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第3話『裏社会最強のおっさん魔術師の黒の魔力』

 深夜三時。旧市街にある炎帝のアジトとされる廃ビルの前で、カズイチとユナイティア軍第三十七小隊の総勢三十四名が姿勢を低くして待機していた。


 彼等に待機の指示を出したのは小隊長のウィルではなく、カズイチである。


 ウィルは、自分を差し置いて部下に指示を出された苛立ちを隠そうともせず渋い顔だ。


「おいサエヤマ、何をしている? 敵に気付かれるぞ」

「そこら中に設置型の魔術が仕掛けてあるんだよ。気配で分かんだろ」


 肉眼には見えないが、廃ビルの周囲に魔力の痕跡が無数にある。設置型の魔術で

侵入者が近づくと自動的迎撃するタイプだろう。


 アジトの情報が簡単に取れすぎたと思った。


 やはり罠だ。


 撤退を視野に入れているカズイチに対して、ウィルは焦れているようだった。


「サエヤマ、いつ突入するのだ?」

「焦れるなよ。下手に突っ込むと向こうの思うつぼだぜ」

「何を言うか! 魔術式大量破壊兵器の加害範囲を考慮すれば、使われたが最後、首都機能が麻痺するのだぞ! そうなる前に制圧する! 突撃!!」

「なッ! 馬鹿!!」


 ウェルが木の大杖を突き出しながら指示を飛ばすと、第三十七小隊が一斉に突撃を開始した。


 いくらなんでも無茶苦茶だ。無謀すぎる行いに絶句して、カズイチは出遅れる。


 先頭を走る小隊員が廃ビルの出入り口から内部に足を踏み入れた瞬間、爆炎が噴き出して小隊員を飲み込んだ。


「うわああああ!」


 小隊員の悲鳴が轟くもウェルは杖を振り、廃ビルを目指した。


「恐れるな!! 国王陛下と女王陛下のため! そして民のため進めぇ!!」


 軍人にとって上官の指示は、絶対だ。どんなに無謀でも無茶でも従うしかない。けれど、これでは死んで来いと命令しているようなものだ。


 小隊員たちにも待っている家族や仲間がいるはずだ。こんなところで死なせられない。


 カズイチが廃ビルへと全速力で走ると、廃ビルの壁面の複数ヶ所に魔術陣が展開される。


 魔術陣は橙色に輝き、中心から炎弾を放った。壁のような密度で弾幕が迫り、小隊員たちが一人また一人と炎弾の餌食となる。


 カズイチは、両拳に魔力を込めて、自身を狙ってくる炎弾を叩き落としていく。一発一発の威力は軽い。直撃してもそこまでのダメージはなさそうだ。


 しかし数が多すぎる。ウェルを含めた小隊員のほとんどが炎弾の対応に追われ、廃ビルに辿り着けていない。


 ビルの中に居るギルド炎帝の連中も、今頃は逃げる準備をしているはずだ。


 数発貰ってでも強引にビルに切り込んで設置式魔術を破壊し、一気に勝負を仕掛けるしかない。


 カズイチの右手に赤黒い放電現象が起こる。


 炎弾が弾けた際に発生した魔力を赤黒い放電が絡め取って右手に吸収していく。


 炎弾から逃げ惑っていた小隊員たちの視線が一斉にカズイチへと注がれ、ウィルも驚嘆の表情を浮かべた。


「あれが拒絶反応を伴わず他者の魔力を吸収する……竜王の〝黒の魔力〟か!?」


 吸収した魔力を籠めた右手の人差し指と中指を揃えて伸ばし、親指を立てる。


 カズイチの右手全体を紫電が覆い、中指と人差し指から刺突剣レイピア状の刃が伸びた。


紫電の剣エペ・エクレール!」


 剣を突き出してカズイチが廃ビルへ突進する。身体活性化によって獲得した踏み込みの速度は雷に匹敵し、炎弾の弾幕を躱して廃ビルに辿り着くと同時に跳躍した。


 ビルの壁面を垂直に駆け上がりながら紫電の剣で設置型魔術の発射台を破壊していく。


 ビルに落雷のような軌跡を描いて下から上に駆け抜け、瞬きする前に全ての魔術陣を無力化した。


 屋上に辿り着いたカズイチは、右拳に魔力を込めて屋上の床に拳を突き立てる。


「爆竜拳!」


 打突と魔力爆発の衝撃が床を抉り、カズイチが廃ビル最上階に侵入する。


 室内には何も置かれていない。人の気配はなく、魔力も感じない。


 おまけに内部には、設置型魔術の罠を仕掛けていないようだ。文字通りのもぬけの殻である。


 カズイチは警戒しつつも迅速にビルの捜索を始めた。


 けれど最上階から地下一階に至るまで全てをくまなく探したが、ギルドの構成員らしき者は誰一人居らず、しかも魔術式大量破壊兵器も見当たらない。


 罠で足止めする間に逃げられたか。それとも最初からカズイチと軍をはめる罠か。


 いずれにせよ、まんまとやられた。失敗だ。


 軍から回された仕事で下手を打った。


 己の失態に苛立ちを覚えるも、それより許せないのは、ウィルの突撃命令だ。無謀な作戦で部下の命を危うくした。


 仲間や部下を大切にしない者に、組織のトップ足る資格はない。


 カズイチが廃ビルの外に出ると、ウィルが偉そうに腕を組んで待っていた。


 その姿を見た途端、カズイチが内側にため込んでいた憤怒の情が一気に噴き出した。


「ウィル……てめぇ、この野郎!!」

「何故無謀な突撃をした?」


 ウィルの一言で食って掛かろうとしたカズイチの思考と動作が一瞬停止する。


 部下に無謀な突撃をさせたのは、ウィルだ。


 カズイチは彼の部下を救うために行動しただけだ。


「てめぇ何言ってやがんだ……部下を危険にさらしたのはてめぇ――」

「隊長の指示を何故聞かなかった!」


 突然小隊員の一人からカズイチへの抗議の声が上がった。


 どういうことだ。何故ウィルではなく、こちらが糾弾されるのだ?


 抗議はこれだけにとどまらず、非難の声の集中砲火がカズイチに浴びせられる。


「そうだ! 連携を取らずにお前は独走した!」

「ギルドのはみ出し者め! 恥を知れ!」

「隊長、だから私はギルドの者を使うのは反対だったのです!」

「全部お前のせいだぞぉ! 何が竜王だ!!」

「恥を知れ! このチンチラ風情がッ」


 一体何がどうなっている。彼等が糾弾するべき相手は小隊長だろう。


 それなのに、この場所に味方は、一人も居ない。全員カズイチを敵視していた。

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