僕は盲目じゃない
長机みたいにして死体を運んでいる最中、僕の頭にはぬぐえない違和感がまとわりついていた。
美月はほんとに幽霊なのか。今も、僕と一緒に死体を持って運んでいるし、幽霊にそんなことできるのか?
もし美月が幽霊じゃないとしたら、僕にそんな嘘をつく理由は何なんだ。
それにこの死体は? 確かに藤原美月のものだった。
堂々巡りする思考をよそに美月はずんずんと進む。
この山に入ってから美月が自分の知らない人になっていく感覚がある。自分の理解できない子供と一緒に山で死体を運んでいる。さながら怪談話のワンシーンのようだ。
悶々とした僕の思考は、唐突に近づいた地面によってたたき起こされる。
足元のちぎれたツタを見て、足を取られて転んでしまったんだと気づいた。
「ちょっと幸太郎!急に転ぶなんて危ないじゃないか。ほら、僕の足も擦りむいちゃってるし。もうここからは僕がおぶっていくから。」
死体をひょいと担ぎ上げたかと思うと、美月は軽々しい様子で死体を運んで行った。
そんなんができるなら僕の手伝いはいらなかったのでは? なんて言葉を飲み込んで美月のあとを追いかける。
僕は大人だからね。
部屋につくと、死体をまじまじと見られるのは恥ずかしいとか言ってベッドのある部屋に案内されてしばらく休むよう言われた。体力の全く残っていない今、帰るといわれたらどうしようと思っていたので一安心だ。美月は今頃死体を裏に埋めたりしているんだろうか。
せっかく時間ももらったので寝たいところなんだが、その前にここまで貯まりに貯まった違和感を整理しなくてはいけなかった。
藤原美月は果たして幽霊なのか。これについてはついさっき確信を得た。だが、それ以外はやはりわからないことだらけだ。
それにあの死体。やはりおかしい。死体から伝わる状況はちぐはぐで、間違いなく美月が嘘をついていることを指示していた。それを解き明かすことが僕にとって必要なことなのかもわからないけれど、きっと美月にとっては必要なことだ。目を閉じて状況を整理する。目を閉じて……状況を……。
【コンコン】
ノックされたドアを開けると、あいつが立っていた。外はいつの間にか暗くなっていて星空が暗闇の中で煌々と輝いている。
「明日帰ろうと思うんだけど、それでいいよね幸太郎。明日からはちゃんと住み着かせてもらうからよろしくね。」
それだけ言って部屋を出ようとする美月を手を引いて引き留める。
「藤原美月は幽霊なんかじゃない。あれはただの死体だ。それで、お前は誰なんだ。」
僕の一言に目の前の少女はぎょっとした顔をして、うろたえる。
答え合わせの時間だった。




