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第一話…… 『宮廷魔術師の後始末(おしごと) その1、 仕事の始まり』

こんにちは、 作者のおきみやです。 今回初めて企画に参加致します、 少ない話数では有りますがよろしくお願いします。


また今作は、 以前連載していた『天閣の祝詞』(以下略)のスピンオフ的な作品となっておりますが、 前作を未読でも十分楽しめる作品となっておりますので、 楽しんで読んで頂けたら幸いです。

~ 『魔王』、 絶大な力を持ち、 絶対的な強者である


『魔力』と言うエネルギーを使用した法式、 『魔法』の使用において並ぶ物は実在しない、 人が試行錯誤を重ね、 長い時の中で確立してきた魔法技術も、 『魔王』にとって見れば呼吸する事と同じ、 小事である


それに加え、 『魔王軍』、 『魔王』から力を与えられた存在、 『魔王』の部下であり傀儡、 『魔王軍』の兵は異様な程の生命力、 そして何より『業魔刑ごうまきょう』と呼ばれる力が発現する者が中には居る


それはある種の能力、 『魔法』とは別の、 『魔王軍』の者達にのみ発現する力である


更に、 『モンスター』と総称される、 体内エネルギーに『魔力』を使用する強力な生命体、 それは人間にとっての常の脅威足るが、 『魔王』はそんな『モンスター』すら操る力を持つ、 それらは『魔国獣まこくじゅう』と呼ばれた


『魔王』が人間達に齎す被害、 その侵攻を、 『魔王転激まおうてんげき』と呼ぶ……


人間と『魔王』との戦いは、 常に人間側の不利であり、 淘汰されていく、 世の理の如く人間には敗北しか無いように思えた………


しかし、 ある時光明が指す、 空を割って現れたるは、 自身を『天閣てんかく』の神と名乗る者、 古くから人々が信仰して来たこの世界の理の方だった


神は人に、 『魔王』に対抗する為の力、 『勇者』を与えた、 『勇者』の力は、 この世界の原初のエネルギーである『魔力』を改良して作られた全く新しいエネルギーであり、 『ミクロノイズ』と神は呼んだソレを元に作られた力だ


マニュアルで高い操作技術を求められる『魔力』と違い、 オートマチック的で取り扱いが比較的簡単、 そして常に一定の効果を発揮する『ミクロノイズ』は人間にとっての新たな武器足りえ、 『勇者』の力はその効果に『魔力』機構に対する特化した効力が備わっていた


更に、 『魔王』の『魔力』により『業魔刑』を発現する『魔王軍』の様に、 『ミクロノイズ』に充てられた人間の中に、 強力な能力に目覚める者が出た、 多種多様、 強力な能力を持つ者を、 『能力者ノウムテラス』と言った……


人と魔が争い戦う戦乱の日々、 勝利と束の間の休息、 再び流れる血、 巡り変わる戦況と、 命の輪廻、 二百数年と続いた『勇者』と『魔王』の戦いは


ある時、 ふと、 誰も知らない所で、 誰にも称えられることの無い英雄譚の中で、 ひっそりと幕を閉じた……


……これは、 そんな実感の湧かない平和の中、 騒動の後処理を任された、 一人の天才魔術師の話~


……………………………………………………



………………………………



…………


麗秋期れいしゅうき甘猫月かんびょうつき・十七日巡り日……》


《……魔法都市『レイザール』・『魔法都市立・神式魔術学園大学』領内、 レイザール所属宮廷魔術師館・会議室》


………


ガチャン…………


後ろ手に扉が閉まる、 会議室内は相変わらず年寄り趣味の悪い停滞し腐った様な臭いと、 薄暗く影を落とした様に感じる卓上の電飾、 窓は無く閉ざされた様に感じる室内に幾人かの者が腰掛けていた……


そんな、 停滞し凝り固まった空気を押すように、 カツンッ、 と場違いな程に響くヒールの音、 ふわりふわり、 揺れるフリルと黒のドレススカート、 腰まで有る黒髪には赤いリボンが編み込まれた


線の細い、 まだ幼さの残る少女の姿ではあるが、 丁寧に施されたメイクやネイルは、 彼女の魅力を突き刺さる程に引き立たせている……


この場を一瞬で支配した様に感じた、 異物は明らかに少女であるのに、 この空間のどんな気配よりも大きく強く、 放つオーラは眩しい様にも、 混沌の様に暗い様にも見え、 その場は息を呑んだ………


ガラッ……


円卓がある、 その内の一つ、 空席の椅子を引いて腰掛けると、 他の者達が一挙手一投足を監視する様な失礼極まりない視線を受けつつ気怠げに卓に頬杖を付く……


それを待った様に、 一人の男…… 長く顎髭を伸ばし厚ぼったく重そうなローブを纏った老人、 宮廷魔術師を長く務める賢老、 宮廷魔術師・『金楼等級きんろうとうきゅう』、ザーザス・バングレイ


魔術師家系の貴族、 バングレイ家の長男として産まれ、 その実力も申し分の無い評価を受けている、 歳を取った今では、 この大学の学長にして、 レイザール所属の宮廷魔術師筆頭だ


彼が口を開く……


「皆、 集まったな…… 多忙を極める中の招集ご苦労だった、 要件は通達した事案に対してである」


低い嗄れた声がグルリと円卓を見渡すとこちらを射止めた、 ザーザスの言う事案とはつい一昨日に自分が報告した内容だ、 赴いていた調査先で判明した事実であり、 面倒な事案だと思った為緊急で報告をしたのだが……


ザーザスが続けてコチラを見た


「リザ、 先ず遠方への調査とその対処、 ご苦労だった、 貿易都市『ベーカル』近郊にて発生した魔力磁場の著しい乱れ、 それに対する迅速な対応、 宮廷魔術師の名を汚さぬ仕事ぶり、 お前に任せて良かった」


リザ、 は自分の名前だ、 自己紹介をしよう、 魔術師達の最高峰、 国王にその実力を認められた者達、 『宮廷魔術師』……


その中でも、 歴代最年少、 現在僅か十三歳にてそのステージへと上り、 そして魔窟と化す魔術連の賢老達すら内心で彼女に対する怖気を持つ程の、 天才


天才魔術師、 リザ、 国際的に定められた人間又はモンスターの強力さを表す基準で、 人類最高峰の『大魔等級だいまとうきゅう』に分類される、 これは一都市一国における瞬間的、 又は継続的な破壊力を有する事を証明された等級である


……この世界において、 人と『魔力』の関係は決して友誼的では無い、 何故なら本来人の肉体は『魔力』というエネルギー体に対して未適応だからである


命が生きる為に、 主に生き残る為に殺す、 相手より強く、 その進化の過程、 目まぐるしい魔境にて『魔力』というエネルギーに適応した者を、 人は一般的にモンスターや、 魔物、 そして『魔王』等と分類している


人間同様、 『魔力』に適応しなかった生物は山程いるし、 人間同様にそれらは生きる環境に恵まれた者達である、 そして恐ろしい所で『魔力』に対して体が適応していない人間等は、 濃度の高い魔力磁場に身を置いたり、 著しい魔力攻撃をその身に浴びると拒絶反応を起こし最悪死んでしまう


だからこそ、 『魔王軍』と人間の戦いは混迷を極めたのだ……


しかし、 ならば何故人は魔法を扱うのか、 扱えるのか、 それは人に考える脳があったからだ、 モンスターが無意識的に『魔力』により肉体を強化して、 決して厄介な『魔法』と言う力を使用しては来ない様に、 人はそれらを観測、 研究し、 魔法式に表し解明する事によって、 未適応ながら人式の『魔法』と言う力を確立した


更に、 神々への信仰や、 精霊との契約による魔力をそれらへと媒介とする現代魔法は、 遂に魔法使用に置ける肉体への負荷を殆ど消し去り、 手軽な魔法ならば殆どの人が扱える程にまで工夫された、 長い歴史の積み重ねにより、 人は肉体ではなく、 意思により『魔力』へと適応したのだ…………


………だが ………


ザザッ


リザが机を爪で引っ掻いて、 その傲慢な態度と、 見た目にそぐわない自信満々顔で、 周囲の賢者共を薄笑いで一瞥する…… そして一言


「ふっ、 当たり前でしょ? 私は貴方達とはまるで立つ土俵の違う、 本当の天才なんだからっ」


勝ち誇った様な顔をしてやれば、 面白い、 賢者達が一様に殺気立ち、 辛気臭い会議室には既に血の気の早い鉄臭さすら充満するようだった……


それでも、 リザの顔は崩れない、 何故ならば彼女の言う通り、 宮廷魔術師・『大魔等級』、 リザは本物の天才、 長い人間の歴史、 その積み重ね、 多くの屍の上に立ち輝く今を、 平気で土足で蹂躙した存在……


人類史にて史上初、 『魔力』に完全適応した肉体と、 長い魔法史を覆す程の絶対的な魔法理解を持つ、 他の者の目には化け物と遜色無く映る……


『魔力』と言うエネルギーに対してのアプローチが他を圧倒的に凌駕し、 この場の賢者達すら意識的に行う魔法式回路の接続、 その速さを鍛錬と式学により他と競う中にて、 リザにとってのそれらは指を動かしたり、 瞬きしたりと同じ、 当然に出来て、 至極簡単な事だった


だからこそ、 どれだけ殺気立ち、 賢老共が青筋を浮かべ様と、 賢い故に最後の最後、 リザに力を向けようとする者はこの場に居ない、 もし有り得たとて、 彼らの研鑽の上に立つ魔法構築速度では余りに遅く、 杖を構えるよりもずっと前に、 この場の全員の首を消し飛ばす事すら彼女には可能だ


それを誰も分かっているし、 本質的に誰も仲間内での争いや殺し合いを望んでいない、 リザ自身も鬱憤ばらしに一言二言余計を言って、 こうして怒らせてやったりもするが、 殺戮等、 それこそ彼女の思う所では無いのだ……


一瞬の沈黙の後、 相変わらず抑揚の無いザーザスの声が応える……


「それでこそ『宮廷魔術師』だ…… さて、 早速だが、 リザ、 会議を進めよう、 『ベーガル』近郊での魔力磁場の著しい乱れ、 その調査結果の詳細を語って欲しい、 質問にも応えてくれ」


リザは素直に頷くと、 手元に用意した報告資料を軽く指で叩く、 すると……


ふわり………


資料が宙を舞って円卓の中心へ向かっていくと、 何やら怪しく光を放った、 その光はやがていくつか立体的にも見える形を形成し始め、 観る者達にはそれが一瞬で、 報告資料にあった調査地形の立体モデルと何やら怪しい人物の姿…… これは光の魔法を利用したホログラムだった……


「手元の報告資料を見ながら聞いて~ 魔力磁場の乱れなんだけど、 今回大小合わせて十三箇所もあったの、 勿論その全てを既に一定に調整し直して有る、 でも推測の通りこれは、 自然発生では無く人為的に施された物だと分かる筈よ」


場所は、 貿易都市『ベーガル』の街から馬車で一時間少し、 と言う比較的近い地点で多発した魔力磁場の乱れ、 魔力磁場の乱れ事態は強力なモンスターの出現や、 自然的な地脈の変化だったり、 後は大規模な魔法の使用により一時的に乱れる事は良くある事だ……


だが………


「魔力の流れは空気みたいな物だから、 一時的に狂っても少ししたら元通りになる物…… まあいちいち説明しなくても良いわね、 つまり意図的に乱し続ける要因があった訳よ…… まあ、 概ねご察しの通り」


リザの言葉に魔術師の一人が円卓の中心、 リザの作り出したホログラム、 そのぼやけた輪郭が表す一人の人物を指さした、 見れば見る程、 何処にでも居そうな特に特徴の無い男だが……


それにリザは頷く


「この男がその原因だった、 私の調べによると、 この男の正体は…… 『魔王軍』の残党、 『業魔刑』の持ち主だったわ」


スゥ………


この報告は既に書面にてされている、 この場の皆知っていて、 それでも会議室の気温が少しだけ冷えた、 皆それがどういう事か分かっているからだ……


『魔王軍』の者が扱う『業魔刑』その強さは指定等級で言えば『銀塔等級』から『金楼等級』、 宮廷魔術師や勇者直属騎士『八光騎士やつらいきし』とほぼ同じ、 能力の厄介さも含めれば上回る事すら有る


調査先の『ベーガル』では五年に一度の大祭が開かれると言う時期に、 この様な者が街から程なくの辺りで何やら画策する様子……


「魔王軍の発足では無いのか? 普通ならば早いが今の『魔王』の動向は全く読めない、 第四十一代魔王による『セイリシア』壊滅の記憶も新しい」


『魔王』は勇者に討伐されると代を変えて数年の周期で行動を起こす、 だが当の四十一代はまるで違った、 そもそもその前の四十代から妙だった


記録によれば、 四十代魔王は逃げる隠れるばかりで何もしなかった、 何年と言う時を逃げ続け勇者はそれを追わざるを得なかった、 しかし、 まるでそれこそ狙いの様に


遠くの地で漸く追い詰められ打たれた四十代魔王、 しかし、 その、 ほんのすぐ後、 人間の大都市『セイリシア』上空に四十一代魔王が顕現…… 人の地は瞬く間に蹂躙された………


それは手痛い人の記憶である、 だからこそ苦悶を顔に浮かべる賢者達、 その沈黙を割る様に一人の賢者が手を挙げた


「ちょっといいだろうか? 我々は君の報告を受けて『魔王軍』の発足をいの一に想像した、 今もそうだろう、 だがひとつ引っかかる、 君は今、 『魔王軍』の残党と言ったね? 四十一代の件があったのにも関わらず、 再発足では無く、 壊滅軍の残党と言った事に意味はあるかな?」


セイリシアを壊滅させた四十一代魔王の事は周知の事実、 そしてそれでも、 遅れて到着した『勇者』が『魔王』と刺し違え、 打った事もまた周知である……


しかし、 その後の顛末を知る者は限り無く少ない、 それも当然だろう、 何故ならば、 物語はその後大きく畝り、 こことは違う世界すら巻き込んで展開された、 一人の男の画策による綱渡りの筋書き……


リザはそれを知っている……


「あら、 意外と皆知らないのね、 でもザーザス学長ならご存知でしょ? この際教えてあげなさいよ…… もうこの世界に、 『魔王』は産まれないって」


……………………


乾いた沈黙がヒリつく、 誰もリザの言葉を殆ど理解出来て居なかったが、 それでも話の矛先、 ザーザス・バングレイへと視線は向いた……


ザーザスは深い溜息を着くと口を開く


「不思議だ、 リザ、 何故君にその様な事が言えるのか? ……誤魔化す気では無い、 だが君は私が思っているよりもずっと事に詳しい様だ」



「ええ、 詳しいわ、 主要六国の国王のみが代々受け継ぎ持つ相伝魔法『勇者』を探し出す魔法が機能しなくなったんでしょう? それはつまり、 嘗て『勇者』の力とミクロノイズを人に授けた、 『天閣てんかく』、 物語の神・理夕りせきの言い伝えによる所の、 『魔王』と『勇者』の戦いの完結を意味する」


物語の神・理夕は、 『魔王』との戦いに疲弊し衰退していく人々を救う為力を授けた、 そして、 人の営みを見守り、 国王に預けた魔法が消えた時、 真の戦いの終わりであると伝えた……


「学長は、 それはそれは、 国王とは長い友人でしょう? 皆に言わない事を責めたりはしないけど、 知っている筈だとは思っていた」


静かな驚きに包まれる室内にザーザスの重い声が落ちる


「……そうだな、 良い機会だろう、 皆聞いて欲しい、

今リザの言ったように、 『勇者』を探す魔法が消滅した事を確認している、 これが意味する所は言い伝え通りで相違無いだろう」



「驚いた、 何故国王達は大々的にこの話を国民に伝えないのです?」


一人の質問だが、 皆の疑問だろう、 しかし焦りから来た物でその内で納得は遅れて来るだろう


「呆気なさすぎるからだ、 我々と『魔王』との戦いは二百年にも続いたのだ、 激動の日々だった…… それに対して終わりが急だ、 四十一代魔王によるセイリシア壊滅も記憶に新しい中、 突如それを報告しても誰も納得はしない、 何故なら、 今を生きる者にとって、 『魔王転激まおうてんげき』はあって当然の事態だからだ」


皆首を横に振るが言葉は出てこない、 納得できるというよりせざるを得ない、 ある意味賢さ故だろうか……


その中で一人顔の明るい少女は続ける


「分かった? だから今『魔王軍』が現れてもそれは残党なのよ、 残党自体は多く居るでしょう、 何せ『セイリシア』から東西南北に向けて魔王軍四天王が率いる『魔王軍』数万が烈火の如く進行したんだから」


リザはホログラムの男を指さす


「この男は魔力操作がヘッタクソで、 十三も乱れを作ったお陰に、 その軌跡を残し過ぎた、 直ぐに奴の隠れ家を特定しこの男は殺したわ…… でも、 問題はこれで終わりじゃない」


リザは続ける


「隠れ家に居たのはこの男だけだったけど、 そこから感じた『業魔刑』の魔力は他に四つあった、 あの場に最大で五人の『業魔刑』の使い手がいた事になる、 『魔王』は自軍の中で『業魔刑』の使い手を将軍にする事が多い、 将軍は平均で五十から百人の部下を引き連れている、 つまり、 可能性として二百人以上の『魔王軍』が『魔王』無しに動いて居る事になる」



「……魔王がもう居ないのならば、 自らの意思か、 はたまた魔王に変わる何かが居るのか…… 暗躍している以上放っては置けないな」


一同心の内は一致しているようだ、 ザーザスがそれを見て続ける


「我々は今回の事案を、 『魔王転激』相当の重要事態と認定する、 時間はあまり無いかもしれない、 隠れ家と将軍を一つ潰されあちらも焦りを抱いたか、 ここ一、 二週間の内に新たに複数箇所にて魔力磁場の乱れを観測している、 遠くない内に何か仕掛けるやもしれん、 我々はそれをなんとしてでも阻止しなくてはならない」


皆が頷く、 ザーザスが杖を取り振ると、 リザがしたのと同様、 今度は広い範囲の地図がホログラム化され、 その中に複数箇所大小それぞれの赤い点が現れる、 これが全て魔力磁場の乱れだと言うから、 相手は相当大きな何かをしたいらしい……


リザは顎に指を当てると頷き、 その中の一つ、 この魔法都市レイザールから馬車で二週間ほど、 地図の中では比較的小さな赤印に指を刺す


「ここが怪しい、 これは感だけど、 私はここに行った方が良いと思う、 他は適当に当たってよ」



「リザ、 決定権は君には無い、 この中で最も巨大な魔力磁場の乱れが発生している所を君に任せたい、 こちらの調査によれば、 付近では大型のモンスターの痕跡が確認されている、 これはおそらく強力な力を持った『魔国獣』の可能性が高い、 『大魔等級』の君の力が必要だ」


リザが首を横に振る


「学長、 貴方の判断は正しいけれど、 相手は正攻法では攻めてこない、 私のは感だけどほぼ当たりよ、 私が指したこの地点は一見何も無い森林地帯に見えるけれど、 ここは一定してほかよりも魔力濃度が平素より高い地脈直上、 こういった所は多くの精霊体が暮らして居る」


「私が向かった『ベーガル』近郊の魔力磁場の乱れは陣だった、 そして複数人が潜んでいた筈の隠れ家に残っていたさっきの男一人が、 例えば陣の維持の為に残された見張り役だったとした時、 魔力磁場の乱れを観測してからの経った時を計算に入れれば、 多くの確率でその陣は既に効果の大部分を発揮した後の残骸」


それは詰まるところ……


「私は間に合って無いのよ、 継続する効果を消しただけで、 相手の打った駒は既に進んでいる、 この地図上で最も奪われて怖いのはこの森林地帯、 つまり精霊体の持つ膨大な純高魔力、 何が目的かは知らないけど、 量は質になり得る、 この森を制圧されたら相手はなんだって出来るわ」



「……成程、 ならばこの巨大な魔力磁場ノ乱れ地点や『魔国獣』、 その他都市に近く配置した乱れは全て本命を隠す為の隠れ蓑か…… 一見無意味なココの防衛を最優先にさせない為、 中々作戦らしいことをして来る……」


だが、 だからと言って他地点、 特に大きな赤点がただの囮だとは思わない、 その地点は分かりやすく要所や、 街の比較的近くであり、 『魔国獣』も本物だろう、 相手は確実に戦力の分散を考えている


これ程大規模な戦いを急激に仕掛けて来たのだ、 恐らく敵戦力はこちらの想定よりずっと多い、 それぞれの地点に相応の戦力を投入する羽目になる……


「……しかし、 リザが迎えないとなると、 『魔国獣』は厄介だぞ、 騎士団や冒険者ギルドにも依頼を出すのは当然だが、 『大魔等級』の戦力カードを何処も中々切りたがらない、 この際拘っては居られないが、 しかし、 この火急で面倒な交渉事に思考を割くのが面倒だな」


一人の賢者の声、 確かに、 国際基準の等級システムは、 モンスター、 冒険者、 騎士団、 魔術連共に共有の指数基準だ、 その中で上位に当たる、 『銀塔等級』、 『金楼等級』、 そして最上級の『大魔等級』はそれぞれにとっての言わば広告塔だ


目立たせ力を示す事に意味が有るが、 万が一の敗北には莫大な責任が伸し掛るので皆慎重になる、 だからこそ面倒臭い交渉が必要になってくるのだ、 力を持つもの程腰が重い、 誰でも………


……………


ふふっ


少女の弾むような笑い声が零れて、 他の者が少女を見る、 少女は楽しそうな顔で口を開いた


「縛られない、 自由な牙が欲しいかしら? だったら一人だけ思い当たる人が居るのよ、 きっと彼なら二つ返事で引き受けてくれるし、 『魔国獣』も殺してくれる、私が保証するわ」



「……誰だ?」


リザはただ一人の男の事を考えて、 その名前を口にする


明山日暮あかやまひぐれ、 冒険者」


……………………………


賢者達はただ首を傾げた、 そんな名前は記憶に無いのだろう、 まあそれもその筈だ……


「本当に誰だ? 実力を持つ冒険者の名前はあらかた頭に入っている筈だが……」



「あなた達の知らない冒険者よ、 だって多分まだ『下粋等級』だと思うし」


???


冒険者ギルドは新人冒険者の死亡が多発する為に特別に、 『見習い等級』と言う呼んで字の如く、 見習い期間が有る、 そして昇格試験制度により初めて力が認められる、 冒険者ないし、 等級持ちとしての本当の始まり、 それが『下粋等級』


つまり超初心者である………


「………リザ、 どういう事か?」



「大丈夫よ、 実力は保証する、 この私が…… それにきっと貴方達にも悪くない話だと思うわ」


トントン……


リザが自分の首を細い指で叩く


「きっと彼は、 貴方達にとって、 私と言うじゃじゃ馬を上手に操る為の、 手綱になるだろうから、 ふふふっ」


他の者が息を飲む、 まだ何とも言えない状況だが、 確かに首輪を付けられない困った少女が、 自ら提示した内容だ、 いつ脅かされるとも、 首が飛ぶとも分からない危機感を減らせるかもしれない……


「……未報告の『能力者ノウムテラス』か?」


リザが細く笑う、 それが答えだろう


「………確かに、 こちらにとっては動かしやすい駒だ、 だがコチラも慎重になる、 信用出来ない者は使えない、 リザ、 その男とは何者だ?」



「どうせ徹底的に調べ上げるんだから態々語ったりはしないわ、 でも信用してもらう為に一つだけ情報を開示するわね、 でも気を付けて、 これは警告でもある」


ふふっ


またしてもリザは小さく笑った、 だがそれは何処か恥ずかしがった様な、 そして僅かに頬を染めて、 本当に何処にでもいる少女の様な顔で彼女は言う


「彼が私の首輪になる理由…… ふふふっ、 それはねとっても単純、 だって、 その…… 私が、 彼の事を好きだからっ♪」


……………………………………


「は?」


その空気が抜けた様な声は誰の物だったろうか、 しかし緊張感の欠片も無いような彼女の言葉に対してこの場にいた者たちが抱いた満場一致の感想だったろう……


「私は彼を信じている、 私も手を抜く気は無い、 安心して頂戴、 必ず私は勝ってみせる、 仕事を遂行してみせる、 何故なら……」


バサッ!


彼女が立ち上がる、 ドレスが揺れ、 誰もの目がリザを追う……


「私は、 宮廷魔術師・『大魔等級』、 リザ、 最強の天才魔法使いだからっ」


……不思議な物だ、 力を持った者の持つ推進力には、 不思議と強く引かれる、 恐れていようと、 嫌悪していようと、 煙たがって居ようと、 不思議と、 心が強く引かれる……


カタンッ カタンッ


ヒールの音が響いて少女が扉へと向かって歩き出す


「必要な事は話したから、 私はもう行くわ、 少し準備したら直ぐに目的地を目指して飛ぶから、 他は宜しくね~ じゃあね」


ガチャンッ! ……………………


遂に少女は行ってしまった、 呆れた見送る者たちは一様ににため息を付く、 誰かが代表して口を開いた


「生意気な子供だっ」


それが、 彼女を示す、 そして彼らが最大限に言える彼女への、 評価だった

後書きでも失礼します。 今回のメインキャラクター、 リザの事に興味が湧きましたら、 前作『天閣の祝詞』(以下略)内の、 第170話、 171話にて登場致しますので、 前作と合わせて、 短いですが今作もよろしくお願いたします!

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