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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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9話 夏と海と水着と_2


「うわー、シャワー室いっぱいだ!」


 十分すぎるほど海を満喫して、陽がゆっくりと下がってきた頃。私達はそろそろ帰ろうか、とロッカーの隣にあるシャワー室を訪れた。

 シャワー室は簡易的な個室になっていて、ずらりとものすごい数があったけど、ほとんど使われているようだった。そりゃ女性しかいないんだったらいくらあったって足りないか。


「ここ空いてるよ! ふたつだけど」


 奥の方にいたエマが空いている個室を見つけて教えてくれる。


「じゃあ私待ってるから菜月とエマ先に使いなよ」

「奏、私と一緒に使えばよくない? その方が早いでしょ」


 そう譲った矢先、菜月はそんなことを言ってくる。

 え、いいの? 菜月の距離感ってこんなに近かったっけ? そりゃ一緒に使っていいなら使いたいけど……。

 下心に一瞬迷って返事をしなかったことを了承と受け取ったのか、エマと菜月はシャワー室に入っていく。


「あれ、どうしたの? 早く」

「う、うん」


 しばらく立ち尽くしていた私を変に思ったのか、菜月はシャワー室の隙間から手招きして、私は一緒のシャワー室に入る。

 シャワー室は一人じゃ余裕があるけど、二人だとちょっと狭い。少し動けば身体のどこかが触れてしまいそうで、なんだか緊張してきた。すぐそこには幼馴染の肌があって、どうやってシャワーを浴びればいいか分からなくなってしまう。


「先髪洗っちゃうねー、私の方が早いと思うし」


 菜月はそんな私のことを全然気にせず、さっさと上も下も水着を脱ぎ捨て、持ってきたシャンプーを泡立たせている。

 私はすっごい迷いながらも、菜月の素肌をあんまり見ないように視線を壁に向けた。

 私にとって菜月とエマは大切な親友で、それは私がもともといた、前の世界から変わらないものだ(エマは少し変わったけど)。いつか男に取られる前に身体を重ねたいな、とは思っているけど、それはもう少し先のことだと思っている。

 だけどロッカーで盗み見するくらいは別として、今の段階で強く二人の事を意識してしまうと、なんだか今後の学校生活で気になりすぎてしまうような気がして……だからあんまり菜月の方を見るわけにはいかなかった。いや、本心ではめっちゃ目に焼き付けたいんだけどね!

 心頭滅却……と心の中で唱えていると、菜月はわしゃわしゃと髪を洗っているまま口を開いた。


「奏さー、中学の時から変わったじゃん」

「え? そう?」

「そうだよ。多分中学で同じクラスの人が見たら、びっくりするくらい変わったと思う。まぁ、落ち着いたって言い方もあるかもしんないけど」

「……そんなに変わったかな」

「中学の時は男が原動力! って感じだったでしょ。百合が原に入ったのも男がいる可能性高いからって理由だし。よく男探しに街にも出たよね」


 それは菜月が知っている、今の私じゃない前の琴宮奏の記憶。時折男好きだという話は聞いていたけど、その具体的な内容を聞くのは初めてだった。


「あの頃の奏、男に向かって突っ走ってるって感じで、毎日が楽しそうでさ。奏は見た目も成績も良いし、積極的だし、こういう人が高校でさっさと妊娠して結婚するんだろうなって思ってたんだよね」


 そう話しながら髪を洗う手を止めて、シャワーで泡を流していく。湯気が二人の間をもくもくと漂った。私は手に取ったシャンプーを手にしたまま、菜月の話の続きを待つ。

 大体流し終わったのか、シャワーを止める。キュ、キュと高い音が鳴った。


「でもいざ高校始まったらさ、奏、人が変わったみたいに男に執着無くしてるし。内心びっくりしたんだ、春休みの間になんかあったのかなって。きっとエマも気づいてたと思うけど、奏特になにも話さないから、私もエマも聞かなかった」

「……もしかして、二人に心配かけてた?」

「実はね、二人で会議したりもしたんだよ。でも奏それ以外は普通だったからさ、特に何しようとかはなかったけど」


 シャンプーを流した菜月は、ショートの髪を一度かき上げる。そうして何も身に着けていないその身体を、隠しもせず私の方へ向いた。


「エマは奏が話してくれるまで待つつもりなんだろうけど、私は結構ストレートに聞きたいタイプだからさー。私もエマも、奏に結構助けられることを多かったから、百合が原高校だって、奏が勉強教えてくれなかったら絶対入学できなかったしさ。もし奏が困ってるなら、言ってほしいんだよね……まぁ、つまり、私達、友達でしょ! ってこと!」


 話している内に恥ずかしくなったのか、それとも温かいシャワーのせいか、少し頬を赤くした菜月はそう締めくくった。その言葉は、この世界に来てしまった私を気にしてくれた言葉で、そんなに心配をかけていたことを初めて知った。その気持ちに、なんだかちょっと、泣きそうになってしまう。

 この世界で、私は一人だと思っていた。おかしな世界に、私だけが迷い込んでしまって。ほとんどは同じだけど、常識は変わってしまっていて。高校入学当初は、部屋で結構落ち込んだりもした。だけど、毎日学校に来られたのは、菜月やエマがいたことが大きい。違う世界の菜月やエマかもしれないけど、それは私が知っている存在ではあったから。

 そう、思っていたんだけど……その気持ちは、私が思っている以上に、菜月のままで。前の世界とか、今の世界とか関係なく菜月らしかった。


「……ありがとう、菜月。いつか、いつか本当の私のこと、お話するね」


 いつか本当のことを話す時、それは菜月とエマとずっと一緒にいるか、それとも決別するかの判断をするときかもしれない。けどこうやって私のことを思ってくれる友人に、いつか男女比が1対1の世界にいた、私自身のことを話したかった。


「……やっぱなにかあったんじゃん」

「でも大丈夫。困ってはいないから、どっちかと言うと、良かったことかも?」

「……もしかして男? ね、エマには内緒にしておくから教えてよ、ね、ね?」


 とはいえ、何も身に着けないまま迫ってくるのはいろいろな部分が触れてしまうから止めてほしかったけど。




 電車の窓の向こう、水平線に夕日が沈んでいく。

 一日遊び倒したせいか電車に乗った途端、菜月もエマも寝入ってしまった。真ん中に座る私に寄りかかるような形になっていて、その両肩はほのかに温かい。

 いつもならその感触にちょっと高鳴ってしまう胸も、菜月の話を聞いたからかなんだか今日は穏やか。砂浜に波が静かに押し寄せて引くを繰り返すような、そんな気持ち。

 高校生活は始まったばかりで、まだまだ楽しみなことはいっぱいある。そのどれもを大切な親友二人と一緒に楽しみたいと思った。


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