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第二話…… 『宮廷魔術師の後始末(おしごと) その2』

「えっ、 じゃあ日暮さんのこと『宮廷魔術師』様達に言ったのですかっ!? それはちょっと可哀想じゃ無いですか? 平穏な日々が送れなくなりますよ……」


フワリフワリと揺れるメイド服が足を止めてコチラに訴えるように口を尖らせる、 それを聞き流しながらバックに必要な魔道具を詰めていく、 出来ることならば一網打尽にしたい、 ここで終わらせる、 逃がす気はない……


「リザ様っ! 聴いてますか! それはあんまり……」



「やかましいっ! 別に大丈夫よ、 あの人達も馬鹿じゃない、 下手に手を出せば手痛い結末が待っている事は分かってる筈よ、 私に恐れて居るのも有るし、 大前提として彼も『大魔等級』の能力者ノウムテラス、 未確認の能力者程恐ろしい物は無いわ」


どちらにせよ慎重にならざるを得ないだろう、 それに彼がこれから冒険者としてのし上がって行くなら、 必要なのは何も実力だけでは無い、 大きなコネが必要になる、 彼にとっても悪く無い話だ……


あっけらんかとするリザに、 しかし彼女の側仕えを務めるメイド、 マヤは表情を暗くする……


「……私の人質としての価値を下げる為ですか? 知ってますよ、 リザ様は何時も、 この間の『ベーガル』への調査や、 面倒事の押し付けを断らない、 いえ、 断れないのは、 『宮廷魔術師』様達が私の名前を出すからだと…… その矛先を日暮さんに移そうとしてる………」


マヤの声が、 彼女の入れてくれたお茶の様に、 冷めて行くように感じた……


はぁ……


「そんなんじゃない、 そろそろ私行かなきゃだから、 不在の間は宜しくね」



「えっ、 もう行かれるのですかっ!?」


マヤの声に振り返る


「ええ、 今回は本当に早めに対処しなくちゃ不味いわ、 相手の企は正確には分からないけど、 本当に録な事にはならない気がするの、 一秒でも早く対処するに限るわ」


ギュッ、 パタン、 カチャッ


魔法加工し、 見た目よりもずっと容量の多いバッグの内紐を結び、 バックル付きの蓋を閉めると立ち上がって自室の扉へ向かい歩く……


タッタッ


それを追いかけるマヤのローファーが上等な生地の絨毯にその音を吸い込まれていく、 リザがドアに手を掛ける背にマヤの視線が沿う……


「……リザ様、 どうかお気を付けて……」



「何よ、 珍しく元気無いじゃない、 何時もみたいにのほほんとお花畑みたいな笑顔で笑ってなさいよ」



「ちょっ、 流石に酷いですよっ! ……じゃなくて……」


歯切れの悪いマヤの仕草が何だか気になって、 リザは気が付けば足を止めていた、 調子が狂うのだ、 彼女には笑っていて貰わなくては、 何かキリキリとするのだ……


「マヤ、 貴方何か私に言いたいことが有るの?」


リザの問い掛けにマヤは少し視線を落として言う……


「……すみません、 でも、 リザ様何だか凄く焦っている様に見えて、 勿論緊急事態である事も承知していますし、 リザ様の立場も分かってます、 何より私はリザ様の強さをとても知っていますから……」


だから、 それは飲み込んで、 さっきの言葉が全てなのだ………


「リザ様、 どうかお気を付けて」


……………………


タッ


コチラを刺すようなマヤの目をすり抜ける様に、 しかし一旦、 扉とは反対にリザは歩く、 首を傾げる可愛いヘッドドレス、 リザはそのまま部屋の中へ戻る様に歩くと、 机の上に置かれたお気に入りのティーカップに指を通す


………そうかもしれない、 自分が人から常に恐れられて居ることは分かっている、 人の歴史の中で、 魔力に完全適応し、 高い精度の魔法理解を持つ者の代表角、 それが『魔王』なのだ


自分は『魔王』と同じだ、 よく分かっている……


そんな自分を怖がらずに、 逃げずに向き合ってくれる数少ない一人、 そして最も自分が心を落ち着けられる時間は、 マヤと居る時間だ、 思えば、 彼女の入れてくれたお茶に、 どれだけ忙しくても、 口を付けなかった事など無かった……


……自分は今、 酷く焦って居るのかもしれない ………


コクッ……


ティーカップを傾けると、 ぬるいお茶が喉を落ちて行く、 スッキリとした味わいで、 新鮮なフレーバーだ、 きっと彼女、 また新しい茶葉を買ったのだろう……


コトッ


「リザ様…… 言ってくれたら入れ直したのに」



「良いわ、 冷めても美味しいお茶はいいお茶だもの、 相変わらず貴方はセンスが良いわね、 マヤ、 ええ、 だから次に入れて貰う時がとても楽しみになったわ」


リザは今一度振り返るとマヤの目をしっかりと見る


「マヤ、 何時もありがとう、 私は、 貴方が居るから頑張れる、 だから、 行ってくるわね」



「はいっ、 お帰りになったら温かい物を入れますね、 ですから…… リザ様、 お帰りをお待ちしておりますっ、 どうかお気を付けて、 行ってらっしゃいませっ」


ガチャ


今度こそリザはドアノブを捻ると、 小さく手を上げた


「ええ、 行ってきます」


……………………………………………………………



………………………………



………


今を呪う、 今と言うこの瞬間を呪う……


過去はセピア色だ、 どれだけ辛い記憶も、 今となってはいい記憶と割り切れる、 終わった事だ、 不明瞭な部分にぼかしを掛けて、 多少脚色してしまえば良い、 納得できるか出来ないかでは無い、 過去の事は納得せざるを得ない


だから良い……


未来は膨らむ希望の色だ、 何時だって春を待つ様な気持ちで暖かく柔らかな物を思い描けば良い、 未確定な事なのだ、 悪い事は全部考えない、 曖昧さにかまけて胡座をかき上手く行くと、 期待に全てを丸投げしてしまえば良い


なのだから良い……


だが……


「辛いよ、 苦しいよ、 終わって欲しい、 もう終わって欲しいよ、 今を生きる事は酷く大変だよぉ~」


グジャッ! ……………


返り血が頬を濡らす、 シカに似た四足動物の首がゴトンッ、 と落ちてやがてそこからどろりと溢れ出す何やら奇妙な流動体に手を伸ばす


「……捕まえた、 良いなぁ、 貴方の苦しみはもう過去の物、 これ以上苦しまなくても良いのよ」


ギャアアアアアアッ!!!! …………


逃げようと、 バタバタともがき悲鳴を上がるのは、 シカの肉体を依り代としてこの森に暮らしていた精霊体であった、 この森の潤沢な魔力に適応し、 のんびりとゆったりと暮らして来たこの森は、 今変わりつつある……


細身の少女に見えた、 シカの首から溢れる精霊体を生気の無い青白い手で捕まえて、 それを口元へ運んで行く……


グジャッ! ベチャッ!


キャアアアアッ!!! ッ!! ………………


再び上がった劈く様な悲鳴はしかし直ぐにこの森の深い静寂へと飲み込まれた、 そこに立つ少女は血の涙を流す………


ぶらりんと、 こぼれ落ちた眼球を瞳からぶら下げて、 ギョロリギョロリ、 細い手が剣を引きずって刻む軌跡、 ボタボタと描く血のシミの後を辿れば、 彼女の歩む道程には既に数百の動物の死体が無惨に転がっていた……


ぶわっ


不意に、 森を抜ける血腥い風が吹いて、 少女の、 埃を被った様に汚れた薄緑のツインテールと、 地面を引きずる見るからにサイズの合わないゴシックなドレススカートを僅かに揺らす……


「……あの頃は良かった、 私は綺麗な私の過去を何時までも思い浮かべている、 あの頃の様にいつかなれる、 私は綺麗な私の姿を夢想し理想像を重ね合わせる」


でも………


ギョロリッ!


溢れた眼球が、 醜い姿の私を見つめる……


「っ! 今はどうにも変えられないっ! 今には美化する余地が無いのっ!! 止めてえっ! 苦しいっ! ぐるじいっ!!!」


「アギャアアアアアッ!!!」


自分の手で、 自分の首を絞めて発狂する、 明らかに異質な存在…… そこへ声が掛かる……


「イブレイ様、 先程四百キロ程南から飛行系の推進力魔法と、 固有魔法『魔国式結界』の発動を確認しました、 こちらの予想以内なら一時間から三十分、 予想外なら恐らく一分以内には、 リザが来ま………」



ドガジャアアアアアアンッ!!!! …………………………


………………………


突如として森に響く轟音、 溜息が出る……


「宮廷魔術師・『大魔等級』、 リザ、 予想より早く到着した様です、 イブレイ様……」



「ぎゃあああっ!! 来ちゃった来ちゃったっ!! 而今に生きる、 最も美しい魔力の波動っ!! えひゃっ、 ほしいっ!! ほしいっ!!」


グッ


バゴォンッ!!! ……………………


……………


「…………イブレイ様 ……………」


男が一人立ち尽くしていた、 零落目の少女イブレイへと報告に駆り出された男だ、 イブレイも、 この男も、 そしてこの森にて精霊体を殺しては食い、 魔力を蓄えて居るのは二人だけではない、 この者たちは魔王軍残党、 『業魔刑』の能力を持つ者たちである


数百匹のネズミの皮を繋げた衣を纏う、 これまた薄汚れた男、 名前はゼン、 チュウチュウッ! 衣が未だ断末魔を叫ぶ……


「………イブレイ ……様 ………そっ、 それはっ、 リザはっ、 俺のだぁアアアアッ!! 抜け駆けするなァッ!!」


グッ! ドガァアアンッ!!! ………


イブレイに遅れてゼンも踏み込む…… その先では……


………………………………



…………


シュッ………… 風きり音………


ギラッ! 刃の軌道……


ッ!


カァンッ!!


半回転で逸らした半身の傍を沿って刃が木の根を叩く……



「ひひぃっ! ははっ! 死ね死ねっ!!」



「あんたが死になさい」


少女が二人、 互いにゴシック風なドレスを揺らす、 方や薄緑の二つ結びが大きく揺れて、 剣を大ぶりで振り回す、 乱雑な様で居て一撃は確実に、 洗練された剣士の刃だ


もう方や、 くるりくるりと、 ダンスでも踊る様に剣の追従を躱す、 黒髪に映える赤のリボンが揺れては、 切れ長な瞳が睨み、 縫うように刺す……


キラッ!


翠晶刹すいしょうせつっ」


掌に、 まるで宝石の中で乱反射を繰り返した様な眩い彩色プリズムが発生、 滑る様に、 そこから指先へと加速し、 鋭い光は抉るような熱と速度を内包し、 射出される



ビジャアアアアンッ!!!


「っ!? うっ!!」


ガァアンッ!!


咄嗟に振り上げた剣にぶつかる異常な重さ、 吹き飛ぶエネルギーに自分から飛ぶ……


ッ、 ドザァアアンッ! …………


………


魔王軍残党・業魔刑覚醒者、 イブレイ、 と、 宮廷魔術師・大魔等級、 リザ………


「ねぇあんた、 何を企んでるの? 私がここに来た以上殆ど破綻した作戦なんだから教えてくれない? 分かりやすくね」



「ぎゃあああっ!! リザが私に話しかけてるぅっ!! こんなことあって良いのぉっ!! えへへっ」


…………


リザは頭を抱える、 つい先程、 少しでも無理をして、 魔法都市『レイザール』の時計灯台から、 飛行系の推進力魔法に超加速を上乗せ、 風を切って空を飛び、 目的地の森、 『レイザール』からは馬車で二週間は掛かるここ『セイル森林地帯』へものの数分で辿り着いた所だったが……


リザは周囲を見渡す……


「変な感覚ね、 魔力が上手に操れない、 今みたいなチンケな魔法しかまともに打てないわ……」


ブンッ!


イブレイが剣を振り上げる……


「ヒヒッ! 困ってるのぉ? そうだよねぇ~ 貴方は凄い魔法使いでねぇ? 龍災を退けた戦績が有るしぃ、 未来にもきっと活躍して栄光の中で輝く事が確定しているよねぇ~」


でもぉ……


「今っ! 今は違うっ!! あのっ! 天才魔法使いリザがっ!! 苦戦してるっ! 今この状況は変えられないっ!! きゃああああああっ!!!」



「うるさ…… 別に苦戦はして無い………」


叫ぶイブレイに早くも嫌気の指していたリザだったが、 先程、 周囲を見渡したのは状況を探る為だった、 複数の気配が近付いている……


ザッ


サザッ!


はぁ…………………


リザは思わず溜息を着いた、 確かに今この状況と、 意味不明でも零落目の少女の話す内容を精査すれば、 自ずと敵の狙いも見えてくる……


つまり………


ザッ!


「宮廷魔術師・『大魔等級』、 リザ…… 今お前を包囲した、 コチラには業魔刑の使い手が九人、 配下がざっと六百人お前を囲っている、 今お前は魔力操作に大きな制限を感じて居るだろう、 探知も出来ないだろうからコチラが開示をする、 諦めてくれ」



「成程ね…… ここは、 初めから私をぶっ殺すために用意した場所って訳? 確かに全然上手く魔力が扱え無いわ、 どういう理屈?」


発狂するイブレイとは違い平静を取り繕った様な、 一見落ち着いた男がリザの前に姿を表し語る、 良く見れば纏う衣はネズミの皮の継ぎ接ぎであり、 未だ動いているように見えた、 ゼンだ


ゼンが口を開く


「それを答える理由は無い、 だがこちらは何も事を荒立たせず穏便に済ませたいと思うからな、 別の説明ならしてやろう」


スッ…… ゼンが人差し指を立てる


「一つ、 お前が無抵抗なら楽に済むだろう、 二つお前が抵抗したら楽には済まないだろう、 三つ……」


スッ………


退屈な説明の最中、 リザがゼンに向けて手を向ける…… しかし、 その動きは全て観測されている……


ビッ!


音が鳴る、 リザの手首から………


「業魔刑・帯断妖技たいだんようぎっ……」


ゼンの術の使用、 音の鳴ったリザの手首が、 ボコっと肉が盛り上がる…………


ッ、 ベギンッ!!


「っ、 いたぁっ!?」


コロンッ……


リザは思わず手首を抑える、 見れば骨だ、 橈骨とうこつ、 親指側の骨だ、 手が震える、 何をされた、 見れば分かる……


骨が舐り取られた……


ベジャッ



「ああぁぁっ!?」


思わず膝を付き悶絶するリザ、 血が手首から溢れては地面を瞬く間に汚していく、 皮膚が抉れ裂けているのだ……


「……三つ、 面倒臭いから言う事を聞け、 そうでないならば、 血も、 肉も、 骨も、 全てを抜かれて尚、 このネズミの様に断末魔を叫び生きる事になるぞ?」


………………


周囲を囲うゼン、 イブレイを含む『魔王軍』は聞く、 しっかりと耳に届く、 地面に膝を付き丸くなるリザの絶叫が、 段々と角が削れ……


仮面が剥がれる………


ぅっ………


「っ、 うぅ、 ぃたっ、 ぅぅ………」


………


人類史を覆し、 堅牢で揺るがぬ魔術連を震撼させ、 宮廷魔術師の賢者をも恐れされる、 『魔王』に継ぐ、 魔力適性の化け物、 これが………


はぁぁ…………


「なんだ、 ただの子供では無いか、凡そ周囲に煽てられ鰭の着いた眉唾の戦績か、 半端な精神で強大な力を持ち、 実際今まで負け無しだったのだろうが……」


泣き声、 子供のする泣き声だ、 リザが震えている、 それを冷ややかにゼンは見下ろす……


「誰もお前を煙たがって、 煽て、 隔離され、 適当に小物を撒いた小さな池に王冠を被せられ放たれた哀れな子供…… お前と戦って何も産まないから、 皆恐れた振りをして立ててやっていただけ…… 蓋を開けてみれば、 矮小……」


アッ、 アアッ………


「っ、 おいゼンっ! 血ッ、 リザの血がどんどん零れて居るぞっ! 勿体ないっ! この美しい体は私の物だと言ったろうっ!」


流れ地面を汚すリザの血を見て、 イブレイは息を荒くする……


「ふん、 俺が欲しいのは肉体では無い、 それはお前の勝手だ、 そう思うなら抉れた手首から血でも啜ってやれば良い……」


ッ、 バンッ!!


イブレイが飛ぶ……


「うっひゃああっ! リザの血ィっ!!」


ザッ!


「私はお前に言われる前からそうするつもりだった! っ、 あっはぁ…… リザぁ…… いへへっ、 いただきまぁすっ!」


グッ! ドザッ


イブレイは力任せに無抵抗のリザを上から押さえ付け、 血の溢れる右手首を強引に持ち上げると、 まるで熟した果実を目の前に、 もう我慢出来ない子供のように犬歯を剥き出しにし、 かぶりつくっ


クジャッ! ジュルルルッ!


ぅっ……


「ぷはっ! 甘ぁぁいっ~」


熱に侵された様に頬が上気し、 興奮にイブレイは揺れる、 そうしてリザを見る、 血と土で汚れ、 涙を流す少女……


あぁ…… かわいそうだなぁ………


「……リザぁ、 痛いねぇ? 辛いねぇ? 苦しいねぇ? 輝かしい過去の賞賛も、 未来への希望もぉ、 今の私達を守ってはくれない…… 貴方は私に似ているね」


ベタッ……


イブレイは愛おしそうにリザの頭を撫で、 こんこんと湧いて出ては滴る血を、 ざらつく舌で掬って喉を鳴らした………


…………


それを傍から見ていたゼンは嫌悪の表情を見せる、 魔王軍残党の中でも特に、 ゼンは誰にも丁寧に接したが、 話の通らないイブレイの事は嫌いだ


「気持ちが悪い、 血が甘い訳が無いだろう、 血は鉄臭く観る者に怖気を震わせる、 死への恐怖を煽る故に生のエネルギー足る、 生きる事は甘くは無い、 ならば血もまた苦いのだカスめ」


はぁ……


ゼンはイライラとしていた、 内心で膨れる物に被せた蓋が外れ掛けていた……


(……呆気なさすぎる)


魔王転激まおうてんげき』にて、 魔王軍四天王の一角、 遊戦邸ゆうせんていのシドルド率いる軍勢の別働隊として組まれたゼン、 大国、 セイリシア南部の要、 壮刀城そうとうじょうを本体との挟撃にて崩す作戦だった


しかし、 それは未完に終わる、 壮刀城の守りは想定よりもずっと硬く、 落とせぬままに時間を掛けすぎたのだ、 結局それ故に、 勇者直属の最高位騎士団、 『八光騎士やつらいきし』の一人、 ライコ・ミルラージが率いた援軍に、 自軍が逆に挟撃される構図となり、 練度の低さを要因にシドルドは呆気なくライコに撃たれた……


そこからは軍はちりじり、 追随する騎士たちから必死に逃げ出した…… ゼンもその一人……


グッ!


人間は弱いと、 『魔王』は言った、 自分達には力が有ると…… しかし、 違う、 与えられた力を振りかざすだけの我々と違い、 人間の力とは、 もっと、 ずっと、 遥かに強固だった………


……足りない、 屈辱が身を焼く、 『魔王』が撃たれた事は最早関係が無い、 これは、 この戦いは、 宿命だっ、 我々は人間に挑み、 強者として下さなくてはならない、 淘汰する側に立ち、 世界に在り方を証明しなくてはならないっ


と、 思っている………


だからこそ……


「っ、 お前はこんな物なのかリザっ、 何を地を舐め蹲って居るっ、 泣き言を喚き弱者の格好を取るっ! 力があるんじゃ無いのかっ! 宮廷魔術師・『大魔等級』、 リザっ! 『魔王』に継ぐ魔力の使徒っ! 人間の代表っ! 最強の魔法使いっ! 簡単負けるなぁっ!!」


はぁっ、 はぁっ!


頭が熱い、 喉が痛い、 頭に来る、 何故こんなに腹が立つんだ、 イライラと、 ヒリヒリと焦れる、 纏うネズミ達すら黙って叫ばない、 そんな中ただ一人……


「ああああああっ!!! 振り払えっ! いつまで不格好でイカレ女に血何ぞ舐めさせているっ! 立てっ! 戦えっ! まだだっ! お前を倒す為にどれだけ準備を重ねたと思っているっ!」



「分かっているのかっ! お前の力っ! お前の内側っ、 魂はっ!」


ゼンは知っている、 それは嘗ての繋がりがそうさせるのか、 そういう話の前提で組まれた作戦ではあったが、 目の前に立って確信した、 この力の波動……


一人の勇者の無謀な画策と、 そこに被せた神のシナリオ、 二百数十年と続いた『魔王』と言う名の災害、 その力の『回収』による実質的な消滅……


『魔王』に匹敵する、 以来の魔力適性の化け物? それはある意味当然だろう、 何故なら目の前の………


「リザぁっ!! お前はっ! 『魔王』の生まれ変わりだろうっ!!」


……………


代を重ね、 新たな宿者に取り憑いてきた『魔王』と言う力、 しかし、 その最後の戦いは、 誰も見て居ない所で、 名も無き一人の英雄によって終わりを迎えた


神は『魔王』を回収し、 消滅させる事も出来た、 しかしそうしなかった、 理由こそ神のみぞ知る事だが、 目の前の少女を見れば分かる、 神はきっと、 こべりついた悪い黒い物を洗い落として、 人間の魂の圏域へと泳がせたのだ


目の前の少女、 リザこそそうだ、 次代の『魔王』では無い、 似ている様で、 目の前の少女は内にどれだけの物を宿そうと、 ただの少女に過ぎないのだ……


『魔王』は、 もう居ない………


ならば、 『魔王軍』の残党である自分達はどうなる、 『魔王』により力を授けられた時の、 人間を殺すと言う破壊衝動、 そして屈辱の敗走、 それをぶつける先が、 戦いが無い………


終わったのか……


………


いやっ


「まだだっ!! 俺達が居る以上、 『魔王転激』は終わらないっ! 『魔王』が産まれないならば、 俺達がそれに代わるのだっ! 我々『魔王軍』がっ!」


焦がす…… 熱が、 焦がす……


ゼンの目は血走って居た、 早速何故自分がこんなにも焦った様に喉を痛めてまで叫んで居るのかも分かっては居ない……


グッ


「その力はお前に不要だろう、 不憫な子供め、 それを寄越せ、 その為に俺達は、 地を舐める様な気分で憎い奴らの作戦に乗ったのだっ!」


……………………


……奴ら?


………………………………………………



……………………………



………


ガチャンッ………… タンタンッ……


ハッハッ……


「ハハッ、 いやぁ、 若いとは凄いですねぇ、 ビュンと、 あっという間に消えて行きましたよ、 リザの奴は……」


《……魔法都市『レイザール』・『魔法都市立・神式魔術学園大学』領内、 レイザール所属宮廷魔術師館・会議室》


……


男が口を開く、 宮廷魔術師・『銀塔等級ぎんとうとうきゅう』、 ジョシア・シーブ、 大学の講師でもあり、 主に『魔王』や『魔王軍』の扱う魔法の研究、 又はそれに対する対処魔法が専門である


どこか鼻につく様な喋り方で、 ジョシアはやれやれと首を振る……


そんな彼が、 会議室の円卓をぐるりと周り、 会議室一番奥、 最も偉い人間が座る座席の方へと歩みを進め、 そこにどっかりと座る男に話し掛ける……


魔法都市『レイザール』所属筆頭、 宮廷魔術師・『金塔等級きんとうとうきゅう』、 ザーザス・バングレイ……


ザーザスが重い口を開く……


「……ジョシア、 守備の方はどうなっている?」


ジョシアは不意ににやけヅラを作って、 意地の悪い顔で言った……


ははっ


「あははっ、 学長殿? その守備とは、 果たして、 対『魔王軍残党』殲滅戦に対しての今作戦の守備の話しか? それとも………」


にやり……


「哀れな小娘を抹殺する、 『魔王軍残党』共等との共同作戦の方か? へひっ、 ならば既に、 リザは術中に嵌り戦意喪失と報告が届いているぞよ?」


心底面白いと、 腹を擽る様な声でジョシアば笑った


「ははっ、 全く困るんですよねぇ…… 人間の歴史も、 魔法史も、 種族の爆発的な進化、 成長には『魔王』が必要不可欠っ、 勝手に終わられては困るんですよねぇ~ こっちは商売上がったり何ですからぁ」


何が……


「何が魔王に次ぐ魔力の使徒だ、 小娘がっ、 あれは異質、 あんな者に人の営みが狂わされてたまるかっ、 はぁ、 だが、 まあ残当共はよくやってくれている様ですよ、 利用されて居ると分かって居るだろうに、 下らぬ自身の衝動の為に必死な事だ、 所詮は傀儡、 いや、 それは『魔王』も同じか」


何故なら……


「『魔王転激まおうてんげき』、 その真の元凶、 失脚した愚神、 罪を咎められ『天閣』より追放された者、 『混沌』の神・獄路挽ごくじびきっ」


世界に存在する概念の名を持ち、 神の魂、 『陛廊頭石へいろうとうせき』に付随する、 嘗て『混沌』の名を持つ神は罪を犯し、 『天閣』より追放された、 追放はある意味神にとっての処刑である、 何故ならば、 神から魂、 即ち『陛廊頭石』を抜き取る事なのだから……


『陛廊頭石』を失い、 失脚、 神の資格を失った嘗ての『混沌』、 獄路挽は『天閣』を恨む、 その果てに研究、 開発されたのが、 『魔王』なのだ……


『魔王』は正に、 失落して尚その存在を誇示する様に、 老いた獄路挽の手先としてこの世界に混沌の影を落とした、 人々は『魔王』と言う存在を恐れる……


…………


「だがっ、 恐れが有るから人は立ち向かう事が出来るっ! 『魔王』が居たから人類は今ここに立つ、 『魔王』は、 人間にとっての爆発装置っ、 永劫の降りかかる火の粉で無くてはならないっ! このままではっ、 振り払う事を忘れたならばっ! 人間は衰退するっ!」


ふっ


はははっ…………


だが……


「しかしまさか、 我々の中に奴らと繋がる者が二人は居ると思って居たが、 まさかまさか、 魔法界、 ひいては人間世界を兼任するその一人、 ザーザス学長、 貴方がこちら側とは思いませんでしたよ」


ジョシアは酷く歪な笑みを浮かべ、 その先で不動の巨石の様に重苦しい老骨、 ザーザスは、 ジョシアの言葉に、 遂に凝り固まった皺だらけの頬を僅かに釣り上げたのだった…………

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