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男女比が狂った世界に転移したレズはどうしたらいいですか?  作者: シキ


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8話 夏と海と水着と_1


 夏休みが始まって一週間。

 私は落ち着かない気持ちのまま電車に揺られていた。

 空は高く、雲ひとつない青空でお出かけ日和。隣では菜月とエマがスマホを見ながらはしゃいでいる。

 電車の中は私達と同じように数人のグループがいるみたいで賑わっていた。高校生くらいの人たちから、大学生や大人の女性もいる。

 そしてその誰もが、私から見ればとても魅力的で……これからそんな人達が大勢いる海に行くと思うと想像が止まらない。

 うわ~あの人足長いなぁ……あっちの人は胸の膨らみが綺麗だし……え、まってまってそれ水着⁉ なんか透けてる部分多くない⁉

 凄い、この世界本当に凄い。私は自身をエリートレズだと自称しているし、いろいろな本や情報を前の世界で調べたけど、それでもこの世界は目に毒なくらい開放的。


「奏……なんか元気ない?」


 ふとエマに声を掛けられて我に返る。危ない危ない、ちょっと見すぎだった。


「ごめん、ちょっと考え事してた」

「こんなとこで考え事なんて勿体ないぞー!」


 菜月は泳ぐのを楽しみにしていたみたいで、今日は朝からテンションが高かった。せっかく三人で遊びに来たのに、他の人に目移りするのは良くないかと雑念を追い出す。


「そうだね、今日はたくさん泳ごう!」

「その意気その意気! 奏とどっちが速いか勝負したいなー」

「私最近あんまり運動してないから、部活してる菜月とは勝負にならないんじゃない?」


 前の世界で中学生の時、菜月とプールで競争した時は私の方が早かったけど……あれからほとんど泳いでないし。


「っても私もまだ部活始めたばっかだし、持久力なら負けないけど、速さは結構いい勝負だと思うよ。勝った方が焼きそば奢りってのはどう?」

「ふーん言ったね、それなら受けて立とう。エマは審判お願いね」

「わ、わかった」


 そんな話をしていると、やがて電車はゆっくりと停車する。窓の外にはいつの間にか海が見えていた。




「すごい……」


 砂浜は大勢の人で賑わっていた。遠目で見てもたくさんの女の人がいて、ここが楽園か! とも思ってしまう。


「うわー、結構人いるねぇ」

「ロッカー、空いてるかな」


 そんな私の呟きを、人がたくさんいることかと二人は勘違いしていたけど。確かに夏休みということもあって人の数も凄かった。私にとっては、多ければ多いほど視覚的には良いんだけど。

 私達はまず着替えるために、海の前に建てられている立派な建物へ向かう。そこは更衣室やらシャワーやら、簡単な食堂や休憩スペースが纏まっている場所だった。比較的新しい建物のようで休憩スペースもかなり綺麗だ。どこもかしこも水着の女の子が談笑していて、それを横目に更衣室へ向かう。

 ちょうど3つ固まって空いていたロッカーをエマが見つけてくれて、そこまで来てやっと私はあることに気づく。

 これ、菜月とエマの着替え、見られるってこと⁉

 菜月もエマも昔からの付き合いで、小学生の時とかはよく一緒にプールへ行ったりもしたけど、その時はまだ女の子に目覚めてはいなかった。

 中学のある時に目覚めてからはなんとなく菜月とエマをそういう風に見たくなくて、プールとか誘われても拒否ってたしなぁ。でもこんな世界になったんだし、今は少しくらい見たっていい、かも?

 そんな私の邪念を露知らず、菜月とエマはさっさとロッカーに荷物を放り込み、なんのためらいもなく私の横で上着を脱いでいく。

 菜月の胸はあんまり成長してなく、水色のスポーツブラだった。パンツもお揃いで少し幼さを感じさせる。さっさと下着を脱いでしまうと、健康的な身体は軽く日焼けをしていて、そのコントラストが眩しい。水着はパステルカラーのストライプが入ったスポーツタイプのビキニで、泳ぎに来たという心意気がよくわかる。

 エマは割と胸がある方で、服の下からはしっかりしたブラが出てきた。下着のデザインもピンクの可愛い感じで、背が低めのせいか背徳感が凄い。エマは少し恥ずかしがっているのかこちらに背中を見せる形で下着を脱いでいたから、そんなに観察は出来なかったけど、背中から抱き着いたら気持ちよさそうな幼児体形(褒め言葉)だった。

 水着はこの間一緒に買った際どいものとは別のもので、胸元に大きなリボンが付いた見た目重視のデザインだった。それでも十分谷間を見せつけるようなデザインで、前の世界では絶対着ないだろうな、という水着だった。


「……ありがとう」

「? なにが?」


 無意識で口から出た言葉に、エマはこてんと首を捻る。


「奏まだ着替えてないの?」

「あ、そうだった」


 二人のことを気にしすぎて脱いでもいなかった。目的を達した私がぽんぽん服を脱いで新しい水着を鞄から取り出していると、二人の視線が妙に私に刺さる。


「……な、なに? なんかおかしい?」

「いやー奏の身体エロいなって。なに食べたらそんな風になんの?」

「やっぱり奏も一緒に幸太郎くんのグループに入らない? 奏がアピールすればいけると思うんだけど」


 と二人のコメント。なんだか急に恥ずかしくなった私は、その言葉を無視してさっさと買ったばかりの水着を付けた。




 日差しは容赦なく照り付けて、海はほどほどに冷たくて気持ちよかった。

 海に入れば遊ぶのに夢中で、周りのことはあんまり気にならなかった。というか菜月もエマもいるし、それだけでも目の保養的にも十分すぎる。

 ビーチボールで遊んだり、ひたすら泳いだり、レンタルした浮き輪で漂いながらおしゃべりをしたり。

 3人でいるだけで楽しくって、それは私が思い描いていた高校生の夏休みそのものだった。

 はしゃいでいるうちにお昼時になり、一度休憩ということで近くの海の家へ入る。水泳勝負の結果、私は菜月に奢ってもらった焼きそばを食べながら賑わう砂浜を見ていた。


「焼きそばうまー。エマ、チャーハンはどう?」

「んー普通? なっちゃん交換しよ」


 と目の前でお互いに皿を交換するのを見ていると「奏も食べる?」とエマが聞いてくれる。試しに口を開いてねだってみると、エマはスプーンで一口食べさせてくれた。役得役得。


「でもすぐに夏休みって終わっちゃうんだろうね……」

「エマさすがに気が早すぎ。まだ夏休み始まって一週間しか経ってないよ?」


 エマのそんな言葉に、菜月が焼きそばをもぐもぐしながら突っ込む。


「私、どうしても終わった時のこと考えちゃうんだよね。夏休み終わったら終わったで、幸太郎君と会えるからいいんだけど」

「夏休みは会えないの?」

「紅園さんのグループで一日だけ遊ぶ約束してる。ホテル貸し切ってくれるんだって」

「えぇー! いいなー!」


 そのホテルは紅園グループの花を購入しているちょっとランクが高いところのようで、男性もいるならぜひ、ということになったらしい。


「でも私も賑やかしみたいなものだし……それに学校と違って幸太郎君の護衛官もいるしお話するくらいしかできないんじゃないかな」

「護衛官? 幸太郎君にもいるんだ」

「そりゃそうでしょ……護衛官いない男子なんていないよ。奏は時々抜けてるよねぇ……っても私も見たことないけど」


 男性護衛官という言葉は、最近知ったばかりだった。

 男性が少なくその種の争奪が激しいこの世界では、日常生活で男性が(性的に)襲われないように護衛を行う『男性護衛官』という職業がある。男性と触れ合える確率が高いその職業は、子供の将来なりたいものランキングでも常にトップで、それを育成するためのエリート校だってある。

 男性護衛官は武術や法律に精通していなければ勤まらず、簡単に表すと男性個人につく警察みたいなものだった。


「学校じゃ見たことないけど」


 と普段の幸太郎君を思い出すも、紅園さん達に囲まれている風景しか思い出せない。


「学校は安全が前提だからね……でも担当男性が希望すれば学校にも入れるんじゃなかったっけ?」


 菜月がそう教えてくれる。


「そうだよ。少し前に翼君……ほら、学校内で襲われちゃったでしょ? だから1組の桂馬君は警護官を付けてるみたい」

「学校安全じゃないじゃん」

「それ言ったらそもそも学校に来ること自体が安全じゃないから。学校内では紅園さんのグループが男子を守ることでアピールしたりするんだよ」


 男子が襲われて、それに関わった女の子が終身刑になる。そんなことがよくあると言えるのは前の世界にいた私からすると考えられないこと。でも実際、その事件もちょっとニュースで紹介されたくらいで、学校が炎上したりしないのもそれが『よくあること』だから。

 前の世界ならインターネットで羨まれるような事件なのになぁとか思いながら焼きそばをもぐもぐ食べる。前の世界の常識なんて、こっちじゃ全然通じない。


「そういえば幸太郎君の警護官、私、見たことあるよ。幸太郎君のお母さんが忙しい時、警護官が迎えに来るの。スーツ着たぴしっ! って感じの人で、視線が鋭くて気圧されちゃった。紅園さんは普通にお話してたけどね」


 エマがその護衛官を見たことがあるみたいで、その時のことを説明してくれる。スーツが似合う大人な女性、いいじゃん。見てみたい。


「文化祭とかに来るかな?」


 私がそう言うと、菜月が微妙そうな顔をする。


「そもそも幸太郎君が来るかどうか怪しくない? 文化祭とか外部の人も来るでしょ」

「そうだよねぇ。普通の男の子だったら参加しないと思うんだけど……幸太郎君ならもしかして参加したいって言うかも?」


 幸太郎君は、男の子の中では変わっている。私もなんとなく文化祭に参加しそうな気がしていた。


「私クラス委員だから、幸太郎君が何したいのか確認しておかないといけないんだよね」


 男子の意見はなにより優先される。幸太郎君がなにか変わったことをしたい、と言い始めると私が大変になってしまう。


「次会った時に聞いておく?」

「そうしてくれると助かるかも」


 できれば参加してくれない方が私としては楽だけど……どうかなぁ。私は男なんて気にしないで女の子ばかりの学校祭を楽しみたい。


「さて、お腹も膨れたしもう少し遊ぶ? さっきの勝負、ぎりぎりだったし、もっかい奏にリベンジしたい」

「私は海じゃなくて、この辺り見て回りたいな。水着のままでも入れる可愛いカフェがあるんだぁ」

「じゃあ菜月ともう一回勝負して、そこに行こうか。今度は何奢ってもらおうかな~」

「もう勝った気でいるじゃん。エマ、しっかり見ててよ!」


 紙皿と割りばしをゴミ捨て場に投げ入れて、海へと繰り出す。太陽はまだまだ高い位置にあった。

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