僕は、探偵じゃない
「急にどうしたんだよ幸太郎。あの死体も藤原美月だし、僕も藤原美月。部屋に止めたくないからって急に駄々をこねても無駄だって。」
目の前の少女は平静を装えているつもりなのだろうが、声は裏返り、目は定まっていない。
そもそも、少女が幽霊じゃないことなんてのははじめからわかりきっていることではあった。飯を食べ、歩き、疲れる。どこをとってもこの少女の行いは人間的だ。
それに、確信を得たのは死体運びの時だ。僕が転んだとき、こいつは『擦りむいちゃった』と言った。あの時は驚いたさ、痛みを感じない幽霊だと言っていたやつから血が流れ出ていたんだから。
「なぁ、自称美月。幽霊なんかじゃないのはわかってる。それでお前は誰なんだ。なんでそんな嘘をついて僕に近づいた。」
「わかったよ。僕は、美月じゃないし、幽霊でもない。人間さ。幸太郎はずぼらだし、案外気づかないんじゃないかと思ったんだけどね。」
得体のしれない少女は己の素性を話し出した。
「僕は、藤原伊月。藤原美月の妹だ。」
藤原美月の妹。なんとなくそうなんじゃないかとは思っていた。僕が死体に感じた違和感の一つは大きさなのだ。死体は美月より明らかに大きく、美月が背負うとその姿はすっぽり覆われるくらいだった。
それにしても、目の当たりにすると恐ろしい事実だ。藤原伊月は、死んだ姉の名を名乗って知らない男の家に侵入し、姉の死体を探しに行ったのだから。
目的は何なのか。死体探し? でもそれだけなら、伊月一人で事足りているだろう。実際僕は、今日なんの役にも立ってはいなかった。
それなら一体、何のために。
「ねえ幸太郎、美月の死体には、本当に何も見えなかったんだよね。」
この質問は二回目だ。確か死体を運ぶ前もそんなことを言っていた。死体に見えるものって幽霊なんかだろうか。
幽霊なんているはずもないのに。
そんな言葉が喉の上を通過しようとしたとき、僕はようやく伊月の意図と自らの過去を思い出した。
幽霊は、僕にだけは見えないといけなかったのだ。




