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第13話『おっさん元魔術師と便利屋部の初依頼』

 アルティシア魔術学園の十階にある便利屋部の部室に、夕日が差しこんでいた。


 カズイチ、クリス、エル、リリーの四人はパイプ椅子に座り、長机の上に広げたクッキーやスナック菓子をちまちまつまんでいた。


「なぁクリスさんよ、探しに行こうぜ依頼者」


 クリスは、ポテチを二枚アヒルの口みたいに咥えて、ちっちっちっと指を振った。


「カズさーん、焦ってはだめだよー。こういう時こそドーンと構えるのが大物さ」

「焦ってんだ俺は! 一週間に十件も依頼来るかなって思ったよ!? 案の定来ねぇ!!」


 便利屋部を開設してから二日経ったが、依頼者は一人も現れていない。放課後になると四人で部室に集まり、お菓子を食べているだけ。これじゃあまるでおやつ同好会だ。


 危機感を覚えたカズイチが席を立つと、エルがポテチを摘まんで差し出した。


「食べる?」

「食ってる場合じゃねぇ! 俺は、依頼者を探しに行くぜ!!」

「うん。じゃあ提案。私が人を襲う。カズイチが助ける。完璧」

「完璧なマッチポンプじゃねぇかッ!! 絶対ばれんだろォ!」

「その時は、その時」


 銀色のふわふわ尻尾を振る姿は子犬のように愛らしいが、発言は犯罪者並みに物騒だ。


「嫌だよ!! リリー先生よ! 教師として何とか言ってやれ!!」


 リリーは、赤い髪を指に巻き付けながら勝ち誇った顔でポテチをかじった。


「腹立つなその顔!!」

「だってあたしが勝ってるもん」

「くそっ!! やっぱり依頼者探してくる!」


 このまま負けるのだけは嫌だ。絶対に嫌だ。カズイチが部室を出ていこうとすると、突然部室の扉が開かれた。


 黒髪の気弱そうな男子生徒が一人、部室の前に立っている。


「あ、あのぉ……便利屋部の部室って、ここでいいんでしょうか?」

「……おっしゃあああああああああ!!」

「ひっ!?」


 歓喜の雄叫びを上げるカズイチが怖くなったのか、男子生徒が逃げようとする。そうはさせるかと、がっしり両肩を掴んで捕まえ、部室の椅子へ強引に座らせた。


「よう、あんた名前は?」

「ユーリ・エヴァンスです……高等科三年です……」

「ユーリだな。どんな悩みでも解決するぜ! で? 依頼の内容は……っと部長頼むぜ」

「よし来た!! 私は、便利屋部部長のクリス・エルトールだよ! 依頼内容を聞かせてくれる?」


 クリスが腰に両手を当てて胸を張ると、ユーリは俯きながら口をまごつかせた。


「そ、その……うちの部活を助けてほしいんです」

「ほうほう! 部活って何やってるの?」

「実は……僕スカイブルーム部の部長をやっているんです」


 スカイブルーム。聞いたことのない単語だ。


 カズイチが首を傾げると、エルが不思議そうな顔をする。


「カズイチ知らない? 最近若者に流行ってるスポーツ。箒に乗って空を飛ぶ。超有名」


 数百年前、箒などに乗って空を飛ぶ飛行魔術による移動が魔術師の間で大流行した。


 けれど今では、飛行魔術を使う魔術師は、ほとんど居ない。


 飛行魔術は、人間という空を飛ぶのに適した形をしてない生物を強引に飛行させるため、魔力の消耗が非常に多く、バランスを取るのも難しい。


 さらに魔術が進歩するにつれて魔術師の戦闘は高速化の一途を辿る。大量の魔力消費と繊細な制御を必要とする飛行魔術は、射撃魔術や誘導魔術のいい的にしかならなかった。


 それが今や若者に人気のスポーツとは、世の中何が流行るか分からないものだ。


 世代のギャップを感じながらカズイチは、窓から茜色の雲が漂う夕空を見た。


「ふーん。箒で空って、そりゃまた古風なもんが流行ってんな」

「で、でも素晴らしいスポーツなんです!!」


 ユーリの態度は、今までの気弱な印象から一転、燃え盛る炎のようだ。


「バランスを取るのも難しい! 魔力の消耗も激しい!! 現代では、飛行魔術は、戦術的優位性が低いとされています。だけど飛行機ではなく、自分の力で空を飛ぶ快感は他に代えがたいんです! そうだっ!! カズイチさんもやってみませんか!?」

「え? 俺が?」

「ええ是非!!」


 熱い。熱すぎる。正直言ってそこまで興味はないが、これを断ったら絶対に変な空気になる。というかユーリの熱量が高すぎて怖い。カズイチは笑顔をひきつらせた。


「やって……みよっかな?」

「是非!! さぁこちらへ!!」

「お、おい!? 引っ張るなよ!」


 静止も聞かずユーリは、カズイチの手首をがっちり掴んで走り出した。

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