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【未来の将棋は暗記ゲーでした〜AIすら凌駕する300年後の『完全定跡』を丸暗記した元奨励会員、現代のプロ棋士を無双する〜】  作者: 月神世一


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EP 8

地獄の泥と、爆上がりの評価値

準決勝。

特設ステージに用意された盤を挟み、清麿と佐伯は向かい合っていた。

「……随分と勝ち上がってきたな、加藤」

佐伯が扇子をパチンと鳴らす。

その表情には、予選の時に見せたような余裕はない。

清麿がこれまで見せてきた「異常な終盤力」を、彼もまた間近で観察していたからだ。

「だが、お前のカラクリはもう見切ったぜ」

佐伯が初手を指す。

それは、飛車先の歩を突くでも、角道を開けるでもない、端の香車を一つ上がるという、プロはおろかアマチュアでも指さないような奇手だった。

「……っ!」

清麿の脳内で展開されていた『未来チャート』が、ノイズと共に一瞬フリーズする。

(検索不能……該当ルートなし)

「お前は後半、異常に強い。まるでシステムみたいに正確だ」

佐伯が冷酷に言い放つ。

「だから、前半で潰す! 定跡もセオリーも通用しない、泥沼の力戦に引きずり込んで、お前が『あのパターン』に持ち込む前に息の根を止めてやるよ!」

清麿の背筋に冷たい汗が流れた。

(何……!? た、確かにその通りだ。俺の強さは、丸暗記した勝ちパターンに相手を追い込んで勝つこと……!)

和令のチャートが機能するのは、あくまで「セオリーの範疇」で相手が動いた時だ。

最初から盤面を無茶苦茶に荒らされれば、未来のAIが導き出した『美しい正解ルート』には繋がらない。

「フハハハ! どうした? 加藤」

佐伯が次々と規格外の攻めを繰り出してくる。

陣形もクソもない。ただひたすらに、清麿の駒を強引に奪い、盤面をカオスへと変えていく。

「手が止まってるぜ? 『考えること』を忘れたマシーンの弱点だな!」

清麿は息を呑んだ。

佐伯の言う通りだ。チャートに頼りきっていたせいで、思考が硬直している。

このままでは、後半の『詰みルート』に入る前に、陣形が崩壊して負ける。

(……いや、待てよ)

清麿は、ふと息を吐いた。

盤面を見る。

ぐちゃぐちゃに荒らされた、泥沼のような盤面。

(……こんな盤面、見覚えがある)

奨励会時代。

才能あふれる天才たちに定跡で勝てなかった清麿は、どうにかして食らいつくために、あえて盤面を複雑にし、相手のミスを誘う泥仕合を好んで指していた時期があった。

誰からも「汚い将棋だ」と笑われた、不格好な戦い方。

「……佐伯」

「あ?」

「お前の言う通り、俺の後半は丸暗記だ。……けどよぉ」

清麿は、ボロボロになった自分の扇子を力強く握りしめた。

「俺も伊達に、奨励会で地獄の泥をすすってたわけじゃ無いぜ!」

パチィィィン!!

清麿が指した一手。

それは、チャートの指示を完全に無視した、自分自身の「三段の意地」から生まれた強烈なカウンターだった。

「何……!? この手は!?」

佐伯の目が見開かれた。

防御を捨て、自らの玉を危険に晒しながらも、佐伯の攻めの「要」である桂馬の頭をかち割る捨て身の反撃。

セオリーならあり得ない。だが、この泥沼の盤面においてのみ、奇跡的に成立する『毒針』。

その瞬間。

清麿の後ろでステルス状態になっていた和令が、手元の端末を見て悲鳴を上げた。

「うそっ!? 清麿の評価値が爆上がりした!」

「なんだと!?」

「未来のAIが『理解不能』を出してた盤面で、あんたが指した手から……新しい『必勝ルート』が再構築されてる! 勝率20%から、一気に85%に跳ね上がったわ!!」

和令の声は震えていた。

300年後のAIすら見落としていた、泥沼からの一手。

それは、清麿が流した10年間の血と汗が、未来の計算を超えた瞬間だった。

(……繋がった)

清麿の脳内で、途切れていた赤いラインが、再び鮮やかに発光し始める。

自分の力で作った泥沼からの反撃が、未来の『詰みチャート』の入り口にカチリと接続されたのだ。

「はぁ……っ、はぁ……っ」

清麿は肩で息をしながら、愕然とする佐伯を見据えた。

その目には、もはや怯えも迷いもない。

あるのは、勝利への確信だけ。

「……佐伯。お前は負けるぜ」

清麿は、盤上に最後の楔を打ち込むように言い放った。

「勝ちは、見えた」

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