第六話…… 『宮廷魔術師の後始末(おしごと) その6』
……彼が残してくれたのは、 明るく綺麗な希望の光、 まるでストーブの上で温めたメイサのミルクの様に暖かく、 アクセントのスパイスの様にピリリと沁みる
干し草の匂いを運ぶ風と、 土の匂い、 午後の眠たげな陽気で、 迎える彼の温もり……
ずっと続けば良いと願った幸せな日常が、 永遠だよと囁く、 残酷な嘘…… 見た目だけ煌びやかなまるで価値のない宝石の様な光を放つ希望の色が、 胸に残って消えてくれない……
ぁぁ、 酷いな…… あんな幸せな顔して自分だけ先に行くのだから、 卑怯なくらい、 酷い人だ………
………
パリィンッ………
ガラスの割れる様な音と、 眩い光に包まれて、 再び目を開ける時……………
…………………………
ふぅ………
《セイル森林地帯》
先程までいた森の景色が見えてくる、 森は鎮まり返っている、 そこに立つ二人の少女、 ゴシックな黒のドレスを揺らすこれまた黒髪の少女、 編み込まれた赤いリボンと血の様に深い真紅の口紅、 そして刺す様な白い肌、 宮廷魔術師・『大魔等級』、 リザ
彼女が口を開く……
「……あら、 今度のドレスは、 うん、 素敵ね、 サイズもピッタリだし、 貴方の底抜けの明るさを邪魔しない素直な綺麗さが有る、 良いじゃない、 あのドレスは選んだ人間のセンスを疑うレベルだったけど、 彼はデザイナーとしてもレザー職人としても惜しいくらいセンスあったのね~」
はははっ……
リザの正面で彼女が笑う、 崩れた二つ結びを結び直しながら、 新調したドレスを身に纏い…… 笑顔は曇っていて、 涙さえ流れている、 確かに似合わない泣き顔だ……
「……明るく何て無いよ、 私は、 私が暗くなる事で人を困らせたく無かっただけ、 嫌われるのが怖かったから…… でも、 ゼンと居る時は心の底から笑えていたんだ……」
だから……
「酷い…… 酷いよね、 共に生きてくれって…… 笑えない、 ゼンが居ないと私は心の底から笑えないのっ……」
下を向く、 リザの対面に膝を着く少女、 『魔王軍残党』最後の生き残り、 イブレイ、 一時はリザの支配下に置かれた彼女は、 それを自力で外している
サイズの合わないドレスは散々汚して脱ぎ捨てた、 今は彼が、 ゼンが最後に仕立てたドレス、 彼の能力により、 彼自身の血骨を抜いてなめされた、 ゼンの革のドレスを纏う……
これで……
「……傍に居てくれって、 笑えないよ………」
「……そうね、 男は勝手なものよ」
はぁ………
イブレイが頭を抱える……
「ねぇ? 『魔王』様…… リザ……」
「どっちで呼んでくれても良いわ、 それで、 何?」
…………
「……リザ、 私はどうしたら良いの? 今更分からないよ、 どうやったらゼンと共に生きられるの? もう彼は居ないのに、 どうやったら………」
失意に暮れる彼女へ、 それでもリザは……
「それに答え何て無いわ、 有るなら私だって、 誰だって苦労はしない、 それはね、 自分で、 自分の心に決着をつけるしか無いの」
でもそれは今じゃない……
「何故彼は貴方に託したのか、 何故与えたのか、 何故笑ったのか、 何故熱をくれたのか…… どうして救ってくれたのか……… それに答えなんて無い、 答えは自分で作らきゃ行けない、 残酷よね」
それでも……
「答えを出す為に、 私達は生きるの、 そのどんな瞬間も、 必死に足掻いて、 ひとつたりともこぼさずに、 考えて考えて考え抜いて、 貴方は彼の想いを考え続けて進み続ける」
大丈夫……
「こっちの気なんか知らないで、 いつか必ず命は足を止める、 くたばった時、 初めて、 その答えは、 貴方の必死の足掻きを見ていてくれた彼と一緒に、 答え合わせすれば良いのよ」
っ……
イブレイが震える……
えぇ、 そう……
「……でも残念、 貴方を含めた『魔王軍残党』を一人残らず葬る事が、 私にとっての人生の足掻きだから…… 言ってること分かる? 貴方が何をするべきなのか、 適当な当たりはついたかしら?」
ザッ……
イブレイが立ち上がる、 膝の砂を落として……
「……分かってた、 応えてくれてありがとう…… 私は私の人生の足掻きをする為に、 向こうでゼンと笑い合える様に…… 彼が残してくれたこの想いを胸に生きる為にっ!」
私は………
「ここでっ!」
「この場所でっ!」
互いの障害を………………………
っ
「イブレイ、 貴方をっ!」
「リザっ! 貴方をっ!」
ビッ!
「「殺すっ!!」」
ッ
ボォンッ!
リザの指先で膨れる魔力弾、 脳内詠唱で五段階、 先程の領域の構築により既に、 大精霊ニコラから一時的に預かったこの森での魔力操作権は返還している、 そして、 『魔王軍残党』 が貼った結界の消滅条件は仲間の完全なる壊滅、 イブレイが生き残った内は継続する
リザに残されたのは、 人間の魔法を捨て、 一芸にばかり特化した高出力のじゃじゃ馬な『魔国式結界』を、 魔力操作権の返還より前に与えられ、 領域解除後に体内に残った残存魔力による運用、 ベストは、 開幕直前、 最速の広範囲魔力弾による対象の完全消滅っ
ッ!
「閻魔弾っ!!」
ボッ!
ッ、 ガァアアアアアアアアアンッ!!!
ボォオオオンッ!!
…………
大きな土煙、 姿を消すイブレイ、 いや煙の中に、
キラキラと、 舞う、 業魔刑・麗転誅伐、 体を砂状の刃に変えて舞う、 それは、 全身が刃であり……
ギリッ!
っ
「魔国式結界・弥弥戸羅俱」
ギィンッ!!
すんでの所まで、 土煙を大きく立てたのは相手に取って都合が良かった、 砂粒の刃の接近に気が付きずらい、 だが……
魔国式結界・弥弥戸羅俱は超強固な防御結界だ、 複雑なプロセスで構成されたこれを破壊する事は簡単ではなく、 撫でる砂の刃も小さな傷一つ残さなかった、 このまま削る………
ッ、 バァンッ!
……?
………リザの盲点は二つ、 一つ、 業魔刑・帯断妖技の力に殺しは出来ない、 骨や血肉を抜かれても、 皮だけになって生きている
そしてもう一つ、 帯断妖技の発動条件は見るだけで良い、 それがどれだけ強固な結界であろうと、 半透明の結界の向こうにリザがチラリと見えればそれで、 干渉する…………
ビビビッ!
ッ
バギィンッ!
っ!?
リザの首の骨が皮を割いて飛び出す、 頸動脈を断ち切って、 砂状となったイブレイは全身が刃であり、 同時に砂となった未だ死なず消えないゼンの能力、 帯断妖技の発動条件の視認をする為の瞳になり得た……
全身が刃で、 全身が瞳、 二種の業魔刑の能力の完全融合、 二百数年に及ぶ『魔王転激』の中でも初めて見る光景……
ははっ!
パッ!
リザは飛び出す首筋の骨に触れると同時に全身に魔力の流れを作る、 肉体治癒の力を施し常時発動とした、 この無数の煌めく全ての砂がイブレイの瞳で、 ゼンの能力の発動条件を満たすと言うならあっという間に全身骨抜きになるっ!
常時回復何て、 エネルギーの超非効率大量消費だ……
全く……
フォンッ…………
魔国式結界・弥弥戸羅俱を解除する、 どうせあっても無くても変わらない、 回し続けるには少しでもエネルギー消費を無くす
全く……
「……何が居なくなったよ、 ちゃんと居るじゃない、 一緒に……」
麗転誅伐による砂は物理攻撃を殆ど受けないが、 魔法攻撃には弱い、 開幕の爆破も無傷では無いはず……
(……確実に削りきるっ!)
リザのエネルギーが尽きて、 回復が止まるのが先か、 リザの魔力弾が、 全ての砂粒を消し飛ばすのが先か………
これは………
っ!
「吹き飛べっ! 閻魔弾っ!!」
ボッ!
「行くよゼンっ! 業魔刑・帯断妖技っ!」
そういう戦いだっ!
…………………………………………………
……………………………
………
コンコン
?
「……は~い」
掃除中の事だ、 書斎の掃除中にノックが有り、 扉を開けると門番の騎士が頭を下げた
「マヤさん、 お客様が来ております」
?
「リザ様は今お仕事で出てきる所ですが……」
門番も頷く、 勿論知っているだろう
「はい、 しかしマヤさんが居るのならそれで良いと」
「私ですか? 分かりました、 直ぐに向かいます、 その方は応接室に?」
門番の彼が頷く、 その顔には何処か緊張があった、 来客は………
「マヤさん、 お越になったのは宮廷魔術師筆頭のザーザス・バングレイ様です」
っ!?
「えっ!? ザーザス様っ!? ……が、 私に御用と?」
門番は頷く……
これは一大事だ、 ザーザス・バングレイとは一度会った事が有る、 それは自分がリザの付き人としてメイドになる前、 いわばそれの面接の様な事をした時依頼だ……
こうしては居られない……
「お茶は出されましたか?」
「っ、 いいえ、 すみませんとても自分には、 その、 このお屋敷のメイドさんも、 殆どマヤさんだけですし…… 」
まあそうか、 リザが殆ど追い払ってしまったから、 宛てがわれた広い屋敷はいつだってがらんどうだ、 毎日掃除をするこちらの身にもなって欲しい
だが……
「謝罪は私の方で致しますが、 寧ろ適当な物を出さなかった事は良かったです、 お茶は私が入れ、 直ぐに応接室へと向かいますので、 貴方は門番の仕事にお戻り下さい」
門番が頭を下げて去っていく、 さて、 静かな午後の昼下がりにとんだ大仕事が舞い込んでしまったが……
華麗に…… 振る舞えば良い、 自分は宮廷魔術師・『大魔等級』、 リザの傍仕えなのだから……
…………
そうして急いで身なりを整え、 茶器を用意し、 焦ることなく応接室の扉をノックする……
コンコン……
「失礼致します、 マヤです」
ああ……
中からくぐもった声が聞こえる、 扉を開くと、 ティー・トロリーを押して中へと入る、 ソファーに腰掛け目を瞑っていたのは間違いの無い、 宮廷魔術師筆頭・『金楼等級』、 そしてこの地方都市レイザールの、 神式魔術学園大学の学長、 ザーザス・バングレイ本人だ
「遅くなり、 また、 お茶もお出しせず不躾で大変申し訳ありませんでした。 直ぐにお茶をお入れします。」
茶器、 茶葉、 茶菓子、 その全て、 その時、 その人に合わせる、 彼には渋めの香り高い紅茶と、 シックな色味のティーカップ、 くどすぎないほんのりとした甘みと爽やかなハーブの香りが鼻に抜けるお菓子を用意して出す……
「……ああ、 ありがとう、 こちらも急にやって来て忙しくさせて悪かった、 久しぶりだなマヤ…… ああ、 まあ、 座りなさい」
深く腰を折ってから、 スカートを抑え対面に座る、 ザーザスがお茶に口を付けて頷いた
「美味しいお茶だ」
内心嬉しさに少し笑ってしまう……
マヤは緊張と共に、 それでも知っている、 以前の、 リザの傍仕えの面接の時に感じた彼の印象、 ザーザス・バングレイと言う人が背負う巨大さに気圧されると共に、 多くの人が気が付かない一面、 賢老の仮面を取った彼の姿は………
ふぅ……
「ははっ、 嬉しいよ、 久方ぶりの甘味だ、 家じゃ妻からキツく禁止されていて、 最近じゃ肉も食べられないから野菜ばかり、 全く私はメイサでは無いと言うのにな」
ふふっ……
そう、 実は結構おちゃめなのだ………
「メイサだなんて、 私の村でも飼っておりましたが、 面白い事を言うのですね、 紅茶とお菓子はこの間のベーガルの遠征の折りに購入した物で、 お菓子も優しい甘みが有りますが、 メープルの葉から抽出した自然な甘さですので、 多少罪悪感は無いかと」
「はははっ、 言う事無しだな、 後でそのお店を教えてくれ…… いや、 食べ過ぎてしまえばどちらにせよ毒だな、 全く年は取りたくはない……」
はぁ……
一拍の間……
「……ところで、 ザーザス様、 リザ様はまだお帰りになりませんが、 私に御用と言う事で宜しかったでしょうか?」
「ああ、 そうだな本題に入ろう…… リザが帰っていなくて寧ろ好都合だった、 あの子はきっと私を来客とは思わないだろう、 不審がり玄関で魔法攻撃を食らうかもしれない……」
はは…… どうだろうか……
「マヤ、 リザは今回の戦いを君に話したかな?」
マヤは首を横に振る
「いいえ、 ただ飛び出して言っただけです、 そうですか、 また戦いに向かって行ったのですね…… 不安はありません、 リザ様は負けませんから…… 少し寂しいですが、 私はメイドですから、 主人に文句は言いません」
ははっ
マヤの言葉に不思議とザーザスは笑った
「いやなに、 以外にも私達の視野は広くてね、 不思議では無いだろうが、 リザには常に監視が着いているのだよ…… ふっ、 文句は言わないか…… その割には結構駄々を捏ねて居るのを目撃すると聞くが?」
っ!?
えっ!?
「ふっ、 あははっ、 図星かな? メイドのマヤ?」
ぅっ………
目が泳ぐ、 ザーザスは目尻のシワを深くして笑った
「責めている訳じゃない、 寧ろ私は関心している、 気を悪くしないで欲しいが、 リザはそれはもう生意気だろう? こちらがどれだけ融通し、 人や物を宛がってもその全てを跳ね除けた、 彼女は心に深い混沌の様な孤独を飼っていた……」
巨大な力を持つ故の恐れは有る、 だが何も恐れるばかりで良いとは思わない、 近寄りがたいオーラを出すリザをそのままにしてしまえば、 何も上手くは行かない、 例え表面上だとしても、 仲良くし無ければ人の関係は前には進まないのだから
「煮ても焼いても食えない子だよ、 あの子はなるべくして人を遠ざけて居た…… 私達は恐れる事でしか彼女との接点作れなかったから、 だから本当に良かった、 マヤ、 君はよく、 あのリザと仲良くやってくれている」
…………………
「……以外です、 正直宮廷魔術師様達は皆さん頭が固くて、 リザ様とは反りが全くあっていないのかと……… って、 あっ、 いやっ、 今のはそのっ」
はははっ
「あってないさ、 だが、 あんな物だろ? 子供とは生意気な物だしそう有るべきだ、 子供が我儘を言わない世界はきっと終末を迎えるのだろう、 それこそ、 老兵が若者の足を引く事など決してあってはならない……」
よくわからないが、 ザーザスは首を横に振った
「すまない、 この話はまた別だ、 私が言いたいのは、 マヤ、 君には感謝している、 リザにとってきっと君は特別な存在だ、 そういう人が出来たおかげに、 生意気だが彼女はずっと丸くなった、 まあ棘の付いた鉄球の様な時もあるけど」
ふっ
「彼女との旅先、 先のベーガル遠征や、 普段の日常生活、 例えばこの広い屋敷を君一人で管理したりと、 大変に感じていたりはしないだろうか? そう思っていたら正直に言ってくれ」
声色は優しい………
マヤは首を横に振る……
「いいえ、 全然、 私はリザ様と共にいる事が出来て幸せですから、 このままずっと傍に居られたらそれだけで、 どんな苦労も気にはなりません、 私はリザ様の傍仕えとしての仕事をこの上なく愛して居るのです」
……そうか
「ならば良かった、 仕事とはそうでなくては続かないからな、 私も未だこの歳でも魔法の研究が楽しくて仕方が無い、 どれだけ極めた気になり賢老等と呼ばれても、 ふと学生の一見トンチキな視点にハッとさせられる事が有るし、 それこそリザの様な才能ある者を見ると嫉妬してしまうのだ」
はははっ
「とんだ老害ジジイだろぅ?しかし、 それで良いのだ…… 『好奇心は猫を殺す』と言うが、 猫を生かすのもまた『好奇心』、 ソレの無い猫を果たして猫とは呼べない様に、 例え失敗や苦難が待ち受けていると知っても前に踏み出す事を忘れては進歩は無い」
さて……
「もう行くよ」
っ
「リザ様のお帰りを待たれては?」
「いや良い、 どうせあの、 彼女にとっては辛気臭く年寄り趣味の悪い会議室で会うことになる…… あそこもとても質の良い高級雑貨で揃えたのだが、 時代の変化は辛いな、 良さを理解出来るのはジジイとババアだけだ、 ははっ」
ギィッ……
ザーザスがソファーから立ち上がるのをマヤは慌てて支える、 何処かよたよたとしていて本当にお年寄りの体みたいだ……
いや、 今まさに世代が変わろうとしているのかもしれない、 仕事でも何でもそうだ、 ここまで前線にて引っ張りあげた老兵は引き、 満を持して次の世代の者がそれを引き継ぐ、 嘗て天才と呼ばれたザーザス・バングレイと、 いまこの時天才と呼ばれるリザ、 この瞬間に生きる事の素晴らしさを、 マヤは何処か、 改めて実感した……
………
待機していた馬車へ乗り込んだザーザスにマヤは頭を下げる
「ザーザス様、 私は宮廷魔術師様達のことを誤解していました、 私を人質にしてリザ様に無理強いさせて居るのでは無いかと…… 申し訳ありませんでした」
ザーザスは手を振る
「なに、 間違っては居ない、 君は知っているかな? 冒険者の明山日暮君だったかな? リザは彼の名前を出した時、 自分の手綱だと言って見せたからね、 皆飾っても似た様な事を思っている」
だが……
「立場が逆さ、 相手の顔色を見て人質に対する対応を取る犯人等居るかね? 脅しが強いのは向こうの方さ、 人質としてコチラの盾になってくれるのなら、 私達は君にどれだけの物を提供しよう、 ははっ、 滑稽な図だろう?」
やはり面白い人だ……
「リザ様の事はこれからもマヤにお任せ下さい、 リザ様が何かしでかしたらちゃんと叱るので」
「頼もしい限りだ…… それでは行こう、 ああその前にやはり先程の菓子を買ったお店を教えてくれ……」
キッ!
「お菓子っ! ザーザス様お菓子を食べたんですかっ! 奥様に報告させていただきます!」
っ!?
「かぁ…… そうだ、 煩い御者が居たのだ、 失言した、 まったく年は取りたくない…… はは、 それではね、 リザに宜しく言っといてくれ」
ガラガラガラッ………
……そう言って遠ざかっていく馬車にマヤは深く頭を下げる、 これは天職だった、 こうして主の帰りを待つ時間が、 メイドに取っての至福なのだ……
(……ありがとございます、 私にこの仕事をさせてくれて)
……さて ……
「リザ様そろそろ帰って来るかな、 お湯を沸かして置こうか…… いやいや、 掃除の最中でした、 ふふっ」
そうして笑い、 マヤは屋敷の中へと戻って行った………
…………………………………………
………………………
……
帰りを待つ者が居る、 背中を押す者が居る、 残してくれた温もりに、 想いに応えよう、 必死に足掻く者が居る……
ッ
ギラッ!
ギラギラギラギヤギラッ!!!!
ビッ!
「っ、 業魔刑・帯断妖技っ! 吹き飛べえっ!!」
ビッ! バギバギバギッ!!
ビジビジッ!!
っ……
骨が剥き出しで、 骨が肉を抉り出て、 直ぐに戻って行く、 リザはフルオートで常時治癒の力をぶん回し続けて居る、 だが、 信じられない…… 傷は治っても狂いそうな程の痛みは絶え間なく浴びて居るのに……
もう、 『魔王』だとか、 宮廷魔術師だとか、 天才だとか、 そんな測りには掛けられ無い、 これは、 リザの意地だっ
ピュンッ! ……
ボッ!
「閻魔弾っ!」
ッ、 ボガァアアアアアアアアンッ!!!
っっ!!!
対してこちらは、 どれだけ意地を貼っても、 どれだけ彼の残してくれた熱を抱きしめても、 砂状になっても確実に削りられる事、 吹き飛ぶ痛みに心が耐えられない
分かって居た…… 勝てはしないのだ………
……でも、 だからこそ分かっている、 勝ち負けは問題じゃない、 足掻き続ける事こそ意地だ、 最後の瞬間まで諦めなかったら、 ただそれだけで良いっ!
今は……
(……ああ、 本当にリザが言った様に、 向こうで貴方ともう一度会えたのなら、 私は、 褒めて貰いたい…… 頑張ったと、 言ってもらいたい……)
その為には、 頑張らなくちゃ行けないのだっ!!
(……っ、 このまま帯断妖技で削り続ける消耗戦は、 最終的に私が先に負けるっ! リザは全リソースを防御と単発の魔力弾に割いて、 防御結界を解いたっ)
考えろ、 そもそも魔力の結界を貼ったのは砂の刃を防ぐ為、 リザにとって砂の刃、 麗転誅伐こそ恐ろしい、 今すべきは、 この削りあいの硬直を破り、 確実に砂の刃で内から破り殺す戦い……
ならば……
木を隠すなら森…… 爪を隠すなら牙の中っ!
ッ!
ハジャンッ!!
煌めく砂が一箇所に集まる、 焦りを見せろっ!
「っ! 貫き殺すっ!」
ビジャンッ!!
砂の刃が一つに、 大きな刃を作りリザへと……
馬鹿……
「やるならもっと隙を付きなさいっ! 今の質量なら一撃で吹き飛ばせるのよっ!」
一箇所に集まったならばこれ程楽な事は無い、 後は魔力弾で吹き飛ばすだけ、 焦りから来たミス、 リザはそう思う……
スッ……
砂の刃がリザに到達するよりも前に……
最後の……
「閻魔弾っ!!」
ッ
ボガァアアアアアアアンッ!!!
………
爆炎が刃の全てを包み込んだ、 全てを消し飛ばした、 これで終わり…… リザの勝ち………
……………
業魔刑・帯断妖技…… それは魔力弾の爆音よりも早く聞こえた…………
ッ
カンッ!!
…………
爆炎の中から何かが飛び出す、 リザへ向かって一直線に射出されたそれは、 骨、 そうか、 砂状から一部人体へと戻した上で、 自分自身に対して行った帯断妖技の能力、 吹き飛ぶ威力で魔力弾の爆破範囲から抜け出した……
砂粒が、 刃であり、 瞳にもなるなら、 それらは全てに適応され、 ほんの少しの砂粒がイブレイの命に成り得る
骨一本部、 飛び出しリザに向かう骨が、 意志を持って再度、 リザが構え直すよりも早く、 もう一度崩れ、 砂状の小刀と化す……
っ
「死ねっ、 リザっ!」
ッ
ビジャァアンッ!!
ビシャッ!
ぅっ
刃が刺さる、 しかしここからが真価、 砂は体内に侵入すると、 そこから血管へ進行、 体内の至る地点にて内側から切り刻む……
確実に、 治癒魔法のエネルギーリソースを削り切る一撃を、 心臓を切り吹き飛ばすっ!
ジヤッ!
刃が血管を流れ、 その始まり、 心臓の内側で、 イブレイは笑う……
(……勝ったよゼン、 私達の勝ちだよっ!)
さあ、 切り刻めっ!
うぁああああああああああああっ!
ビッ!
砂の刃が心臓の内側を切り蹴破る……
遂に………
ビッ
ジャァアアアアアアアアンッ!!!
ビジュッ!
っ……
リザの胸が内側から裂ける、 刃が内側から生え、 外の新鮮な空気が頬を撫でるような、 そんな感覚……
……………………
?
イブレイは、 困惑した、 外の景色がどうも雲って、 半透明に見える、 何故だ、 視界が霞んで居る? いやいや、 まさかここは、 この場所は………
ガッ!
ははっ
「あはははっ! 痛ったぁ~ 胸が裂けて、 あははっ、 痛すぎっ!」
でも……
魔国式結界・弥弥戸羅俱、 再度展開………
しまった……
リザの体内を打ち破って出たと言うことは、 その前に結界を貼り直したと言うことは、 つまり……
「ふふっ、 痛いけど、 ようやく捕まえた……」
結界内に閉じ込められたっ!
スッ……
結界の中で躊躇いなくリザは指を向ける、 まさか、 この結界内で放てば、 イブレイは完全に吹き飛ぶが、 まさかっ、 それは自分も被弾するだろうっ!
まさか………
ギッ! ……………………
「ありがとイブレイ、 最後は笑って終わろう」
っ
「まっ、 リザっ! ………」
ッ
「閻魔弾っ!!」
ビッ!
ッ!!!
ガッ! ボッ!
ガァアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!
ドガァアアアアンッ!!!
………………
ボファンッ…………
………………
タッ……… タタッ………………………
っ……
ドサッ………
はぁ…………………………
「……流石に、 疲れた」
派手に薄汚れ、 自爆に髪の跳ねたリザは、 地面に転がった、 共に爆破した彼女の気配、 そして、 『魔王軍残党』の気配は一ミリたりとも感じはしない……
この戦いは、 リザの勝ち…………
それでも……
もしも、 こんな形以外で出会えて居たなら、 『魔王』とその部下、 生まれ変わりと消炭、 そんなつまらない関係では無くて、 全く別の出会いがあったなら、 友達にだってなれたかもしれないと……
思わない事は無いのだった……………




