第三話…… 『宮廷魔術師の後始末(おしごと) その3』
《貿易都市・『ベーガル』、 繁華街・『美味すぎストリート』内、 極上ステーキ処・『にくヤン』ベーガル店、 店頭……》
ガヤガヤ ガヤガヤ……
昼時、 人で賑わう繁華街の中、 特に長い列を作る店舗『にくヤン』、 色んな人の情報で、 ベーガルにて肉を食うなら絶対にココ、 との事で、 今日一日休みを取り、 激戦となる順番争奪戦に、 まだ日も登る前から参戦する……
「……そうだな、 やっぱり初めて来る店は一番推してる看板メニューを食べなきゃだな、 うわっ、 でもこっちのも美味そ~」
ぐるるぅ~
………
「腹減った、 やっぱ看板メニューにしよう……」
パタン……
一人の冒険者が列の前方から流れて来たメニュー表を閉じると、 自分の後ろの客へとそれを渡す、 後ろの主婦三人組ぽい人達が受け取ったメニューを開きあーだのこーだの言う声を聞き流しながら、 彼は鳴った腹を摩る……
予想外だった、 日も登らない頃に行けば先頭かと思ったのに、 全然列はもう出来ていて、 大体六時間待って漸く開店、 そこから少しずつ列が進む事、 開店から既に一時間と少し……
「ようやっと店の入口だ、 うわ、 いい匂い~ ここにくるまでっ、 朝飯だって食ってねぇんだっ! 肉肉っ! もう肉食いたいっ!」
店頭に置かれたかなりデフォルメされたあまり見覚えのない牛の様なキャラクターの彫像が日暮の期待を正面から受け止める様に腕を組んで居る……
曰く、 柔らかい肉、 溢れる肉汁、 脳が痺れるような旨味、 残念ながら異世界に白米は無いけど、 この辺じゃジャガイモに似た穀物を炊いた物がかならず着いてくる、 ステーキプレートについてるポテトと同じだと思えば普通に美味い……
ああ~
「腹減ったぁっ」
前の客が店内に入っていく、 おや? 前は団体だ、 みんな入ると、 次は確定で自分、 ここは一人用のカウンター席も有る、 つまり絶対に次はなにがなんでも自分何だっ……
ちらっ
開かれたドアから中を除けば、 厨房で肉を焼く店員が最も見えるカウンター席、 その一つ、 頭の寂しいおじさんが今、 遂にナイフとフォークを置くと口元を拭った……
あれは、 ああ、 完食だ…………
おじさんが席を立つ、 それをにこやかに見送った女性従業員が早くもお皿を片し、 席を拭き始める、 おじさんは財布を開いて会計、 あと、 あと数十秒後には自分は店内、 あの席に座る……
ぐるるぅ~
再度腹が鳴る、 ああ分かっているさ、 もうすぐあの従業員が和かな笑顔で自分を席へ導いてくれる、 これはそのファンファーレっ
さあ…… 来た、 女性がこちらに…………
……………………
シャランッ……………
「……いい匂いだねぇ、 私も丁度お腹が空いてきた所だったんだよ、 空きっ腹にこの匂いは中々酷だな」
…………
?
声がした、 店内から従業員はまだ顔を出さない、 後ろの主婦達や、 その他の喧騒でもない、 存在感のある声、 いや、 寧ろ繁華街の他の音が消えてしまったかのようにすら感じるほどの静寂に思えた
その中でした声は、 確実に、 面と向かった親友同士の会話の様に、 確実に自分に向いたのだと思ったので日暮は首を傾げ、 同時に声の方向を振り向く……
……女性だ、 壮年の女性、 そう言ったら失礼かもしれないが、 美しく、 大人で、 余裕が有る、 そして確実にこの空間の中で彼女は浮いていた、 存在が吐出している、 オーラか……
強い………
日暮は警戒する………
「列の最後尾ならはるか向こうだぜ? それとも俺? 俺に話しかけてる?」
そうだ、 そう言うように女性は微笑む
「あははっ、 大丈夫、 列を割って入ろうとはしないよ、 目的は後者、 君、 明山日暮くんかな? 冒険者の」
?
腹を空かせていた男、 これから食う肉の事しか考えられない一人の冒険者、 明山日暮は頭を回そうにも空腹で女性の質問に思考が行かなかった、 だから短く……
「……正解」
女性は満足そうに頷くと、 まるで握手でも求める様にコチラに手を出した、 正直面倒事の気配がビシビシとしている……
「なに?」
「ははっ、 まあ、 あまり気にせず、 ちょっと私と握手をしておくれよ、 私を助ける為だと思って、 ほらっ」
……………………………
「してくれたら奢るよ」
「いいぜ、 握手だ、 初めまして……………」
ギュッ……
明山日暮、 訳もわからず女性の手を握った直後……
……空気の揺れ
《宮廷魔術師・『銀塔等級』、 サセル・シブリース、 貿易都市『ベーガル』、 繁華街にて……》
バッ! …………
《大規模な座標間転移の魔法を使用……》
……………………………
ガララッ
「は~い、 一人でお待ちのお兄さ~ん、 カウンターに……… って、 あれ? え? 居ない、 列外れちゃったの?」
女性店員の、 これだけ並んどいてマジか、 と言う風な顔と溢れんばかりの喧騒、 そして常人には感じ取れない精密な魔力使用の痕跡だけが残された………
……………………………………
…………
当の、 腹を空かせた男は………………
………
「は?」
間抜けに大口を開ける、 突然景色が暗転し加速した様な気がした、 そう思った時、 次に見ていた物は、 寂れた廃墟、 灰色の壁、 腕を組んだ牛のマスコットも、 美味そうな肉の匂いも何も無い……
何も………………
ふわっ
上品な香りが揺れる……
「いや、 急に悪いね、 急ぎだった物だから飛ばさせて貰ったよ? 君、 リザの事は知ってるよね? 宮廷魔術師、 『大魔等級』」
さっきの女性で、 見れば呑気に煙を吹かしてやがる……
……………………敵 ……
いや、 敵意はない、 それに………
明山日暮は彼女の出した名前に覚えがあった、 ほんの少し前に散々な目にあった記憶がある……
「あのクソガキの仲間か?」
ふふっ
「そう、 本当に生意気な子供だよね彼女は…… だが実力は誰もが知る様に本物、 この世界の特異点、 そんな彼女に君は選ばれた、 いや、 面倒事を押し付けられたと言おうか、 私もまた、 その小間使いに過ぎない、 サセル・シブリース、 私も宮廷魔術師だ」
サセルは微笑むと、 直ぐに廃墟、 いや廃村の一角を指差す……
「感じるかな? この血腥い獣臭さ、 居るね、 この村はつい数日前まで健在した、 活気よく、 しかしこの有様、 それをやった犯人を殺して欲しい、 それが依頼だよ、 『下粋等級』、 明山日暮くん」
そういう事ね………
「……報酬はちゃんと払ってくれんだよな?」
日暮の確認、 それと同時だった……
ッ
ボガァアアアアンッ!!! ………………
………
音の方を見れば、 教会の日時計台が傾ぐ、 影が弧を描いて地面へと吸い込まれていた、 轟音と土煙、 それを割って出てくるのは……
ッ
「ボガアアアアアアアアアアンッ!!! ボォオオオオンッ!!」
……デカイ、 四足歩行の大型トラックぐらいある巨体、 地面を打ち付け踏み付けるシュレッダーの様な蹄、 筋骨隆々、 そして何より……
「あの逆巻いた巨大な角、 あれは『金楼等級』・瀑喰妓牛、 見てみなさい、 首元がバッサリ抉り切れて居る、 あれは一度死んでいる、 その上でああして生きているのさ」
そんな芸当が出来るのはこの世にただ一人……
「間違いない、 あれが我々の観測していた『魔国獣』だ、 『魔王』に操られる傀儡のモンスター」
ふふっ
「ああ、 あれは私より等級が上だ、 私では足止めは出来ても勝てない、 あれを倒してくれるのなら勿論報酬は弾もう、 地位も、 名誉も、 金も、 今の君には必要だろう?」
おや?
「相手は待ってはくれない様だ、 来るよ、 奴の突進を正面から喰らえば一溜りも無い、 一旦奴の背面に転移を………」
ザッ!
サセルは奇妙に思った、 先程の様に転移をする為手を伸ばした、 リザからの提案だったが、 自分が赴いたのは明山日暮を見極める為、 その為に戦いの補助に回る、 補助系の魔法は大得意だった、 しかし……
「違ぇよ……」
?
日暮は後ろを振り返る事もなく、 まるで目の前の巨獣に恐怖が無いように、 軽やかに前へ、 足を踏み出した……
「言ったよな? てめぇっ、 肉奢るって言ったよなぁああっ!! 」
ッ、 ドガァアアアンッ!!
日暮が叫ぶと同時に、 瀑喰妓牛が踏み込んだ、 突進、 石積みの協会をたった一度の突進で崩し、 その脚力を上へ活かし、 時には龍すら落とす、 その化け物の突進………
宮廷魔術師・『銀塔等級』サセル・シブリース、 は見た、 自分が血を吐く様な努力、 頭が割れそうな程の知識を頭に込め、 脳を回し続け、信心深い信仰の末にようやっと辿り着いた地位と力……
リザを前にした時、 感じた物と同じ、 それが薄っぺらく簡単に崩れてしまう………
明山日暮が、 叫ぶっ
っ
「ぶっ飛べっ! ブレイング・バーストっ!!」
ッ、 ボォンッ!!
膨らんだ、 空気だ、 突如巨大な畝りに似た空気が彼へと集まり、 圧縮、 膨大な力、 エネルギーの塊……
敵の突進加速後、 接近数メートル、 物凄い地響き、 サセルでさえ目を開けて居られないような、 あの数秒後にぶつかる巨大な塊への恐怖などまるで無い様に、 彼は笑っていた……
サセルは思う
(……ああ、 これは)
敵わない………
ッ
ドッ!
能力者、 神が齎した新時代のエネルギー、 それが人の可能性を引き出し、 歪む程に大きく逸脱させる、 それは時に、 物理法則すら容易に乗り越える、 正に大魔
『大魔等級』
………
「ウボオオオオオオオオッ!!!」
「うるせぇクソ牛っ! 死にやがれぇぁっ!」
一瞬の思考、 遂に、 化け物同士の正面衝突っ、 巨大な頭部、 敵を抉る瀑喰妓牛の角と、 明山日暮の、 指定方向に圧縮した空気を放つ能力、 ブレイング・バーストが、 ぶつかるっ
ッ
ボッ!
ガッ……
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!
ボォオオオオンッ!!!
………………
衝撃に思わず目を瞑るサセル、 強風にはためくドレスローブと、 一瞬陽光を大きく遮る影、 開けた薄目が見る……
っ……
大きく浮き上がり、 放物線を描く巨大な塊、 瀑喰妓牛が吹き飛んで居るっ、 サセルは思わず唾を飲む……
ッ、 ドガジャアアアンッ!! …………
……崩れた教会へと背中から落ちた瀑喰妓牛、 まだ立ち上がるだろう、 生命力の桁が違う、 しかし……
遅れて何かが地面を打ち付ける
ガァアンッ!! ………
角だ、 角が折れた………
ははっ
「あははははっ!! てめぇよく見たらっ! そうか牛じゃねぇかっ!! ステェーキっ!! てめぇが俺のステーキって事かぁ!!」
ジャギンッ!!
「おい魔法使いっ! 仕事はやってやるよ、 ああやるよっ! でもっ! 言ったんだから肉派奢れよっ! それが仕事ってもんだ! はははっ!!」
日暮が腰に手を回し、 刃を抜く、 ナタだ、 厚い刃には、 しかしただのナタでは無い、 何やらゴツゴツと、 骨の様な物が巻きついている、 見ただけで分かる……
「……能力に、 それに逸物まで持っているのか、 それにあの狂った戦闘思考、 成程流石は『大魔等級』だね、 いや今はまだ『下粋等級』なんだっけ? どちらにせよリザの目は狂って居なかった様だ、 ここは彼に任せても良さそうか……」
ああああっ!!
叫び、 抜いたナタを構え、 舌なめずりをして走り出す明山日暮に声を掛ける間も無く、 仕方なく肩を落とすとため息をつく
「私も忙しいのでね、 また後で迎えに来るよ、 おっと、 その前に……」
サセルは耳元に手を当てる、 小さな魔法陣が光を放つ、 それは通信系の魔法……
「ん、 ああ、 こんにちは、 私、 サセル・シブリースだ、 お店は繁盛してる? ……ああ、 そう、 それなら何より…… うん、 所で急に悪いんだけど、 今日の夕方頃なんか予約を入れられたりしないだろうか? ……いや、 私と大切なお客の二人だ、 個室が良い」
サセルは通信の向こう側の相手と親しげに話す
「あら、 そうかい? 悪いね、 忙しいだろうにありがとう、 助かるよ、 そのお客は肉料理を所望だ、 食べ盛りの若い男の子だし、 お腹が膨れる程用意してくれると助かるよ…… ああ、 本当にありがとう、 それじゃあまた伺うよ、 それでは……」
ん?
「こっち側が大きな音がして音が聞こえずらいって? ああ、 仕事の最中でね……」
あはははははっ!
モギュウオオオオオッ!!!
ッ、 ボガァアアアアアンッ!!
…………
「……ああ、 それじゃあね」
プツン……
通信を切るとサセルは少しだけ化け物のぶつかり合いを見て、 首を振ると、 彼女は来た時同様転移の魔法を発動し、 静かにその場を去るのだった………
……………………………………………
……………………
……
重苦しい沈黙、 底を這う様な闇溜り、 疼く混沌と降りる帳影、 人の思惑には何時だって、 日の刺さない暗がりが落ちている………………
………
ははっ
「ザーザス学長、 貴方もそう思うでしょう? ……我々の目的は一つ、 人間世界を揺るがす不穏分子、 天才魔術師・リザの抹殺と、 今度は我々の裁量で動かす事が可能な、 操り人形の『魔王』、 人類の更なる進化の為だ、 人の営みの為なのだ」
………
《魔法都市『レイザール』・『魔法都市立・神式魔術学園大学』領内、 レイザール所属宮廷魔術師館・会議室》
一人の越に浸った声が底を這って空気を震わせる、 国家にその実力を認められた魔法使いの最高峰、 宮廷魔術師、 国際的に定められた、 モンスター、 冒険者、 騎士団、 魔法連、 共に合同、 力量の等級基準により、 彼は人外判定により基準にムラが現れる最高等級の『大魔等級』を除けば上から二番目
宮廷魔術師・『銀塔等級』、 ジョシア・シーブ、 宮廷魔術師歴七年、 大学講師歴二十年以上、 今年で年齢四十七歳となるベテラン、 『魔王』や、 それの起こす災害の総称『魔王転激』の観測と研究、 『魔王軍』の扱う魔法の研究と対抗魔法の開発、 対魔王学のスペシャリスト……
彼自身の故郷、 両親、 兄弟、 恋人、 共に『魔王転激』により亡くしている………
そんな彼の内から出た言葉………
「生物の進化とは、 進歩や前進では無く一進一退、 何かを得るには何かを失う、 肉体が進化する時必要に応じて存在は環境に適応し、 不要な物を削ぎ落とす退化が伴うっ」
「足し引きなのだっ! ならば、 人の営みがこれより数百万年、 数百億年と永続する為に、 何者かが人類の引き算、 マイナスとならなくてはならないっ! 」
ずっと思っていた、 それが適切に、 都合良く操る事の出来るマイナス因子ならば……
「……ならば、 人類は真の前進による『進化』を果たすだろうと、 人類にとって『魔王』ば無くてはならないのだっ」
…………しかし ………
「以外ですなぁ、 ザーザス学長、 まさか、 魔法学、 ないし、 人道の最前に立つ貴方が、 まさかまさか、 こちら側とは…… 貴方も私の様な考えをお持ちで?」
ジョシアが円卓の最も偉い地位の者が座る椅子、 そこへ、 どさりと腰掛けた賢老、 宮廷魔術師・『金楼等級』、 ザーザス・バングレイへと嘲笑に似た笑みで問いかける……
ふんっ……
ザーザスは溜息に似た重苦しさで鼻を鳴らすと、 問に答えることは無く口を開く……
「こちらこそ以外だった、 ジョシア…… お前はてっきり『魔王』を憎んで居ると思っていたよ、 お前は失った側だった筈だ……」
「……ああ、 故郷や家族、 ルナ、 確かに私は失った、 自身の無力さを呪ったし、 悔やみ、 『魔王』を憎んだ……」
ジョシアは首を振る
「若気の至りでした、 気が付いたのですよ、 私がどれだけ足を止め涙を流し、 大切な者の亡骸の前で懺悔しようと、 神に祈ろうと、 それは、 私個人の問題、 時間に過ぎない、 世界は、 人々は、 命は、 魂は、 陽帝の威光も、 月帝の清灯も、 巡り、 輪転している」
グッ
「私が足を止めた時間は完全に無駄だったっ! 私と言う存在も所詮はこの世界のほんの一部、 勘違いしていた事が恥ずかしいよ……」
「……これは気づきだよザーザス学長、 『魔王』は悪では無い、 『魔王』さえも、 私、 ひいては『人類』と同じ、 この世界と言うシステムの中に存在するそれらでしかないっ、 『魔王転激』による混沌がどれだけ人を殺しても、 人が混沌に呑まれ苦しみ喘いでも、 見ろっ! 世界は止まらないっ!」
「ならば世界の停止とは何だ? それは即ち終末だ、 全ての停止なのだっ、 それを止めてはならないっ、 私は世界に取ってちっぽけだが無意味な存在では無いっ、 私もまた、 世界の輪廻と共に歩みを続けなくてはならないのだっ!」
誰もがっ!
「『人類』がっ! 『魔王』がっ! 全ての力がっ! この世界と言うシステムが廻り続ける為の、 前進、 進化し続ける為の『退化』で無くてはならなぁいっ!!」
……支離滅裂な、 狂っている様な言動だ、 目を見開き、 この世を語るには、 それは彼自身の思考、 解釈によって飾られ過ぎて居るように思った
はぁ………
ザーザスは深いため息をつく、 それがどうにも、 聞くに耐えない、 首を横に振ると、 流石にジョシアのお喋りな詭弁も止まる……
「……おや、 どうやら主義が合わない様だ、 そう言えば再三聞くが、 学長殿は何故こちら側に?」
……………
「………それとも、 まさか、 私の勘違いだったと言う事だろうか? この沈黙は…… ぁぁ、 そうだととても面倒臭いなぁ~ 全てを語ってしまった…… 学長殿、 どちらにせよこれ以上は時間の無駄だ、 話してくれ、 貴方はどちら側だ?」
ふぅ…………
息を吐くザーザスが凝り固まった口を開く
「勘違いでは無い、 お前の言った通り、 我々の中には二人、 『魔王軍残党』共と繋がっている者が居た、 私からすれば、 私と、 もう一人がジョシア、 君だと今知った、 我々は共に忙しい身、 そして目立つ身だ、 接近の数が増えれば自然と怪しい目を向けられる、 互いを認識して居なかったのは当然だ」
そうだろう、 それぞれ任務や研究に忙しく、 どちらも講師としての仕事もある、 今日の様に会議の際では無くては、 すれ違い会釈する事すらあれど、 面と向かって話す機会は無い、 そしてそれが増えれば逆に目立つ、 今回の作戦を完璧な物とする為には互いに知らない、 これが大切だった
その上で、 こうして今、 邂逅したのには、 今後の作戦の為だ、 今までは目立たせず、 これからはもっと派手に残党達には暴れて貰わなくてはならない、 その手綱を握る立場を互いに認識する為、 小さなアプローチを出し合い、 今こうしてここに二人顔を合わせる……
くははっ
「そうか、 いや、 理由等どうでも良い、 学長殿がそう言ってくれる、 それだけで良い、 もう一人が他でも無い貴方なら、 成程、 今作戦がこんなにもスムーズに進んだ事にも頷けるし、 この先もそうだろうさ…… いや、 良かった、 貴方に杖を向ける所でした…………」
ん?
そう言い、 しかしジョシアは目の前の光景に首を傾げた、 ザーザスが徐に懐に手を入れると、 取り出したそれをこちらに向けた……
杖……
「……どういう事か、 学長殿? 何故杖を向ける? 仲間と認識しあった折に……」
「ふん…… そう言いながら、 君も袖中の隠し杖を今もこちらに向けて居るだろう? ジョシア、 話は最後まで聞いてから決断しなさい…… 確かに私は『魔王軍』と繋がり手引きをしたもう一人だ、 だが、 君は何故私が? そう聞いたが、 私が手引きをしたのは…… 君の不穏な動向を見越した故だ……」
分かり易い言い方をすれば……
「私はスパイだと言う事だ、 『魔王軍』への、 な…… ジョシア、 君がこうして自白した以上、 私はこうする他無いと言うこと、 全く残念だ」
ザーザスは、 以前から、 宮廷魔術師の中に不穏な動きを感じ怪しむ、 密かに動向を監視し、 そして今、 彼、 ジョシアこそが『魔王軍』の残党と繋がりを持つ事を確信する、 思惑を阻止する為自身もそのスパイとして繋がりを持ったのだ……
…………
ははっ……
ジョシアはまるで呆れたように笑い首を振る
「いやぁ、 ははは、 恐ろしいですなぁ、 目の前で、 今、 かの「金楼等級」、 ザーザス・バングレイに杖を向けられて……」
くはっ、 はははっ!
「っ、 それもまぁ? 貴方がずっと若ければ、 ですが? 私は以外に視界が広くてね? 『魔王』の研究ばかりしている変人だと思われて居るが、 人間の観察も趣味なのですよ? ……ザーザス学長? 視力と聴力が半年前よりもまた落ちましたねぇ? 魔力操作に必要な知覚性に影響が出てきている?」
果たして……
「私と貴方、 早撃ち対決では、 今はどちらが上でしょう? 勿論避けるもアリです、 その水の溜まった膝で俊敏に動けるのならですが…… ははっ、 無理でしょう? 年は恐ろしいよ学長殿? あのザーザス・バングレイが、 今ではただのおじいちゃんだ、 はははっ!」
はぁ………
「しかし、 だから私は言ったのです、 理由等どうでも良い、 貴方が私達側につき、 このキャンペーンを後押ししてくれるならば、 他には何も望まない…… こんなくだらぬ争いで富や権威を失いたくはなかろ? ならば学長殿、 賢い貴方が選ぶべき選択は分かりますなぁ? 杖を下ろし、 私と次の作戦について話し合いましょう………」
よく見れば、 小刻みに震えるザーザスの皺だらけの手が、 円卓に杖を置く……
カチャッ………
「ふはっ、 それでよし、 貴方は賢い方だ、 我々は賢い宮廷魔術師なのだから、 馬鹿はあのガキだけで充分………」
スッ……………
?
ジョシアの目の前で、 ザーザスは両手を上げた、 まるで降伏を示す様な、 杖を机に置くだけで無く、 両手を掲げる……
「……おや、 別にそこまでしろとは言っていませんが? 不動の石老とまで呼ばれたアナタが、 流石に腰が低すぎると思います、 それは滑稽に写りますよ?」
……ザーザスの手のひらがくるりと両壁に向く ………
はぁ………
深い、 ため息…………
「もう充分だ、 証言も取れた訳だし、 茶番を終わらせよう」
………?
「……この状況で、 貴方は何を…… っ!」
ザッ!
ジョシアは自分で言い切らない内に嫌な気配を感じ杖を構える……
……しかし、 それよりずっと前に、 杖は彼に向いていた……
ザーザスが手のひらを向けた壁の方から………
ッ
バジュンッ!
ドォンッ!!
っ
ビジャアアアンッ!!!
「っ、 あああああああっ!! 誰だァっ!?」
………
次の瞬間にはジョシアの悲鳴が上がる、 魔法による裂傷、 多方向から飛んできたそれは、 ジョシアのローブを大きく切り裂く物、 鋭く貫く物、 どちらも気の早い様に、 ボタボタと血が湧いて出て居た……
ギョロッ
ジョシアが痕跡を辿り見る………
っ
「サセル・シブリースっ!! トマス・シドラーっ! 貴様らっ!! 何時からそこに潜んで居たのだっ!! 何故っ、 貴様らがここにっ!」
ぼぅ…… っと、 空気を押すように二人の人影が、 まるで霧でも押し姿を表す様に、 ジョシアを挟んで現れる、 互いに杖を構えそれを放った後の様だった……
宮廷魔術師・『銀塔等級』、 サセル・シブリース、 同じく宮廷魔術師・『銀塔等級』、 トマス・シドラー
妙だ、 ジョシアはそう思った、 何故なら今は、 宮廷魔術師達は皆、 出払って居るはずなのだ、 今作戦の為に、 リザだけではなく、 皆赴いている筈、 なのに………
ふふふっ
「私はさっき戻りましたよ? ああ、 ザーザス学長、 リザの紹介、 明山日暮は本物でした、 彼は『大魔等級』、 能力者で間違いありません、 魔国獣の反応は、 『金楼等級』・瀑喰妓牛でしたが、 まあ、 今頃ミンチかと……」
っ
「あっ、 有り得んっ!! アレを用意するのにどれだけの苦労をっ! いやっ! 待てっ! サセルっ! 貴様は『ナンタン』の南側防衛に出向いて居るはずっ! そういう作戦だっ! トマスっ! 貴様もっ! 『ホウテン』の北集落に向かった、 そういう作戦だった!」
何故…… いや、 まさか…………
「……偽の作戦、 先程の会議の作戦は、 全て……」
「その通りだ、 こうして言質を取る為に図らせて貰った、 覚悟をする事だジョシア、 君は頭がおかしい」
………………………
……ははっ
「……何故こうなった ……」
「難しい話しでは無いぞジョシア…… 我々がこうして君を断罪する事を考え始めたのはひと月も前の事だ、 準備をする時間は十分にあった、 お前は人間観察が趣味だと言ったが、 その割に視野が狭かったのだ」
ひと月前…… まさか……
「……リザか? ベーガルへ調査をしている頃では無いか? いや、 有り得ない、 あそこには私との繋がりを示す物は一つも………」
無かっただろうか…………
「相手は君が馬鹿だと罵った、 天才魔術師、 リザだった、 ジョシア、 君の敗因はそこだ、 彼女はかの調査より、 君の痕跡を知り、 秘密裏に私へ文を寄越している」
会議では語られることの無かった事実、 それは彼女の中身が、 その場にいた『魔王軍残党』にとって絶対的だったからこその、 服従を誓わせて、 全てを語らせて、 それから始末した……
恐ろしい程だ…… ザーザスは肩をすくめる……
何にせよ………
「……では、 今作戦は茶番…… いや、 違う、 私が手配したのだっ! 全ての魔力磁場の乱れ地点に、 既に総勢二万体、 『下粋等級』から『上粋等級』までに分類されるモンスターが放たれるよう細工したのだっ! その事実に変わりは無い!」
「その手配は私の仕事だった、 間違いなく、 既にモンスターの排出も観測している! サセルっ! トマスっ! 最前で率いる宮廷魔術師のお前達がここいいると言う事は、 最前線の戦況は芳しくはなかろ?」
はははっ!
「私と言う巣食う害虫を追い詰めたのは良いがっ! その代わりに平民は今も危機に瀕して居るのだろう? どうするつもりだ?」
まるで自身が受けたダメージを忘れた様に笑うジョシアに、 しかし名を呼ばれたサセルとトマスは首を横に振る、 その様に顔を顰めたジョシアにザーザスが言う
「……今作戦、 我々『宮廷魔術師』の仕事にモンスターの討伐や最前線での指揮は無いぞ、 お前自身言った筈だ、 先のは茶番の作戦会議だと…… 戦闘に赴いてるのは『セイル森林地帯』にて『魔王軍残党』と戦うリザだけ、 サセルには明山日暮の送迎を頼んだが…… それだけだ、 他は皆、 ここに居る……」
ぶわっ………
空気が揺れるのを感じ、 ジョシアは周囲を見渡せば、 いつの間にか会議室には、 壁に凭れる者、 頬づえを着き椅子に腰掛ける者、 お茶を飲む者、 ここには、 リザを除いた『宮廷魔術師』が全員揃っていた……
っ……
ジョシアも流石に息を飲む……
「言ったろう、 ひと月も前に分かっていた事だ、 何も手を打たぬ筈は無い…… と言ってもした事はほんの最低限、 ジョシア、 君の作戦では、 予めマーキングを付けたモンスターをそれぞれのマーキングと同じ色の魔法陣へと転送される仕組みだったね?」
「君に感ずかれない程度、 ほんの小さな事だ…… 例えば、 全ての色を統一する様に仕組んでしまう、 すれば一箇所対応すれば良い」
しかしそれでは、 二万体のモンスターを一箇所にて溢れされる事になる、 まさか、 一地点を切り捨てる作戦に……
「……ベラル国王が側近を遣わせた、 知っているか? 近衛のジラーチ・スベロウだ」
っ!?
ジョシアは流石に目を剥いた、 だがその話が本当なら………
「っ、 近衛騎士団・『大魔等級』、 殺理帰の従主・ジラーチ・スベロウだとっ! 何故国王が自身の右腕をっ!」
ジラーチ・スベロウの名を知らぬ者は居ない、 彼は『勇者』を除けば、 最も有名な『最強』の称号持ち、 『魔王軍』率いる『銀塔等級』以上の『魔国獣』約千体で構成された獣軍をたったの一晩の内に狩り尽くした最強の『能力者』……
数だけで言えば今回が上、 しかし、 質と、 奴の扱う能力を思えば………
「……二万の軍勢、 雑魚モンスターの寄せ集めでは、 余りにも足りぬとは思わないか? ……ジョシア、 終わりだ………」
冷徹なザーザスの声、 全ては筒抜け、 張り巡らせた作戦は全て砂上の楼閣、 そして崩れ落ちた今、 何が残る…………
………いやっ ………
…………
グッ………
っ……
ギュルッ! ………………
はぁ…… はぁ……
「……ジョシアが止血の魔法を使いました、 ザーザス学長、 どうします? トドメを刺しますか……」
ギラッ!
ジョシアが荒い息を吐くと、 ザーザスに振り向くサセル・シブリースの言葉を遮り、 吠えたっ
っ!
「まだだっ! はははっ! 話をずらすなよお前らっ!! 私の存在がバレたから何だ! 瀑喰妓牛が見知らぬ能力者に葬られたから何だっ! せっせこ用意したモンスターの群れがっ! 予想外の戦力に潰されようとっ!」
もう、 結果は出ている……
「『魔王軍残党』はっ! 今っ!! リザを無力化しているっ! ならばお前らがリザに変わるのか? あの『魔王』に継ぐ天才が破れたこの状況をっ! 誰が次に覆せるのかっ! あははっ! 何も変わらないのだっ!!」
叫ぶ、 ジョシアが、 さらにザーザスを睨む……
……ジョシアは隠していた、 それはザーザスも、 他の宮廷魔術師も気がついては居ない、 ジョシアの好きな芸当、 隠し杖、 それぞれ能力の異なる杖を身体中に仕込み、 適時発動する事で、 彼は連撃速度では他の郡を抜く……
そして、 ジョシアの隠し杖、 誰も知らない意表を着く最後の一本、 奥の手は、 彼の心臓に……
魔力発動と共に、 ジョシアの心臓も弾け自身も死ぬ事となるが……
(……こうなればっ、 私は死ぬも同然っ! ならばザーザスを、 道ずれに死んでやろうっ!)
そう、 思う……
っ!
ドクンッ!!
血管が脈を打つ、 体が、 心臓が熱い……
心臓に隠した杖、 『逸物級魔道具・ヒロリギリリ』が彼の血を、 命に牙を掛けた時、 リミッターが外れた様に、 ジョシアの魔力が爆発的に膨れ上がる……
っ!?
魔術師達が構える、 だがそれは余りにも遅い、 もう、 放たれる血の魔弾は音速を越え、 ザーザス・バングレイに引導を渡すっ!
「はははっ! 死ねぃっ! 腐れ老魔ぎゃああああっ!!!」
ッ! ……
ドッ!
ガッアアアアアアアアアンッ!!!!
バジュンッ! ……………
…………
破裂音、 ジョシアの胸が弾け、 そこから赤黒く鈍い光を返す魔弾丸…… その速度は空気を切り、 瞬きも出来ぬ程の内に、 ザーザスの眉間へと吸い込まれ………
………タンッ ………
ザーザスが机に手を置く、 いや、 正確には、 机の上の杖へと、 手を置いた………
………
ふっ………
「……レイ・ロード ………」
…………
っ
バシュッ! ……………………………………
……………………
……静まり返った、 不思議だった、 あれだけの威力、 質量の物が放たれ、 尚、 余りにも静かだった、 静かに紡がれた賢老の魔法……
まるで無かった事の様に、 魔力弾は、 霧のように、 正に霧散した…………
………
はぁ…………
その場にいた宮廷魔術師達は、 内心で思い出す、 同じ『宮廷魔術師』として選ばれて、 しかし、 与えられた等級が、 一歩踏みとどまった自分達、 そして確かに自分達よりも前に居る、 賢老……
『金楼等級』…… 『大魔等級』と言う化け物の影に隠れてしまいがちだが、 これは、 紛うことなき……
大御所なのだと…………
………
沈黙の落ちる会議室、 胸を盛大にぶち撒け既にしたり顔でくたばるジョシア・シーブ、 彼を見下ろして、 ザーザスは最も位の高い席にて変わらず口を開く………
「……ジョシアよ、 お前は本当に…… あのリザを見て、 『魔王軍残党』等を宛がった程度で勝った気になったのか?」
首を横に振る……
「何も変えられんさ、 お前の言った様に、 我々は所詮この世界のほんの一部、 そこは同調しよう…… しかしだからこそ、 お前も、 誰も、 誰にも変えられない事なのだ……」
静かに、 息を吐くザーザスは薄暗い天井を見上げる、 電飾に追いやられた闇溜まりが蠢く、 闇は深く力を持つが……
果たして……
「貴様と我ら、 『魔王軍残党』と、 小娘、 どちらの闇が深いか…… これはそれだけの話なのだ……………」




