けると二人ともポーズを取ってくれた。えーいいじゃん! これは宝物にしよ……。

 一通り写真を撮り終えて、話を戻す。


「なんとかするしかないよ。なんとかなんなかったら私達が大変なことになっちゃうからね」

「そうだよね、頑張ろう!」

「うぅ、幸太郎君は私が守るからぁ」


 そして校内放送が始まる。放送委員の『開幕ですっ!』の言葉で、きっと校門も解放されるはず。

 とクラスが臨戦態勢になっているところに、どこからか地響きが聞こえてきた。


「……なんかまずそうじゃない?」

「私もそう思ってた」

「みんなー、幸太郎君を守るのが一番だからねー!」


 エマの呼びかけにみんなが答える。次の瞬間、息を切らせながら一番初めのお客さんが教室にドカンとなだれ込んできた。




「疲れた……」


 私は教室を抜け出して、庭にあるベンチに一人座っていた。

 想像以上の人たちが押し寄せる中、列を整理して、カフェの滞在時間を説明して、ルールを印刷したチラシを1000枚単位で印刷して、と対応に追われてようやく順調に回りだしたのは文化祭開始から2時間経ってからだった。

 待っている人の数は凄まじく、学校の周りをぐるりと一周するくらいの列ができている。時間的にここまでしか入れませんと言っているのに、その列は伸び続けていた。

 恐ろしい、久々にこの世界の異常な面を目の前にした気がする。

 でも順調に回り始めればあとは簡単なはず。カフェといっても紙コップでジュースを出すだけだし、他のメニューはない。ひたすらぐるぐると人を回して、幸太郎君が気に入れば暗幕の中に案内するだけ。あとは何とかなるはず。

 私も役目をこなさないといけないし、と賑わう校内を見る。もちろん普通に学校祭を見に来てくれている人もいて、廊下は人で溢れていた。その中から一人を選ぶなんてできるんだろうか。


「だいたい私、あんまり縁とか信じない方だし」


 そもそも私が見つけたとして、それは私との縁って言えるんじゃないかな? 可愛い女の子を見つけたとして、それを幸太郎君なんかに繋げたくないんだけど。

 とその人の流れを見ていると、その人の流れから外れて庭の隅に一人の女の子が座り込んでいるのが目についた。


 それは水晶のような女の子だった。


 さらさらと風に揺れる銀の髪は絹のように細く綺麗で、白を基調に青のラインが特徴的なセーラー服はその髪色を際立たせていた。細い身体は触れると壊れてしまいそうなくらい儚くて、目を離せばすぐにいなくなってしまいそうな、そんな印象を受ける。

 その子はスカートが汚れるのを気にせずぺたりとしゃがみこんで、真剣そうに学校の植木を見ていた

「…………」


 あまりにも必死に見ているから、私が後ろから近付いても気づいていない。


「なに見てるの?」


 私もしゃがんでその横から観察してみるも、注目すべきものは見当たらない。その子は私の方を一瞬振り返って、そしてまた植木に視線を戻した。


「……あり」

「あり?……あっ、蟻ね」


 そう言われて植木の下の地面に蟻の巣があることに気づく。何匹かの蟻が自分より数倍大きい虫を協力して運んでいるところだった。


「どうやって巣に入れるんだろう」

「確かに……巣の穴より大きいよね」


 二人でしゃがんでその様子を見つめる。賑やかや文化祭特有の空気感の中、私達は世界から切り離されたように無言で地面を見ていた。

 蟻は一度そのまま巣穴に入れようとしたけど、やっぱり入らないことが分かったのか、その場で虫を分解し始めた。そうして少しずつ巣の中に持っていく。


「……頭いい。入らないこと、ちゃんと分かってる」

「そうだね。こうやってちゃんと観察したことなかったから、意外と面白いかも」

「ん、私も初めて見た。……透子」

「とーこ?」


 私が言うと、その子はやっと蟻から視線を外して私を見た。


「透子、私の名前。あなたは?」

「あぁ、名前ね。私は琴宮奏」

「奏。いい名前」


 なんだか不思議な空気感の女の子だなぁ。マイペースというかなんというか、世間からずれているような、そんな感じ。


「一人で来たの?」

「うん、抜け出してきた」

「抜け出して? どこから?」

「文化祭、楽しそうだったから」


 その答えは私の質問の答えになっていない。まぁいいんだけど。


「一人で?」


 そう聞くと今度はコクリと頷く。

 もしかしてあんまり文化祭とか来たことないのかな? 制服もこの辺じゃ見たことないし……それより一人じゃ楽しい物も楽しめない気がする。


「ね、もしよかったら私と回る?」

「……いいの?」

「いいよ。私も今日は一人だし」


 私の誘いに、透子ちゃんはしばらく私を見つめていた。あんまり表情には出ないけど、なんだか嬉しそう……? と思っていると、細い手を差し出してくる。


「? 握手?」

「いつも手繋いでる。迷わないようにって」

「そうなんだ。確かにこの人込みだと手繋いだ方がいいかもね」


 学校内は人の数が凄い。逆に手を繋がないとすぐにはぐれてしまいそう。

 差し出された細い手を握ると、ひんやりと冷たい。


「奏の手、温かいね」


 透子ちゃんもそう思ったのか、繋いだ手をにぎにぎとしていた。

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