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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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14話 奏と男装_2


 二学期は中間テストがあって、その後は体育祭に文化祭とイベントが多い。

 クラス委員をしている私は、中間テスト以降はあんまり時間が取れなさそうだから、柚ちゃんの攻略は中間テスト前後をゴールに計画立てる。

 と言っても出来ることは決まっている。柚ちゃんと会えるのは毎週水曜日の二時間しかないし、その他は通話くらいしかコミュニケーションは取れない。

 その代わり柚ちゃんと会うのはカラオケルームという密室だから、あとはどういう風に事を持っていくか考えるだけだった。勉強会を重ねるにつれ、柚ちゃんは自身のことをよくお話してくれるし、好感度も思いのほか高いような気がする。けど詩帆ちゃんみたいにいい感じの雰囲気にしてキス、という方法は、柚ちゃん相手にあんまり成功する未来が見えなかった。

 どうしようかなーと学校のお昼休みに脳内で計画を描いていると、購買に行った菜月を待っていたエマが話しかけてくる。


「なに悩んでるの? 学校祭のこと?」


 考えていたことは違う事だけど、それも悩みのタネではあったからエマの言葉にうなずく。


「そうだよ。幸太郎君結構無茶提案してきたからね」

「私は辞めてほしかったんだけど、紅園さんがOK出しちゃったから」


 紅園さんは夏休み中に『お役目』のお手伝いに抜擢されたようで、二学期が始まってからずいぶんと機嫌がいい。一学期中は敵視していた私に対する態度も柔らかくなって、幸太郎君と普通に話すのも黙認してくれていた。『お役目』を済ませた人は、実質幸太郎君の妻内定みたいなものだから、今回の幸太郎君の案を了承したのも、正妻の余裕というやつだろう。


「結局私が頑張るしかないんだけどねー」


 百合が丘高校は自主性を重んじていて、文化祭もほとんど生徒だけで計画を立てる。もちろん先生にもチェックはしてもらうけど、私がまとめた文化祭の書類を提出した時は『正気?』と言われてしまった。それは幸太郎君に言ってほしい。


「そういえば他のクラスはどうすんだろう。エマは何か聞いてる?」


 私がそう聞くとどこからか可愛いメモ帳を出して答えてくれた。エマは情報通で、いろいろなことを知っている。主に男の子限定でだけど。


「えっと、ほとんど飲食店か展示かな。結局男子で参加するのは幸太郎君だけみたい。隣のクラスは男装カフェだって、柚君がいるからだと思うけど、ちょっと気になるよね」


 男装カフェはこの世界ではメジャーな出し物だ。クラスに男性枠がいればとっつきやすいし見本にもなる。それに男の子と違って文化祭にも普通に出るから、人気も出やすい。


「でも幸太郎君には勝てないと思うけど」

「本当の男子にはさすがに勝てないよ。逆に私達のクラスは、どうやって大混雑を避けるかだと思うけど」

「なになに? 文化祭の話?」


 エマと話していたところに、菜月が帰ってくる。片手にはビニール袋が吊り下がっていて、購買で買ったパンが入っている。


「そうだよー、なっちゃんも考えてよ」


 菜月が戻ってきたところで、私とエマもお弁当を取り出す。今日は紅園さんが幸太郎君を独占していて、二人は教室にいなかった。だからこうやってオープンに話も出来る。

 私は卵焼きをつまみながら考える。


「やっぱり抽選しかないかなぁ……例えばだけど、エマが『抽選10人で男性とお話しできます! 名前を書いて箱に入れといてください!』 ってイベントがあったらどうする?」

「箱の中身を全部捨てて、私の名前しかないようにする」


 そのエマの答えは、私の想像したままだった。


「そうだよねぇ……もう全員参加にして、幸太郎君にサイコロ振って決めてもらう?」

「そのサイコロって細工できないかな?」

「エマはぶれないねぇ」


 菜月が笑う。まぁこの世界の女の子はそのくらいは普通にする。


「まぁつまり誰かの意志が介入しなければいいんでしょ。奏もエマも難しく考えすぎ、もっとシンプルな方法があるよ」


 その菜月の言葉に、クラス中が耳をそばだてていた。幸太郎君の案はこのクラスの出し物だというのにクラス内も巻き込む。つまりは全員が敵ってこと。

 いつの間にか教室はすっかり静かになっていて、誰もが菜月の言葉を聞こうとしていた。


「まっ! もうちょっと後になってからでもいいでしょ。それよりお昼~」

 その言葉に一気にクラス内の空気が弛緩する。まぁ、あえてここで言わなくてもいいしね。あとで教えてもらえるかな、と思いながら私はお弁当箱を開いた。



 ★ ★ ★



 文化祭準備が少しずつ始まってきても、柚ちゃんの攻略は続いていた。学校が終わってカラオケで待ち合わせして、その夜に電話で雑談をするのが大体のパターン。電話先の柚ちゃんの声は、初めのころと違ってだいぶリラックスするようになって、低めの声を聞きながら予習復習をするのは私にとってもお気に入りの時間になった。

 そんな今日の夜のトピックは、柚ちゃんがまた少しずつ忙しくなっているということ。


『仕事をして学校生活が終わるのは、なんかもったいない気がするよ』

「そう? 私は柚ちゃんの生活、充実してそうでいいなって思うけど」


 部活もバイトもしていない帰宅部の私にとっては、柚ちゃんの生活も悪くなさそうに見えた。この世界ではたくさんの女の子を攻略しようと思っているから、そのことを考えると帰宅部の方が行動範囲が広がる。そのうちバイトくらいはしてみてもいいかなとは思うけど。


『ない物ねだりなんだろうけどね』


 と言って話してくれた内容に、柚ちゃんもやっぱり女の子なんだなぁと思う。そもそも私は『男性枠』という制度があまり好きではなかった。もちろん好きで『男性枠』をしている人もいるかもしれないけど、見た目だけで女の子を男子の代わりにしようなんてとんでもない話だ。

 女の子には一人一人にいいところがあるのに。男の子と違って柔らかいし、いい匂いするし、可愛い仕草には癒される。その個性を『男性枠』と言う言葉ひとつで全て潰してしまうのは全く問題外の話だった。

 私がもし将来総理大臣になったら、『男性枠』なんて即時撤廃しようと思いながら、柚ちゃんの話を聞く。


『まぁ結局のところ、男装をしている『Yuzu』じゃなく女の子の『柚』として、運命の人と出会いたい。誰もが夢を見るように、僕もそう思うんだ』


 そんな女の子らしい言葉に、胸が温かくなる。そう、これが女の子。運命とか、奇跡とか、そんなのを信じながら運命の誰かを待つ。それが女の子の特権。

 私はもうそんな幻想を見ることはないけれど……電話の先にいる一人の女の子は、やっぱり綺麗だなと思った。


「……あ、いいこと思いついた」


 ふと、あることを思いついて、そのまま口に出てしまう。


『いいこと?』

「もう少しで中間テストがあるじゃない?」


 二週間後に迫った中間テスト。柚ちゃんには言っていないけど、カラオケで教えている範囲はテスト対策も入り込んでいる。


「もし柚ちゃんが全教科平均点以上取れたら、私から素敵なご褒美をあげましょう」


 その言い方がまるで子供に言い聞かせるようになってしまって、電話の向こうにいる柚ちゃんは少し吹き出していた。


『ご褒美って……僕こそ奏に何か返すべきだと思ってるくらいだけど。何回も言ってるけど、僕普通の高校生よりずっと稼いでるんだよ?』

「いいからいいから、なにかイベントあった方がやる気も出るでしょ? それにお金じゃ買えないものだってたくさんあるんだから」


 考えれば考えるほど、それはいい作戦のような気がしてきた。つまり、私が柚ちゃんの運命の相手になればいいんだ。

 それから、柚ちゃんとの勉強会はキャンセルしてもらうことになった。水曜日の夜の通話だけを残して、もしどうしても分からない場所があればそのタイミングで質問してもらうようにする。

 私は自分の勉強をしながら、並行して準備を進めることにした。

 


 ★ ★ ★



 とある休日、私は一人で街へ出た。 

 メンズファッションは街に出れば普通に売っている。女の子にも需要があるのか専門のお店も結構多かった。私好みの適当なお店に入ってショップ店員に話しかければ、ウキウキで流行りの服を一式用意してくれる。

 渡された服を試着室で着てみると。


「意外とイケル?」


 目の前に映っているのは、ボーイッシュな女の子、という感じだ。やっぱり髪が肩まであるのは気になるなぁ、ウィッグとかないと不自然かも。


「あのー、どうですか?」

「よくお似合いですよっ!」


 店員さんはテンプレートの返事をしてきて、あんまり参考になりそうになかった。

 とりあえずなにかウィッグを持ってきてもらうことにして、その合間に誰かに感想を聞いてみようと自撮りする。菜月とエマは……なんか後に響きそうだし、詩帆ちゃんでいっか。とスマホで送ってみるとすぐに既読マークがつく。しかし、なかなか返信は来ない。


「……もしもし、詩帆ちゃん?」

『か、かかかか奏さん! なんですかその服装は! もしかしてご褒美ですかっ⁉』


 さっさと感想が聞きたくて電話してみると、その向こうには妙に興奮した詩帆ちゃんが出てきた。


「いや、たまにはこういう服装もどうかなって思ったんだけど……」

『似合います! 最高ですっ! 最強ですっ!』

「あ、ありがとう……」


 感想を聞いてから思い直したけど、詩帆ちゃんは私に対する認識が凄いプラス補正されている気がする。聞いてもあんまり参考になんなかったかもしれない。


「そういえば、テスト勉強はどう?」

『あんまり良くないですぅ……』


 と聞くと詩帆ちゃんのテンションははっきりと下がる。

 話を聞くに勉強はしているみたいだけどね……詩帆ちゃんはあんまり要領が良くないからなぁ。柚ちゃんとは逆のパターンって感じ。


「詩帆ちゃんにも頑張ったら、この恰好でご褒美あげちゃおうかな?」

『え、ほ、本当ですかっ! その服の奏さんにしてもらえたら死んじゃいそう……あれ? ()()()()()()()?』


 ポチリと通話を切る。ふー危ない危ない。

 丁度店員さんがウィッグを持ってきてくれて、それを付けるとそんなに悪くなかった。あとはメイクでなんとかなりそうかな。

 さっきから震えているスマホをあえて無視して、店員さんに一式の会計をお願いした。



 ★ ★ ★



 全てのテスト結果が返ってきて、次の水曜日。

 私は一度家に帰って、紙袋に用意したものを詰め込む。お母さんに「テストどうだったー?」と言われたから、テストの点がまとまっている紙を押し付けて家を出た。文句を言われるような点数じゃない。

 いつものカラオケ店。もう顔見知りになった店員さんに挨拶をして、柚ちゃんが待つ部屋に急ぐ。


「おまたせー!」


 狭いカラオケボックス、そこにはどこか嬉しそうな柚ちゃんが待っていた。どうやら私の用意したものは無駄にならなくてよかったみたい。一応柚ちゃんがダメでも、詩帆ちゃんからいつもより良い点数表の画像が送られてきていたから、一回使う事は決まってたけど。

 私が座ると、さっそく柚ちゃんも点数表を見せてくれようとする。


「柚ちゃんの顔見てると、確認する必要もなさそうだけどなぁ」

「い、いいから早く見て」

「はいはい」


 とその点数表を見る……苦手な数学はぎりぎりだけど、全ての教科が平均点以上だった。


「うん、おめでとう! 全部平均点以上だね」


 私がそう言うと、柚ちゃんは息を吐く。結構プレッシャーだったんだろうな、私と柚ちゃんの繋がりは勉強が中心だったから、結果が付いてこないと私達の時間も意味がなくなっちゃうし。そう思うと、柚ちゃんは少ない時間で凄く頑張ってくれたと思う。


「ちなみに、奏は……?」


 と聞かれて平均点だけ答えると、柚ちゃんは言葉を無くしていた。柚ちゃんもちゃんと学校来ることができれば、そのくらいのポテンシャルはあると思うんだけどね。


「じゃあ、約束通りご褒美ね! ちょーと時間かかると思うから、柚ちゃんはその間歌っててくれる?」

「わかった」

「それじゃ待っててねー」


 大きな紙袋を持ったまま、一度店員さんのところに戻る。


「あの、一部屋余ってたら貸してくれませんか? 一時間でいいんですけど」

「今日は余ってるんでいいですよ」


 と店員さんは少し不思議そうな顔をしながらも、もう一部屋貸してくれた。空いてなかったら最悪トイレで着替えようと思っていたから助かった。

 貸してもらった部屋で早着替え。動画サイトを見ながら練習した男装用メイクもしていく。ある程度形になったらウィッグを被って、その上からキャップをかぶれば完成! 急いだつもりだけど30分もかかってしまった。メイクはやっぱり時間かかっちゃうね。

 あんまり明るいとすぐにバレちゃうかなと思って、スマホでメッセージを送り柚ちゃんに部屋の電気を暗くしてもらう。これでできることは全部やった。

 どこまでいけるかなぁ。というかカラオケでするのって大丈夫なのかな……? まぁその時はその時か。と考え直して、柚ちゃんがどんな表情をしてくれるのかを楽しみに、一人待つ部屋への扉を開いた。



★ ★ ★



 柚ちゃんをたっぷり堪能してカラオケボックスで別れた後、私はまた期間限定のフラペチーノで祝杯を挙げていた。


「なんか上手くいきすぎてる気がする、こんなのでいいのかなぁ」


 と思いながらも、柚ちゃんのことを思い出すとついにやけてしまいそうになる。

 柚ちゃんはあんまり凹凸がない体だったけど、さすがはモデル、細さとしなやかさが段違いだった。指で少し触れるだけで反応してくれて、ボーイッシュな女の子を攻めるのなかなか良いと思った。


「でもゆずちゃんとはもうあんまり遊べなさそうだしな」


 柚ちゃんは多分これからもっと有名になっていくと思う。私はそんなに芸能界とかモデル業界には明るくないけど、柚ちゃん自身にその才能はあるような気がした。


「頑張ってね、柚ちゃん」


 そのつぶやきは、フラペチーノの氷に解けるように消えていく。いつの日かまた二人っきりで会う時は、もっと可愛いところを見せてね。

14.5話としてノクターンverがあります。

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