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幕間『悪魔』

 一人の女の子が短剣を持って赤い光が漏れる扉の前に立っている。


 部屋の中から悲鳴が聞こえていた。女の子が扉を開けると、赤い光に支配された空間に、悪魔と幼い獣人が居る。幼い獣人が嫌がっているのに、悪魔は笑っている。


 許せない。絶対許さない。


 女の子が悪魔の背中に短剣を振り下ろすと、悪魔が叫んだ。


「何故こんなことを!? どうしてこんな……恩を忘れたのかァ!?」


 女の子は、小さな手に握りしめた短剣をもう一度悪魔に振り下ろした。


 切っ先が皮と肉をつぷりと破り、赤が飛び出してくる。


 悪魔はまだわめいている。だからもう一度刺した。


 それでも悪魔は黙らない。だからもう一度刺した。


 またまだ悪魔は黙らない。だからもう一度刺した。


 刺した。


 刺した。


 刺した。


 刺した。


 刺した。


 悪魔が動かなくなるまで刺し続けた。


 悪魔が動かなくなったのを確認した女の子は、短剣を捨てて幼い獣人を抱きしめた。


 もう大丈夫。怖くないよ。もう君を傷つける悪魔は居ないから。だから――。


「もう泣かないでエル」

「……クリス……うしろ!」


 クリスが振り返ると、赤い悪魔が襲ってきた。悪魔はまだ生きていたのだ。


『クリス』


 誰かが呼んでいる。


『クリス』


 大好きな人が呼んでいる。


『クリス!』


 だから目覚めなくちゃ――。


「クリス!」


 クリスがまぶたを開くと、そこは昼下がりの陽光が差し込む便利屋部の部室だった。


 昼休憩の時、部室に来たのだが、長机に突っ伏して寝てしまったらしい。


 へにゃりと獣耳を萎らせたエルが長机に顎を乗せ、心配そうにこちらを見ている。


「クリス。うなされてた。大丈夫?」

「う、うん。なんでもないよ!」


 クリスは、目じりに溜まっていた涙を拭って笑顔を作った。


 便利屋部には、今クリスとエルの二人きりだ。カズイチとリリーは、ガルドという生徒を探しに行ってしまった。昨日ラッドマン先生から依頼を受けたきり、二人は学校に来ていない。しかも今回はギルド絡みで危ないからと、クリスとエルの同行を禁じたのだ。


 そのことに怒ってふて寝したのに、結局また思い出してしまった。


「カズさんもリリーちゃんもひどいよね。私が便利屋部の部長だぞ!」


 イライラを紛らわせようとエルの獣耳をモフモフする。銀色のふわふわの毛並みは、いつも心を落ち着けてくれるが、カズイチとリリーへの怒りを帳消しにするには足りない。


「エル!! 尻尾も貸してちょうだい!! 今日は耳と尻尾のダブルを所望します!!」

「うん。それはいいけど、でも今回は、本当に危ない。クリスは行かないほうがいい」


 エルまで口を揃えてしまうと、クリスにはお手上げだ。


 だけどクリスは知っている。エルには押しの一手が有効だと。


「……ねぇエル」

「うん。二人の後は追わない」


 お願いを読まれて先手を打たれた。バッサリと切り捨ててくる。


 諦めきれずにクリスは、エルの耳を激しくモフモフする。


「エルなら追えるでしょ! お願い!! 仲間外れは嫌なんだよ!」

「クリスわがまま。それにいじわる。そんな顔されたら断れない」

「え、そんなにかわいい顔してる? やめろよー照れるぜー」

「……命の恩人にそんなに悲しそうな顔されたら断れない」

「えへへ……」


 クリスがウィンクすると、エルは苦笑いしながら愛用の大杖を構えた。

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